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2巻
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「失礼します、っと」
宿を出た悠真は、以前小型ナイフを調達した武器屋を訪れていた。
店の佇まいは変わらずで、客を無理に引き入れようとする様子が感じられない。
悠真は店の引き戸をゆっくり引いて、恐る恐る中を窺うように店内へと入った。
薄暗い店内。壁に飾られている武器の刀身が、僅かな光を反射する。
店の最奥には、やはり変わらず左頬に切り傷をつけた坊主頭の店主がいた。
悠真の声に「らっしゃい」とだけ小さく反応し、そのまま鋭い視線を突きつけてくる。
その迫力に気圧されたが、悠真は店内にさらに一歩足を踏み入れ、後ろ手に引き戸を閉める。
店内に視線を彷徨わせながら、悠真は見覚えのある武器を見つけて思わず手に取った。
「そうだな、これもいるよな……」
手にしたのは小型ナイフ。
投擲に使ったり、メイン武器が奪われたり壊れたりした時のために装備しておくのが通例だ。
実際、悠真はこの武器屋で同じものを買い、先のゴブリンの大群との戦いでも存分に活用していた。
それほど重たくもなく、四本ぐらいなら持つことも可能だが、正直なところあり過ぎても邪魔なだけだ。
ひとまず小型ナイフを二本手に取ってから、店主の居る奥へと歩み寄る。
「ん? あぁ、またこのナイフにするのか……」
「もしかして、俺のことを覚えているんですか?」
「当たり前だろ。ここに武器を買いに来るやつはそうそういねえからな」
店主のなんとも悲しい理由を聞いて、悠真は苦笑いを浮かべる。
「それで? 今日はこれだけでいいのか?」
「その、新しい武器が欲しいんですが。こういうサブじゃなくて、メインで使える武器、ロングソードとかが」
言いながら、悠真は手に持つ二本の小型ナイフを見せる。
「ん? お前、以前ここに来た時はソードも持ってただろ。あとあん時もナイフを買っていってたが……あのナイフはどうした?」
「あー、いやー……」
バツが悪そうに悠真は頬を掻きながら言葉を濁す。
売る側からすれば、売った武器をすぐに壊したり紛失したりされてはたまったものではないだろう。
だが、店主の鋭利な視線を前に嘘を吐ける気がせず、またそうすることにひどく罪悪感を覚えて悠真は正直に答えることにした。
「ナイフもソードも、ゴブリンとの戦闘で、失いました……」
悠真の言葉に、店主は大きな溜め息を一つ吐く。
悠真は思わず肩を震わせ、ぎゅっと目を瞑った。
その様子は、まるで悪いことをしたのが親にばれた子供のようだ。
――だが、次に店主から掛けられた言葉は予想とは反したものだった。
「たくっ、そういうことは先に言え。……待ってろ、丈夫なやつをとってきてやる」
「……え?」
思いがけない店主の言葉に、悠真は閉じていた目を見開いた。見れば店主は、まさに店の奥へと向かうところだった。その後ろ姿に、思わず声を掛ける。
「お、怒らないんですか?」
「ふん、どうして怒るんだ。使用者と死線を共にし、お前を助けたんだろ? 武器としてこれ以上の喜びはない」
振り返り平坦な声で答えると、店主はそのまま奥のほうへと引っ込んでいった。
少しして、一振りの剣を携えて戻ってくる。
「ほら、望みの品だ」
言葉は乱暴だが、店主はその剣をそっと優しくカウンターに置いた。
悠真はそれをじっと見る。
刃渡りは以前使っていたものと同様、九十センチ程度。つまり西洋刀剣――ロングソードだ。
前の武器と似たようなものをあえて選んできてくれたのだろう。
が、それ以外は特に目立った特徴はない。
文句はないが、店主がわざわざ引っ込んでまで取りに行くほどの業物には見えない。
「持ってみろ」
