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33.懸念材料

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「というわけで、今度帰る時にサリサ連れて行くことになった」
「駄目です」

 昼食後の広間でハイドラが話を切り出すと、笑顔の執事に却下されてしまった。しかも口で言うだけではなく、両腕をクロスして×印を作りながら。
 このままではレイティス行きの話がなくなってしまう。サリサが内心焦っていると、ハイドラは予想済みだったのか取り乱すことなく言い返した。

「あのなぁ。街を歩かせるわけでも、城ん中に連れていくわけでもない。私の家に滞在させるだけだから心配するなよ」
「心配します。あなたの部屋大丈夫なんですか? 虫沸いてません?」
「お前私の家を何だと思ってるんだ。以前やらかしてるから、その辺りの対策はバッチリだ」
「聞いてくださいよ、サリサ様。この人、以前自宅を白蟻しろありに侵食されて倒壊させているんです」

 サリサは想像して息を呑んだ。昆虫の恐ろしさと強さを感じさせるエピソードである。

「新・ハイドラハウスもいつか白蟻の被害を受けて、最後には家ごと焼き払う未来しか見えません。そんな場所にサリサ様を滞在させるなんて、不安でしかありません」
「……私がレイティスに行くこと自体はいいんですか?」
「まあ……現在レイティスでのヴィクター様のお立場はあまりいいものではないので、彼の妻と名乗るのは避ける方が賢明かと。それにハイドラが人間の女性を連れてきた……となれば、上層部はすぐに何者か察するでしょう。ヴィクター様の伴侶で闇魔法の使い手。妙な企みを持って近づこうとする輩が出るはずです」

 ヴィクターが失態を冒したことは知っているが、国民からの悪感情は相当なものらしい。
 何をしてしまったのだろう、とサリサは表情を曇らせる。

「ただ、そこは深く心配していません」

 少女を元気づけるように、アグリッパはやや語気を明るくして言う。

「ハイドラが傍についている限り、そんな連中はサリサ様に接近することもできないでしょうし」
「ハイドラ様はお綺麗なだけじゃなくて、とってもお強いんですね」
「へぇ~、お綺麗ですってよ。よかったですねぇ、美人なメイド・・・・・・さん?」
「そーだな」

 サリサは普通に褒めたつもりだったのだが、何故か複雑そうな表情をされてしまった。
 今後は容姿については触れない方がいいかも、とサリサが考えていると屋敷の主が広間に姿を見せた。

「どうした。何か揉めているようだが」
「それがですねぇ、ハイドラがサリサ様をレイティスに連れていくって言い出したんですよ」
「サリサを?」

 アグリッパから事情を聞かされ、ヴィクターは視線をサリサに向けた。彼に行くなと言われたら、流石に素直に応じるしかない。
 サリサは覚悟を決めるも、

「構わん。行ってこい」

 何とあっさり許可が下りてしまった。
 これにはハイドラも目を丸くしている。

「何だ。アグリッパみたいに反対するのかと思ったら」
「……お前の家が虫に侵食されていないことが条件だ」
「サリサの護衛をしっかりしろとかじゃなくて、そこかよ!」
「護衛は俺に言われなくともするだろう」
「そりゃあな」
「それに」

 ヴィクターは一拍置いてから言葉を続けた。

「先程女王陛下に経過報告をしていたら、サリサにレイティスを案内するようにと仰っていた」
「案内するように? 自分のところに連れてこいとかじゃなくてか」
「ああ」
「……ま、その方が別に面倒ごとが減るからいいか。サリサだって、無駄に元気なばあちゃんに絡まれたくないだろ」
「え、ええと……」

 その『ばあちゃん』とは女王のことだろうか。サリサはハイドラに話を振られて返答に困った。

 
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