9 / 21
夏 三歌
しおりを挟む
【夏夜空 大輪の花咲きにける】
七月は大学生にはハードな季節だ。楽しい夏休みに浮かれる前に大きい大きいハードルがある。前期試験だ。このハードルを超えた先に楽しい夏休みがあるのだ。
「ふっ、ふっ、どうだね。定家くん、これがわたしの本当の実力なんだよ!」
そう誇らしげに言う忍は、わざわざ俺たちのいる実験棟まで成績表を見せに来たのだった。
「……どれも、ギリギリなんだけどね……」
自慢げな忍の隣で高子がつぶやく。
「まあ、それでもクリアだよな。これで気兼ねなく遊べるな!」
業がそう嬉しそうに言う。
「花火、キャンプ、海水浴や夏祭りってのもあるぞ!」
「おー、どれも楽しそうだね」
忍がテーブルに乗り出してくる。
「定、お前予定は?」
「ああ、研究室に週一ぐらいで顔を出せばOK かな?」
俺たち理工学部の学生は、三年次から研究室に所属する。夏休みにも実験、研究をするところも割と多い。
「俺も同じぐらいかな? 女性陣は?」
業の質問に二人は顔を見合わせる。
「夏休みだよね? しっかり休まないと」
「ふっ、全力で遊ばないと。じゃないの?」
高子にまで言われて、忍はふくれっ面で訂正する。
「そうだよ! 何事も全力投球だよ」
そう言ってじゃれあう二人に、業はスマホの画面を見せて言う。
「じゃあ早速、今週末、花火大会だけど行く?」
二人は即座に首を縦に振った。
隅田川の花火大会はテレビ放映もされるほどメジャーな花火大会だ。俺もテレビでは見たことがあるが生で見るのは初めてだ。
夕方、御茶ノ水駅で待ち合わせて、JRで両国駅まで行くが有名な花火大会なので最寄り駅からすでに芋を洗うようだった。
「二人は浴衣じゃなくて正解だね。定はちょっと残念そうだけど」
業はそう言って、横目で俺を見る。
「べ、別に期待なんかしてねーよ!」
俺は恥ずかし気にそっぽを向く。
「ふぅーん。期待してたんだ」
嬉しそうに忍がにやける。
「ゴメンね。混んでるからって、業平くんのアドバイスなんだ……」
申し訳なさそうに高子が言い訳をした。
「来年は浴衣着てみようかな……」
独り言ののようにささやいた高子のつぶやきに、俺の心臓は少し高鳴った。
「ほら、一人で歩くと迷子になっちゃうよ」
俺の腕に忍が腕を絡めてくる。
「俺はガキかよ!」
振りほどこうとする俺の腕に余計にすり寄ってくる。高子は業の袖をつまんで。四人は花火会場へと賑やかに歩き出す。
花火会場近くの橋の上は一方通行で立ち止まれないようになっているので、俺たちは橋を通り過ぎた細い路地に入って打ち上げの始まりを待った。
「ヒュ~、ドーン」
腹に響くような音と共に頭上に大輪の花が咲く。降り注ぐような花火に俺たちは一瞬息を吞みこんだ。
「凄い……」
感動した忍が腕をほどいて。二、三歩前に進む。高子も無言で空を見上げた。
「花火は和歌には出てこないの?」
見上げながら聞いた俺の疑問の答えを高子が丁寧に答える。
「花火は江戸時代に始まったモノですから……平安や鎌倉時代にはまだありませんでした」
「でも、あったら面白かったね『夏の夜は花火が一番だ』なんて句があったかも」
嬉しそうに忍がはしゃぎながら言った。
「う~ん、それ本当に『いとをかし』なのかな?」
高子は素直に肯定できないようだった。
「ド~ン」
ひときわ大きな音のすぐ後に、今日一番の大輪の花火が咲く。それを背景に忍は大きく手を広げて言った。
「この感動は切り取れないんだよ! 今だけ、この瞬間だけだから。やっぱり『いとをかし』なんだよ!」
大輪の花火と同じぐらいに元気に笑う忍を見つめ、高子は何も言わずうなずいた。
【夏夜空 大輪の花咲きにける この一瞬を同じ思いで】
七月は大学生にはハードな季節だ。楽しい夏休みに浮かれる前に大きい大きいハードルがある。前期試験だ。このハードルを超えた先に楽しい夏休みがあるのだ。
「ふっ、ふっ、どうだね。定家くん、これがわたしの本当の実力なんだよ!」
そう誇らしげに言う忍は、わざわざ俺たちのいる実験棟まで成績表を見せに来たのだった。
「……どれも、ギリギリなんだけどね……」
自慢げな忍の隣で高子がつぶやく。
「まあ、それでもクリアだよな。これで気兼ねなく遊べるな!」
業がそう嬉しそうに言う。
「花火、キャンプ、海水浴や夏祭りってのもあるぞ!」
「おー、どれも楽しそうだね」
忍がテーブルに乗り出してくる。
「定、お前予定は?」
「ああ、研究室に週一ぐらいで顔を出せばOK かな?」
