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ローフィスと一緒に過ごせて嬉しいディングレー
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朝、ローフィスが慌てて毛布を剥ぎ取り、跳ね起きる。
「…奴は…!」
がアンガスは、死んだように眠っていた。
ディングレーが目を擦り、朝日の中、床に転がるアンガスの前に立つ、ローフィスの背を見つめる。
「…逃げて無いんだろう?」
ローフィスが頷く。
そして吐息混じりに準備室に戻り、再びディングレーの横に来て座り、毛布を掴み引き上げてぼやく。
「お前も一緒に寝て、見張りの意味あるか?」
ディングレーは横のローフィスを見た。
温もりが戻って来て、ローフィスの存在を感じられて、内心凄く嬉しくてウキウキしていた。
が、ローフィスの声が不機嫌で、ウキウキを極力抑えて、言葉を返す。
「…まあ、あんたとこうして一緒にいるのは久しぶりだ。
監督生なんてやってると、自分の時間がごそっと削られる」
ローフィスはそうつぶやく、一つ年下の…整った男前の、殊勝にしてるとなんか可愛く思える、ディングレーの俯く横顔を見た。
「だが、ストレス解消には、なったろう?」
そう聞くと、ディングレーはもっと深く俯き、ため息交じりに本音を吐いた。
「…相手がアンガスで無く…もう少し可愛い子だったら、なったかも」
が、その返答にローフィスは憤る。
「それじゃアンガスと一緒だ。
ハウリィが辛い目にあったのは、お前と同意見の男らがケダモノになって、好きにハウリィを嬲ったからだ!」
ディングレーは、困ったように眉を下げてローフィスを見る。
「…なにも俺が、可愛い子ちゃんを奴らのように、嬲って犯すとは言ってない」
まだ十分眠気の覚めてなかったローフィスは、ああそうか。とディングレーを改めて見つめた。
「…そうだな。
お前『やっていい』建前が無いと出来ない、意気地なしだったな…」
ディングレーは、ほっとして笑う。
「今の“意気地なし”って、この場合褒め言葉だな?」
ローフィスは自分の感情を読み切ったディングレーに、決まり悪げに少し頬染めて
「…多分な」
と言い返す。
途端、くすくす笑いが聞こえ、戸が開いてオーガスタスが姿を見せる。
「お前らの会話、笑える」
ローフィスは睨み、手を差し出して言う。
「…付き合いが長いと、感情読まれてやりにくいぜ…」
オーガスタスはローフィスの手に、差し入れの食料が入ったバスケットの取っ手を手渡した。
受け取ってバスケットの中のチーズやら堅焼きパンを取り出すと、横のディングレーに手渡す。
ディングレーが無言で堅焼きパンに齧り付くと、オーガスタスが言った。
「ああ…夕べギュンターが、お前らがデキてると、勘違いしてた」
ディングレーは一気にむせながら、怒鳴り返す。
「げほっ!ちゃん…ごほっ!と…ご…ごほっ!誤解は…解いたんだな?!」
オーガスタスは、それを聞いて肩竦めて見せる。
ローフィスはパンに齧り付きながらオーガスタスの様子を横目で見、ディングレーに忠告した。
「誤解するな。と王族に戻って、ギュンターを脅せ」
オーガスタスが、目を見開いた。
「…ああ…そうか。
つまりローフィスといる時のお前って、王族じゃ無いんだな?」
ローフィスが口をもぐもぐさせながら、何を今更…!
とデカい同学年の親友に視線投げ、言い渡す。
「それが気軽で、俺に引っ付いて来るんだ!」
オーガスタスがくすり。と笑いディングレーに視線を投げる。
「王族は負担か?」
咽せのおさまったディングレーは、即座に顔を上げて怒鳴った。
「当たり前だ!
威張るのも体面保つのも、相当骨が折れるんだぞ?」
オーガスタスはそれを聞いて、肩竦めた。
「ディアヴォロスも、そうか?」
ディングレーは一瞬考え…が言った。
「彼は体面を、気にした事が無い」
ローフィスもオーガスタスも同時に、ディングレーを見た。
「…それであの迫力か?」
オーガスタスが言い、ローフィスも尋ねる。
「彼が手づかみで物食べてる姿って、見た事無いぞ?」
ディングレーは憮然と呟く。
「…どうして大貴族が、私生活を他に見せない自室を宛てがわれてると思う?
