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花開く妄想
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二年平貴族大食堂では、凄まじい大騒ぎが起こっていた。
と、言うのも三年の兄が居る二年の一人が、偶然三年宿舎にてディングレーの後に続き、王族私室に向かうギュンターを目撃。
その後三年平貴族らの妄想爆発で、彼は『一大事!』と自分の二年宿舎に取って戻り、事の次第を大食堂に居る一同にブチまけたから。
一人が
「えっ?!
そんな堂々と?!」
と叫び
「オーガスタスはどうなったんだ?!」
「二人だけだったか?!」
等の声が飛び交い、シェイルが横向くと、もうヤッケルは大貴族用宿舎に続く階段を、駆け上がっていた。
シェイルは顔を下げると、こそっ…と大騒ぎする皆を尻目に、階段を上がり始める。
焦げ茶が基調色の、品が良くこぢんまりしたニ年大貴族用食堂を覗くと、もうヤッケルはフィンスとシュルツに、報告を始めていた。
シェイルは今回は、ローランデは顔を出さないかな?
とローランデ私室の、空色で金の縁取りのある優美で優しい色合いの扉を、チラと覗う。
そしてそっと食堂へと入ると、フィンスの横に腰掛けた。
「…だから!
下では、幾ら保身の為とは言え、オーガスタスの巨砲は…辛かったから、ディングレーに戻ったという意見が、圧倒的だ!」
シュルツがそれを聞いて、恐る恐る尋ねる。
「…オーガスタスの巨砲って…そんな、凄いのか?」
フィンスが顔を下げる。
「中流の舞踏会に顔出した時、小耳に挟んだんだけど。
なんでも、“人妻殺し”と陰で言われていて、人妻は一度味わうと、オーガスタスのストーカーに成り下がるらしくて…。
妻がオーガスタスに夢中で、オーガスタスに意見しようとした男爵も、オーガスタスの体格を見て何も言えず、泣き寝入りする夫が後を絶たなくて。
それでオーガスタスも気まずくて、舞踏会には顔を出さなくなったそうだ」
シェイルは思いっきり呆れたけど。
ヤッケルは真顔で頷く。
「ありげだな」
シュルツも頭を縦に小刻みに揺らしながら、つぶやく。
「オーガスタス、処女を相手にした事無いって…やっぱ本当なんだ」
ヤッケルとフィンス、シェイルにまで見つめられて、シュルツがこそっと言う。
「ホラ。
『教練』では一度も、男抱いた事無い。
って評判だろう?
そっちの趣味が、無いんじゃ無くて…ここだと大抵抱かれる男って、年少で小柄な美少年が多いから…」
ヤッケルが、ぼそり。と言う。
「…壊しそうで、怖くて手が出せない?」
シュルツは頷く。
「…慣れた、しかもよほど経験豊富な女性じゃないと、ダメらしい。
だから幾らグーデン一味から助けた美少年が、オーガスタスに乞うても。
彼が応えないのは、せっかく助けた美少年の某所を、自分が血まみれにするのが、いたたまれなかったからだ。
と聞いて…俺、内心『嘘つけ』って笑ったけど。
…ギュンターと噂になってからは、案外嘘じゃ無いのかも…と、最近思い始めた」
ヤッケルが、こっそり同意する。
「…確かにギュンターって…身体能力半端なさそう」
フィンスが顔下げてつぶやく。
「けどそのギュンターでさえ…無理だから、扱いやすいディングレーに戻った…って事?」
フィンスの言葉で、ヤッケルもシュルツも残念そうにため息吐くのを聞いて、シェイルは呆れきった。
「…やっと…血まみれにしなくて済む、相手が見つかったと思ったのにな」
