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第三章:正々堂々
25:“リオ”
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「こいつを庇う気か?」
イアンさんの鋭い目が私を捉える。目つきが悪くても顔はいいなぁ、なんて思いながら心を鎮める。いまの私は仕事人、絶対に契約を取る年季の入った営業だ。心の温度を下げて、冷静に。
「彼の罪は逃れようがありません。ですが、クーデターを企てた者と同等の罰を与えるのは納得がいきません」
「感情論でどうにかしようってんなら止めときな。こいつがやったのは立派な情報漏洩だ。それでいて、こいつは組織についてなにも知らねぇ。情報量に圧倒的な差があんだぞ。それでこの国が傾いたらどう責任取るっつーんだよ。こんなガキ一人の命じゃ釣り合わねぇぞ」
「であれば、私がクーデターの首謀者、居場所を突き止めます」
「はあ……? 旅人のお前になにができるっつーんだ」
「やると言ったらやります。エリオットくんの罪が少しでも軽くなるのであれば、なんだってやります」
幸い、私には“データベース”がある。これを駆使すれば、きっと首謀者の居場所を突き止められるはずだ。できなかったら、そのときはそのとき。でも考えない。始める前から失敗のビジョンを描いて成功した試しがない。負けられない勝負、合言葉はケセラセラ。社畜はいつだってそうしてきた。
退く気がないことが伝わっただろうか、イアンさんは深々とため息を吐く。観念したようだ。こうなった私は絶対に折れてやらないぞ、なにがなんでもエリオットくんを罪を軽くしてやる。
「――お前、本当にリオじゃないのか?」
イアンさんが不思議そうに私を見つめる。言葉の意図が掴めなかった。私はリオ、リオ以外の何者でもない。いったい彼はどうして私が“リオじゃない”と判断したのだろう。まるで意味がわからない。
「は……え? 私はリオですけども……」
「……そうか。まあ、そりゃそうだよな」
意味深に呟くイアンさん。なんだ? いったいどういうことだ? 彼は私の――“リオ”のなにを知っている? やっぱり過去に出会っていた? 日記をもっと早く読んでいればよかったのに、この世界に慣れるので手一杯だった。“リオ”を知ることを蔑ろにしたツケが回ってきたような気分だ。
イアンさんは短い呼吸の後、私たちに背を向ける。根負けしたのだろう、私に任せるつもりだ。上等、絶対に成し遂げてやる。社畜が啖呵を切るときは、いつだって背水の陣。やるかやられるか、シンプルな話だ。
「そこまで言ったからには突き止めてみな。後から無理だって泣きついても無駄だからな、後悔すんなよ」
「後悔なんてこの体に残ってません。必ず首謀者とその居場所を突き止めてみせます」
その言葉を背に受けて、イアンさんは退室した。残された私たちの間に重たい沈黙が降りる。
「――どうして、ぼくなんかのために?」
そう問いかけたエリオットくんの声は震えていた。自分のためになにかされるの、嫌いなのかな。
わかるよ、私もそうだったもん。仕事のミスを先輩が尻拭いしてくれたとき、本当に首吊ってやろうかと思うくらい落ち込んだし顔向けできなかったもん。
でもね、いまのきみに必要なのはそういう人。自分じゃどうしようもないとき、助けてくれる人が必要だと思う。私がそうなれたらいいな。わがままだけどね。エリオットくんの傍に寄り添い、頭を撫でる。
「ぼくなんか、って言っちゃ駄目だよ。自分で自分を軽く見てたら、そういう風に扱っていいんだって思わせちゃうからね」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさいも要らないよ」
柔らかく微笑んでみる。エリオットくんなら伝わるはずだ、この言葉の意味が。彼は俯き、シーツをぎゅっと握って呟く。
「……ありがとうございます」
「よく言えました、偉いね。あとは私に任せて」
「……はい、よろしくお願いします」
俯いたままのエリオットくんに別れを告げて、部屋を出る。階段を降りていくと、下にはイアンさんがいた。彼は私に怪訝そうな眼差しを向けている。私は会釈だけして立ち去ろうとする。
「リオ、ちょっといいか」
「はい?」
声をかけてくるイアンさん。なにか激励の言葉でもくれるのだろうか。そう思った矢先、イアンさんが大きめの封筒を差し出してきた。
「これを渡しておく、使え」
受け取ったそれは軽い。なにが入っているのだろう、まさかお金……? 調査のための資金だろうか? こんな大きな封筒にごっそりと、札束でも入っているのか? ぞわりと背筋が粟立つが、イアンさんは続ける。
「こっちで調べた情報だ、共有しておく」
よかった、お金じゃなくて安心した。けれど、騎士団で得た情報を部外者の私が知っていいのだろうか? それこそエリオットくんのやってることと変わらない気がするけど。
「……いいんですか?」
「宰相がやったことだ、いいんだよ。お前は信頼できる協力者だ。やれると思ったから共有した、それだけだ」
この人は私を買い被っている。……いや、違う。イアンさんは“リオ”に期待してるんだ。昔出会ったであろう、この世界の“私”に。私にはわからないけど、彼が信じ、託してくれるだけの人だったのだと思う。
ならば、応えなければ。期待を重圧だと感じる臆病な心は、車に轢かれて飛んでいった。大丈夫だ。
「ありがとうございます、ご期待に沿えるよう努めます」
「……おう、頼んだぞ」
イアンさんに一礼して城を出る。送りの馬車が待っていた。帰ったらすぐに“データベース”を起動しよう。資料に目を通すことも忘れずに。エリオットくんは守られなきゃいけない子だ。罪は消えないけど、少しでも早く自由になれるように。