手づかみで食べたきゃ、くつろげる自室でそうしてる」
ローフィスもオーガスタスも、納得して二人同時に頷いた。
が、ディングレーは付け足した。
「彼は手づかみで食べようが、あの気品が損なわれたりしない。
むしろ…」
「むしろ?」
ローフィスに聞かれ、ディングレーは二人を見た。
「…彼が野性的だと凄まじい迫力で、彼は体面よりそんな様を人に見せると、相手を威圧する。
そう気遣い、出来るだけ人前ではしない」
オーガスタスが頷き、ローフィスは沈黙した後、言った。
「なるほど」
オーガスタスが朗らかに笑い、ディングレーに尋ねる。
「で、お前もそうか?」
ローフィスはディングレーをディアヴォロスと同列に扱う、呆れた親友に告げた。
「…ディアヴォロスと一緒にするな。
奴は地を見せると周囲に幻滅されるから、必死で隠してるだけだ」
途端、オーガスタスがぷっ!と吹き出し、ディングレーは内情バラす、ローフィスを睨みつけた。
三年達は一限目の乗馬の講義にディングレーの姿が見えないので、首を捻る。
ギュンターは金の巻き毛をなびかせて颯爽と馬を走らせ、爽快そのもの。
三年ともなると、崖や岩場、沼地など、足場の悪い場所ばかりを走るが、ギュンターの手綱捌きは巧みで、少しも速度が落ちなかった。
ぬかるんだ地を抜け、先に足場の確かな岩場に乗り上げるギュンターに、横にいた乗馬の講師は
「待て!」
と声かける。
ギュンターは気づいて手綱引き、馬を止めて振り向く。
自分が一番乗りで後続はまだ、慎重に沼地で馬を進めていた。
デルアンダーが自分の馬を気遣うように手綱を繰り、岩場に乗り上げる。
やはりディングレー取り巻き大貴族らは、デルアンダーに続くように続々後から岩場に乗り上げてきた。
沼地の中程のロッデスタは、横で馬を繰るサナンが
「…なんだギュンターのあの、平気な様子。
夕べディングレーは、一回しか突っ込まなかったのか?」
と顔をこちらに向けて言った途端、馬が足を滑らせ、がくん!と傾いた拍子に
「うわっ!」
と叫び声を上げ、馬の背から沼地に滑り落ちて、ばっしゃん!と派手な音を立て、泥まみれになるのを見た。
他にもあちこちで落ちる者が続出し、岩場で見てる栗毛の講師は呻く。
「…なんで今日はあんなに落ちてる?
いつもはせいぜい、集中力の無いナッカかロデルくらいだろう?」
聞かれたデルアンダーは、こっそりすまして見える表情の変わらない美貌のギュンターをチラと見た後。
ぼそり。と返答した。
「その…。
多分、他事に気を取られたせいかと、思われます」
栗毛の講師は、そう言ったデルアンダーを見た。
が、デルアンダーはそれ以上理由を聞かれたくなくて、講師からの視線をさっ!と外した。
ギュンターが一限を終え、旧校舎に出向き、戸を開け準備室の向こう、広い部屋では、オーガスタスとディングレーが腕組みして壁際にいた。
オーガスタスが、奔放にくねる赤毛を振って振り向く。
「…ここに来たのか?」
ギュンターがナニしてるのかな?と準備室から薄暗い広い部屋へと進むと、ローフィスが床に膝を付いてるアンガスの尻に屈み込み、丁寧に拭いていて、アンガスはぐったりして力が抜けてるように見え、それでも頬を赤くし、恥じている風だった。
ギュンターがオーガスタスの横に来て
「どうした?」
と聞くと、オーガスタスの向こうに立つディングレーが
「排泄した」
と素っ気無く言う。
オーガスタスは髪に手をやり、ぼそりと告げる。
「まあそりゃ、出発して馬上でされるより、マシだ。
俺はあいつの尻なんて、拭けない」
ギュンターはローフィスの手際の良さに見とれながら、言い返す。
「俺はできる」
言って、オーガスタスとディングレーに振り向くと、二人は目をまん丸にして凝視してるから。
ギュンターはぼやく。
「あんたら、餓鬼の世話した事、無いのか?
