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3.夜会への出席
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王家主催の夜会は、第一王女の離宮で開かれる。
私はアラン様とともに、ホロウス家の馬車で会場へ向かうことになった。
こういった場合、普通なら男性が女性を迎えに行くものだけれど、アラン様は「お前の従者になったようで、気に入らない」と拒否した。
なので私がホロウス邸へ行くことに。
「遅いぞ! もっと早く来い!」
「も、申し訳ありません。支度に時間がかかってしまって……」
「そんなものに時間をかけるな!」
屋敷に来て早々、怒鳴られた。
今夜のアラン様は、心なしか苛立っているように見える。
「すぐに行くぞ。エミリーがクラレンスに泣かされていないか心配だ」
どうやらエミリー様は、迎えに来たクラレンス様と先に会場へ向かったらしい。
苛立ちの原因が分かって、私は肩を竦めた。
今夜も、アラン様の溺愛ぶりは絶好調なご様子。
馬車に乗り込むと、窓の手すりを指でトントンと叩き始める。
「まったく……本当なら、私がエミリーと行くはずだったんだ。なのに、あの男が『今夜は僕にエスコートさせてください』と……!」
「それはエミリー様の婚約者として、当たり前のことでは……」
「私は、奴とエミリーの婚約を認めていない。あいつ一人で夜会に出席して、笑い者になればよかったんだ」
「……言いすぎですよ、アラン様」
私がそう諌めると、アラン様は手すりを拳でドンッと叩いた。
「どうしてお前は、エミリーのことになるとムキになって私の言い分を否定するんだ」
「え? 別にそういうわけじゃ……
「エミリーに嫉妬しているのは分かるが、大人げないぞ」
嫉妬ねぇ。
あんな美少女に勝てるとは思っていないし、アラン様に好かれたいとも思わない。
ただエミリー様のことになると、頭の中がスッカラカンになる悪癖をどうにか直して欲しいだけで。
夜会の会場は、大勢の出席者で溢れ返っていた。
「エミリー……いったいどこにいるんだ……っ」
人混みの中を突き進んでいくアラン様の後ろを、何とかついていく。
途中ですれ違ったホロウス家と親交の深い貴族や公爵家の人々には、軽く一礼した。
本当はもっとちゃんと挨拶をしておきたかったけれど、アラン様とはぐれないようにすることで精一杯だった。
「エミリー!」
「お兄様!」
ようやくエミリー様と合流出来た頃には、私はゼエゼエと息を切らしていた。
そんな私には目をくれず、アラン様は妹との再会を喜んでいる。
すると、エミリー様の隣にいた人物が私に声をかけてきた。
「……大丈夫かい?」
「え。は、はい……お気遣いありがとうございます」
黒髪に琥珀色の瞳を持つ、大人しそうな青年。
この人がクラレンス様。リード侯爵子息であり、エミリー様の婚約者だ。
「エミリーは俺が守る。お前は壁際で立っていろ、この婚約者気取りが」
アラン様はそう言いながら、エミリー様の手を引いて自分へと引き寄せた。
「クラレンス様、私の兄が申し訳ありません」
エミリー様も謝罪するものの、手を振り解こうとはしない。
そして二人仲良くどこかへ行ってしまった。え、ちょ、私はどうすれば……?
クラレンス様をチラッと見ると、呆然と立ち尽くしていた。
ありゃりゃ、こっちも置いて行かれちゃったのね。
「クラレンス様。もしよろしければ、私とお喋りしませんか?」
私がそう声をかけると、クラレンス様は目を丸くしてから「うん」と小さく頷いた。
私はアラン様とともに、ホロウス家の馬車で会場へ向かうことになった。
こういった場合、普通なら男性が女性を迎えに行くものだけれど、アラン様は「お前の従者になったようで、気に入らない」と拒否した。
なので私がホロウス邸へ行くことに。
「遅いぞ! もっと早く来い!」
「も、申し訳ありません。支度に時間がかかってしまって……」
「そんなものに時間をかけるな!」
屋敷に来て早々、怒鳴られた。
今夜のアラン様は、心なしか苛立っているように見える。
「すぐに行くぞ。エミリーがクラレンスに泣かされていないか心配だ」
どうやらエミリー様は、迎えに来たクラレンス様と先に会場へ向かったらしい。
苛立ちの原因が分かって、私は肩を竦めた。
今夜も、アラン様の溺愛ぶりは絶好調なご様子。
馬車に乗り込むと、窓の手すりを指でトントンと叩き始める。
「まったく……本当なら、私がエミリーと行くはずだったんだ。なのに、あの男が『今夜は僕にエスコートさせてください』と……!」
「それはエミリー様の婚約者として、当たり前のことでは……」
「私は、奴とエミリーの婚約を認めていない。あいつ一人で夜会に出席して、笑い者になればよかったんだ」
「……言いすぎですよ、アラン様」
私がそう諌めると、アラン様は手すりを拳でドンッと叩いた。
「どうしてお前は、エミリーのことになるとムキになって私の言い分を否定するんだ」
「え? 別にそういうわけじゃ……
「エミリーに嫉妬しているのは分かるが、大人げないぞ」
嫉妬ねぇ。
あんな美少女に勝てるとは思っていないし、アラン様に好かれたいとも思わない。
ただエミリー様のことになると、頭の中がスッカラカンになる悪癖をどうにか直して欲しいだけで。
夜会の会場は、大勢の出席者で溢れ返っていた。
「エミリー……いったいどこにいるんだ……っ」
人混みの中を突き進んでいくアラン様の後ろを、何とかついていく。
途中ですれ違ったホロウス家と親交の深い貴族や公爵家の人々には、軽く一礼した。
本当はもっとちゃんと挨拶をしておきたかったけれど、アラン様とはぐれないようにすることで精一杯だった。
「エミリー!」
「お兄様!」
ようやくエミリー様と合流出来た頃には、私はゼエゼエと息を切らしていた。
そんな私には目をくれず、アラン様は妹との再会を喜んでいる。
すると、エミリー様の隣にいた人物が私に声をかけてきた。
「……大丈夫かい?」
「え。は、はい……お気遣いありがとうございます」
黒髪に琥珀色の瞳を持つ、大人しそうな青年。
この人がクラレンス様。リード侯爵子息であり、エミリー様の婚約者だ。
「エミリーは俺が守る。お前は壁際で立っていろ、この婚約者気取りが」
アラン様はそう言いながら、エミリー様の手を引いて自分へと引き寄せた。
「クラレンス様、私の兄が申し訳ありません」
エミリー様も謝罪するものの、手を振り解こうとはしない。
そして二人仲良くどこかへ行ってしまった。え、ちょ、私はどうすれば……?
クラレンス様をチラッと見ると、呆然と立ち尽くしていた。
ありゃりゃ、こっちも置いて行かれちゃったのね。
「クラレンス様。もしよろしければ、私とお喋りしませんか?」
私がそう声をかけると、クラレンス様は目を丸くしてから「うん」と小さく頷いた。
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