森と花の国の王子

あーす。

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誘拐計画

デルデロッテの志

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 最後に、ロットバルトがエルデリオンと連れだって席を立ち、階段を降りると。
勝者2名、加えて敗者からエルデリオンが一人を選び、ロットバルトもがもう一人選んで、四名はそれぞれの順位にちなみ、金や銀、胴のブローチを授与された。

貴賓席ではラステルが、前列でただ一人座るレジィリアンスに、背後の席から囁く。
最高騎士部隊アッハ・ドルネスの、新たな隊士を迎える歓迎パーティーが。
この後、東庭園で開かれますが、出席なさいます?
オーデ・フォール中央王国でも選りすぐりの騎士らがたくさん、拝めますよ?」

最後の一言で、エウロペはもうレジィが喰い付いたと感じ、軽くラステルを睨む。
レジィは案の定、頬を薔薇色に染めて叫んだ。
「ぜひ、出席したいです!」

エリューンとテリュスは、ラステルの向こうのエウロペが、レジィが振り向いた瞬間顔を下げるのを見て、顔を見合わせ合った。

その後、ラステルは名だたる騎士らの名前を出し、解説を始めるので、レジィは振り向いたまま、わくわくして頷きながら聞き入る。

エウロペの顔が、どんどん下がって行くのを見て、テリュスはとうとう、ため息を吐いた。

「…エルデリオンが14になった頃。
出歩く事も増え、危険も増えるので、腕の立つ王子の守り刀が必要となり、最高騎士部隊アッハ・ドルネスの一の若手騎士と呼ばれるアウターゼンが、その地位に就く事となりました。
けれど当時16のデルデロッテが、申し出たんです。
アウターゼンと戦い、勝てば…その地位を自分にくれと。
当時従者は五人いて…。
一番年上の従者長は、デルデロッテに頷き、彼はアウターゼンと戦って…」

「王子の守り刀の地位に就いた」

エウロペがその後の言葉を、顔を下げたままかっさらい、横のデルデロッテは腕組みして呟く。
「…ただでさえ、従者仲間に餓鬼と侮られ、雑用しか割り振られず、エルデリオンの顔はほんの僅かしか拝めないんじゃ、苦労して従者になった意味、ナイでしょう?」

皆、一斉にそう呟く、デルデロッテに振り向く。

レジィがデルデロッテの美しい横顔を見つめ、尋ねた。
「…そんなにしてまで…エルデリオンと一緒に、居たかったの?」

デルデロッテはため息を吐いて顔を下げ…その後上げると、レジィリアンスを見た。
「…初めて城の中で出会ったエルデリオンは、籠の鳥。
大人だらけの中、作法とお行儀良くを押しつけられて、窒息しかけてた。
私は彼に自由を教えた。
けれど…大人達は首を横に振る。
“大国の王子に、それは必要無い”と。
大人に平気で逆らう事の出来たのは、私ぐらい。
…それで…エルデリオンに縋るように見つめられたら…貴方なら、見捨てていけますか?」

レジィリアンスは首を横に振る。
「…私は…幾度も殺されかけたり身の自由を奪われかけたけど、いつもエウロペが護ってくれた。
貴方は、私にとってのエウロペなんだね」

デルデロッテは思わず横の、エウロペを見る。
「…そう思います?」
「レジィにとっては、そうなんだろう」
「貴方の意見は?」
エウロペは、顔を下げたまま呟く。
「…私は本来、王を護るために育てられた。
が、王は自分より王子を護ってくれと」

ラステルが口挟む。
「…つまりエウロペ殿は、降格。
デルデロッテ、貴方は昇格。
立場がそこから、違うようです」

エウロペは“降格”と言う言葉を、レジィが気にしないよう、顔を上げて言い放つ。
「…降格とは、思っていない。
つまり王は、それ程王子を心配し、愛してると言う事で…。
そのお気持ちに応えるため、私は全力を尽くすとお約束した」

デルデロッテが、その後の言葉を即座に引き継ぐ。
「そこは、同じだ。
私は王で無く、エルデリオンの要請だが。
一度餓鬼の頃、エルデリオンを城から連れ出し、盗賊に囲まれた時。
無事、逃げたが私は大怪我負って。
全ての大人に“自業自得だ”と責められて以来。
私はエルデリオンをどこにでも出歩けるようにするため、誰にも負けないよう剣の腕を磨くと、誓ったから」

「…責められたの…?」

皆が一斉に、その声に振り向く。
エルデリオンとロットバルトが戻って来ていて、エルデリオンは階段の上がり口でそう呟き、ロットバルトはエルデリオンの背後で、それ以上進めず困惑していた。

デルデロッテが頷くと、エルデリオンの眉が悲しげに寄った。
「…瀕死だったのに…?」

デルデロッテは肩を竦め…説明する。
「死にかけた晩から生還した、後日の事ですよ。
まだ、良くなるか悪くなるかの瀬戸際だったのに。
やって来たお偉いさんは事情を聞き、揃って首を横に振りまくり。
そして一番偉いヤツが、ぼそりと言った。
“なら怪我は、自業自得。
そんな程度の剣の腕で、王子を城外に連れ出すなんて、どれ程身の程知らずか。
この怪我で死んで、思い知るがいい”
…当然、それを聞いた私は…」
「一気に、治ったんだな?」
エウロペに顔を見られて頷かれ、デルデロッテは隣のエウロペを見つめる。
「…ホントに一気に。
怪我が治った」

テリュスとエリューン、それにレジィリアンスが、それを聞いた途端、目を見開いた。

「…君の性格が、よく分かる逸話だ」
エウロペの言葉に、デルデロッテが尋ねる。
「どんな性格だと思ったんです?」
「反骨精神の塊。
“無理だ”と言われると、猛烈に努力して、その言葉を覆させる」

とうとうラステルがくすくす笑い始めた。
「ええ、デルデロッテは我々が呆れる程、徹底してますね」

エルデリオンの背後の、ロットバルトまでもが肩を竦める。
「常人の、域を超えるほどムキになる。
表情にはまるで出さないで、優雅なフリをしてるから、誰も気づかない。
君が宮廷一の“寝業師”になったのも、どっかの美姫に馬鹿にされたからだろう?」

ラステルが後を継ぐ。
「ニョニッタ嬢でした?」
ロットバルトが、肩を竦める。
「カルロッタ夫人じゃなかったかな?
…確かデルデはまだ15で、私は
“若年の頃は、良く言われる言葉だ”と慰めた記憶がある」

デルデロッテは内情をバラす、年上の“タヌキ”二人を睨み据える。

エルデリオンは背後のロットバルトに振り向き、尋ねた。
「…そんな事が、あったの?」
ロットバルトは頷く。
「貴方は年頃になっていたし、迂闊に遊び好きな男にしないため、情事の話題は貴方の前で、徹底的に規制されていましたからな」

レジィリアンスはデルデロッテを、改めて見つめた。
「じゃ…剣の腕も…情事も。
馬鹿にされたから…国で一番になる程、頑張ったの?」

テリュスもエリューンも、呆れてデルデロッテを見る。

けれどデルデロッテは、軽く肩を竦めた。
「馬鹿にされたら…誰だってそれを覆そうと、自然に努力しませんか?」

「国で一番になる程には…普通、しませんよねぇ…」

テリュスに呆れたように呟かれ、デルデロッテは思わずテリュスを睨んだ。
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