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28話、再会とイチゴのショートケーキ
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ヘレンの町にあるいくつかの観光名所の一つに、ヘレンの泉がある。
ヘレンの泉は町の西側にある大広場にあり、この町の名がつけられた泉だけあって一見の価値があるものと言えた。
大きく広い泉に張られた透き通った水はゆるやかな風で波立ち、まるで広大な海を想起させる。
この泉の面白いところは、全く飾り気がないところにある。泉の中に彫刻などの飾りが設置されているわけでもなく、本当にただ広い泉が広がっているだけなのだ。
でも、それがなんともいえない自然美を表現しているのだ。
人工的に作られているのは明らかなのに、もしかしたら自然に生まれた光景なのかもしれない。飾り気のない泉には、そう想像させる奥深さがあった。
昨日夜食のハンバーガーを食べた後もう一度寝ることにした私は、さすがに寝坊をしてお昼に起きてしまっていた。
軽く昼食を取った後向かったのが、このヘレンの泉だった。天気の良いお昼時だからか、日光を反射する泉は目にまぶしい。
泉のある大広場は丸ごと観光地になっていて、多くの露店があちこちにある。
行きかう人々も多く、おそらく人の賑わいはこの町で一番あるだろう。
さて、ヘレンの泉を十分堪能したところだけど、これからどうしようか。
ヘレンの泉は確かに一見の価値あるものだ。自然美に通じる美しさもあり、毎日だって見たくなる光景だろう。
しかし裏を返せば、そこまで長時間見ていられる物ではなかった。
だって、本当に泉が広がっているだけだもん。
感受性が豊かな人だったらこの泉の光景に感じ入るものがあり、もしかしたら数時間でも見ていられるかもしれない。
でも、残念ながら私にはそんな豊かな物はないんだなぁ。
「……あっ」
夕ごはんまでどうしようかな、と悩みながら泉周辺を見回していたら、見覚えのある人物を発見する。
私と同じく魔女の証である三角帽子を被り、レース仕立ての上衣が可愛らしい少女。
その姿にその顔立ち。忘れるはずがない。フェリクスの町で出会った、魔女見習いのカルラちゃんだ。
カルラちゃんはイヴァンナの弟子だったりする。私からしたら孫弟子とかに当たるのだろうか。
彼女はフェリクスの町でそうしていたように、簡素なテーブルとイスが設置された露店でひっそりと座っていた。
もしかしてこの町でも占いをやっているのだろうか?
「カルラちゃん、久しぶり」
私はカルラちゃんに近づき、軽く挨拶をしてみる。
覚えられているかちょっと不安だったが、カルラちゃんは私の顔を見てぱぁっと顔を明るくした。
「リリアさん、お久しぶりです! ヘレンに来ていたんですね」
「うん。カルラちゃんもヘレンに来ていたんだね。もしかしてまたイヴァンナに言われて占いをしてるの?」
「いえ、実は数日ほど休暇を取って実家に帰ってきてたんです。私、ヘレン出身なんですよ」
「へえ、なんかすごい偶然だね」
カルラちゃんがヘレン出身なのも驚いたけど、まさかたまたま戻ってきていた時に偶然再会できるなんて。これは奇跡的と言うしかない。
でも休暇を取ってるなら、なんでまたこうして占いをしているんだろう?