俺たち理工学部の学生は、三年次から研究室に所属する。夏休みにも実験、研究をするところも割と多い。
「俺も同じぐらいかな? 女性陣は?」
業の質問に二人は顔を見合わせる。
「夏休みだよね? しっかり休まないと」
「ふっ、全力で遊ばないと。じゃないの?」
高子にまで言われて、忍はふくれっ面で訂正する。
「そうだよ! 何事も全力投球だよ」
そう言ってじゃれあう二人に、業はスマホの画面を見せて言う。
「じゃあ早速、今週末、花火大会だけど行く?」
二人は即座に首を縦に振った。
隅田川の花火大会はテレビ放映もされるほどメジャーな花火大会だ。俺もテレビでは見たことがあるが生で見るのは初めてだ。
夕方、御茶ノ水駅で待ち合わせて、JRで両国駅まで行くが有名な花火大会なので最寄り駅からすでに芋を洗うようだった。
「二人は浴衣じゃなくて正解だね。定はちょっと残念そうだけど」
業はそう言って、横目で俺を見る。
「べ、別に期待なんかしてねーよ!」
俺は恥ずかし気にそっぽを向く。
「ふぅーん。期待してたんだ」
嬉しそうに忍がにやける。
「ゴメンね。混んでるからって、業平くんのアドバイスなんだ……」
申し訳なさそうに高子が言い訳をした。
「来年は浴衣着てみようかな……」
独り言ののようにささやいた高子のつぶやきに、俺の心臓は少し高鳴った。
「ほら、一人で歩くと迷子になっちゃうよ」
俺の腕に忍が腕を絡めてくる。
「俺はガキかよ!」
振りほどこうとする俺の腕に余計にすり寄ってくる。高子は業の袖をつまんで。四人は花火会場へと賑やかに歩き出す。
花火会場近くの橋の上は一方通行で立ち止まれないようになっているので、俺たちは橋を通り過ぎた細い路地に入って打ち上げの始まりを待った。
「ヒュ~、ドーン」
腹に響くような音と共に頭上に大輪の花が咲く。降り注ぐような花火に俺たちは一瞬息を吞みこんだ。
「凄い……」
感動した忍が腕をほどいて。二、三歩前に進む。高子も無言で空を見上げた。
「花火は和歌には出てこないの?」
見上げながら聞いた俺の疑問の答えを高子が丁寧に答える。
「花火は江戸時代に始まったモノですから……平安や鎌倉時代にはまだありませんでした」
「でも、あったら面白かったね『夏の夜は花火が一番だ』なんて句があったかも」
嬉しそうに忍がはしゃぎながら言った。
「う~ん、それ本当に『いとをかし』なのかな?」
高子は素直に肯定できないようだった。
「ド~ン」
ひときわ大きな音のすぐ後に、今日一番の大輪の花火が咲く。それを背景に忍は大きく手を広げて言った。
「この感動は切り取れないんだよ! 今だけ、この瞬間だけだから。やっぱり『いとをかし』なんだよ!」
大輪の花火と同じぐらいに元気に笑う忍を見つめ、高子は何も言わずうなずいた。
【夏夜空 大輪の花咲きにける この一瞬を同じ思いで】
1
あなたにおすすめの小説
月の綺麗な夜に終わりゆく君と
石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。
それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の
秘密の交流。
彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。
十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。
日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。
不器用な僕らの織り成す物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
「甘酒って甘くないんだ!」
ピュアで、
「さ、さお…ふしゅうう」
私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。
だけど、
「し、しゅ…ふしゅうう」
それは私も同じで。
不器用な2人による優しい恋愛物語。
果たして私たちは
「さ…ふしゅぅぅ」
下の名前で呼び合えるのでしょうか?
恋愛の醍醐味
凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。
あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる