29 / 29
王命
しおりを挟む
「あ、あの……レナルド殿下? 何故私の妻の手を握っているのですか……?」
自分はいったい何を見ているのだろうか。ダミアンが声を震わせながら尋ねると、レナルドは照れ臭そうに笑った。
「アリシア様に求婚しておりました。あなたとの離婚が決定したと、オデット様から書状が送られてきましたので」
そう答えながら見たのは、いつの間にかダミアンの後ろに立っていたオデットだった。
「母上、これはどういうことですか!?」
「あなたも薄々察しているのではなくて? アリシアはあなたと離婚後、レナルドと婚約することになっているのよ」
「「はぁ!?」」
ダミアンとポーラはほぼ同時に、素っ頓狂な声を上げた。
アリシアとレナルドの結婚。それはつまり、アリシアが王太子妃になることを意味している。
自分たちの計画が思わず形で潰れてしまい、二人は唇を震わせていた。
「み……認められない! こんな結婚認められるはずがない!」
ダミアンはアリシアを指差して力強く叫んだ。
「僕は君との離婚をまだ認めたわけじゃないぞ! それなのに他の男と懇意の仲になるなんて、これは立派な浮気だ! 貴族たちだって黙っていないからな!!」
「そ……そうよ! どんな手を使ってレナルド様を誑かしたかは知らないけど、国王と王妃が許すと思ってるの!? ふざけんなじゃないわよ、このクズ女!」
ポーラも一緒になって口汚く罵倒するが、アリシアは王太子と手を取り合ったまま、にっこりと微笑んだ。しかし目は笑ってはいない。
「浮気? クズ女? どの口がどのようなことを仰るのかしら」
「確かに私は不貞行為を働いた! だからといって、君も同じことをしてお咎めなしというわけには……」
「あら、そんなことを仰られましても、私たちの婚約は王命ですもの」
「王命……?」
王族の結婚で王命が発令されるなんて聞いたことがない。国王からの言葉を、大げさに捉えているだけではないのか。
そんなダミアンの思考を見透かしたように、オデットは息子に一枚の羊皮紙を差し出した。
「バ、バカな……」
ダミアンとの離婚が確定次第、アリシアはレナルドと速やかに婚約を結ぶことを命じる。要約すると、そのような文章が綴られていた。下部には国王だけではなく、宰相や法務大臣の署名も記入されている。
「何よ、これ? 国ぐるみで浮気を認めるつもりなの? だったら……」
上手く取り入ることが出来れば、自分もレナルドの愛人くらいのポジションにつけるかもしれない。
ポーラはニヤリと笑みを浮かべ、レナルドへ駆け寄ろうとしたが、
「ちょっと、何すんのよ!?」
「殿下に近付くな、無礼者め!」
「うるさい! 私はレナルド様に用があるのよ! レナルド様はきっと私の魅力に気付いてくれるはずだわ!」
即座に護衛兵たちによって取り押さえられ、部屋の外へと連れ出されていく。その際、ポーラは媚びを売るような甘えた声でレナルドを呼び続けていたが、本人から冷ややかな視線を向けられ、押し黙ってしまった。
「そんな……どうしてどいつもこいつも、僕からアリシアを奪おうとするんだ……」
ダミアンはポーラには一切目もくれず、呆然とした表情で羊皮紙を見詰めていた。その様子を見ていたオデットは、呆れたように深く溜め息をつく。
「あなたのことだもの。あらゆる姑息な手を使って、アリシアを取り戻そうとするに決まっているわ。それを防ぐために、陛下は王命を発令なさったのよ」
「し、しかし……僕はアリシアを愛して……」
「あなたの言葉を信用することは出来ませんわ」
アリシアは清々しい笑みを浮かべ、ダミアンの虚言を一刀両断した。
自分はいったい何を見ているのだろうか。ダミアンが声を震わせながら尋ねると、レナルドは照れ臭そうに笑った。
「アリシア様に求婚しておりました。あなたとの離婚が決定したと、オデット様から書状が送られてきましたので」
そう答えながら見たのは、いつの間にかダミアンの後ろに立っていたオデットだった。
「母上、これはどういうことですか!?」
「あなたも薄々察しているのではなくて? アリシアはあなたと離婚後、レナルドと婚約することになっているのよ」
「「はぁ!?」」
ダミアンとポーラはほぼ同時に、素っ頓狂な声を上げた。
アリシアとレナルドの結婚。それはつまり、アリシアが王太子妃になることを意味している。
自分たちの計画が思わず形で潰れてしまい、二人は唇を震わせていた。
「み……認められない! こんな結婚認められるはずがない!」
ダミアンはアリシアを指差して力強く叫んだ。
「僕は君との離婚をまだ認めたわけじゃないぞ! それなのに他の男と懇意の仲になるなんて、これは立派な浮気だ! 貴族たちだって黙っていないからな!!」
「そ……そうよ! どんな手を使ってレナルド様を誑かしたかは知らないけど、国王と王妃が許すと思ってるの!? ふざけんなじゃないわよ、このクズ女!」
ポーラも一緒になって口汚く罵倒するが、アリシアは王太子と手を取り合ったまま、にっこりと微笑んだ。しかし目は笑ってはいない。
「浮気? クズ女? どの口がどのようなことを仰るのかしら」
「確かに私は不貞行為を働いた! だからといって、君も同じことをしてお咎めなしというわけには……」
「あら、そんなことを仰られましても、私たちの婚約は王命ですもの」
「王命……?」
王族の結婚で王命が発令されるなんて聞いたことがない。国王からの言葉を、大げさに捉えているだけではないのか。
そんなダミアンの思考を見透かしたように、オデットは息子に一枚の羊皮紙を差し出した。
「バ、バカな……」
ダミアンとの離婚が確定次第、アリシアはレナルドと速やかに婚約を結ぶことを命じる。要約すると、そのような文章が綴られていた。下部には国王だけではなく、宰相や法務大臣の署名も記入されている。
