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三年四位決戦
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オーガスタスは腕組みしたまま唸る。
「身内同士の戦いだな」
ローフィスは耳元に囁きかける親友に言った。
「ディングレーは見ちゃいない。
お前同様、脳裏にあるのはローランデだけだ」
リーラスはとぼけ声で喚く。
「二学年と三学年の、トップ同士の戦いでもし、ディングレーがローランデに勝てば。
お前の対戦相手はディングレーになるんだぞ?」
オーガスタスが吐息吐いた。
「…泣き言は言いたくないが、ディングレーは俺同様、ローランデに勝つ手が無い。
どっかで去年同様、剣を折られて負ける」
リーラスとローフィスは顔を見合わせ、ぼやいた。
「…戦う前から、それかよ……」(リーラス)
「弱気にも、ほどがあるぜ………」(ローフィス)
がリーラスは顔を上げる。
「一年のスフォルツァもかなり、やるぜ。
奴がローランデにひょっとしたら、勝つって事も………」
が、ジロリ…とローフィスとオーガスタスに睨まれ、終いにオーガスタスにどやされた。
「現実逃避も大概にしろ!
数時間後、衆人環視の中で恥かくのは、間違いなく俺なんだからな!」
“友達甲斐がない”とぼやかれて、リーラスは言葉に詰まりまくった。
カン…!カンカン…!
激しい音が飛ぶ。
隣でヤードネンがディングレー取り巻き大貴族のオルスリードと、四位決戦を始めていた。
体格はほぼ互角。
オルスリードは取り巻き大貴族一の筋肉質。
ヤードネン同様、ほぼ黒に近い栗毛。
だが整いきった顔立ちで、ブルーグレーの瞳の、涼しげな目元の美男。
平貴族の出入りする酒場で、ヤードネンが口説いてた女が、オルスリードが入って来た途端、彼の元へと行ってしまい“奪われた”とずっと逆恨みしていたから、ヤードネンのぶつける剣には、執念が籠もってた。
なのに…オルスリードはひょい。ひょい。
と長身を屈め、避ける一方で、剣も合わせない。
「流石だ…」
スフォルツァの声に、アイリスが振り向く。
アイリスには誰の事を言ってるのか、見当が付かなかった。
ディングレーの取り巻き大貴族の三人は、誰もが体格良く背も高く、そして見目もいい騎士ばかり。
毛並みがいいだけで無く、良く鍛錬されていて隙無く、簡単に打ち崩すのは難しく、そして三人はその実力が均衡していた。
グーデン配下のヤードネンだけが…ムラのある剣で、激しく乱暴で、時に狂気に似た殺気を放つ。
…が、オルスリードは戦い慣れた熟練の騎士だったから、ヤードネンの気迫にまるで怖じず、簡単に討ち取られるような隙は、決して見せない。
どころかヤードネンの狂気に似た豪剣を、すらりとした身のこなしで見事に避けていた。
一方、二位争いはデルアンダーが堂たる貫禄を見せ、テスアッソンの剣を軽く捌き、かと言えば一瞬の隙に迫力有る剣を、叩き込む。
テスアッソンはその突然の鋭い切り返しに顔を歪め…それでも剣をぶつけ止め、瞬時に踵を返して剣を振り上げ、一瞬で振り下ろしていた。
アイリスが自分を見つめているのに、スフォルツァは気づく。
そして振り向き、肩を竦めた。
「彼らは教練ルールを熟知してるから、余程の場合じゃなきゃ、無駄な剣は振らない…。
ローランデもそうだけど…決める時だけ思い切り振り、それ以外は剣の消耗を出来るだけ防ぎ、捌いてる」
アイリスは微笑む。
「確かに、こっちの対戦じゃまるで剣を振ってない」
スフォルツァは言われて、剣を避け続けるオルスリードに、かっか来てめちゃめちゃ剣を振り込む、ヤードネンを見た。
また振り被り、大振りの豪剣を、オルスリードに向かって殺気を込めて放つ。
豪快に横に薙ぎ払い、逃げ場を防いだ。
が、オルスリードは身を後ろに引きながら、軽くその豪剣を弾く。
その口元には微笑さえ浮かべて。
「…ディングレー自身も凄く格好いいけど。
取り巻き大貴族らも、毛並みはいいし、体格いい美男ばっかだね…」
アイリスがぼそり。と告げると、スフォルツァの目は、険しくなった。
ヤードネンはオルスリードのその余裕に、頭から湯気が出そうなぐらい怒ってる様子で、また大振りの剣で横に薙ぎ払う。
が…。
「…早い…」
アイリスのつぶやきに、スフォルツァもごくり。と唾を飲み込み、頷く。
オルスリードは、ばっ!と斜め後ろに胸を開けて下がると、脇に届かんばかりの剣を、また弾く。
がっ!