やや不満気な表情を浮かべてしまっていたのか、店主が悠真にそう指示する。
そして、言われた通りロングソードを手にした瞬間――
「――!」
悠真は思わず、手に握ったロングソードを凝視していた。
その反応に、店主はニタリと悪戯が成功した時のような笑みを浮かべて口を開く。
「どうだ、軽いだろ?」
「は、はい。なんですか、これ。軽いし、しっくりきます」
「最近発見された鉱石を使った業物だ。そうだな、噂じゃ、かの剣聖もこの鉱石で造られた長剣を使っているそうだ。軽くて丈夫。まさに武器には打ってつけってわけだ」
「剣聖……ッ」
脳裏を、過る。
ゴブリンの大群を前に無様に地に伏し、朧気な意識の中で見た彼女の――剣聖ラーシャ・ナクレティアの姿が。あっという間に敵を屠っていく彼女の美しい剣技を見て抱いた、己の無力さが。その屈辱が。
「――――」
ふと、今握っているロングソードの刀身が白いことに気付いた。
(そういえば、あの人が使っていた剣も、刀身が白かったっけ……)
そんなことを考えているうちに、悠真の中で既に答えは出ていた。
「じゃあ、これにします。――あと、は……」
ロングソードをカウンターの小型ナイフの横に置きながら、悠真は壁に立てかけられている盾へと視線を向ける。
「おすすめの防具とかはありますか?」
「……あれはやめておけ。お前はまだそれを扱うに足る十分な筋力がねえ。防具ってのはな、装備するだけでもかなりの体力を使うんだ。お前が装備しても動きが鈍くなるだけでろくなことはねぇ」
「それはそれは、辛辣な評価で……」
店主の歯に衣着せぬ物言いに小さく溜め息を零しながら、悠真はそれを否定しなかった。
自分が未熟であることなど百も承知だ。今更誰に言われるまでもない。
「じゃあさっきの小型ナイフ二本とこれでお願いします。いくらですか?」
小型ナイフは以前買ったことがあるので二本で五千マネであることは知っている。だが、ロングソードは予想できない。
以前使っていたのはシャルナに貰ったものなので、ロングソードの価格相場すら分からなかった。加えて、このロングソードの刀身には最近発見された鉱石が使われているという。
「そうだな……三十万ちょっとってところか。このロングソードは仕入れたばかりでまだ価格は付けてなかったんだがな」
「さ、さんじゅっ、三十万!?」
「そう驚くことじゃねえだろ。これにはそれだけの価値があるんだからな。――なんだ? もしかして足りねえのか?」
目を細め、店主は悠真を見つめる。
悠真は小さく首を横に振った。
「い、いえ、あります。えっと、これでお願いします……」
慌てて麻袋を取り出し、白金貨を三十枚と金貨五枚を手渡す。
そして同時に装備を受け取り、身につけた。
武器一本に……三十万円。
価格には驚いたが、悠真はすぐに思い直す。
命を守るための武器。それがたったの三十万円ならば安いものではないだろうかと。
今はそれほど蓄えに困ってはいないし、何より収入のあてもある。
そう考えながら、悠真は店主に頭を下げて武器屋を出た。
武器の調達を終え、この後行くのはギルド会館だ。そこでするのはもちろん、依頼の受注。
ただし、やることは今までとは少し違う。
「さて、と……」
決意を固めるように小さく呟いてから、悠真は空を見上げる。
内に抱いた悠真の覚悟を後押しするように、そこには雲一つない青空が広がっていた。
† † †
ギルド会館に辿り着いた悠真は、ドアを開けようとして少し躊躇った。
今までのように薬草採取依頼だけを受けて草原に向かうのとはわけが違う。
朝方に下した二つめの決断。それは、いわば諸刃の剣だ。
それを理解しているからこそ、悠真はすぐにそのドアを開けることが出来ない。
ただ、このままの自分でいいわけがない。
思い返す。
ゴブリンの大群が押し寄せてきた際に改めて痛感した自分の無力さを。