ヤッケルが言うと、シュルツも頷く。
「ギュンターは…結構似合いに見えたから、応援する気でいた」
フィンスも顔下げて頷く。
「ギュンターぐらい強気なタイプなら、対立してるグーデン一味から嫌がらせ受けても平気そうに見えたし。
…凄くいいカップルだと、秘かに応援してたのに…」
シェイルが暗くなる三人に呆れきって、頬杖付いて、ふと上を見ると。
三人の背後に、ローランデが立っていた。
ぎょっ!として、ガタン!と椅子を鳴らすと三人は顔を上げ、シェイルを見た後。
シェイルの視線の先…自分達の、後ろに振り向いてシェイル同様、ぎょっ!とした。
「ききききききききき・聞いてた?!」
シュルツに叫ばれ、ローランデは困惑する。
「君たちこの間…三人でどうとか言ってたから。
私はてっきり…。
つまり今では、ギュンターはオーガスタスを振って、ディングレーだけにした…って事?」
三人は、ローランデをマジマジと見た。
たおやかに明るい栗毛を肩にながす、聖人のように優しげな清涼な雰囲気漂うローランデ。
青の瞳は湖水のように澄んで見える。
三人は改めて言葉を失い、喉鳴らして唾を飲み込むと、一斉に縋るようにシェイルを見る。
シェイルは『また?』ってうんざりした表情を見せた後、けれどローランデに言った。
「確定じゃなくて。
今回の相手が、ディングレーだって事で、まだオーガスタスを振ったって、言い切れないと僕は思うんだ。
ただディングレーが、オーガスタスと一緒だと、モノを比較されて王族の権威が傷つけられ、気まずいから。
三人じゃなく、二人でしよう。
って誘ったのかも」
それを聞いて、ローランデまでもが。
ほっとした表情で囁く。
「オーガスタスが振られたりしたら、私も胸が痛むから、そうだといいな」
シュルツ、ヤッケル、フィンスの三人は、その回答を聞いて、こっそり同意し、三人揃って頷いた。
翌朝、ギュンターはがばっ!と身を跳ね上げた。
確か風呂に入り、バスローブ姿で寝室で食事を出され、あまりに手の込んだ豪華な食事に感激でむせび泣き、お代わりを…かなりして、腹一杯で寝台に横になった…後、覚えていない。
つまりそのままの姿勢で、寝入ったようだ。
ノックの音がして
「朝食の準備が出来ましたが…こちらにお運び致しましょうか?」
と聞かれ、ギュンターは
「頼む」
と言って、もう一度寝台に背を倒す。
ふかふかで、寝具も清潔。
ギュンターはまた、ノックの音で身を跳ね上げ、自分が二度寝してたと気づいた。
ワゴンが運び込まれ、お代わり用の皿と料理が“これでもか!”ぐらい山盛りに乗っていて
「(幾ら俺でも、朝ここまで食わないぞ)」
とその量の多さに呆れた。
が、召使いが横で、トレーに一人前を乗せて差し出すから、ギュンターは条件反射でフォークを持ち上げた。
「昨日着ていらした衣服は洗濯いたしました。
こちらに置かせて頂きますので、不届きな事などございましたら、お知らせ下さい」
けれどギュンターは一口食べた途端、あまりの美味さに返事も出来ず…。
結局いつ、召使いが下がったのかも分からず、ワゴンの食事をデザートまで全て、平らげていた。
全部空になった皿の山をワゴンに乗せた後、気づく。
「(昨日お代わりを頼む度、召使いは呼び出されて顔を出し、下がっては皿を持って戻り…が面倒で、今朝は一気にワゴンに詰め込んで出したんだな…)」
洗濯された、質素なシャツとズボンを身につけ、ブーツまでもがぴかぴかに磨かれ、いい匂いまでして、どこまでも行き届いたサービスの良さに、ギュンターは心から感心した。
「(王族だからかな?
