28 / 185
28話、再会とイチゴのショートケーキ
しおりを挟む
ヘレンの町にあるいくつかの観光名所の一つに、ヘレンの泉がある。
ヘレンの泉は町の西側にある大広場にあり、この町の名がつけられた泉だけあって一見の価値があるものと言えた。
大きく広い泉に張られた透き通った水はゆるやかな風で波立ち、まるで広大な海を想起させる。
この泉の面白いところは、全く飾り気がないところにある。泉の中に彫刻などの飾りが設置されているわけでもなく、本当にただ広い泉が広がっているだけなのだ。
でも、それがなんともいえない自然美を表現しているのだ。
人工的に作られているのは明らかなのに、もしかしたら自然に生まれた光景なのかもしれない。飾り気のない泉には、そう想像させる奥深さがあった。
昨日夜食のハンバーガーを食べた後もう一度寝ることにした私は、さすがに寝坊をしてお昼に起きてしまっていた。
軽く昼食を取った後向かったのが、このヘレンの泉だった。天気の良いお昼時だからか、日光を反射する泉は目にまぶしい。
泉のある大広場は丸ごと観光地になっていて、多くの露店があちこちにある。
行きかう人々も多く、おそらく人の賑わいはこの町で一番あるだろう。
さて、ヘレンの泉を十分堪能したところだけど、これからどうしようか。
ヘレンの泉は確かに一見の価値あるものだ。自然美に通じる美しさもあり、毎日だって見たくなる光景だろう。
しかし裏を返せば、そこまで長時間見ていられる物ではなかった。
だって、本当に泉が広がっているだけだもん。
感受性が豊かな人だったらこの泉の光景に感じ入るものがあり、もしかしたら数時間でも見ていられるかもしれない。
でも、残念ながら私にはそんな豊かな物はないんだなぁ。
「……あっ」
夕ごはんまでどうしようかな、と悩みながら泉周辺を見回していたら、見覚えのある人物を発見する。
私と同じく魔女の証である三角帽子を被り、レース仕立ての上衣が可愛らしい少女。
その姿にその顔立ち。忘れるはずがない。フェリクスの町で出会った、魔女見習いのカルラちゃんだ。
カルラちゃんはイヴァンナの弟子だったりする。私からしたら孫弟子とかに当たるのだろうか。
彼女はフェリクスの町でそうしていたように、簡素なテーブルとイスが設置された露店でひっそりと座っていた。
もしかしてこの町でも占いをやっているのだろうか?
「カルラちゃん、久しぶり」
私はカルラちゃんに近づき、軽く挨拶をしてみる。
覚えられているかちょっと不安だったが、カルラちゃんは私の顔を見てぱぁっと顔を明るくした。
「リリアさん、お久しぶりです! ヘレンに来ていたんですね」
「うん。カルラちゃんもヘレンに来ていたんだね。もしかしてまたイヴァンナに言われて占いをしてるの?」
「いえ、実は数日ほど休暇を取って実家に帰ってきてたんです。私、ヘレン出身なんですよ」
「へえ、なんかすごい偶然だね」
カルラちゃんがヘレン出身なのも驚いたけど、まさかたまたま戻ってきていた時に偶然再会できるなんて。これは奇跡的と言うしかない。
でも休暇を取ってるなら、なんでまたこうして占いをしているんだろう?