地に這いつくばりながら見た、真の強者の姿を。
そうなりたいと、そう在りたいと、願っていた悠真だからこそ、感じたことがある。
「――ッ」
唾を呑みこんで、決意を固める。
ここに来て、悠真は自分の愚かさを改めて認識した。
何度固めようとも揺らいでしまう決意。
どうしようもない自分の醜さ。
けれど、それから逃げているだけではこの過酷な世界を生き抜くことは出来ない。
――そのことを、思い知らされたのだ。
俯きそうになっていた顔を上げ、真っ直ぐ前を見つめて悠真はようやくギルド会館のドアを押し開けた。
二人の受付嬢がいるギルド受付。
いつものように、片方には人があまり並んでいない。そしてそこにいるのは、悠真がこの世界に来てから世話になっている数少ない知り合いの一人。
肩ほどまでの水色の髪と比較的高い背丈が特徴的な女性――ネロ・フォレスだ。
ネロは瑠璃色の瞳に悠真の姿を捉えると、僅かにその表情を緩ませた。
初対面の頃と比べたら幾分か打ち解けることが出来たのではないかと、悠真は勝手に思っている。
もちろん、それがいいことなのかと聞かれればよく分からない。
悠真は今まで通り、ネロのいる受付へ向かった。
その時ふと、自分をジロジロと見つめてくる複数の視線に気付いた。
ギルド会館の中にいる冒険者達である。
ちらりと悠真は、視線の主達を見返した。
するとすぐさま冒険者達はバツが悪そうに視線を逸らした。
「……?」
彼らのその反応は、悠真にとっては意外なものだった。
冒険者であるにもかかわらず、討伐依頼を受けずに薬草採取だけで小銭を稼ぐ臆病者。
悠真のことを彼らはそう嘲り、蔑んだ。
ギルド会館で顔を合わせるたび、いつも侮蔑の言葉をぶつけてきた彼らだったが、今日向けられてくる視線はいつもと少し違う。
ひとまず冒険者達のことは頭の片隅に置き、悠真はネロに声を掛けた。
「ネロさん、おはようございます。――早速ですが、依頼を……」
「おはよう、ユーマ。依頼ね……少し待っていなさい。今用意するわ」
「い、いえ、今日は薬草採取ではなくて……」
「……?」
依頼書を取り出そうとするネロを制止すると、彼女は眉を寄せながら悠真を見返す。
その訝しげな視線に一瞬切り出すのを躊躇ったが、しかし胸の内で自身を鼓舞して口にした。
「今日から――討伐依頼を受けようと思うんです」
教会を出ることとともに決めた、二つめの決断。
それは、採取依頼だけでなく、討伐依頼も受けるということ。
この世界に来てから決して歪めることのなかったその生き方を、悠真はこの日ついに変えようと決意した。
「……え?」
悠真の突然の発言に、珍しくネロの表情に大きな感情の揺らぎが見てとれた。
その揺らぎは驚きで、そしてその驚きは声となってネロの口から零れていた。
ネロのみならず、周囲にいる冒険者達も驚愕し、悠真の発言の真意と、次なる動向を注視していた。
驚くネロに対し、悠真は再度伝える。
「ですから、今日は討伐依頼を受けようと思うんです。もちろん、採取依頼も受けますが」
討伐のついでに薬草の採取も出来るかもしれない。
採取依頼は原則無期限だ。今日中に採取しないといけないということではない。
何より、討伐依頼となると森の奥に入ることになるだろう。
ここ最近、悠真の懐をだいぶ潤してくれた薬草――マファールをたくさん採取できる可能性もある。
「……? あの、何かまずいことでも? 受けることが出来ないとか……」
「ッ、そ、そういうことじゃないわ! ……ゴブリンの討伐依頼を受けるってことでいいの? 報酬は一体につき一万マネだけど」
「はい。ただ、一つ確認してもいいですか? ゴブリンの討伐の証明になる魔石の回収方法なんですけど……」
魔石――つまりはゴブリンの心臓だ。
先日のゴブリンとの戦闘においては、気を失った悠真の代わりにラーシャが討伐証明を持ち帰り、悠真はその報酬を分け与えて貰った。