それとも…召使いが優秀だから?)」
ギュンターはやっと寝台から身を起こし、扉を開くと。
その向こうにすっかり授業に出る準備の整った、三人の美少年がいた。
栗色縦ロールのマレー。
ふわっとした明るい栗色巻き毛のハウリィ。
そして、真っ直ぐな黒髪のアスランは、とても嬉しそう。
ギュンターは三人に頷くと、アスランに囁く。
「あれからずっと、放りっぱなしですまない」
けれどアスランは、明るく微笑む。
「マレーとハウリィと一緒で、凄く楽しいです!」
ギュンターも、思わず微笑み返す。
三人を促し、扉を開けると大貴族用食堂で座っていたデルアンダーが、すっ!と立ち上がり、言った。
「良ければ、私が代わる。
慣れてるし、場所にも詳しい」
ギュンターは朝陽差し込む室内の、デルアンダーを改めて見た。
濃い癖のある栗色の背まである髪には、きちんと櫛が入り、通った鼻筋の、男らしい美男。
顔は垂れ目気味でグリンの瞳の甘いマスクだけれど、肩幅があり体格が良くて堂として見え…正直やっぱり、騎士としては格好良過ぎた。
ギュンターは改めて
「(コイツ、何か苦手)」
と顔を下げ、頷く。
「では、頼むかな…。
不案内でモタついて、隙を付かれても困る」
デルアンダーが頷く。
「一人でなく三人を護衛するのは、なかなか大変だ」
ギュンターは項垂れて頷く。
「一人なら抱き上げて逃げられるが、三人だとそうはいかないしな…」
デルアンダーが頷き返し、三人の背を階段の方へと、そっと押し出す。
ギュンターは突然手持ち無沙汰で、デルアンダーの男らしく格好いい長身の背中を見送った。
ふ…と視線を感じ、振り向く。
テーブルで食事途中の数人が、咄嗟顔を下げるから。
ギュンターは
「?」
と首捻った。
階段を降りて平貴族食堂に入ると、ここでもやっぱり視線を感じ、見つめ返すがさっ!と視線を避けられる。
ぐるりと周囲に居る全員に。
ギュンターはダベンデスタの姿を見つけ、駆け寄って陽気に声かけた。
「よぅ!
一限は何だっけ?」
「…乗馬…お前、朝食は?」
聞かれたギュンターは、ご馳走をたらふく食べて上機嫌だったので。
ダベンデスタの様子が…なんかそわそわして落ち着かなげだと、気づかなかった。
「もう、食った。
ディングレーとこのメシって、半端なく美味かったぞ?!」
途端、ダベンデスタは暗い笑顔で
「…良かったな…」
と、ぼそりと告げた。
だがそんなダベンデスタの様子に、気づく風も無いギュンターは。
満面の笑顔で頷いた。
「…ああ…今日は乗馬の後、講義はサボる。
申告書は乗馬の講師に渡して良いのか?」
聞くとダベンデスタは目を見開いて頷いた後
「いいけど…なんでサボるんだ?」
と、聞いて来るから。
ギュンターは全開の笑顔で答えた。
「オーガスタスと、ヤボ用!」
言ってさっと背を向け、いったん私物を取りに自室に戻るため、大食堂裏口へと向かった。
扉が閉まると、食堂は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
「オーガスタスと?!
オーガスタスって言ったか?!」
「ホラやっぱり、キレて無かった!」
「まだ両天秤かけてやがるのか!」
「ディングレーに、失礼だよな?!」
「いやオーガスタスに、だろう?!」
その場は一斉に、オーガスタス派とディングレー派に別れ、口々に罵り合った。
ダベンデスタは顔を思いっきり下げ
「(…どうして他人事でそこまで、熱中するかな…)」
と暗くなり
「ダベンデスタ!
