森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

ラステル配下の四天王

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 ラステル配下はエウロペに、四人について軽く説明する。
「外では、この三人にドナルドン公爵を入れての四人を。
『ラステルの四天王』と呼んでいるんです」

けれどアッカマン侯爵は俯く。
「外では…ね。
が実は、名乗りもしない地味な彼始め、大勢私より有能な男達が居る」

たいそう立派に見えるレクトール男爵ですら。
その言葉に同意して頷く。
「私や彼らは、血族だ。
つまり直径のラステルと、親戚に当たる」

デュバッセン大公は背もたれに背を思いっきりもたせかけ、組んだ足をぶらぶらさせ、さらりとした黒髪を肩に滑らせて、美麗な顔で呟く。
「ある意味、顔と名前を曝してるのは捨て駒」

アッカマン侯爵も、膝の上に腕を乗せ、神妙な顔で囁く。
「押しつけられても、断れない馬鹿がなるんです」

エウロペは彼らの見解に、目を見開くが頷く。
「…確かに、標的になりやすい」

デュバッセン大公は美麗な顔を歪め、告げる。
「なので“四天王”とは。
暗殺されて構わない者か。
自分の身は、よほどしっかり守れる者が成る。
一族はかなりの大人数だが。
トップに座るラステルの地位に、就きたい者は誰も居ない」

レクトール男爵も、苦笑いして頷く。
「一族中で、押しつけ合ってるな」

エウロペは呆れた。
「…つまり貴方方は…探索に優れた者では無い…と?」

三人は頷く。

「…けれどドナルドン公爵は…たいそう機転が利き、どれだけの悪路でも騎乗して進み、他の配下の皆さんの上に立つのに、相応しいと思えるお方でしたが?」

エウロペの問いに、三人は顔を見合わす。
レクトール男爵が、笑顔で説明した。
「それは彼が。
北地域担当だから。
北は貴方の森と花の王国《シュテフザイン》の他、森と花の王国《シュテフザイン》の更に北。
高い山脈を超えた雪積もる地と。
乗馬に長けていて体力的にもタフじゃないと、とても部下を統べられない」

エウロペは首を傾げる。
「南の担当者は…いないんですか?」

三人は、そう問うエウロペをじっ…と見た。

明るい絹糸のような栗毛の美青年、アッカマン侯爵が口開く。
「南には、紅蜥蜴ラ・ベッタの本拠地があるので…。
複数が統べていて、皆名も顔も表には出さない」

エウロペは思わず、興味を引かれて尋ねる。
「全て合わせたら…一体どれだけ人数が居るんです?」

レクトール男爵はため息を吐いた。
「使えそうな者は、どんどん年若い内にスカウトします。
身分、国籍を問わず。
成人してから仲間になった者は、逆に寝返る危険が大きいので。
雇う時は裏切る前提で雇い入れる。
…つまりそんなで。
途方も無い数でしょうね?」

アッカマン侯爵もデュバッセン大公もが、同意して頷いた。

一番年上のレクトール男爵は、栗色のくりんくりんの巻き毛を揺らし、笑う。
「ともかく自分はデキる。
なんて天狗になってたら、幾らでももっと有能な男が山程いるので。
自分の業績をアピールして上を目指そう。
なんて者はまず、淘汰されていなくなる」

エウロペは納得して頷いた。
「全体の水準が、高いんですね?」

三人は揃って頷いた。

エウロペもそれで、三人は間違いなく上品な貴族に見えるのに。
ざっくばらんで親しみ易いんだと、納得した。

「お揃いで!」

ラステルが姿を現すと、名も無い配下は入れ替わりに場を外す。
ラステルは座ると、即座に口開く。
「どう思いました?」

アッカマン侯爵は、ぼそりと一言。
「並々ならぬ気迫」

ラステルはレクトール男爵に首を振る。
「間違いなく、油断成らない一角ひとかどの人物」

ラステルがデュバッセン大公に首を振る前に。
エウロペはそれが彼らの、自分への評価だと気づく。

「時間があれば、抱かれて溺れたいもんです。
その暇は無いが」

デュバッセン大公の見解に、エウロペは目を見開き、自分への評価と思ったのは間違いだった?
と思い直した。

が、ラステルはクスクス笑う。
「…無理も無い。
デルデロッテが。
エウロペ殿には、嫉妬するぐらいですから」

デュバッセン大公は、ぶすっ垂れて頷く。
「…やはり」
と手の甲に頭をもたせかけて言った後、エウロペをじっと見て告げる。
「東に来られた時は、一度お手合わせ願いたい」
と申し出るので、エウロペは言い淀んだ。

「それ…もしかして情事をしようと、誘ってます?」

アッカマン侯爵は頷いて警告する。
「けど、気をつけて下さいね」
レクトール男爵も、苦笑いして頷く。
「出された食事にも飲み物にも。
要注意」

ラステルは眉間寄せ、デュバッセン大公に囁く。
「彼は味方ですから。
寝首は掻かないように。
返り討ちに遭いますよ?」

デュバッセン大公は、笑顔でラステルに振り向く。
「おや!
一応私の命を心配してくれるんですか!」

ラステルは頷く。
「東は君に統べて貰わないと。
君っくらい、疑心暗鬼で容易に人を信じない人も珍しい」

デュバッセン大公は、意味ありげに笑う。
「…君を除いて?」

ラステルは皆を見回し
「私ってそんなに、人を信じてないように見えます?」
と尋ねるので、レクトール男爵は呆れて言った。

「そう、見えないから余計怖い」

アッカマン侯爵も頷く。
「全く、同意見です」

身内に味方無く、とうとうラステルはエウロペに振った。
「…貴方も、同意見?」

エウロペは呆れきった。
「身内にこれだけ評価されてるんだから。
私はもっと貴方を警戒すべきかと、思案してた所です」

ラステルは項垂れて言った。
「全然嬉しくない評価ですけどね」

皆、そんなラステルを笑った。
が、エウロペは彼らですら、ラステルに一目もニ目も置いていると気づく。

一見、ひょろりとしてさ程の体格に見えず、飄々とし。
陽気で爽やかな笑顔で、誰の心も溶かしてしまう。

が、笑顔の裏で、幾らでも画策してるのだと知って、思い切り顔を下げた。

が、ラステルは明るい声で皆に告げる。
「エウロペ殿を、私は決して敵に回したく無い」

三人は笑顔交じりに、しっかり頷いた。

つまりそれは。
いざとなればドナルドン公爵を入れた四天王達が。
自分の味方に成ってくれる事を、示す。

と、エウロペは気づき、ラステルを見た。

ラステルは笑顔でエウロペを見つめる。
「お互い、もっと最悪の敵が居ますから。
死闘は避けましょう」

エウロペはラステルの笑顔をまじまじ見て、呟いた。
「君を…味方とも、敵とも思ってなかった。
が、君が私を味方にしたいのなら。
善処ぜんしょしよう」

ラステルは途端、皆に向かって肩を竦めて見せた。
「この返答ですよ!」

皆、一斉にその言葉に笑った。
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