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61話

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「あ……いや、それは……ええと……」

 過去の行いを暴露されたトーマスの顔は、赤くなったり青くなったりと忙しくなっていた。
 周囲からの突き刺さるような視線。
 息が詰まるような重苦しい空気。
 それらから逃れたい一心で、言葉をひねり出す。

「ぼ、僕は両親をとても誇りに思っています。子供だった僕のために頭を下げて、守ってくれて……えーと、そんな二人が残してくれたソルベリア公爵家を守る義務が僕にはあります!」
「そうだな。先代夫妻は貴様の罪を不問とさせるために、王女への慰謝料をソルベリア公爵家が負担することを決めた」
「慰謝料!?」

 トーマスはぎょっと目を見開いた。

「そんな話聞いたことがありませんよ! だって父上も、『あちらの王女が特別に許してくださった』っておっしゃってましたし!!」
「何の見返りもなしに許したとでも思っていたのか? 仮に王女が許したとしても、周りの人間が黙っているわけがなかろう」
「で、ですが、あんな小さな国に慰謝料なんて、ロシャーニア王国がなめられてしまいます!」
「ほお? 自分より立場の弱い相手なら、どのようなことをしても罪に問われないと申すのか?」
「そうではありませんが……」

 言葉を濁すトーマスに、国王はすぐさま視線を逸らす。

「……話を戻そう。ソルベリア公爵家は、メルヴィンの件で王家にも慰謝料を支払うことになっていた。いかに公爵家と言えども痛手が大きく、経営資金にまで手を出すことになりかねん。そこで、王家は小国への慰謝料を半分肩代わりしたのだ。……ある条件と引き換えにな」
「じょ、条件ですか?」
「トーマス、貴様の更生だ」

 国王は冷ややかな声で告げた。
 一方、トーマスは目を丸くしている。

「跡取り息子の性根を叩き直し、ロシャーニア王国の発展に貢献させること。それができなければ富、領地、私財、爵位……ソルベリア公爵家の全てを王家に引き渡せと命じた」
「だけど、僕は立派に成長しました! こうして亡き父に代わり、ソルベリア公爵家を守っておりますっ!」
「守っている? 貴様は、ソルベリア領の現状を理解していないのか?」

 呆れたような口調で尋ねる国王に、トーマスは唇を噛み締める。

(うちの領に何か問題があるって言うのかよ! 僕がちゃんと管理してるから問題ないってば!)

 そんな考えを見抜いたのか、国王は首を横に振って溜め息をつく。
 そして地を這うような低い声で言う。

「……跡継ぎなど、分家の優秀な子を養子として迎えるだけで簡単に解決する。やはり、あの時毒杯を飲ませるべきだったのだ」
「え……ど、毒杯って……僕は子供だったんですよ!?」
「他国の王女に精神的苦痛を与え、自国の王太子に後遺症の残る傷を負わせた。そのような子供に生かしておく価値があると思うか?」

 トーマスではなく、他の貴族たちへ問いかける。
 苛烈な物言いだったが、反論する者は誰もいない。

「さて、ここからが本題だ。先代と交わした契約が履行されなかったため、ソルベリア公爵を廃爵させるつもりなのだが、私の一存で決定するわけにもいかぬ。貴殿たちから意見を聞きたいのだが……」
「異論はございません。今すぐ廃爵にしてしまえばいいのです」
「以前から不愉快な男と思っていましたが、まさか王太子殿下に危害を加えていたとは……まったく腹立たしい!」

 高位貴族による非難の声が飛び交う。

(な、何だよこれ……)

 トーマスは青ざめた顔で、全身を震わせていた。
 先ほど自分の法案に賛同していた下位貴族も気まずそうに俯くか、嫌悪の表情を向けるばかり。
 ここにいる全ての人間が、トーマスの敵となっていた。

「……失礼します!」

 そう叫んで、逃げるように会場を後にする。

(王様のくせに、こんな吊し上げみたいなことを……恥ずかしくないのかよ!)

 王女に手を出そうとしたことも、王太子に怪我をさせたことも昔の話だ。
 なのに、今さらほじくり返されるなんて思わなかった。

 
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