そう問いかけると、カルラちゃんは恥ずかしそうに頬をかいた。
「占いをしているのはイヴァンナ師匠に言われたからではなく、私の意地の様な物、ですね」
「意地?」
「ほら、私フェリクスではうまく占いができなかったじゃないですか。リリアさんに会った後、イヴァンナ師匠のところに戻って本格的に魔女の修行を始めたので、今ならもっとちゃんと占えるかなって思ったんです」
「以前のリベンジみたいなものなんだ」
こう見えてカルラちゃんは負けん気が強いタイプらしい。でもまあ、それは意外ではなかったりする。
魔女を目指す子なんて、一見普通に見えてもどこか頑固で意地が強い部分があるものだ。そうでもなければ魔女なんて目指さないだろう。
私の三人の弟子たちも頑固なところ結構あるし。っていうかあの三人完全に自分の理屈で動いてるし。リネットですら意固地なところあるもんなぁ。
でも他人にはどうしても譲れない一線というのは大切なものだろう。
誰にだって譲れないものがあるだろうし、それが自分を自分たらしめているのだと私は思っている。
「前よりは結構占えるようになったんですよ。イヴァンナ師匠から水晶玉を使った占いも教えてもらいましたし、以前リリアさんから教えてもらった占いもできるようになってきたんです」
そう言ってカルラちゃんは照れたように笑った。
どうやらカルラちゃんは魔女としてちゃんと育ちつつあるらしい。カルラちゃん自身の素養もあるけど、イヴァンナの教えも良いのかもしれない。
となると、そのイヴァンナを育てた私の教えもきっと良かったのだと思う。……多分ね。自信はない。
「そうだ。リリアさん、ヘレンでケーキとかは食べましたか?」
「ケーキ? ううん、食べてない」
そういえばせっかく大きな町に来たのにそういったスイーツ系を全く食べてなかったな。
手が込んだスイーツなんて旅の最中に食べる機会は少ないだろうし、こうして大きい町に腰を落ち着けている間に食べておいた方がいいかも。
「なら、これからケーキでも食べに行きませんか? おすすめのお店があるんです」
「カルラちゃんのおすすめかー。よーし、いいよ、行こっか。あ、占いの方はいいの?」
「はい、日中よりも夕暮れ時くらいの方がお客さんが多いので、問題ないですよ」
それならば話は早い。私はそのままカルラちゃんに連れられて、おすすめのケーキ屋さんへと向かうことにした。
カルラちゃんはヘレン出身だけあって、足取りに迷いが無かった。
どうやらカルラちゃんおすすめのお店というのは、町の東側、住宅街でひっそりと営業しているらしい。
住宅と住宅に挟まれたお店にたどりついて、カルラちゃんと共に入店する。
大きな看板も掲げられていないし、なるほど地元民のカルラちゃんだからこそ知っているような隠れたお店だ。
テーブル席につくと、カルラちゃんは慣れたようにメニューを手に取り、店員さんを呼んだ。
「えーっと、チーズケーキを一つと……リリアさんは何にします?」
「じゃあね、イチゴのショートケーキ。あと紅茶かな」
注文を聞いた店員さんが離れていくと、カルラちゃんがおもむろに口を開いた。
「そういえば聞きたかったんですけど、リリアさんはどうして魔女になったんですか?」
カルラちゃんの問いかけに、私は思わず目を丸くしてしまった。
「魔女になった……理由?」
今まで誰にも問われたことが無かった質問だった。思わず私は小さくうなった。
「あ、プライベートなことでしたよね。すみません」
謝るカルラちゃんに、私は慌てて首をふった。
「ううん、ちょっと初めての質問に戸惑っちゃっただけだよ。弟子たちもそんなこと聞いてこなかったからなぁ……」
あの三人にとって私は魔女リリアであり、私が魔女になる前のことなど考えもしなかったのだろう。
だが私だって生まれながら魔女だったわけではない。
私が魔女になった理由……か。
「うーん……考えてみると、質問されるほど大層な答えじゃないんだよね。それでもいい?」
聞いてみると、カルラちゃんは小さく頷いた。
「単純にね、私魔女の家系だったんだよ。だからなんか当たり前のように魔女になってた」
「魔女の家系……ですか?」
「そう言うとすごい風に聞こえちゃうけど、単純におばあちゃんもお母さんも魔女だったってだけだね」
祖母も母も魔女だった。だから私も後を継ぐように魔女になった。本当にそれだけだった。
きっと母も、祖母が魔女だったから魔女になったのだろう。二人とも魔法薬を扱う魔女だったから、私も魔法薬を扱うようになったのだ。
「なんていうか、ちょっと自分でも不思議でさ。魔女になるのが当たり前な家だったっていうか、子供の頃から魔法薬のこととか教えてもらってたし……なりたいからなったって言うより、ならないといけなかったってところかな。ほら、伝統とかそういうのがあるでしょ?」
「そうだったんですか……」
