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97話、再びケルンの町でかぼちゃスープ
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「……」
「難しい顔をしてどうしたの、リリア」
珍しく私の帽子のつばに座らずふわふわと漂いながら着いてきていたライラが、突然顔を覗き込んできた。
ちょっと意識が別方向へ飛んでいた私は、いきなりの事で驚きに後ずさる。
「び、びっくりした。驚かさないでよ、ライラ」
「驚かせるつもりは無かったわ。リリアが注意散漫なだけよ」
「……確かに心ここにあらずだったかも」
ふぅ、とため息をつく。
先ほどから少し考え事、というか気になることに意識が向き過ぎて、周囲への注意が散漫になってたみたいだ。
「何か気になることでもあるの? この辺ただの森に見えるけど」
そう、今私たちは森の中を歩いていた。
もちろんこれは迷い込んだわけではなく、最適なルート選択をした結果だ。
この森は、かつて私が家を出発してからすぐに入った森。つまり、私の家でありお店が存在している場所だ。
ようやく自分の家が目と鼻の先と言える場所まで来たのだが、ここで一つ、認めたくない問題に直面しつつあった。
「いやね、この森の中に私の家があるのは間違いないんだけど……」
「だけど?」
「この森、普段通る道以外そこまでしっかり把握してるわけじゃないんだよね」
あはは、と乾いた笑いを交えながら言うと、ライラが呆然と口を開ける。
「それってつまり……」
「ちょっと迷っちゃった……かも」
深くため息を吐く。ライラもつられてか、あるいは呆れてか深々とため息をついた。
「リリア、ここに住んでるんでしょ? なのに迷うって……」
「だ、だってしょうがないじゃん。この森結構広いんだから、現地民でも迷う時は迷うよ! それに今回は普段とは違う所から森に入ったし!」
基本私は魔法薬店兼自宅からケルンの町、そしてフェリクスの町までの道しか記憶していない。
なのでフェリクス側から森に入れば絶対に迷わなかったはずだが……フェリクスの町に向かうよりさっさと森に入ったほうが近いのでは? なんて横着してしまったのだ。
馴染みの森だから大丈夫だろうと思っていたが、それは甘い考えだった。
「……それで、どうするの? このまま勘で歩き続けるのは良くないと思うわ」
「うん、それは思う。だからさ、ライラ」
私は手の平を合わせて、ライラを拝むように深々とお辞儀した。
「お願い、できるだけ上に飛んで周囲見てきて! 多分どこかに町があるから、その方向さえ分かれば何とかなるっ」
「ええ……リリアも飛べるじゃない」
「さすがに森の中で箒に乗るのは危ないよ……ほら、上見ても葉っぱだらけだもん」
「しかたないわね。まあそんなに難しい話でもないし、ぱぱっと飛んできてあげるわ」
「ありがとう、家に着いたらお礼代わりにおいしいのごちそうするから」
「覚えておくわ」
ぱたぱた飛んでいくライラの背を見送り、しばらく待つ。
ほどなくして、ライラが私の元へと戻ってきた。
「なんかあっちの方に小さな町があったわ。あと森を出たところに大きな町もあったわね。さすがにリリアのお店っぽいのは見えなかった」
私の家は木々の中に隠れているからさすがに見つからないだろう。
けど近くの町の方向が分かったのならこっちのものだ。おそらくライラが最初に指さした方の小さな町とは、田舎町ケルンの事だろう。
そこに行けば家までの道は確実に分かる。よかった、何とかなりそうだ。
「よし、まずはケルンの町へ向かおう! ついでにそこでごはん食べよう!」
「……なんだかテンション高いわね」
突然私の声に張りが出たのに気付いたのか、ライラが首を傾げる。
機嫌よくなるのは当たり前だ。なぜならケルンの町には私の好きなあれがあるのだから。
やや早歩きすること十数分。私たちは無事ケルンの町へたどりついていた。
田舎町ケルンは、森と森の間にある町だ。ちょっとややこしいが、ケルンの町を挟む森は大分遠いところで繋がっており、実質森の中に位置する町でもある。