ヤードネンが、ちっ!と舌打ちし、仕留め損ねた悔しさをその歪んだ表情に滲ませ、真上に一気に剣を振り被り、一瞬で振り下ろす。
オルスリードは剣を泳がせ、振り上げようとし…が、下げて後ろに下がった。
カン…!
振り下ろした瞬間、ヤードネンの剣が床に叩きつけられて落ちる。
ヤードネンは振り下ろしたままの体勢で、床に転がる剣先を、目を見開き見つめた。
「まあ…当然だろうな」
スフォルツァの感想に、アイリスも頷く。
「狙いきってたし」
講師は試合終了を叫ぼうとした。
が、ヤードネンは今だ、剣を振り下ろした体勢のまま固まり。
オルスリードは屈んで、ヤードネンのほぼ柄から先の、折れて床に転がる剣先を拾っている様を見て、止めた。
オルスリードが、剣先を講師の元へと持って行く。
その時初めて、ヤードネンは慌てて姿勢を戻し、オルスリードを静止しようとした。
が、間に合わなかった。
「…刃の一部が、『教練』指定の鋼鉄で無く…」
講師はオルスリードに差し出された刃先の、ちょうど剣が当たる部分の刃だけが。
真剣と同じ材質なのに気づき、目を見開く。
オルスリードは刃を呆然と見つめてる、講師に囁く。
「…さっきウチのモーリアスにあいつが勝ったのも、この刃を当て、モーリアスの剣をぐらつかせたせいで…」
講師は真実を暴かれて俯くヤードネンに、瞬時に顔を上げ、怒鳴り付けた。
「お前は失格だ!」
途端、四年席から声が飛ぶ。
「いいぞ!」
「仲間思いだ!」
「良く暴いた!」
テスアッソンは思わず、対戦相手のデルアンダーを見る。
そんな反則の剣と戦い、勝ち…が、確かに剣は、消耗してるはず…。
しかしデルアンダーは、遠慮は無用。
と、打ち込んで来るから、テスアッソンは一瞬で飛び退いた。
講師が叫ぶ。
「モーリアス!
オルスリードと四位決戦の試合だ!」
講堂内に、拍手と歓声が湧く。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「ディングレー配下同士の、四位決戦だ!」
「よぉぉぉし!」
「頑張れよっ!」
「大貴族の意地を、見せてくれ!」
三年席から歩いてきたモーリアスは、待ってるオルスリードと向かい合う。
「お前…馬鹿だな。
黙ってりゃ、四位だったのに」
ぼそり…と告げるモーリアスに、オルスリードは笑う。
「お前にも勝つから、四位は俺だ」
「ぬかせ!」
講師は試合開始も告げぬ間から、オルスリードに突っ込んで行くモーリアスを見て、目を見開く。
二人は激しく激突し、剣ががちっ!と音を立て、力強くかち合った。
「…もうどっちも、剣を庇うのは止めたみたいだな」
スフォルツァの言葉に、アイリスはくすくす笑った。
「凄く、見応えありそうだ」
スフォルツァは嬉しそうなアイリスを、少し不安そうに見つめる。
「どっちも、いい男だから?」
アイリスは、明るい栗色巻き毛で鳶色の瞳の、ディングレー取り巻きの中では一番美形に見えるモーリアスを見つめた。
背も皆からしたら、少し低い。
けれど顔が美麗に見えるだけで、武人としての迫力は十分あり、剛の者に見えるモーリアスと。
背が高くて体格良く、男前風のオルスリードが思うさま剣をぶつけ合う姿を見つめ、ぼやく。
「そりゃどっちもいい男同士だけど。
見応えある試合を披露してくれるはず…って、君は思わないの?」
愛しのアイリスに、驚いて尋ねられ、スフォルツァは決まり悪げに、顔を下げた。
「身内同士の戦いだな」
ローフィスは耳元に囁きかける親友に言った。
「ディングレーは見ちゃいない。
お前同様、脳裏にあるのはローランデだけだ」
リーラスはとぼけ声で喚く。
「二学年と三学年の、トップ同士の戦いでもし、ディングレーがローランデに勝てば。
お前の対戦相手はディングレーになるんだぞ?」
オーガスタスが吐息吐いた。
「…泣き言は言いたくないが、ディングレーは俺同様、ローランデに勝つ手が無い。
どっかで去年同様、剣を折られて負ける」
リーラスとローフィスは顔を見合わせ、ぼやいた。
「…戦う前から、それかよ……」(リーラス)
「弱気にも、ほどがあるぜ………」(ローフィス)
がリーラスは顔を上げる。
「一年のスフォルツァもかなり、やるぜ。
奴がローランデにひょっとしたら、勝つって事も………」
が、ジロリ…とローフィスとオーガスタスに睨まれ、終いにオーガスタスにどやされた。
「現実逃避も大概にしろ!