カルラちゃんは神妙な顔をしていた。もしかしたらちょっと私に気を使っているのかもしれない。
「あはは、ごめんね、こんな面白味のない答えで」
私が明るくそう言うと、カルラちゃんは小さく微笑した。
そんな折に、頼んでいたケーキが運ばれてくる。カルラちゃんのはチーズケーキで、私のはイチゴのショートケーキ。
イチゴのショートケーキはその名の通りイチゴがふんだんに使われていた。
イチゴが乗っているだけでなく、スポンジケーキの間に生クリームと共にイチゴが挟まれている。
一口食べると、生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
カルラちゃんがおすすめするお店だけあって、とてもおいしいケーキだ。
イチゴのショートケーキは、ケーキの王道とも言えるだろう。私も子供の頃から何度も食べたことがある。
だからだろうか、ちょっと一つだけ思い出したことがあった。
「……魔女になるのが当然だったけど、別に魔女になるのが嫌なわけではなかったよ」
カルラちゃんに向けてそう言うと、彼女は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「なりたくなかったら、なるわけないもんね、普通。魔法薬を作るのは楽しかったし、きっと私は、魔女になるのが当たり前なんだって思ってしまうくらい魔女になりたかったんだよ」
自分の心は誰よりも分かっているようにみえて、はっきりとは言葉にできない。
だから、きっと。そんなあいまいな言葉でしか自分の心は表現できないのだ。
でも、だからこそ。私は当然のように魔女となるくらい……魔女になりたかったのだろう。
あいまいな言葉を使いながらも、そこに疑いはない。だって、自分の心に嘘なんてつけないのだから。
ケーキを食べた後にお店から出ると、ちょうど夕暮れ時に差しかかっていた。
「それでは、私は占いがあるので戻りますね」
「うん、がんばってね」
別れ際、去っていくカルラちゃんを見送っていると、彼女はふと私に振り向いた。
「リリアさんに、良い旅を」
カルラちゃんは明るく笑って、私に手を振った。私も手を振り返す。
誰にだって、譲れないものが一つはあるはずだ。当然、私にも。
やりたいから、やる。きっと私にとって譲れないものは、それなのだろう。
深い理由なんて必要ない。ただ、やりたいと思った。それだけで私には十分なのだ。
魔女になりたいと思った。弟子たちを育てるのも良いものだと思った。旅をしたいと思った。
私は単純な人間だから、その程度の浅い思いしかない。でも、それで十分だった。
明日も良い旅になりそうだ。なんとなく、そう思った。理由なんて、ないけれど。
ヘレンの泉は町の西側にある大広場にあり、この町の名がつけられた泉だけあって一見の価値があるものと言えた。
大きく広い泉に張られた透き通った水はゆるやかな風で波立ち、まるで広大な海を想起させる。
この泉の面白いところは、全く飾り気がないところにある。泉の中に彫刻などの飾りが設置されているわけでもなく、本当にただ広い泉が広がっているだけなのだ。
でも、それがなんともいえない自然美を表現しているのだ。
人工的に作られているのは明らかなのに、もしかしたら自然に生まれた光景なのかもしれない。飾り気のない泉には、そう想像させる奥深さがあった。
昨日夜食のハンバーガーを食べた後もう一度寝ることにした私は、さすがに寝坊をしてお昼に起きてしまっていた。
軽く昼食を取った後向かったのが、このヘレンの泉だった。天気の良いお昼時だからか、日光を反射する泉は目にまぶしい。
泉のある大広場は丸ごと観光地になっていて、多くの露店があちこちにある。
行きかう人々も多く、おそらく人の賑わいはこの町で一番あるだろう。
さて、ヘレンの泉を十分堪能したところだけど、これからどうしようか。
ヘレンの泉は確かに一見の価値あるものだ。自然美に通じる美しさもあり、毎日だって見たくなる光景だろう。
しかし裏を返せば、そこまで長時間見ていられる物ではなかった。
だって、本当に泉が広がっているだけだもん。
感受性が豊かな人だったらこの泉の光景に感じ入るものがあり、もしかしたら数時間でも見ていられるかもしれない。
でも、残念ながら私にはそんな豊かな物はないんだなぁ。
「……あっ」
夕ごはんまでどうしようかな、と悩みながら泉周辺を見回していたら、見覚えのある人物を発見する。
私と同じく魔女の証である三角帽子を被り、レース仕立ての上衣が可愛らしい少女。
その姿にその顔立ち。忘れるはずがない。フェリクスの町で出会った、魔女見習いのカルラちゃんだ。
カルラちゃんはイヴァンナの弟子だったりする。私からしたら孫弟子とかに当たるのだろうか。
彼女はフェリクスの町でそうしていたように、簡素なテーブルとイスが設置された露店でひっそりと座っていた。
もしかしてこの町でも占いをやっているのだろうか?