お前、オーガスタス派だよな?!」
「…この間、ディングレー褒めてたろう?!」
と殺気だって怒鳴られ、凄く言いたい
『選ぶのはギュンターだし、奴の好みの問題で、俺の好みは関係無いんじゃないのか?』
の言葉を、睨み付ける迫力の学友らの顔を見つめ返し、無理矢理喉の奥に押し込んだ。
と、言うのも三年の兄が居る二年の一人が、偶然三年宿舎にてディングレーの後に続き、王族私室に向かうギュンターを目撃。
その後三年平貴族らの妄想爆発で、彼は『一大事!』と自分の二年宿舎に取って戻り、事の次第を大食堂に居る一同にブチまけたから。
一人が
「えっ?!
そんな堂々と?!」
と叫び
「オーガスタスはどうなったんだ?!」
「二人だけだったか?!」
等の声が飛び交い、シェイルが横向くと、もうヤッケルは大貴族用宿舎に続く階段を、駆け上がっていた。
シェイルは顔を下げると、こそっ…と大騒ぎする皆を尻目に、階段を上がり始める。
焦げ茶が基調色の、品が良くこぢんまりしたニ年大貴族用食堂を覗くと、もうヤッケルはフィンスとシュルツに、報告を始めていた。
シェイルは今回は、ローランデは顔を出さないかな?
とローランデ私室の、空色で金の縁取りのある優美で優しい色合いの扉を、チラと覗う。
そしてそっと食堂へと入ると、フィンスの横に腰掛けた。
「…だから!
下では、幾ら保身の為とは言え、オーガスタスの巨砲は…辛かったから、ディングレーに戻ったという意見が、圧倒的だ!」
シュルツがそれを聞いて、恐る恐る尋ねる。
「…オーガスタスの巨砲って…そんな、凄いのか?」
フィンスが顔を下げる。
「中流の舞踏会に顔出した時、小耳に挟んだんだけど。
なんでも、“人妻殺し”と陰で言われていて、人妻は一度味わうと、オーガスタスのストーカーに成り下がるらしくて…。
妻がオーガスタスに夢中で、オーガスタスに意見しようとした男爵も、オーガスタスの体格を見て何も言えず、泣き寝入りする夫が後を絶たなくて。
それでオーガスタスも気まずくて、舞踏会には顔を出さなくなったそうだ」
シェイルは思いっきり呆れたけど。
ヤッケルは真顔で頷く。
「ありげだな」
シュルツも頭を縦に小刻みに揺らしながら、つぶやく。
「オーガスタス、処女を相手にした事無いって…やっぱ本当なんだ」
ヤッケルとフィンス、シェイルにまで見つめられて、シュルツがこそっと言う。
「ホラ。
『教練』では一度も、男抱いた事無い。
って評判だろう?
そっちの趣味が、無いんじゃ無くて…ここだと大抵抱かれる男って、年少で小柄な美少年が多いから…」
ヤッケルが、ぼそり。と言う。
「…壊しそうで、怖くて手が出せない?」
シュルツは頷く。
「…慣れた、しかもよほど経験豊富な女性じゃないと、ダメらしい。
だから幾らグーデン一味から助けた美少年が、オーガスタスに乞うても。
彼が応えないのは、せっかく助けた美少年の某所を、自分が血まみれにするのが、いたたまれなかったからだ。
と聞いて…俺、内心『嘘つけ』って笑ったけど。
…ギュンターと噂になってからは、案外嘘じゃ無いのかも…と、最近思い始めた」
ヤッケルが、こっそり同意する。
「…確かにギュンターって…身体能力半端なさそう」
フィンスが顔下げてつぶやく。
「けどそのギュンターでさえ…無理だから、扱いやすいディングレーに戻った…って事?」
フィンスの言葉で、ヤッケルもシュルツも残念そうにため息吐くのを聞いて、シェイルは呆れきった。
「…やっと…血まみれにしなくて済む、相手が見つかったと思ったのにな」