そう問いかけると、カルラちゃんは恥ずかしそうに頬をかいた。
「占いをしているのはイヴァンナ師匠に言われたからではなく、私の意地の様な物、ですね」
「意地?」
「ほら、私フェリクスではうまく占いができなかったじゃないですか。リリアさんに会った後、イヴァンナ師匠のところに戻って本格的に魔女の修行を始めたので、今ならもっとちゃんと占えるかなって思ったんです」
「以前のリベンジみたいなものなんだ」
こう見えてカルラちゃんは負けん気が強いタイプらしい。でもまあ、それは意外ではなかったりする。
魔女を目指す子なんて、一見普通に見えてもどこか頑固で意地が強い部分があるものだ。そうでもなければ魔女なんて目指さないだろう。
私の三人の弟子たちも頑固なところ結構あるし。っていうかあの三人完全に自分の理屈で動いてるし。リネットですら意固地なところあるもんなぁ。
でも他人にはどうしても譲れない一線というのは大切なものだろう。
誰にだって譲れないものがあるだろうし、それが自分を自分たらしめているのだと私は思っている。
「前よりは結構占えるようになったんですよ。イヴァンナ師匠から水晶玉を使った占いも教えてもらいましたし、以前リリアさんから教えてもらった占いもできるようになってきたんです」
そう言ってカルラちゃんは照れたように笑った。
どうやらカルラちゃんは魔女としてちゃんと育ちつつあるらしい。カルラちゃん自身の素養もあるけど、イヴァンナの教えも良いのかもしれない。
となると、そのイヴァンナを育てた私の教えもきっと良かったのだと思う。……多分ね。自信はない。
「そうだ。リリアさん、ヘレンでケーキとかは食べましたか?」
「ケーキ? ううん、食べてない」
そういえばせっかく大きな町に来たのにそういったスイーツ系を全く食べてなかったな。
手が込んだスイーツなんて旅の最中に食べる機会は少ないだろうし、こうして大きい町に腰を落ち着けている間に食べておいた方がいいかも。
「なら、これからケーキでも食べに行きませんか? おすすめのお店があるんです」
「カルラちゃんのおすすめかー。よーし、いいよ、行こっか。あ、占いの方はいいの?」
「はい、日中よりも夕暮れ時くらいの方がお客さんが多いので、問題ないですよ」
それならば話は早い。私はそのままカルラちゃんに連れられて、おすすめのケーキ屋さんへと向かうことにした。
カルラちゃんはヘレン出身だけあって、足取りに迷いが無かった。
どうやらカルラちゃんおすすめのお店というのは、町の東側、住宅街でひっそりと営業しているらしい。
住宅と住宅に挟まれたお店にたどりついて、カルラちゃんと共に入店する。
大きな看板も掲げられていないし、なるほど地元民のカルラちゃんだからこそ知っているような隠れたお店だ。
テーブル席につくと、カルラちゃんは慣れたようにメニューを手に取り、店員さんを呼んだ。
「えーっと、チーズケーキを一つと……リリアさんは何にします?」
「じゃあね、イチゴのショートケーキ。あと紅茶かな」
注文を聞いた店員さんが離れていくと、カルラちゃんがおもむろに口を開いた。
「そういえば聞きたかったんですけど、リリアさんはどうして魔女になったんですか?」
カルラちゃんの問いかけに、私は思わず目を丸くしてしまった。
「魔女になった……理由?」
今まで誰にも問われたことが無かった質問だった。思わず私は小さくうなった。
「あ、プライベートなことでしたよね。すみません」
謝るカルラちゃんに、私は慌てて首をふった。
「ううん、ちょっと初めての質問に戸惑っちゃっただけだよ。弟子たちもそんなこと聞いてこなかったからなぁ……」
あの三人にとって私は魔女リリアであり、私が魔女になる前のことなど考えもしなかったのだろう。
だが私だって生まれながら魔女だったわけではない。
私が魔女になった理由……か。
「うーん……考えてみると、質問されるほど大層な答えじゃないんだよね。それでもいい?」
聞いてみると、カルラちゃんは小さく頷いた。
「単純にね、私魔女の家系だったんだよ。だからなんか当たり前のように魔女になってた」
「魔女の家系……ですか?」
「そう言うとすごい風に聞こえちゃうけど、単純におばあちゃんもお母さんも魔女だったってだけだね」
祖母も母も魔女だった。だから私も後を継ぐように魔女になった。本当にそれだけだった。
きっと母も、祖母が魔女だったから魔女になったのだろう。二人とも魔法薬を扱う魔女だったから、私も魔法薬を扱うようになったのだ。
「なんていうか、ちょっと自分でも不思議でさ。魔女になるのが当たり前な家だったっていうか、子供の頃から魔法薬のこととか教えてもらってたし……なりたいからなったって言うより、ならないといけなかったってところかな。ほら、伝統とかそういうのがあるでしょ?」
「そうだったんですか……」
