若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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四位争いのハプニング

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 アスランは、さっき手に汗握り見つめていた対戦で、ディングレー取り巻き大貴族の一人を打ち負かし、勝ち上がったグーデン配下の男が。
反則勝ちしたと知って、呆然とした。

横に座るマレーは、アスランの腕をやんわり握って囁く。
「良かったね…」

アスランはマレーに振り向いた。
けれどマレーは。
さっきグーデン配下に負けたディングレー取り巻き騎士が、激しく剣を交え、戦う姿を、真剣な眼差しで見つめてた。

アスランはマレーの囁きに表情をほころばせ、微笑を浮かべて頷いた。

テスアッソンは数度。
突き入れて来るデルアンダーの剣に剣を、ぶつけ止めようとし…躊躇い肩を下げて避ける。

デルアンダーはとうとうテスアッソンの遠慮に腹を立て、避けたテスアッソンの、腹を抉るように一瞬で剣を突き上げる。

テスアッソンは血相変え、とうとう剣をぶつけ止めた。

がつんっ!

デルアンダーは直ぐ剣を引き、一気に振り下ろす。

がつんっ!

テスアッソンは今や、続けざまに振られるデルアンダーの鋭い剣を、剣を合わせるしか防ぐ事が出来ないと知り、歯を食い縛ってデルアンダーを睨めつけた。

その時、ようやくデルアンダーの表情に、笑みが浮かぶ。

テスアッソンは合わせた剣を、上に大きく振って外し、一気に突き刺す。

おおっ!

その奇襲の速さに、講堂内で声が飛ぶ。

がんっっ!

デルアンダーは一気に上から、突いてくる剣を叩き落とす。

「どっちも、意地剥き出しだな」
ローフィスの声に、オーガスタスは笑った。

「…楽しそうだな」
リーラスに尋ねられても、激しく打ち込み合うデルアンダーとテスアッソンの試合が余程見応えあるのか。
オーガスタスは視線を二人に向けたまま、返答もしない。

一方、オルスリードとモーリアスの戦いも同様。
激しく突き入れるモーリアスの剣を長身のオルスリードはものともせず、肩をすかし避け、直ぐ剣を後ろに大きく引いたかと思うと、屈むモーリアスの背へ、一気に剣を振り下ろす。

「っ!」

モーリアスは瞬間上体を上に捻り、振り下ろされる剣に十字に剣を合わせ、ぶつけ止める。

がっっっ!

だが屈んだ姿勢から上を向けば当然足は捻られ、不安定になる。
片足浮いた拍子にそのまま背から、床に転がり落ちた。

だんっ!

背が床に付いた途端、モーリアスは転がり起き上がろうとし、その際手に握る剣が床にぶつかった。

がち…!

モーリアスは構わず腰を起こすと同時、剣を思い切りうえに振りげ、振り被った。

が。
対戦相手のオルスリードは、棒立ちで上を見てる。

「貴様!試合中だぞ!」

モーリアスは試合相手のふざけた態度に思い切り一声怒鳴り、そのまま剣を振り下ろそうとし…。
いきなりやたら軽いと、突然気づき、剣をその場で止める。
チラと横に視線を送ると、判定人の講師までもが上を見てるのが視界に入り、とうとうモーリアスは顔を上げ、振り下ろそうとした斜め上の自分の剣を見た。

立ち上がる際、床にぶつけた時亀裂が入ったのか。
剣は半分先が無かった。

講師の叫ぶ声を聞く。

「避けろよ!」

モーリアスも上を見ると、折れた剣先は振り上げた拍子に、くるくる回りながら銀に光を弾き、宙を、飛んでいた。

講堂内は途端、ザワつく。
宙飛ぶ剣先で、かつては怪我人が幾人か出てる。

「四年席に飛んだぞ!」

四年達は一斉に、どこに落ちるのかと試合では無く、空飛ぶ剣先を目で追った。

テスアッソンとデルアンダーですら、相手に振り入れる剣を止め、剣先の落ちる先を見守る。

ちょうど四年席の中央に向かい、相変わらずくるくる横に回りながら。
銀の光を弾く刃が弧を描き、落ちて行く。

ざわっ!
四年中央席の者らは、一斉に端へと身を寄せ逃げ始めた矢先。
二列目に座るオーガスタスが、すっ!と立ち上がり、その長身で四・五列席へと向かう剣先を、すらりと剣を振り上げ、一気に床に叩き落とす。

がっ…!
キン…!

はぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ。

一斉に、ほっとしたため息がそこら中から漏れた。

「助かったぜ!」
「感謝するぞ御大!」
四年の声が飛び、またあちこちからまばらに
ぱちぱちぱち…。
と拍手まで沸く。

講師はオーガスタスへ賞賛の拍手を降らせる二、三年らを、ジロリ…と見つめ鎮め、中央、判定に立つ講師へ視線を振った。

講師は頷き
「それまで!勝者、オルスリード!」
と大声で叫んだ。

オルスリードは俯き顔を上げないモーリアスの、横に来てぼそりと告げる。
「ヤードネンの反則剣と戦った時の剣、そのまま使ってたのか?
なんで替えて来ない」
「替えなくてもお前程度!
勝てると思った!」
「……………」

それを聞いたオルスリードは、思いっきり顔を下げ、沈黙した後、言った。
「それで、あのザマか?
…後でオーガスタスに、び入れとけ」

モーリアスは流石に言い返せず、顔を下げたまま黙して頷いた。


リーラスが、剣を弾き長椅子に腰を下ろす、オーガスタスに耳打ちする。
「相変わらず、ファンが多いな!」

オーガスタスはそう言うリーラスを、顔を横向けて見つめながら睨む。
「…そう言って持ち上げといて。
最終決戦でいっそう、恥かかせたいのか?」

リーラスが、オーガスタス横のローフィスに、顔を振ってぼやく。
「ローランデに負けると、決めつけてひがんでるぜ?」

ローフィスは肩竦めた。
「…そりゃオーガスタスもディングレーも。
力で押せれば、少しは勝機もあるだろうが…。
それをしたら呆気なく、剣が折れる」

オーガスタスも、その通りだ。と吐息混じりに頷いた。

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