数時間後、衆人環視の中で恥かくのは、間違いなく俺なんだからな!」
“友達甲斐がない”とぼやかれて、リーラスは言葉に詰まりまくった。
カン…!カンカン…!
激しい音が飛ぶ。
隣でヤードネンがディングレー取り巻き大貴族のオルスリードと、四位決戦を始めていた。
体格はほぼ互角。
オルスリードは取り巻き大貴族一の筋肉質。
ヤードネン同様、ほぼ黒に近い栗毛。
だが整いきった顔立ちで、ブルーグレーの瞳の、涼しげな目元の美男。
平貴族の出入りする酒場で、ヤードネンが口説いてた女が、オルスリードが入って来た途端、彼の元へと行ってしまい“奪われた”とずっと逆恨みしていたから、ヤードネンのぶつける剣には、執念が籠もってた。
なのに…オルスリードはひょい。ひょい。
と長身を屈め、避ける一方で、剣も合わせない。
「流石だ…」
スフォルツァの声に、アイリスが振り向く。
アイリスには誰の事を言ってるのか、見当が付かなかった。
ディングレーの取り巻き大貴族の三人は、誰もが体格良く背も高く、そして見目もいい騎士ばかり。
毛並みがいいだけで無く、良く鍛錬されていて隙無く、簡単に打ち崩すのは難しく、そして三人はその実力が均衡していた。
グーデン配下のヤードネンだけが…ムラのある剣で、激しく乱暴で、時に狂気に似た殺気を放つ。
…が、オルスリードは戦い慣れた熟練の騎士だったから、ヤードネンの気迫にまるで怖じず、簡単に討ち取られるような隙は、決して見せない。
どころかヤードネンの狂気に似た豪剣を、すらりとした身のこなしで見事に避けていた。
一方、二位争いはデルアンダーが堂たる貫禄を見せ、テスアッソンの剣を軽く捌き、かと言えば一瞬の隙に迫力有る剣を、叩き込む。
テスアッソンはその突然の鋭い切り返しに顔を歪め…それでも剣をぶつけ止め、瞬時に踵を返して剣を振り上げ、一瞬で振り下ろしていた。
アイリスが自分を見つめているのに、スフォルツァは気づく。
そして振り向き、肩を竦めた。
「彼らは教練ルールを熟知してるから、余程の場合じゃなきゃ、無駄な剣は振らない…。
ローランデもそうだけど…決める時だけ思い切り振り、それ以外は剣の消耗を出来るだけ防ぎ、捌いてる」
アイリスは微笑む。
「確かに、こっちの対戦じゃまるで剣を振ってない」
スフォルツァは言われて、剣を避け続けるオルスリードに、かっか来てめちゃめちゃ剣を振り込む、ヤードネンを見た。
また振り被り、大振りの豪剣を、オルスリードに向かって殺気を込めて放つ。
豪快に横に薙ぎ払い、逃げ場を防いだ。
が、オルスリードは身を後ろに引きながら、軽くその豪剣を弾く。
その口元には微笑さえ浮かべて。
「…ディングレー自身も凄く格好いいけど。
取り巻き大貴族らも、毛並みはいいし、体格いい美男ばっかだね…」
アイリスがぼそり。と告げると、スフォルツァの目は、険しくなった。
ヤードネンはオルスリードのその余裕に、頭から湯気が出そうなぐらい怒ってる様子で、また大振りの剣で横に薙ぎ払う。
が…。
「…早い…」
アイリスのつぶやきに、スフォルツァもごくり。と唾を飲み込み、頷く。
オルスリードは、ばっ!と斜め後ろに胸を開けて下がると、脇に届かんばかりの剣を、また弾く。
がっ!