「よし、ケルンの町に到着。まずはごはん食べて、その後に食材買いこんで家に戻ろう」
家に戻ったら、数日ほど滞在するつもりだった。なのでいくらか食材を買って、それを食べきってからまた新しい旅に出発すればちょうどいいだろう。
野外での調理は色々制限があったが、家で作るならもう少し凝った料理ができる。
別に料理に目覚めたわけではないが、ここで色々な料理にチャレンジすれば、野外で作れる新たなレシピを開発できるかもしれない。物は試しだ。色々作ってしまえ。
でも食材を買うより先に、まずはごはん。ケルンと言えばあれだあれ。
私は上機嫌な足取りで以前立ち寄ったお店へ向かう。
小さな町なので簡単にお店を見つけ、すぐに入店。テーブル席へ座り、流れるように注文をする。
「迷いが無いわね。食べる物決めてたの?」
「うん、かぼちゃのスープとパン。私かぼちゃ大好物なんだよ」
「あら、そうだったの? 知らなかったわ。あまり食べてた印象もないかも」
そういえば、旅の中でかぼちゃを食べたのはそんなに無かったかもしれない。
旅の目的が色んなおいしい料理を食べることだったし、元々好きな食べ物は無意識に避けていたのかも。
「かぼちゃはね……ほのかで優しい甘みが全てを包み込んでくれるんだよ。特にかぼちゃスープは生クリームなんかも入っていてコクがあって、もうこの世全ての水分がかぼちゃスープになっても文句ないくらいおいしいの」
「発言のレベルがベアトリスと同じくらいよ」
ライラに白い目を向けられ、私はこほんと咳払いをする。
「とにかくここのかぼちゃスープはおいしいんだよ」
「期待してるわ」
それほど待たされることなくかぼちゃスープとパンが運ばれてきた。
お皿に入ったかぼちゃのスープはオレンジ色が濃い。匂いもかぼちゃ特有の甘い香りが強く、すごく濃厚そうだ。
早速スプーンを手にしてまずは一口すすってみる。
かぼちゃの味が強いスープは、しかし生クリームのコクとほのかな塩気が効いている。以前食べた時と同じように、絶妙な塩気がかぼちゃの甘みを引き立てていた。
かなり素朴なスープではあるが、そのおかげでかぼちゃのおいしさが良く分かる。こういうので良い。むしろこういうのが良い。
次はパンをちぎり、スープにひたして食べてみる。
ケルンはパンとスープを一緒に食べる食文化なので、パンはそれ前提なのかやや硬め。なのでスープに軽くひたした程度なら歯ごたえがあり、小麦の味もよく感じられる。
そこにかぼちゃのスープのおいしさが混じるのだから、もう堪らない。
かぼちゃ最高。そしてスープにひたしたパンは完璧。色々食べてきたけど、やっぱりこれが一番好き。
「幸せそうな顔で食べるわね。本当に好きなのね、かぼちゃ」
おいしそうに食べる私の顔はちょっと間が抜けていたのか、ライラは呆れる様に言った。
顔がほころぶのはしかない。だっておいしいんだから。
ライラも自分サイズにパンをちぎり、スープにひたしてぱくりと食べ始めた。
もぐもぐ口を動かし、ごくんと飲みこむ。
「……」
そして無言でまたパンをスープにひたし始めた。
「いや、感想は?」
「おいしいわよ。でもリリアのその顔ほどおいしいという表現ができそうになかったから、感想を言うのは諦めたの」
諦めないで。そしてどれだけおいしそうに食べてたんだ私。
ものの数分でパンとスープを食べ終えた私は、最後にコップに残った水を飲む。
水と共に満足感を流し込み、空になった皿を名残惜しみながらお店を後にした。
「さて、色々食材買いこもうか。ライラ食べてみたいのある?」
「そうね……あ、でもリリアが作るんでしょう?」
なにその不安そうな顔。
「大丈夫大丈夫。失敗するかもだけど大丈夫」
「全然大丈夫に思えないわ。しいていえば、私カニが食べたいかも」
「こんな森の中でカニは売ってないよ。森特有の食材ならいっぱいあるはずだけど」
「例えば?」
「キノコとか野菜類とか……珍しいのでウサギの肉とかならあった気が」
「ええー……ウサギ可愛いじゃない。なのに食べるの?」
「可愛いけどおいしいらしいよ。私も全然食べたことないけど」
とはいえ妖精がウサギ肉食べるってのはどうだろう。神秘性また下がりそうだよ。