「カルラちゃん、久しぶり」
私はカルラちゃんに近づき、軽く挨拶をしてみる。
覚えられているかちょっと不安だったが、カルラちゃんは私の顔を見てぱぁっと顔を明るくした。
「リリアさん、お久しぶりです! ヘレンに来ていたんですね」
「うん。カルラちゃんもヘレンに来ていたんだね。もしかしてまたイヴァンナに言われて占いをしてるの?」
「いえ、実は数日ほど休暇を取って実家に帰ってきてたんです。私、ヘレン出身なんですよ」
「へえ、なんかすごい偶然だね」
カルラちゃんがヘレン出身なのも驚いたけど、まさかたまたま戻ってきていた時に偶然再会できるなんて。これは奇跡的と言うしかない。
でも休暇を取ってるなら、なんでまたこうして占いをしているんだろう?
そう問いかけると、カルラちゃんは恥ずかしそうに頬をかいた。
「占いをしているのはイヴァンナ師匠に言われたからではなく、私の意地の様な物、ですね」
「意地?」
「ほら、私フェリクスではうまく占いができなかったじゃないですか。リリアさんに会った後、イヴァンナ師匠のところに戻って本格的に魔女の修行を始めたので、今ならもっとちゃんと占えるかなって思ったんです」
「以前のリベンジみたいなものなんだ」
こう見えてカルラちゃんは負けん気が強いタイプらしい。でもまあ、それは意外ではなかったりする。
魔女を目指す子なんて、一見普通に見えてもどこか頑固で意地が強い部分があるものだ。そうでもなければ魔女なんて目指さないだろう。
私の三人の弟子たちも頑固なところ結構あるし。っていうかあの三人完全に自分の理屈で動いてるし。リネットですら意固地なところあるもんなぁ。
でも他人にはどうしても譲れない一線というのは大切なものだろう。
誰にだって譲れないものがあるだろうし、それが自分を自分たらしめているのだと私は思っている。
「前よりは結構占えるようになったんですよ。イヴァンナ師匠から水晶玉を使った占いも教えてもらいましたし、以前リリアさんから教えてもらった占いもできるようになってきたんです」
そう言ってカルラちゃんは照れたように笑った。
どうやらカルラちゃんは魔女としてちゃんと育ちつつあるらしい。カルラちゃん自身の素養もあるけど、イヴァンナの教えも良いのかもしれない。
となると、そのイヴァンナを育てた私の教えもきっと良かったのだと思う。……多分ね。自信はない。
「そうだ。リリアさん、ヘレンでケーキとかは食べましたか?」
「ケーキ? ううん、食べてない」
そういえばせっかく大きな町に来たのにそういったスイーツ系を全く食べてなかったな。
手が込んだスイーツなんて旅の最中に食べる機会は少ないだろうし、こうして大きい町に腰を落ち着けている間に食べておいた方がいいかも。
「なら、これからケーキでも食べに行きませんか? おすすめのお店があるんです」
「カルラちゃんのおすすめかー。よーし、いいよ、行こっか。あ、占いの方はいいの?」
「はい、日中よりも夕暮れ時くらいの方がお客さんが多いので、問題ないですよ」
それならば話は早い。私はそのままカルラちゃんに連れられて、おすすめのケーキ屋さんへと向かうことにした。
カルラちゃんはヘレン出身だけあって、足取りに迷いが無かった。
どうやらカルラちゃんおすすめのお店というのは、町の東側、住宅街でひっそりと営業しているらしい。
住宅と住宅に挟まれたお店にたどりついて、カルラちゃんと共に入店する。
大きな看板も掲げられていないし、なるほど地元民のカルラちゃんだからこそ知っているような隠れたお店だ。
テーブル席につくと、カルラちゃんは慣れたようにメニューを手に取り、店員さんを呼んだ。
「えーっと、チーズケーキを一つと……リリアさんは何にします?」
「じゃあね、イチゴのショートケーキ。あと紅茶かな」
注文を聞いた店員さんが離れていくと、カルラちゃんがおもむろに口を開いた。
「そういえば聞きたかったんですけど、リリアさんはどうして魔女になったんですか?」
カルラちゃんの問いかけに、私は思わず目を丸くしてしまった。
「魔女になった……理由?」
今まで誰にも問われたことが無かった質問だった。思わず私は小さくうなった。