ヤッケルが言うと、シュルツも頷く。
「ギュンターは…結構似合いに見えたから、応援する気でいた」
フィンスも顔下げて頷く。
「ギュンターぐらい強気なタイプなら、対立してるグーデン一味から嫌がらせ受けても平気そうに見えたし。
…凄くいいカップルだと、秘かに応援してたのに…」
シェイルが暗くなる三人に呆れきって、頬杖付いて、ふと上を見ると。
三人の背後に、ローランデが立っていた。
ぎょっ!として、ガタン!と椅子を鳴らすと三人は顔を上げ、シェイルを見た後。
シェイルの視線の先…自分達の、後ろに振り向いてシェイル同様、ぎょっ!とした。
「ききききききききき・聞いてた?!」
シュルツに叫ばれ、ローランデは困惑する。
「君たちこの間…三人でどうとか言ってたから。
私はてっきり…。
つまり今では、ギュンターはオーガスタスを振って、ディングレーだけにした…って事?」
三人は、ローランデをマジマジと見た。
たおやかに明るい栗毛を肩にながす、聖人のように優しげな清涼な雰囲気漂うローランデ。
青の瞳は湖水のように澄んで見える。
三人は改めて言葉を失い、喉鳴らして唾を飲み込むと、一斉に縋るようにシェイルを見る。
シェイルは『また?』ってうんざりした表情を見せた後、けれどローランデに言った。
「確定じゃなくて。
今回の相手が、ディングレーだって事で、まだオーガスタスを振ったって、言い切れないと僕は思うんだ。
ただディングレーが、オーガスタスと一緒だと、モノを比較されて王族の権威が傷つけられ、気まずいから。
三人じゃなく、二人でしよう。
って誘ったのかも」
それを聞いて、ローランデまでもが。
ほっとした表情で囁く。
「オーガスタスが振られたりしたら、私も胸が痛むから、そうだといいな」
シュルツ、ヤッケル、フィンスの三人は、その回答を聞いて、こっそり同意し、三人揃って頷いた。
翌朝、ギュンターはがばっ!と身を跳ね上げた。
確か風呂に入り、バスローブ姿で寝室で食事を出され、あまりに手の込んだ豪華な食事に感激でむせび泣き、お代わりを…かなりして、腹一杯で寝台に横になった…後、覚えていない。
つまりそのままの姿勢で、寝入ったようだ。
ノックの音がして
「朝食の準備が出来ましたが…こちらにお運び致しましょうか?」
と聞かれ、ギュンターは
「頼む」
と言って、もう一度寝台に背を倒す。
ふかふかで、寝具も清潔。
ギュンターはまた、ノックの音で身を跳ね上げ、自分が二度寝してたと気づいた。
ワゴンが運び込まれ、お代わり用の皿と料理が“これでもか!”ぐらい山盛りに乗っていて
「(幾ら俺でも、朝ここまで食わないぞ)」
とその量の多さに呆れた。
が、召使いが横で、トレーに一人前を乗せて差し出すから、ギュンターは条件反射でフォークを持ち上げた。
「昨日着ていらした衣服は洗濯いたしました。
こちらに置かせて頂きますので、不届きな事などございましたら、お知らせ下さい」
けれどギュンターは一口食べた途端、あまりの美味さに返事も出来ず…。
結局いつ、召使いが下がったのかも分からず、ワゴンの食事をデザートまで全て、平らげていた。
全部空になった皿の山をワゴンに乗せた後、気づく。
「(昨日お代わりを頼む度、召使いは呼び出されて顔を出し、下がっては皿を持って戻り…が面倒で、今朝は一気にワゴンに詰め込んで出したんだな…)」
洗濯された、質素なシャツとズボンを身につけ、ブーツまでもがぴかぴかに磨かれ、いい匂いまでして、どこまでも行き届いたサービスの良さに、ギュンターは心から感心した。
「(王族だからかな?