カルラちゃんは神妙な顔をしていた。もしかしたらちょっと私に気を使っているのかもしれない。
「あはは、ごめんね、こんな面白味のない答えで」
私が明るくそう言うと、カルラちゃんは小さく微笑した。
そんな折に、頼んでいたケーキが運ばれてくる。カルラちゃんのはチーズケーキで、私のはイチゴのショートケーキ。
イチゴのショートケーキはその名の通りイチゴがふんだんに使われていた。
イチゴが乗っているだけでなく、スポンジケーキの間に生クリームと共にイチゴが挟まれている。
一口食べると、生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
カルラちゃんがおすすめするお店だけあって、とてもおいしいケーキだ。
イチゴのショートケーキは、ケーキの王道とも言えるだろう。私も子供の頃から何度も食べたことがある。
だからだろうか、ちょっと一つだけ思い出したことがあった。
「……魔女になるのが当然だったけど、別に魔女になるのが嫌なわけではなかったよ」
カルラちゃんに向けてそう言うと、彼女は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「なりたくなかったら、なるわけないもんね、普通。魔法薬を作るのは楽しかったし、きっと私は、魔女になるのが当たり前なんだって思ってしまうくらい魔女になりたかったんだよ」
自分の心は誰よりも分かっているようにみえて、はっきりとは言葉にできない。
だから、きっと。そんなあいまいな言葉でしか自分の心は表現できないのだ。
でも、だからこそ。私は当然のように魔女となるくらい……魔女になりたかったのだろう。
あいまいな言葉を使いながらも、そこに疑いはない。だって、自分の心に嘘なんてつけないのだから。
ケーキを食べた後にお店から出ると、ちょうど夕暮れ時に差しかかっていた。
「それでは、私は占いがあるので戻りますね」
「うん、がんばってね」
別れ際、去っていくカルラちゃんを見送っていると、彼女はふと私に振り向いた。
「リリアさんに、良い旅を」
カルラちゃんは明るく笑って、私に手を振った。私も手を振り返す。
誰にだって、譲れないものが一つはあるはずだ。当然、私にも。
やりたいから、やる。きっと私にとって譲れないものは、それなのだろう。
深い理由なんて必要ない。ただ、やりたいと思った。それだけで私には十分なのだ。
魔女になりたいと思った。弟子たちを育てるのも良いものだと思った。旅をしたいと思った。
私は単純な人間だから、その程度の浅い思いしかない。でも、それで十分だった。
明日も良い旅になりそうだ。なんとなく、そう思った。理由なんて、ないけれど。
ヘレンの泉は町の西側にある大広場にあり、この町の名がつけられた泉だけあって一見の価値があるものと言えた。
大きく広い泉に張られた透き通った水はゆるやかな風で波立ち、まるで広大な海を想起させる。
この泉の面白いところは、全く飾り気がないところにある。泉の中に彫刻などの飾りが設置されているわけでもなく、本当にただ広い泉が広がっているだけなのだ。
でも、それがなんともいえない自然美を表現しているのだ。
人工的に作られているのは明らかなのに、もしかしたら自然に生まれた光景なのかもしれない。飾り気のない泉には、そう想像させる奥深さがあった。
昨日夜食のハンバーガーを食べた後もう一度寝ることにした私は、さすがに寝坊をしてお昼に起きてしまっていた。
軽く昼食を取った後向かったのが、このヘレンの泉だった。天気の良いお昼時だからか、日光を反射する泉は目にまぶしい。
泉のある大広場は丸ごと観光地になっていて、多くの露店があちこちにある。
行きかう人々も多く、おそらく人の賑わいはこの町で一番あるだろう。
さて、ヘレンの泉を十分堪能したところだけど、これからどうしようか。
ヘレンの泉は確かに一見の価値あるものだ。自然美に通じる美しさもあり、毎日だって見たくなる光景だろう。
しかし裏を返せば、そこまで長時間見ていられる物ではなかった。
だって、本当に泉が広がっているだけだもん。
感受性が豊かな人だったらこの泉の光景に感じ入るものがあり、もしかしたら数時間でも見ていられるかもしれない。
でも、残念ながら私にはそんな豊かな物はないんだなぁ。
「……あっ」
夕ごはんまでどうしようかな、と悩みながら泉周辺を見回していたら、見覚えのある人物を発見する。
私と同じく魔女の証である三角帽子を被り、レース仕立ての上衣が可愛らしい少女。
その姿にその顔立ち。忘れるはずがない。フェリクスの町で出会った、魔女見習いのカルラちゃんだ。
カルラちゃんはイヴァンナの弟子だったりする。私からしたら孫弟子とかに当たるのだろうか。
彼女はフェリクスの町でそうしていたように、簡素なテーブルとイスが設置された露店でひっそりと座っていた。
もしかしてこの町でも占いをやっているのだろうか?