俺は弟二人のおしめ変えたし。
二人がまだ餓鬼の頃は、漏らしたのだって、綺麗にしたぞ?」
オーガスタスとディングレーは、互いの顔をそっ…と見合わせてため息を吐く。
「垂れ流しは見た事あるが。
俺は世話しなかったな…」
オーガスタスが呟くと、ディングレーは俯く。
「まず、そんな年頃の年下の兄弟がいない」
ギュンターは肩すくめ、ローフィスに声かける。
「あんたも、同行するんだな?」
ローフィスは汚れた布を横に置き、頷く。
が、かなり疲労してる様子が見て取れて、ギュンターは思わずディングレーに振り向いて聞く。
「夕べはあんたら、ヤってないんだろう?」
ディングレーは、きょとん。とした。
「ヤって…って、ナニを?」
ギュンターはオーガスタスに振り向くと
「やっぱあんたの戯れ言だったか」
とぼやき、ディングレーはそれでようやく、ギュンターがナニ言ってるか、分かってぼそり…とつぶやく。
「俺は相手がローフィスなら別に、ヤってもいいと思う。
が、あっちは拒否する」
咄嗟ローフィスは明るい肩までの栗毛を振って、鋭い空色の瞳を向け、歯を剥いた。
「当たり前だ!
お前酒に酔って俺の事押し倒したのだって、覚えてなかったろう?!
お前が突っ込ませてくれるんなら…ああそれ今、イメージした・だけで吐き気が…」
オーガスタスがまた髪に手をやり、ぼりぼり掻きながらぼやく。
「俺と怪しい。と噂された時も、じんましん出してたな」
ディングレーは、俯ききって情けない声で呻く。
「…吐き気は俺との事じゃ無く、排泄物のせいじゃないのか?」
ローフィスはまだ歯を剥いて、言い返した。
「違う!
お前にソノ気満々で押し倒された時も!
鳥肌立ちまくりだったんだぞ!
お陰で悪寒に手まで震えて睡眠薬の針飛ばせず、結局近くの燭台で殴るハメになったんだ!」
ぷっ…。
全員が、オーガスタスに視線を送る。
オーガスタスは一応、悪いと思ったのか。
全員…特にローフィスから、顔を背けて肩を揺らしてた。
ローフィスはまだ、濃い空色の瞳を鋭く輝かせたまま、ぼそり…と忠告する。
「…肩が揺れてる時点で、バレバレだ」
オーガスタスは顔背けたまま、言い訳る。
「…面と向かって笑われるより、マシかと思って」
ローフィスは顔を背けると、素っ気無く却下した。
「全然マシじゃない」
オーガスタスは真顔でギュンターに振り向くと
「俺の馬と自分の馬持って、この建物の前に来い。
俺の馬は四年の厩で一番デカい、赤毛の馬だ」
ギュンターは頷き、さっ!と背を向け部屋から駆け出す。
が、それを言ったのが真顔の限界だったのか。
ギュンターは背後から
「ぷぷっ…くくくくくっ…」
と再び忍び笑う、オーガスタスの笑い声を聞いた。
「…奴は…!」
がアンガスは、死んだように眠っていた。
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「…逃げて無いんだろう?」
ローフィスが頷く。
そして吐息混じりに準備室に戻り、再びディングレーの横に来て座り、毛布を掴み引き上げてぼやく。
「お前も一緒に寝て、見張りの意味あるか?」
ディングレーは横のローフィスを見た。
温もりが戻って来て、ローフィスの存在を感じられて、内心凄く嬉しくてウキウキしていた。
が、ローフィスの声が不機嫌で、ウキウキを極力抑えて、言葉を返す。
「…まあ、あんたとこうして一緒にいるのは久しぶりだ。
監督生なんてやってると、自分の時間がごそっと削られる」
ローフィスはそうつぶやく、一つ年下の…整った男前の、殊勝にしてるとなんか可愛く思える、ディングレーの俯く横顔を見た。
「だが、ストレス解消には、なったろう?」
そう聞くと、ディングレーはもっと深く俯き、ため息交じりに本音を吐いた。
「…相手がアンガスで無く…もう少し可愛い子だったら、なったかも」
が、その返答にローフィスは憤る。
「それじゃアンガスと一緒だ。
ハウリィが辛い目にあったのは、お前と同意見の男らがケダモノになって、好きにハウリィを嬲ったからだ!」
ディングレーは、困ったように眉を下げてローフィスを見る。
「…なにも俺が、可愛い子ちゃんを奴らのように、嬲って犯すとは言ってない」
まだ十分眠気の覚めてなかったローフィスは、ああそうか。とディングレーを改めて見つめた。
「…そうだな。
お前『やっていい』建前が無いと出来ない、意気地なしだったな…」
ディングレーは、ほっとして笑う。
「今の“意気地なし”って、この場合褒め言葉だな?」
ローフィスは自分の感情を読み切ったディングレーに、決まり悪げに少し頬染めて
「…多分な」
と言い返す。
途端、くすくす笑いが聞こえ、戸が開いてオーガスタスが姿を見せる。
「お前らの会話、笑える」
ローフィスは睨み、手を差し出して言う。
「…付き合いが長いと、感情読まれてやりにくいぜ…」
オーガスタスはローフィスの手に、差し入れの食料が入ったバスケットの取っ手を手渡した。
受け取ってバスケットの中のチーズやら堅焼きパンを取り出すと、横のディングレーに手渡す。
ディングレーが無言で堅焼きパンに齧り付くと、オーガスタスが言った。
「ああ…夕べギュンターが、お前らがデキてると、勘違いしてた」
ディングレーは一気にむせながら、怒鳴り返す。
「げほっ!ちゃん…ごほっ!と…ご…ごほっ!誤解は…解いたんだな?!」
オーガスタスは、それを聞いて肩竦めて見せる。
ローフィスはパンに齧り付きながらオーガスタスの様子を横目で見、ディングレーに忠告した。
「誤解するな。と王族に戻って、ギュンターを脅せ」
オーガスタスが、目を見開いた。
「…ああ…そうか。
つまりローフィスといる時のお前って、王族じゃ無いんだな?」
ローフィスが口をもぐもぐさせながら、何を今更…!