それとも…召使いが優秀だから?)」
ギュンターはやっと寝台から身を起こし、扉を開くと。
その向こうにすっかり授業に出る準備の整った、三人の美少年がいた。
栗色縦ロールのマレー。
ふわっとした明るい栗色巻き毛のハウリィ。
そして、真っ直ぐな黒髪のアスランは、とても嬉しそう。
ギュンターは三人に頷くと、アスランに囁く。
「あれからずっと、放りっぱなしですまない」
けれどアスランは、明るく微笑む。
「マレーとハウリィと一緒で、凄く楽しいです!」
ギュンターも、思わず微笑み返す。
三人を促し、扉を開けると大貴族用食堂で座っていたデルアンダーが、すっ!と立ち上がり、言った。
「良ければ、私が代わる。
慣れてるし、場所にも詳しい」
ギュンターは朝陽差し込む室内の、デルアンダーを改めて見た。
濃い癖のある栗色の背まである髪には、きちんと櫛が入り、通った鼻筋の、男らしい美男。
顔は垂れ目気味でグリンの瞳の甘いマスクだけれど、肩幅があり体格が良くて堂として見え…正直やっぱり、騎士としては格好良過ぎた。
ギュンターは改めて
「(コイツ、何か苦手)」
と顔を下げ、頷く。
「では、頼むかな…。
不案内でモタついて、隙を付かれても困る」
デルアンダーが頷く。
「一人でなく三人を護衛するのは、なかなか大変だ」
ギュンターは項垂れて頷く。
「一人なら抱き上げて逃げられるが、三人だとそうはいかないしな…」
デルアンダーが頷き返し、三人の背を階段の方へと、そっと押し出す。
ギュンターは突然手持ち無沙汰で、デルアンダーの男らしく格好いい長身の背中を見送った。
ふ…と視線を感じ、振り向く。
テーブルで食事途中の数人が、咄嗟顔を下げるから。
ギュンターは
「?」
と首捻った。
階段を降りて平貴族食堂に入ると、ここでもやっぱり視線を感じ、見つめ返すがさっ!と視線を避けられる。
ぐるりと周囲に居る全員に。
ギュンターはダベンデスタの姿を見つけ、駆け寄って陽気に声かけた。
「よぅ!
一限は何だっけ?」
「…乗馬…お前、朝食は?」
聞かれたギュンターは、ご馳走をたらふく食べて上機嫌だったので。
ダベンデスタの様子が…なんかそわそわして落ち着かなげだと、気づかなかった。
「もう、食った。
ディングレーとこのメシって、半端なく美味かったぞ?!」
途端、ダベンデスタは暗い笑顔で
「…良かったな…」
と、ぼそりと告げた。
だがそんなダベンデスタの様子に、気づく風も無いギュンターは。
満面の笑顔で頷いた。
「…ああ…今日は乗馬の後、講義はサボる。
申告書は乗馬の講師に渡して良いのか?」
聞くとダベンデスタは目を見開いて頷いた後
「いいけど…なんでサボるんだ?」
と、聞いて来るから。
ギュンターは全開の笑顔で答えた。
「オーガスタスと、ヤボ用!」
言ってさっと背を向け、いったん私物を取りに自室に戻るため、大食堂裏口へと向かった。
扉が閉まると、食堂は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
「オーガスタスと?!
オーガスタスって言ったか?!」
「ホラやっぱり、キレて無かった!」
「まだ両天秤かけてやがるのか!」
「ディングレーに、失礼だよな?!」
「いやオーガスタスに、だろう?!」
その場は一斉に、オーガスタス派とディングレー派に別れ、口々に罵り合った。
ダベンデスタは顔を思いっきり下げ
「(…どうして他人事でそこまで、熱中するかな…)」
と暗くなり
「ダベンデスタ!
お前、オーガスタス派だよな?!」
「…この間、ディングレー褒めてたろう?!」
と殺気だって怒鳴られ、凄く言いたい
『選ぶのはギュンターだし、奴の好みの問題で、俺の好みは関係無いんじゃないのか?』
の言葉を、睨み付ける迫力の学友らの顔を見つめ返し、無理矢理喉の奥に押し込んだ。
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