ヤードネンが、ちっ!と舌打ちし、仕留め損ねた悔しさをその歪んだ表情に滲ませ、真上に一気に剣を振り被り、一瞬で振り下ろす。
オルスリードは剣を泳がせ、振り上げようとし…が、下げて後ろに下がった。
カン…!
振り下ろした瞬間、ヤードネンの剣が床に叩きつけられて落ちる。
ヤードネンは振り下ろしたままの体勢で、床に転がる剣先を、目を見開き見つめた。
「まあ…当然だろうな」
スフォルツァの感想に、アイリスも頷く。
「狙いきってたし」
講師は試合終了を叫ぼうとした。
が、ヤードネンは今だ、剣を振り下ろした体勢のまま固まり。
オルスリードは屈んで、ヤードネンのほぼ柄から先の、折れて床に転がる剣先を拾っている様を見て、止めた。
オルスリードが、剣先を講師の元へと持って行く。
その時初めて、ヤードネンは慌てて姿勢を戻し、オルスリードを静止しようとした。
が、間に合わなかった。
「…刃の一部が、『教練』指定の鋼鉄で無く…」
講師はオルスリードに差し出された刃先の、ちょうど剣が当たる部分の刃だけが。
真剣と同じ材質なのに気づき、目を見開く。
オルスリードは刃を呆然と見つめてる、講師に囁く。
「…さっきウチのモーリアスにあいつが勝ったのも、この刃を当て、モーリアスの剣をぐらつかせたせいで…」
講師は真実を暴かれて俯くヤードネンに、瞬時に顔を上げ、怒鳴り付けた。
「お前は失格だ!」
途端、四年席から声が飛ぶ。
「いいぞ!」
「仲間思いだ!」
「良く暴いた!」
テスアッソンは思わず、対戦相手のデルアンダーを見る。
そんな反則の剣と戦い、勝ち…が、確かに剣は、消耗してるはず…。
しかしデルアンダーは、遠慮は無用。
と、打ち込んで来るから、テスアッソンは一瞬で飛び退いた。
講師が叫ぶ。
「モーリアス!
オルスリードと四位決戦の試合だ!」
講堂内に、拍手と歓声が湧く。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「ディングレー配下同士の、四位決戦だ!」
「よぉぉぉし!」
「頑張れよっ!」
「大貴族の意地を、見せてくれ!」
三年席から歩いてきたモーリアスは、待ってるオルスリードと向かい合う。
「お前…馬鹿だな。
黙ってりゃ、四位だったのに」
ぼそり…と告げるモーリアスに、オルスリードは笑う。
「お前にも勝つから、四位は俺だ」
「ぬかせ!」
講師は試合開始も告げぬ間から、オルスリードに突っ込んで行くモーリアスを見て、目を見開く。
二人は激しく激突し、剣ががちっ!と音を立て、力強くかち合った。
「…もうどっちも、剣を庇うのは止めたみたいだな」
スフォルツァの言葉に、アイリスはくすくす笑った。
「凄く、見応えありそうだ」
スフォルツァは嬉しそうなアイリスを、少し不安そうに見つめる。
「どっちも、いい男だから?」
アイリスは、明るい栗色巻き毛で鳶色の瞳の、ディングレー取り巻きの中では一番美形に見えるモーリアスを見つめた。
背も皆からしたら、少し低い。
けれど顔が美麗に見えるだけで、武人としての迫力は十分あり、剛の者に見えるモーリアスと。
背が高くて体格良く、男前風のオルスリードが思うさま剣をぶつけ合う姿を見つめ、ぼやく。
「そりゃどっちもいい男同士だけど。
見応えある試合を披露してくれるはず…って、君は思わないの?」
愛しのアイリスに、驚いて尋ねられ、スフォルツァは決まり悪げに、顔を下げた。
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