これまで少なくない数のゴブリンを討伐した悠真だが、正式な討伐依頼ではなかったり、瀕死に陥ったりしたせいで、いまだ魔石の回収方法だけは謎だった。
「もちろん、説明するわ」
コホンと小さく咳をしてから、ネロは慎ましやかな胸に手を当てる。
「ゴブリンにとっての魔石は、知っての通り心臓よ。だから胸の中心部に魔石は埋まっているわ。倒したゴブリンの胸をナイフなどで開き、魔石を体から引きちぎるようにして採取するの」
「――――」
ネロの説明を聞いて、悠真はその光景を脳裏に思い浮かべる。
つまり、倒したゴブリンの死骸の胸を開き、手を突っ込んで魔石を体から抜き取る。
想像するだけで不快になり、吐き気を催す。
だが、それでも――
「分かりました、ではそれを受けます。えっと、期限とかってあるんですか?」
「いえ、ないわ。性質としては薬草採取依頼と同じね。討伐した数に応じて報酬が支払われるの。ただし、ユーマの場合は、討伐に行く日と戻って来た日は必ずここに記名しなさい」
それが何故なのか、聞くまでもなかった。聞きたくもなかった。
その事実を踏まえても、悠真は討伐依頼を受ける。
本気で討伐依頼を受けるのだと悠真の表情を見て改めて理解したネロは、事務処理を始めた。
悠真に名簿を渡し、署名するよう告げる。
シャルナの指導のおかげで、自分の名前程度ならば書けるようになった。
書き切り、名簿を渡すと同時に、依頼書を受け取る。
「どうして、討伐依頼を受けるの?」
ふと、ネロが尋ねてきた。だがネロの視線は、手元の事務作業に向けられたままだ。
「……え?」
その問いの意味が分からなかったわけではない。
ただ、ネロがそれを聞いてくるのが悠真には意外に思えた。
基本的に受付嬢としての一線を越えて、冒険者の事情に踏み入ってくる彼女ではない。
だから仮に悠真の決断に驚きと疑問を抱いたとしても、そのことに言及することはないと思っていた。
悠真の困惑の声に、ネロはハッと慌てたように訂正する。
「別に深い意味はないわ。少し気になっただけ」
「いえ別に、それはかまわないんですけど……」
きっと、ネロは自分のことを心配してくれているのだろう。
悠真は頭を掻きつつ少し照れくさそうに答える。
「……変わりたかったんです」
そう、変わりたかった。変わりたい。変わらなければならない。
地球にいた頃の自分を捨て、この世界において自分が憧れ、理想とする強者に近付きたいと。
そんなことを思ったのはきっと、自分の無力さを嫌というほど知ったから。
確かにあの日、自分は勇気を奮い立たせて立ち上がった。
凄まじい数の魔物を相手に戦った。
逃げなかった。
でも、結局のところ、最後の最後で悠真は敗れた。自分一人の手で、守りたいものを守れなかったのだ。
その屈辱を、身をもって味わった。
そして一方で、あらゆる理不尽を軽々と消し飛ばし、守りたいものを最後まで守り切る真の強者の姿を見た。
この世界に来たばかりの悠真であれば、たとえあの光景を見たとしてもこんなことを考えはしなかっただろう。大切な人が出来ていなかったら、強くなろうなどとも思わなかったはずだ。
悠真の曖昧な答えに、ネロは首を傾げる。
それを見て僅かに苦笑しながら、悠真は軽く会釈をし、ギルド会館の出口へと体を向けた。
弾かれたように、冒険者達が悠真から視線を逸らす。
そのことに気付きつつも、しかし気付いていないフリをして、悠真はギルド会館の扉を開けた。
眩しい光が目に飛び込んできて、思わず手をかざす。
さて、と気持ちも新たに、悠真は森へ向かって歩き出した。
第二章 剣聖
ファウヌスを出てすぐに広がる草原。
悠真がこの世界に来てからずっと、ネロチンソウを採取するために活動していた場所だ。
だが、今日はその草原を横切り、森の中へと向かう。
左腰にしまった二本の小型ナイフと、薬草採取用の右腰のスコップ。