さすがにウサギは無いかと思い直しつつ、ケルンの町の市場を物色し始めるのだった。
「難しい顔をしてどうしたの、リリア」
珍しく私の帽子のつばに座らずふわふわと漂いながら着いてきていたライラが、突然顔を覗き込んできた。
ちょっと意識が別方向へ飛んでいた私は、いきなりの事で驚きに後ずさる。
「び、びっくりした。驚かさないでよ、ライラ」
「驚かせるつもりは無かったわ。リリアが注意散漫なだけよ」
「……確かに心ここにあらずだったかも」
ふぅ、とため息をつく。
先ほどから少し考え事、というか気になることに意識が向き過ぎて、周囲への注意が散漫になってたみたいだ。
「何か気になることでもあるの? この辺ただの森に見えるけど」
そう、今私たちは森の中を歩いていた。
もちろんこれは迷い込んだわけではなく、最適なルート選択をした結果だ。
この森は、かつて私が家を出発してからすぐに入った森。つまり、私の家でありお店が存在している場所だ。
ようやく自分の家が目と鼻の先と言える場所まで来たのだが、ここで一つ、認めたくない問題に直面しつつあった。
「いやね、この森の中に私の家があるのは間違いないんだけど……」
「だけど?」
「この森、普段通る道以外そこまでしっかり把握してるわけじゃないんだよね」
あはは、と乾いた笑いを交えながら言うと、ライラが呆然と口を開ける。
「それってつまり……」
「ちょっと迷っちゃった……かも」
深くため息を吐く。ライラもつられてか、あるいは呆れてか深々とため息をついた。
「リリア、ここに住んでるんでしょ? なのに迷うって……」
「だ、だってしょうがないじゃん。この森結構広いんだから、現地民でも迷う時は迷うよ! それに今回は普段とは違う所から森に入ったし!」
基本私は魔法薬店兼自宅からケルンの町、そしてフェリクスの町までの道しか記憶していない。
なのでフェリクス側から森に入れば絶対に迷わなかったはずだが……フェリクスの町に向かうよりさっさと森に入ったほうが近いのでは? なんて横着してしまったのだ。
馴染みの森だから大丈夫だろうと思っていたが、それは甘い考えだった。
「……それで、どうするの? このまま勘で歩き続けるのは良くないと思うわ」
「うん、それは思う。だからさ、ライラ」
私は手の平を合わせて、ライラを拝むように深々とお辞儀した。
「お願い、できるだけ上に飛んで周囲見てきて! 多分どこかに町があるから、その方向さえ分かれば何とかなるっ」
「ええ……リリアも飛べるじゃない」
「さすがに森の中で箒に乗るのは危ないよ……ほら、上見ても葉っぱだらけだもん」
「しかたないわね。まあそんなに難しい話でもないし、ぱぱっと飛んできてあげるわ」
「ありがとう、家に着いたらお礼代わりにおいしいのごちそうするから」
「覚えておくわ」
ぱたぱた飛んでいくライラの背を見送り、しばらく待つ。
ほどなくして、ライラが私の元へと戻ってきた。
「なんかあっちの方に小さな町があったわ。あと森を出たところに大きな町もあったわね。さすがにリリアのお店っぽいのは見えなかった」
私の家は木々の中に隠れているからさすがに見つからないだろう。
けど近くの町の方向が分かったのならこっちのものだ。おそらくライラが最初に指さした方の小さな町とは、田舎町ケルンの事だろう。
そこに行けば家までの道は確実に分かる。よかった、何とかなりそうだ。
「よし、まずはケルンの町へ向かおう! ついでにそこでごはん食べよう!」
「……なんだかテンション高いわね」
突然私の声に張りが出たのに気付いたのか、ライラが首を傾げる。
機嫌よくなるのは当たり前だ。なぜならケルンの町には私の好きなあれがあるのだから。
やや早歩きすること十数分。私たちは無事ケルンの町へたどりついていた。
田舎町ケルンは、森と森の間にある町だ。ちょっとややこしいが、ケルンの町を挟む森は大分遠いところで繋がっており、実質森の中に位置する町でもある。
「よし、ケルンの町に到着。まずはごはん食べて、その後に食材買いこんで家に戻ろう」
家に戻ったら、数日ほど滞在するつもりだった。なのでいくらか食材を買って、それを食べきってからまた新しい旅に出発すればちょうどいいだろう。