とデカい同学年の親友に視線投げ、言い渡す。
「それが気軽で、俺に引っ付いて来るんだ!」
オーガスタスがくすり。と笑いディングレーに視線を投げる。
「王族は負担か?」
咽せのおさまったディングレーは、即座に顔を上げて怒鳴った。
「当たり前だ!
威張るのも体面保つのも、相当骨が折れるんだぞ?」
オーガスタスはそれを聞いて、肩竦めた。
「ディアヴォロスも、そうか?」
ディングレーは一瞬考え…が言った。
「彼は体面を、気にした事が無い」
ローフィスもオーガスタスも同時に、ディングレーを見た。
「…それであの迫力か?」
オーガスタスが言い、ローフィスも尋ねる。
「彼が手づかみで物食べてる姿って、見た事無いぞ?」
ディングレーは憮然と呟く。
「…どうして大貴族が、私生活を他に見せない自室を宛てがわれてると思う?
手づかみで食べたきゃ、くつろげる自室でそうしてる」
ローフィスもオーガスタスも、納得して二人同時に頷いた。
が、ディングレーは付け足した。
「彼は手づかみで食べようが、あの気品が損なわれたりしない。
むしろ…」
「むしろ?」
ローフィスに聞かれ、ディングレーは二人を見た。
「…彼が野性的だと凄まじい迫力で、彼は体面よりそんな様を人に見せると、相手を威圧する。
そう気遣い、出来るだけ人前ではしない」
オーガスタスが頷き、ローフィスは沈黙した後、言った。
「なるほど」
オーガスタスが朗らかに笑い、ディングレーに尋ねる。
「で、お前もそうか?」
ローフィスはディングレーをディアヴォロスと同列に扱う、呆れた親友に告げた。
「…ディアヴォロスと一緒にするな。
奴は地を見せると周囲に幻滅されるから、必死で隠してるだけだ」
途端、オーガスタスがぷっ!と吹き出し、ディングレーは内情バラす、ローフィスを睨みつけた。
三年達は一限目の乗馬の講義にディングレーの姿が見えないので、首を捻る。
ギュンターは金の巻き毛をなびかせて颯爽と馬を走らせ、爽快そのもの。
三年ともなると、崖や岩場、沼地など、足場の悪い場所ばかりを走るが、ギュンターの手綱捌きは巧みで、少しも速度が落ちなかった。
ぬかるんだ地を抜け、先に足場の確かな岩場に乗り上げるギュンターに、横にいた乗馬の講師は
「待て!」
と声かける。
ギュンターは気づいて手綱引き、馬を止めて振り向く。
自分が一番乗りで後続はまだ、慎重に沼地で馬を進めていた。
デルアンダーが自分の馬を気遣うように手綱を繰り、岩場に乗り上げる。
やはりディングレー取り巻き大貴族らは、デルアンダーに続くように続々後から岩場に乗り上げてきた。
沼地の中程のロッデスタは、横で馬を繰るサナンが
「…なんだギュンターのあの、平気な様子。
夕べディングレーは、一回しか突っ込まなかったのか?」
と顔をこちらに向けて言った途端、馬が足を滑らせ、がくん!と傾いた拍子に
「うわっ!」
と叫び声を上げ、馬の背から沼地に滑り落ちて、ばっしゃん!と派手な音を立て、泥まみれになるのを見た。
他にもあちこちで落ちる者が続出し、岩場で見てる栗毛の講師は呻く。
「…なんで今日はあんなに落ちてる?