そして何より、背中に背負った新調したばかりのロングソードの重みを感じながら、悠真は辺りを警戒しつつ突き進む。
「――――」
しんとした森の中。
心臓のバクバクとした音がいやに大きく聞こえる。ゴブリンが近くにいれば、もしかしたらこの鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほどだ。
敵がいつ現れても対処できるよう、右手は常時ロングソードの柄あたりに置かれ、左手は小型ナイフに添えられている。
ものの数分歩けば、振り返っても木々に視界を遮られて草原を見ることが出来ない。
「後戻りするなら今のうちだぞ」
自分に対する意味のない問いを小さく呟きながら、悠真はその場に立ち止まった。
わずか数分間とはいえ緊張しっぱなしだったために喉がひどく渇いたのだ。
持参した水を口に含み喉を潤しながら、悠真は耳を澄ます。
木々がざわめく音はあれど、ゴブリンの気配は感じない。
あるいはこの間の大群襲来の影響でこの森に棲息していたゴブリンの大多数がいなくなったのだろうか。
そんな疑問を抱きながら、水筒を懐に仕舞って悠真は更に奥へと進む。
「ん……?」
進むこと数十分。
獣道のような、草木に阻まれかろうじて身動きがとれる道なき道を歩いていると、突然足下でパキッという音が鳴った。悠真は訝しんで視線を落とす。
足下には小枝が敷き詰められていた。
(なんだ、小枝か……)
緊張状態にあった悠真は異音にドキリとしたが、その音の正体がただの小枝であったことに胸を撫で下ろす。
ただ次の瞬間、どうして緑生い茂るこの場所に小枝なんかが敷き詰められているのか。その疑問が脳裏に浮かび、意識して答えを考えるよりも先に背筋にゾワリと悪寒がした。
「――ッ!」
同時に、何かが風を切る音が耳に飛びこむ。悠真は一瞬先に本能に従ってその場を力強く蹴り、前に跳びこむようにして転がった。
先ほどまで立っていた場所に敷き詰められていた小枝がバキバキとへし折れる。悠真はすぐさま振り返り、ロングソードを引き抜いた。
「……なるほど、その小枝はお前の仕業ってことか」
赤黒い刃物を持った小柄の化け物。濃い緑色の肌は森に馴染んでいる。
言わずもがな、ゴブリンの登場である。
「集団での戦い方から知能はあると思ってたが、まさかこんなものまで仕掛けてくるとは予想外だった。……それにしても、お前一人か」
目の前のゴブリンに意識を向けながらも、悠真は周囲の気配を探る。
そして目の前の一体しかいないことが分かると、口角を上げた。
「こちとらそれなりに経験を積んできたんだ、この世界に来たばかりの時のようにはいかないぜ。一体程度なら……」
悠真がまるで自分に言い聞かせるように呟いていると、それを遮るがごとくゴブリンが地を蹴った。
真正面に跳びこんでくるゴブリンから目を逸らすことなく、悠真は一旦回避しようと足に力を込めて、気付く。
(逃げられない……! くそっ)
左右に立ちはだかる木々に逃げ道を阻まれ、悠真は仕方なくゴブリンの突き出してきた刃物をロングソードで受け止める。
ガキンッという不快な金属音が鳴る。悠真はそこから更に力いっぱいロングソードを振り抜いた。
「……っ!」
これまでの戦いでの経験上、純粋な力でいえばゴブリンを軽く上回っている。
狙い通り、ゴブリンは手に持っていた刃物ごと吹っ飛んだ。
「ギャギャァッ!!」
不安定な地面に足をとられたゴブリンは、着地に失敗して転がる。
そこに付け入ろうと前屈みになるが、すぐさま体勢を立て直したゴブリンを見て攻勢に出るのをやめた。
(周囲に開けたところはない。やっぱりこの獣道で戦うしかないか)
応援ありがとうございます!
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