私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

文字の大きさ
28 / 30

似た者同士

しおりを挟む
「私は殿下にお会いしてきますので、あなた方はこちらでお待ちください。後ほど、お話の続きをいたしましょう」

 アリシアがにこりと笑って広間から出て行く。「ここで大人しくしていろ」ということだろう。
 しかし素直に従う道理などない。廊下からアリシアの足音が聞こえなくなったのを見計らい、退室しようとする。

「お待ちください、ダミアン様。どちらに行かれるのですか?」

 剣呑な目付きをした執事がダミアンを呼び止めた。

「この僕に指図するな! 僕が殿下に気に入られたら、お前などこの屋敷から追い出してやる。いや、お前だけじゃない。他の使用人や母上もだ!」

 ダミアンはそう吐き捨てて、部屋を飛び出した。
 どんな時も我が子の味方をして、生意気な嫁を厳しくたしなめる。
 それが母親の存在意義だ。息子を守ろうとしない母など必要ないだろう。

 自分とアリシアだけがいれば、それでいい。
 使用人たちも総入れ替えで、ダミアンが選んだ者を揃えるつもりだ。
 子供は三人ほど欲しい。男児が二人、女児が一人。嫡男には家督を継がせ、娘は王家に嫁がせる。残りの一人も文官に就かせたいところだ。
 ダミアン自身も、初の女公爵として苦労の多い妻を支える良き夫として、名声を得る。
 理想の未来を掴み取る最後のチャンスだ。
 必ず成功させてみせると鼻息を荒くさせる。

「そこをどきなさいよ、このクソ男!」

 背後から聞こえてくる声に振り向いて、ダミアンは顔を歪めた。ポーラが鬼気迫る表情で、こちらへ駆け寄ってくるではないか。

「お、お前……っ!」
「王太子殿下にお願いするの! 私を愛妾にしてくださいって!」
「んな……バカなことを言うな! 男に抱かれすぎて、頭でもイカれたのか!?」
「私の美しさや身体の良さ・・・・・はあんたもよく分かってるでしょ!? 殿下にまだ婚約者がいないのは、好みの相手が見付からないからよ! きっと私を見初めてくださるはずだわ!」
「…………」

 大した自信だとダミアンは呆気に取られる。
 妃ではなく愛妾と言っているところを見るに、一応自分の立場は理解しているようだ。
 その上で自分が王太子に選ばれると信じて疑わずにいる。

「だから、あんたがいると邪魔なのよ! 部屋に戻ってなさいよ、ゴミクズ!」
「それは僕の台詞だ! それにお前なんて見た目だけの女じゃないか! 殿下がお前をお選びになるわけないだろ!」
「あんただって、公爵家から廃嫡されたら何も残らないじゃない!」
「そ……そうはならないさ! 殿下に助けていただくからな!」
「漢のくせに王家を頼ろうとしてんの!? だっさいわね!」
「黙れ黙れ黙れ!!」

 こんな痴女を相手にしている暇はない。ダミアンはポーラを勢いよく突き飛ばし、レナルドとアリシアがいるであろう応接室へと駆け込んだ。

「レナルド殿下! どうか、私をお救いくださ──」

 ダミアンの懇願は最後まで続かない。
 その視線の先には、恭しく両手を取り合う二人の姿があった。

 

しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...