「カルラちゃん、久しぶり」
私はカルラちゃんに近づき、軽く挨拶をしてみる。
覚えられているかちょっと不安だったが、カルラちゃんは私の顔を見てぱぁっと顔を明るくした。
「リリアさん、お久しぶりです! ヘレンに来ていたんですね」
「うん。カルラちゃんもヘレンに来ていたんだね。もしかしてまたイヴァンナに言われて占いをしてるの?」
「いえ、実は数日ほど休暇を取って実家に帰ってきてたんです。私、ヘレン出身なんですよ」
「へえ、なんかすごい偶然だね」
カルラちゃんがヘレン出身なのも驚いたけど、まさかたまたま戻ってきていた時に偶然再会できるなんて。これは奇跡的と言うしかない。
でも休暇を取ってるなら、なんでまたこうして占いをしているんだろう?
そう問いかけると、カルラちゃんは恥ずかしそうに頬をかいた。
「占いをしているのはイヴァンナ師匠に言われたからではなく、私の意地の様な物、ですね」
「意地?」
「ほら、私フェリクスではうまく占いができなかったじゃないですか。リリアさんに会った後、イヴァンナ師匠のところに戻って本格的に魔女の修行を始めたので、今ならもっとちゃんと占えるかなって思ったんです」
「以前のリベンジみたいなものなんだ」
こう見えてカルラちゃんは負けん気が強いタイプらしい。でもまあ、それは意外ではなかったりする。
魔女を目指す子なんて、一見普通に見えてもどこか頑固で意地が強い部分があるものだ。そうでもなければ魔女なんて目指さないだろう。
私の三人の弟子たちも頑固なところ結構あるし。っていうかあの三人完全に自分の理屈で動いてるし。リネットですら意固地なところあるもんなぁ。
でも他人にはどうしても譲れない一線というのは大切なものだろう。
誰にだって譲れないものがあるだろうし、それが自分を自分たらしめているのだと私は思っている。
「前よりは結構占えるようになったんですよ。イヴァンナ師匠から水晶玉を使った占いも教えてもらいましたし、以前リリアさんから教えてもらった占いもできるようになってきたんです」
そう言ってカルラちゃんは照れたように笑った。
どうやらカルラちゃんは魔女としてちゃんと育ちつつあるらしい。カルラちゃん自身の素養もあるけど、イヴァンナの教えも良いのかもしれない。
となると、そのイヴァンナを育てた私の教えもきっと良かったのだと思う。……多分ね。自信はない。
「そうだ。リリアさん、ヘレンでケーキとかは食べましたか?」
「ケーキ? ううん、食べてない」
そういえばせっかく大きな町に来たのにそういったスイーツ系を全く食べてなかったな。
手が込んだスイーツなんて旅の最中に食べる機会は少ないだろうし、こうして大きい町に腰を落ち着けている間に食べておいた方がいいかも。
「なら、これからケーキでも食べに行きませんか? おすすめのお店があるんです」
「カルラちゃんのおすすめかー。よーし、いいよ、行こっか。あ、占いの方はいいの?」
「はい、日中よりも夕暮れ時くらいの方がお客さんが多いので、問題ないですよ」
それならば話は早い。私はそのままカルラちゃんに連れられて、おすすめのケーキ屋さんへと向かうことにした。
カルラちゃんはヘレン出身だけあって、足取りに迷いが無かった。
どうやらカルラちゃんおすすめのお店というのは、町の東側、住宅街でひっそりと営業しているらしい。
住宅と住宅に挟まれたお店にたどりついて、カルラちゃんと共に入店する。
大きな看板も掲げられていないし、なるほど地元民のカルラちゃんだからこそ知っているような隠れたお店だ。
テーブル席につくと、カルラちゃんは慣れたようにメニューを手に取り、店員さんを呼んだ。
「えーっと、チーズケーキを一つと……リリアさんは何にします?」
「じゃあね、イチゴのショートケーキ。あと紅茶かな」
注文を聞いた店員さんが離れていくと、カルラちゃんがおもむろに口を開いた。
「そういえば聞きたかったんですけど、リリアさんはどうして魔女になったんですか?」
カルラちゃんの問いかけに、私は思わず目を丸くしてしまった。
「魔女になった……理由?」
今まで誰にも問われたことが無かった質問だった。思わず私は小さくうなった。
「あ、プライベートなことでしたよね。すみません」
