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8.妹と優越感(アラン視点)

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 私がシャロンと縁を切ってから二ヶ月。
 エミリーとクラレンスの婚約を破棄してからは、三週間が経とうとしていた。

「ぐすっ……酷いです、クラレンス様。わたくしを捨てるなんて……」

 エミリーはここ最近、一日中部屋に籠って啜り泣いている。
 私は可愛い妹に、何もしてやれない。
 こうして傍に寄り添い、話を聞いてやることしか出来ずにいた。

「くそっ、クラレンスの奴……!」

 クラレンスへの怒りで、私は奥歯をギリッと噛み締める。
 奴はエミリーの婚約者にも拘わらず、あの馬鹿女シャロンの味方をした。
 到底許されることではない。
 母もそのことに怒り心頭で、リード家に抗議の書状を送った。
 エミリーに対する非礼を詫びなければ、この婚約を破棄させてもらうと。
 そうすれば、クラレンスも血相を変えて頭を下げに来ると思っていたのだ。

 なのに……

「何が『自分の行為は正当である』だ! ふざけた返事を寄越しやがって!」

 怒りに任せてテーブルを叩くと、エミリーがビクッと肩を震わせた。
 その姿を見て我に返り、慌てて「す、すまない」と謝る。

「いいえ。わたくしこそごめんなさい、お兄様。こんなことになってしまって……」
「……あまり自分を責めるな」

 エミリーに謝罪はしない。むしろ、エミリーがシャロンに謝るべきだ。
 それがクラレンスの主張だった。
 どうして、シャロンを庇おうとするのか。
 コサージュを貸すのを断ったばかりか、ワインをエミリーにかけたあの女が悪いに決まっているのに。
 それに、どうせシャロンはもう終わりだ。
 私と母が、レイネス家とは距離を置くようにと色んな貴族に釘を刺しておいたからな!
 
「も……もしかするとクラレンス様は、最初からわたくしではなくシャロン様を愛していたのかもしれません……」
「! それはあり得るな……」

 シャロンは事あるごとに、クラレンスを庇う発言をしていた。
 あんな冴えない男にシャロンが惚れるとは思えないが、その逆はあり得る。

「アラン様、エミリー様。お時間よろしいでしょうか?」

 部屋のドアをノックしたのは、父に仕えている執事だった。
 父がエルガニアに行っている今は、母の補佐を行っている。
 しかし、空気の読めない男だ。こんな大事な話をしている最中に。

「何だ? 私は忙しいんだ」
「クラレンス子息が新たに婚約なさったとのことです」
「っ、あいつの名前を出すんじゃない!」
「そ、それがそのお相手が、レイネス家のシャロン嬢とのことでして……」

 ドア越しから聞こえて来た言葉に、私は頭に血が上った。
 エミリーに謝らなかったどころか、新しい婚約者にシャロンを選んだだと……!?
 
「お兄様!」

 エミリーは涙をはらはらと流しながら、私に抱き着く。

「わたくし、もう誰も信じられないっ。お兄様しか信じられない……!」
「エミリー……」
「……お願い。どうかわたくしを捨てないで」

 潤んだ瞳で、私をまっすぐ見詰めるエミリー。
 妹が信じられるのは、もう自分だけだ。
 私はエミリーの背中に手を回しながら、ほの暗い優越感に浸っていた。
 妹に相応しい相手なんて、一生見つからなければいい。
 こうして、私が守り続けるんだ……

「大丈夫だ。私はエミリーを捨てないし、あいつらに必ず天罰を下してみせる……!」

 まずはお前からだ、シャロン。
 あの女の大事なものを奪ってやる!!
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