「あ、プライベートなことでしたよね。すみません」
謝るカルラちゃんに、私は慌てて首をふった。
「ううん、ちょっと初めての質問に戸惑っちゃっただけだよ。弟子たちもそんなこと聞いてこなかったからなぁ……」
あの三人にとって私は魔女リリアであり、私が魔女になる前のことなど考えもしなかったのだろう。
だが私だって生まれながら魔女だったわけではない。
私が魔女になった理由……か。
「うーん……考えてみると、質問されるほど大層な答えじゃないんだよね。それでもいい?」
聞いてみると、カルラちゃんは小さく頷いた。
「単純にね、私魔女の家系だったんだよ。だからなんか当たり前のように魔女になってた」
「魔女の家系……ですか?」
「そう言うとすごい風に聞こえちゃうけど、単純におばあちゃんもお母さんも魔女だったってだけだね」
祖母も母も魔女だった。だから私も後を継ぐように魔女になった。本当にそれだけだった。
きっと母も、祖母が魔女だったから魔女になったのだろう。二人とも魔法薬を扱う魔女だったから、私も魔法薬を扱うようになったのだ。
「なんていうか、ちょっと自分でも不思議でさ。魔女になるのが当たり前な家だったっていうか、子供の頃から魔法薬のこととか教えてもらってたし……なりたいからなったって言うより、ならないといけなかったってところかな。ほら、伝統とかそういうのがあるでしょ?」
「そうだったんですか……」
カルラちゃんは神妙な顔をしていた。もしかしたらちょっと私に気を使っているのかもしれない。
「あはは、ごめんね、こんな面白味のない答えで」
私が明るくそう言うと、カルラちゃんは小さく微笑した。
そんな折に、頼んでいたケーキが運ばれてくる。カルラちゃんのはチーズケーキで、私のはイチゴのショートケーキ。
イチゴのショートケーキはその名の通りイチゴがふんだんに使われていた。
イチゴが乗っているだけでなく、スポンジケーキの間に生クリームと共にイチゴが挟まれている。
一口食べると、生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
カルラちゃんがおすすめするお店だけあって、とてもおいしいケーキだ。
イチゴのショートケーキは、ケーキの王道とも言えるだろう。私も子供の頃から何度も食べたことがある。
だからだろうか、ちょっと一つだけ思い出したことがあった。
「……魔女になるのが当然だったけど、別に魔女になるのが嫌なわけではなかったよ」
カルラちゃんに向けてそう言うと、彼女は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「なりたくなかったら、なるわけないもんね、普通。魔法薬を作るのは楽しかったし、きっと私は、魔女になるのが当たり前なんだって思ってしまうくらい魔女になりたかったんだよ」
自分の心は誰よりも分かっているようにみえて、はっきりとは言葉にできない。
だから、きっと。そんなあいまいな言葉でしか自分の心は表現できないのだ。
でも、だからこそ。私は当然のように魔女となるくらい……魔女になりたかったのだろう。
あいまいな言葉を使いながらも、そこに疑いはない。だって、自分の心に嘘なんてつけないのだから。
ケーキを食べた後にお店から出ると、ちょうど夕暮れ時に差しかかっていた。
「それでは、私は占いがあるので戻りますね」
「うん、がんばってね」
別れ際、去っていくカルラちゃんを見送っていると、彼女はふと私に振り向いた。
「リリアさんに、良い旅を」
カルラちゃんは明るく笑って、私に手を振った。私も手を振り返す。
誰にだって、譲れないものが一つはあるはずだ。当然、私にも。
やりたいから、やる。きっと私にとって譲れないものは、それなのだろう。
深い理由なんて必要ない。ただ、やりたいと思った。それだけで私には十分なのだ。
魔女になりたいと思った。弟子たちを育てるのも良いものだと思った。旅をしたいと思った。
私は単純な人間だから、その程度の浅い思いしかない。でも、それで十分だった。
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