野外での調理は色々制限があったが、家で作るならもう少し凝った料理ができる。
別に料理に目覚めたわけではないが、ここで色々な料理にチャレンジすれば、野外で作れる新たなレシピを開発できるかもしれない。物は試しだ。色々作ってしまえ。
でも食材を買うより先に、まずはごはん。ケルンと言えばあれだあれ。
私は上機嫌な足取りで以前立ち寄ったお店へ向かう。
小さな町なので簡単にお店を見つけ、すぐに入店。テーブル席へ座り、流れるように注文をする。
「迷いが無いわね。食べる物決めてたの?」
「うん、かぼちゃのスープとパン。私かぼちゃ大好物なんだよ」
「あら、そうだったの? 知らなかったわ。あまり食べてた印象もないかも」
そういえば、旅の中でかぼちゃを食べたのはそんなに無かったかもしれない。
旅の目的が色んなおいしい料理を食べることだったし、元々好きな食べ物は無意識に避けていたのかも。
「かぼちゃはね……ほのかで優しい甘みが全てを包み込んでくれるんだよ。特にかぼちゃスープは生クリームなんかも入っていてコクがあって、もうこの世全ての水分がかぼちゃスープになっても文句ないくらいおいしいの」
「発言のレベルがベアトリスと同じくらいよ」
ライラに白い目を向けられ、私はこほんと咳払いをする。
「とにかくここのかぼちゃスープはおいしいんだよ」
「期待してるわ」
それほど待たされることなくかぼちゃスープとパンが運ばれてきた。
お皿に入ったかぼちゃのスープはオレンジ色が濃い。匂いもかぼちゃ特有の甘い香りが強く、すごく濃厚そうだ。
早速スプーンを手にしてまずは一口すすってみる。
かぼちゃの味が強いスープは、しかし生クリームのコクとほのかな塩気が効いている。以前食べた時と同じように、絶妙な塩気がかぼちゃの甘みを引き立てていた。
かなり素朴なスープではあるが、そのおかげでかぼちゃのおいしさが良く分かる。こういうので良い。むしろこういうのが良い。
次はパンをちぎり、スープにひたして食べてみる。
ケルンはパンとスープを一緒に食べる食文化なので、パンはそれ前提なのかやや硬め。なのでスープに軽くひたした程度なら歯ごたえがあり、小麦の味もよく感じられる。
そこにかぼちゃのスープのおいしさが混じるのだから、もう堪らない。
かぼちゃ最高。そしてスープにひたしたパンは完璧。色々食べてきたけど、やっぱりこれが一番好き。
「幸せそうな顔で食べるわね。本当に好きなのね、かぼちゃ」
おいしそうに食べる私の顔はちょっと間が抜けていたのか、ライラは呆れる様に言った。
顔がほころぶのはしかない。だっておいしいんだから。
ライラも自分サイズにパンをちぎり、スープにひたしてぱくりと食べ始めた。
もぐもぐ口を動かし、ごくんと飲みこむ。
「……」
そして無言でまたパンをスープにひたし始めた。
「いや、感想は?」
「おいしいわよ。でもリリアのその顔ほどおいしいという表現ができそうになかったから、感想を言うのは諦めたの」
諦めないで。そしてどれだけおいしそうに食べてたんだ私。
ものの数分でパンとスープを食べ終えた私は、最後にコップに残った水を飲む。
水と共に満足感を流し込み、空になった皿を名残惜しみながらお店を後にした。
「さて、色々食材買いこもうか。ライラ食べてみたいのある?」
「そうね……あ、でもリリアが作るんでしょう?」
なにその不安そうな顔。
「大丈夫大丈夫。失敗するかもだけど大丈夫」
「全然大丈夫に思えないわ。しいていえば、私カニが食べたいかも」
「こんな森の中でカニは売ってないよ。森特有の食材ならいっぱいあるはずだけど」
「例えば?」
「キノコとか野菜類とか……珍しいのでウサギの肉とかならあった気が」
「ええー……ウサギ可愛いじゃない。なのに食べるの?」
「可愛いけどおいしいらしいよ。私も全然食べたことないけど」
とはいえ妖精がウサギ肉食べるってのはどうだろう。神秘性また下がりそうだよ。
さすがにウサギは無いかと思い直しつつ、ケルンの町の市場を物色し始めるのだった。
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