お父さん、お母さん。私、やる気を出すのが上手になりました。
イアンさんの鋭い目が私を捉える。目つきが悪くても顔はいいなぁ、なんて思いながら心を鎮める。いまの私は仕事人、絶対に契約を取る年季の入った営業だ。心の温度を下げて、冷静に。
「彼の罪は逃れようがありません。ですが、クーデターを企てた者と同等の罰を与えるのは納得がいきません」
「感情論でどうにかしようってんなら止めときな。こいつがやったのは立派な情報漏洩だ。それでいて、こいつは組織についてなにも知らねぇ。情報量に圧倒的な差があんだぞ。それでこの国が傾いたらどう責任取るっつーんだよ。こんなガキ一人の命じゃ釣り合わねぇぞ」
「であれば、私がクーデターの首謀者、居場所を突き止めます」
「はあ……? 旅人のお前になにができるっつーんだ」
「やると言ったらやります。エリオットくんの罪が少しでも軽くなるのであれば、なんだってやります」
幸い、私には“データベース”がある。これを駆使すれば、きっと首謀者の居場所を突き止められるはずだ。できなかったら、そのときはそのとき。でも考えない。始める前から失敗のビジョンを描いて成功した試しがない。負けられない勝負、合言葉はケセラセラ。社畜はいつだってそうしてきた。
退く気がないことが伝わっただろうか、イアンさんは深々とため息を吐く。観念したようだ。こうなった私は絶対に折れてやらないぞ、なにがなんでもエリオットくんを罪を軽くしてやる。
「――お前、本当にリオじゃないのか?」
イアンさんが不思議そうに私を見つめる。言葉の意図が掴めなかった。私はリオ、リオ以外の何者でもない。いったい彼はどうして私が“リオじゃない”と判断したのだろう。まるで意味がわからない。
「は……え? 私はリオですけども……」
「……そうか。まあ、そりゃそうだよな」
意味深に呟くイアンさん。なんだ? いったいどういうことだ? 彼は私の――“リオ”のなにを知っている? やっぱり過去に出会っていた? 日記をもっと早く読んでいればよかったのに、この世界に慣れるので手一杯だった。“リオ”を知ることを蔑ろにしたツケが回ってきたような気分だ。
イアンさんは短い呼吸の後、私たちに背を向ける。根負けしたのだろう、私に任せるつもりだ。上等、絶対に成し遂げてやる。社畜が啖呵を切るときは、いつだって背水の陣。やるかやられるか、シンプルな話だ。
「そこまで言ったからには突き止めてみな。後から無理だって泣きついても無駄だからな、後悔すんなよ」
「後悔なんてこの体に残ってません。必ず首謀者とその居場所を突き止めてみせます」
その言葉を背に受けて、イアンさんは退室した。残された私たちの間に重たい沈黙が降りる。
「――どうして、ぼくなんかのために?」
そう問いかけたエリオットくんの声は震えていた。自分のためになにかされるの、嫌いなのかな。
わかるよ、私もそうだったもん。仕事のミスを先輩が尻拭いしてくれたとき、本当に首吊ってやろうかと思うくらい落ち込んだし顔向けできなかったもん。
でもね、いまのきみに必要なのはそういう人。自分じゃどうしようもないとき、助けてくれる人が必要だと思う。私がそうなれたらいいな。わがままだけどね。エリオットくんの傍に寄り添い、頭を撫でる。
「ぼくなんか、って言っちゃ駄目だよ。自分で自分を軽く見てたら、そういう風に扱っていいんだって思わせちゃうからね」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさいも要らないよ」
柔らかく微笑んでみる。エリオットくんなら伝わるはずだ、この言葉の意味が。彼は俯き、シーツをぎゅっと握って呟く。
「……ありがとうございます」
「よく言えました、偉いね。あとは私に任せて」
「……はい、よろしくお願いします」
俯いたままのエリオットくんに別れを告げて、部屋を出る。階段を降りていくと、下にはイアンさんがいた。彼は私に怪訝そうな眼差しを向けている。私は会釈だけして立ち去ろうとする。
「リオ、ちょっといいか」
「はい?」
声をかけてくるイアンさん。なにか激励の言葉でもくれるのだろうか。そう思った矢先、イアンさんが大きめの封筒を差し出してきた。
「これを渡しておく、使え」
受け取ったそれは軽い。なにが入っているのだろう、まさかお金……? 調査のための資金だろうか? こんな大きな封筒にごっそりと、札束でも入っているのか? ぞわりと背筋が粟立つが、イアンさんは続ける。
「こっちで調べた情報だ、共有しておく」
よかった、お金じゃなくて安心した。けれど、騎士団で得た情報を部外者の私が知っていいのだろうか? それこそエリオットくんのやってることと変わらない気がするけど。
「……いいんですか?」
「宰相がやったことだ、いいんだよ。お前は信頼できる協力者だ。やれると思ったから共有した、それだけだ」
この人は私を買い被っている。……いや、違う。イアンさんは“リオ”に期待してるんだ。昔出会ったであろう、この世界の“私”に。私にはわからないけど、彼が信じ、託してくれるだけの人だったのだと思う。
ならば、応えなければ。期待を重圧だと感じる臆病な心は、車に轢かれて飛んでいった。大丈夫だ。
「ありがとうございます、ご期待に沿えるよう努めます」
「……おう、頼んだぞ」
イアンさんに一礼して城を出る。送りの馬車が待っていた。帰ったらすぐに“データベース”を起動しよう。資料に目を通すことも忘れずに。エリオットくんは守られなきゃいけない子だ。罪は消えないけど、少しでも早く自由になれるように。
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