R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

文字の大きさ
上 下
21 / 113

19.心の傷

しおりを挟む

 2人が出ていってから半日以上が経過した。もう太陽は真上を通過してしまった。ビスタさんもまだ目覚めない。

  鬼人が出ると街中に知らせが走り、討伐完了まで厳戒態勢が敷かれる。人々は外出禁止、店は臨時休業を余儀なくされる。

  当然酒場も臨時休業だが、マスターが皆を店に集めて軽食を用意した。皆モソモソと食べ進めるがやはり心配を隠せず、暗い空気が漂っていた。そんな中平常心を保っていたのはマスターとコンゴさんだった。コンゴさんは保安局へ走り、その後街人への知らせも済ませてから戻って来た。

  何もしないでいると悪い想像ばかりが頭に浮かぶ。私はキッチンで食器を片付け、温かい飲み物を準備していた。何とか気を紛らわせたかった。

 「レドなら大丈夫ですよ、ソニアさん。ルイも普段は穏やかに見えますがかなりの強さです」
  そう声を掛けてくれたのはいつの間にかキッチンに来ていたマスター。
 「マスター…すみません、ご心配をおかけして」
  そんなに顔に出ていたかな、気を付けてたんだけど・・・。
 「あなたは感情を隠すのが上手い。もっと楽にしていいんですよ、レドと私の前ではね」
 「マスター…ありがとうございます」
  いつも通り優しく微笑むマスターに励まされ、少しだけホッとする。 

  この世界で私の事情を最も知っているのはオーナーとマスター。私に居場所をくれた2人に全てを話せる日が来ればいい。そう思った。











 平静だったマスターとコンゴさんもやがて口を開かなくなり、時間だけが無常に過ぎた。外はもう暗くなり始めている。

  遅いな・・・

 とマスターが小さく呟く。それが増々不安を大きくする。

  その時。

  ガタン!!

  オーナーの私室の方から音がした。

  ・・・!!帰ってきた!?

  私とマスターは奥へ急いだ。

  そこで目に入ったのは―――――

 上半身血だらけの、ボロボロになったオーナーだった。

  肩をやられたようで止血の布が巻いてある。足も引きずっていて、ルイさんに支えられなければ歩く事も出来ない。マスターが慌ててルイさんの逆からオーナーを支える。

  私は身体がガクガク震えるのを必死に抑えていた。

  ベッドルームの床にマットが出され、そこに横たえられる。

  その瞬間、私は彼に駆け寄った。

 「レド!!」

  彼の肩口に縋るように手を置き、集中も出来ないままヒールを繰り返す。

 「ヒー…」
  何度目かもわからなくなったヒールを唱えようとした時、レドの血だらけの手が私の手に重なった。
 「ソニア…もういい。…傷は塞がった。ありがとう」
 「レ、ド…」
 「…大丈夫だから、泣くな」
  そう言われて初めて、泣いている事に気が付いた。
 「…他は?」
 「他も治った。お前のおかげだ」
  マットの上で上半身を起こす。その姿を見て、やっと大丈夫だと理解できた。
 「良かった…レド!」

  私は彼の胸に飛びついた。

 「ぉわ!?っと…ソニア?」
  大きな手が私の背に回る。それだけで凄く安心できた。
 「ケガ、しないでくださいって、言ったのに」
 「…心配したか?」
 「はい…凄く」
 「そうか、すまなかったな」
 「…もういいです」

  抱き合いながら囁くように話していると後ろから声が。

 「…レド、ソニアさん、そろそろいいですか?」

  ・・・・。・・・・?・・・・!!!

  ししし、しまったぁ!マスターとルイさんの存在がすっかり頭から抜け落ちてた!(相当失礼)

 「すす、すみませ…きゃっ」

  がばっと身体を離して謝り・・・終わる前に今度は抱き寄せられる。

 「まだダメだ」
 「オーナー!」
 「…また戻った。レド」
 「そ、そんな話は後で聞きますから!先に!マスターと話をして下さい!みんなも寝ないで心配してたんですよ!」

  顔は真っ赤だし、服も血で真っ赤だし。もう滅茶苦茶です。・・・半分自分の所為ですが。











 着替えやルイさんの治療をし、その間にマスターがオーナーとルイさんの無事と鬼人討伐完了を皆に知らせた。

 「鬼人は…ロジックだった」
  レドが沈痛な面持ちで名を告げる。
 「なっ!!まさか!…本当ですか?そんな…」
  マスターが驚愕の表情を浮かべる。ショックを隠せず、暫し呆然とする。
 「…確かだ。情けない事に、ロジックだと分かった時に一瞬攻撃を躊躇った。その結果がこのザマだ」
 「…あのロジックが…鬼人ですか。…それで…?」
 「ちゃんと仕留めたさ。この手で止めを刺した」
 「…そうですか。…他の誰かでなく、レドで良かったです。ロジックだって、きっとそう思ってます」
 「そう、だな。…ルイ、今回はお前に助けられた。ありがとう」
 「いえ、僕もまだまだ修行が足りません。今日実感しました」
 「…ルイは最近ルーカスに似てきたな」

  レドは微笑みながらそう言った。

  後から聞いた話だが、鬼人を倒した後出血が止まるまで動けず、止まっても馬を早く走らせる事は出来なかった。それで余計遅くなったらしい。











 マスターとルイさんが出ていくと、レドはさすがに疲れた顔を見せた。彼をベッドへ促して寝かせ、帰ろうとすると止められた。

 「ここにいてくれないか」
  覇気のない声で言われて傍に座った。

  少しの沈黙の後、ぽつりぽつり話し始める。

  ロジックとは昔ここにいた魔人で、獣人と結婚して遠い街へ引っ越したらしい。勿論その街からも定期報告は受けていたがそれが途絶えた。その原因を探っている最中だった。

 「分かってるんだ、やらなきゃあいつらも救われない。それでも、何回経験しても嫌なもんだ。仲間をやるってのは」

  そう呟く彼の心は泣いている気がした。

  鬼人は躊躇いがなく、その分強い。だから彼が止めに行った。だが、最強の魔人と言われる彼でさえこうしてケガをする。何度、こんな経験をしてきたのか。その度にこうして心を痛めてきたのだろうか。彼の心はもう傷だらけなんじゃないか。

  そう思ったら切なくなった。私に何が出来るか、それはこれから考えよう。傍にいると決めたんだから。とりあえず今はゆっくり休ませてあげたい。

  ・・・よし。女は度胸!

  私は立ち上がってベッドへ上がり、彼の隣に横になる。

 「ソニア…?」

  レドが呆気に取られているが気にせず、頭を胸に引き寄せて抱きしめた。

 「こうしてますから、休んでください」
 「…起きるまで居ろよ?」
 「はい」

  レドはそれからすぐ、寝息をたてはじめた。 
 
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...