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第五章 慟哭のヘルプマン

02 死霊島一日目 

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 狭い何かの中で小雪は目を覚ました。一体、わたしは何をしていたんだっけ。全く記憶が無い。とにかく狭い場所から逃れようと、少し明かりが漏れる正面の隙間に手を入れて強引に開いた。
「眩しい……」
 真っ白くハレーションを起こした目に、やがて景色が映し出される。
 
 そこは……誰もいない砂浜だった。

「わたし、確か……帰りに地下のミニパトのドライブレコーダーの映像を見に行って……」徐々に思い出してきた。
 
「でも、何で浜辺なの?」

 誰もこの状況を説明してはくれない。誰も居ないから当然なのではあるが……。

「どういうこと? 誰か教えてよ!」
 それでも小雪はあらん限りの大声で叫んだ。
返事を期待した訳ではないが……。
 しかし、この声に呼応して浜辺の遠くから歩いて来る人影があった。
「良かったー。人が居た」取りあえずひと安心と思ったのだが、それは間違いだった。

 歩いてきたのは……

 ロボット(ピッパー君)だった!

 浜辺を移動して来たピッパー君は丁寧にお辞儀をして、わたしにこう言った。
「いらっしゃませ。お嬢様、ようこそおいで下さいました。私はこの島の管理を承っておりますピッパー君です」
「ここはどこの島なの? 人は居ないの?」今にも縋り付きそうなわたしの問いかけに抑揚のない音声でピッパー君は答える。
「場所はお教えできませんが、死霊島と言ってかれこれもう五年は人は住んでおりません」
「無人島」
「はい」
「名前何だっけ」
「死霊島です」
「……」
「死霊島」

「二度も言わんでいいわ!」
 ピッパー君相手に激熱な突っ込みを入れてしまった。

 所持品は無くなってはいない。そのままの格好で段ボール箱に入れられてここまで運ばれた様だ。翌日なのかな、わたしはスマホを確認して愕然とした。
「アンテナが立っていない……」
 
 この島は圏外になっていた。

 とりあえず、島を一周歩いてみる。一周1㎞ほど、わたしを入れた段ボールが置いてあった北に船着き場があり、西は砂浜、東と南は岩場だった。
 中央は森林になっていて、北と西にそれぞれ古い洋館と新しいコテージが建っている。
「お嬢様、少し休憩なされたらいかがでしょうか」ピッパー君がコテージのウッドデッキにテーブルセットを出して、紅茶を入れてくれた。
「ありがとう、いただくわ」
 小雪は、観念して腰を据えてじっくり考えた。犯人は分かった。けれどこの島に閉じ込められていては、みんなに教える事も出来ない。犯人はわたしを殺さず、時間さえ稼げれば目的が達成できると考えたのか。
「つまり、この後、数日で最後の犯行をやり遂げれる状況になったって事よね……」
 犯行を阻止するためには、この島からの数日以内の脱出。もしくは、外部との連絡。そのどちらでも良い。可能なのはどちらか? 小雪は深く思考の底に沈んでいった。

「あの、お嬢様。今晩のお泊りはどちらにいたしましょうか?」横に控えていたピッパー君が遠慮がちに聞いて来た。
「どちらって?」わたしは意味が分からず聞き返してしまう。
「北の洋館『死霊の館』と西のこのコテージですが……」
「このコテージでお願いします」
 思わず丁寧にお願いしたのは、何も洋館が嫌な訳ではなかったんだから……。

 この島は、電波が届いていない事以外は、割と快適な生活環境が揃っていた。わたしはピッパー君の出してくれた夕食を美味しく頂いてから、ベッドに横になりくつろいだ。
「ここは、IT社長とかがネット環境からわざと遮断された場所で、ゆっくり休むなんてコンセプトなのかもね。一週間後に船が迎えに来てくれるとかなのかも……」そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様、もうお休みになっていらっしゃいますか」ピッパー君がドアをノックしたのだ。
「いいえ、どうかしたの」わたしはドアを開けて要件を尋ねた。
「私もそろそろ引き上げますので、何か急用がございましたら隣の洋館『死霊の館』までお越し下さい」
「死霊の館まで」

「繰り返さんでも分かるわ!」
 わたしは、絶対にからかわれている気がする。

 特に何もしていないはずだが、小雪はベッドに横になるとすぐに睡魔に襲われ、深い深い眠りについた。(死霊島第一日目終了)
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