「何よ、これ? 国ぐるみで浮気を認めるつもりなの? だったら……」
上手く取り入ることが出来れば、自分もレナルドの愛人くらいのポジションにつけるかもしれない。
ポーラはニヤリと笑みを浮かべ、レナルドへ駆け寄ろうとしたが、
「ちょっと、何すんのよ!?」
「殿下に近付くな、無礼者め!」
「うるさい! 私はレナルド様に用があるのよ! レナルド様はきっと私の魅力に気付いてくれるはずだわ!」
即座に護衛兵たちによって取り押さえられ、部屋の外へと連れ出されていく。その際、ポーラは媚びを売るような甘えた声でレナルドを呼び続けていたが、本人から冷ややかな視線を向けられ、押し黙ってしまった。
「そんな……どうしてどいつもこいつも、僕からアリシアを奪おうとするんだ……」
ダミアンはポーラには一切目もくれず、呆然とした表情で羊皮紙を見詰めていた。その様子を見ていたオデットは、呆れたように深く溜め息をつく。
「あなたのことだもの。あらゆる姑息な手を使って、アリシアを取り戻そうとするに決まっているわ。それを防ぐために、陛下は王命を発令なさったのよ」
「し、しかし……僕はアリシアを愛して……」
「あなたの言葉を信用することは出来ませんわ」
アリシアは清々しい笑みを浮かべ、ダミアンの虚言を一刀両断した。
1,473
お気に入りに追加
5,818
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(85件)
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
結婚式の日取りに変更はありません。
ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。
私の専属侍女、リース。
2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。
色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。
2023/03/13 番外編追加
〖完結〗拝啓、愛する婚約者様。私は陛下の側室になります。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢のリサには、愛する婚約者がいた。ある日、婚約者のカイトが戦地で亡くなったと報せが届いた。
1年後、他国の王が、リサを側室に迎えたいと言ってきた。その話を断る為に、リサはこの国の王ロベルトの側室になる事に……
側室になったリサだったが、王妃とほかの側室達に虐げられる毎日。
そんなある日、リサは命を狙われ、意識不明に……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
残酷な描写があるので、R15になっています。
全15話で完結になります。
モラハラ王子の真実を知った時
こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。
父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。
王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。
王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。
いえ……幸せでした。
王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。
「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」
「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。
長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。
*1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。
*不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。
*他サイトにも投稿していまし。
夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!
火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。
しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。
浮気相手は平民のレナ。
エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。
エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。
ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。
「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」
ば、馬鹿野郎!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ポーラの方がまともwww ←生存競争的に(笑
【似た者同士】
多分、アリシアと殿下が、
話し合いげうまくいって、握手してるだけだと思う。
責任転嫁・確かに頭がわるい‼️😭💦💦。