いつもはせいぜい、集中力の無いナッカかロデルくらいだろう?」
聞かれたデルアンダーは、こっそりすまして見える表情の変わらない美貌のギュンターをチラと見た後。
ぼそり。と返答した。
「その…。
多分、他事に気を取られたせいかと、思われます」
栗毛の講師は、そう言ったデルアンダーを見た。
が、デルアンダーはそれ以上理由を聞かれたくなくて、講師からの視線をさっ!と外した。
ギュンターが一限を終え、旧校舎に出向き、戸を開け準備室の向こう、広い部屋では、オーガスタスとディングレーが腕組みして壁際にいた。
オーガスタスが、奔放にくねる赤毛を振って振り向く。
「…ここに来たのか?」
ギュンターがナニしてるのかな?と準備室から薄暗い広い部屋へと進むと、ローフィスが床に膝を付いてるアンガスの尻に屈み込み、丁寧に拭いていて、アンガスはぐったりして力が抜けてるように見え、それでも頬を赤くし、恥じている風だった。
ギュンターがオーガスタスの横に来て
「どうした?」
と聞くと、オーガスタスの向こうに立つディングレーが
「排泄した」
と素っ気無く言う。
オーガスタスは髪に手をやり、ぼそりと告げる。
「まあそりゃ、出発して馬上でされるより、マシだ。
俺はあいつの尻なんて、拭けない」
ギュンターはローフィスの手際の良さに見とれながら、言い返す。
「俺はできる」
言って、オーガスタスとディングレーに振り向くと、二人は目をまん丸にして凝視してるから。
ギュンターはぼやく。
「あんたら、餓鬼の世話した事、無いのか?
俺は弟二人のおしめ変えたし。
二人がまだ餓鬼の頃は、漏らしたのだって、綺麗にしたぞ?」
オーガスタスとディングレーは、互いの顔をそっ…と見合わせてため息を吐く。
「垂れ流しは見た事あるが。
俺は世話しなかったな…」
オーガスタスが呟くと、ディングレーは俯く。
「まず、そんな年頃の年下の兄弟がいない」
ギュンターは肩すくめ、ローフィスに声かける。
「あんたも、同行するんだな?」
ローフィスは汚れた布を横に置き、頷く。
が、かなり疲労してる様子が見て取れて、ギュンターは思わずディングレーに振り向いて聞く。
「夕べはあんたら、ヤってないんだろう?」
ディングレーは、きょとん。とした。
「ヤって…って、ナニを?」
ギュンターはオーガスタスに振り向くと
「やっぱあんたの戯れ言だったか」
とぼやき、ディングレーはそれでようやく、ギュンターがナニ言ってるか、分かってぼそり…とつぶやく。
「俺は相手がローフィスなら別に、ヤってもいいと思う。
が、あっちは拒否する」
咄嗟ローフィスは明るい肩までの栗毛を振って、鋭い空色の瞳を向け、歯を剥いた。
「当たり前だ!
お前酒に酔って俺の事押し倒したのだって、覚えてなかったろう?!
お前が突っ込ませてくれるんなら…ああそれ今、イメージした・だけで吐き気が…」
オーガスタスがまた髪に手をやり、ぼりぼり掻きながらぼやく。
「俺と怪しい。と噂された時も、じんましん出してたな」
ディングレーは、俯ききって情けない声で呻く。
「…吐き気は俺との事じゃ無く、排泄物のせいじゃないのか?」
ローフィスはまだ歯を剥いて、言い返した。
「違う!
お前にソノ気満々で押し倒された時も!
鳥肌立ちまくりだったんだぞ!
お陰で悪寒に手まで震えて睡眠薬の針飛ばせず、結局近くの燭台で殴るハメになったんだ!」
ぷっ…。
全員が、オーガスタスに視線を送る。
オーガスタスは一応、悪いと思ったのか。
全員…特にローフィスから、顔を背けて肩を揺らしてた。
ローフィスはまだ、濃い空色の瞳を鋭く輝かせたまま、ぼそり…と忠告する。
「…肩が揺れてる時点で、バレバレだ」
オーガスタスは顔背けたまま、言い訳る。
「…面と向かって笑われるより、マシかと思って」
ローフィスは顔を背けると、素っ気無く却下した。
「全然マシじゃない」
オーガスタスは真顔でギュンターに振り向くと
「俺の馬と自分の馬持って、この建物の前に来い。
俺の馬は四年の厩で一番デカい、赤毛の馬だ」
ギュンターは頷き、さっ!と背を向け部屋から駆け出す。
が、それを言ったのが真顔の限界だったのか。
ギュンターは背後から
「ぷぷっ…くくくくくっ…」
と再び忍び笑う、オーガスタスの笑い声を聞いた。
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