謝るカルラちゃんに、私は慌てて首をふった。
「ううん、ちょっと初めての質問に戸惑っちゃっただけだよ。弟子たちもそんなこと聞いてこなかったからなぁ……」
あの三人にとって私は魔女リリアであり、私が魔女になる前のことなど考えもしなかったのだろう。
だが私だって生まれながら魔女だったわけではない。
私が魔女になった理由……か。
「うーん……考えてみると、質問されるほど大層な答えじゃないんだよね。それでもいい?」
聞いてみると、カルラちゃんは小さく頷いた。
「単純にね、私魔女の家系だったんだよ。だからなんか当たり前のように魔女になってた」
「魔女の家系……ですか?」
「そう言うとすごい風に聞こえちゃうけど、単純におばあちゃんもお母さんも魔女だったってだけだね」
祖母も母も魔女だった。だから私も後を継ぐように魔女になった。本当にそれだけだった。
きっと母も、祖母が魔女だったから魔女になったのだろう。二人とも魔法薬を扱う魔女だったから、私も魔法薬を扱うようになったのだ。
「なんていうか、ちょっと自分でも不思議でさ。魔女になるのが当たり前な家だったっていうか、子供の頃から魔法薬のこととか教えてもらってたし……なりたいからなったって言うより、ならないといけなかったってところかな。ほら、伝統とかそういうのがあるでしょ?」
「そうだったんですか……」
カルラちゃんは神妙な顔をしていた。もしかしたらちょっと私に気を使っているのかもしれない。
「あはは、ごめんね、こんな面白味のない答えで」
私が明るくそう言うと、カルラちゃんは小さく微笑した。
そんな折に、頼んでいたケーキが運ばれてくる。カルラちゃんのはチーズケーキで、私のはイチゴのショートケーキ。
イチゴのショートケーキはその名の通りイチゴがふんだんに使われていた。
イチゴが乗っているだけでなく、スポンジケーキの間に生クリームと共にイチゴが挟まれている。
一口食べると、生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
カルラちゃんがおすすめするお店だけあって、とてもおいしいケーキだ。
イチゴのショートケーキは、ケーキの王道とも言えるだろう。私も子供の頃から何度も食べたことがある。
だからだろうか、ちょっと一つだけ思い出したことがあった。
「……魔女になるのが当然だったけど、別に魔女になるのが嫌なわけではなかったよ」
カルラちゃんに向けてそう言うと、彼女は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「なりたくなかったら、なるわけないもんね、普通。魔法薬を作るのは楽しかったし、きっと私は、魔女になるのが当たり前なんだって思ってしまうくらい魔女になりたかったんだよ」
自分の心は誰よりも分かっているようにみえて、はっきりとは言葉にできない。
だから、きっと。そんなあいまいな言葉でしか自分の心は表現できないのだ。
でも、だからこそ。私は当然のように魔女となるくらい……魔女になりたかったのだろう。
あいまいな言葉を使いながらも、そこに疑いはない。だって、自分の心に嘘なんてつけないのだから。
ケーキを食べた後にお店から出ると、ちょうど夕暮れ時に差しかかっていた。
「それでは、私は占いがあるので戻りますね」
「うん、がんばってね」
別れ際、去っていくカルラちゃんを見送っていると、彼女はふと私に振り向いた。
「リリアさんに、良い旅を」
カルラちゃんは明るく笑って、私に手を振った。私も手を振り返す。
誰にだって、譲れないものが一つはあるはずだ。当然、私にも。
やりたいから、やる。きっと私にとって譲れないものは、それなのだろう。
深い理由なんて必要ない。ただ、やりたいと思った。それだけで私には十分なのだ。
魔女になりたいと思った。弟子たちを育てるのも良いものだと思った。旅をしたいと思った。
私は単純な人間だから、その程度の浅い思いしかない。でも、それで十分だった。
明日も良い旅になりそうだ。なんとなく、そう思った。理由なんて、ないけれど。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる