上 下
3 / 18

3.夜会への出席

しおりを挟む
 王家主催の夜会は、第一王女の離宮で開かれる。
 私はアラン様とともに、ホロウス家の馬車で会場へ向かうことになった。
 こういった場合、普通なら男性が女性を迎えに行くものだけれど、アラン様は「お前の従者になったようで、気に入らない」と拒否した。

 なので私がホロウス邸へ行くことに。

「遅いぞ! もっと早く来い!」
「も、申し訳ありません。支度に時間がかかってしまって……」
「そんなものに時間をかけるな!」

 屋敷に来て早々、怒鳴られた。
 今夜のアラン様は、心なしか苛立っているように見える。

「すぐに行くぞ。エミリーがクラレンスに泣かされていないか心配だ」

 どうやらエミリー様は、迎えに来たクラレンス様と先に会場へ向かったらしい。
 苛立ちの原因が分かって、私は肩を竦めた。
 今夜も、アラン様の溺愛ぶりは絶好調なご様子。
 馬車に乗り込むと、窓の手すりを指でトントンと叩き始める。

「まったく……本当なら、私がエミリーと行くはずだったんだ。なのに、あの男が『今夜は僕にエスコートさせてください』と……!」
「それはエミリー様の婚約者として、当たり前のことでは……」
「私は、奴とエミリーの婚約を認めていない。あいつ一人で夜会に出席して、笑い者になればよかったんだ」
「……言いすぎですよ、アラン様」

 私がそう諌めると、アラン様は手すりを拳でドンッと叩いた。

「どうしてお前は、エミリーのことになるとムキになって私の言い分を否定するんだ」
「え? 別にそういうわけじゃ……
「エミリーに嫉妬しているのは分かるが、大人げないぞ」

 嫉妬ねぇ。
 あんな美少女に勝てるとは思っていないし、アラン様に好かれたいとも思わない。
 ただエミリー様のことになると、頭の中がスッカラカンになる悪癖をどうにか直して欲しいだけで。



 夜会の会場は、大勢の出席者で溢れ返っていた。

「エミリー……いったいどこにいるんだ……っ」

 人混みの中を突き進んでいくアラン様の後ろを、何とかついていく。
 途中ですれ違ったホロウス家と親交の深い貴族や公爵家の人々には、軽く一礼した。
 本当はもっとちゃんと挨拶をしておきたかったけれど、アラン様とはぐれないようにすることで精一杯だった。

「エミリー!」
「お兄様!」

 ようやくエミリー様と合流出来た頃には、私はゼエゼエと息を切らしていた。
 そんな私には目をくれず、アラン様は妹との再会を喜んでいる。
 すると、エミリー様の隣にいた人物が私に声をかけてきた。

「……大丈夫かい?」
「え。は、はい……お気遣いありがとうございます」

 黒髪に琥珀色の瞳を持つ、大人しそうな青年。
 この人がクラレンス様。リード侯爵子息であり、エミリー様の婚約者だ。

「エミリーは俺が守る。お前は壁際で立っていろ、この婚約者気取りが」

 アラン様はそう言いながら、エミリー様の手を引いて自分へと引き寄せた。

「クラレンス様、私の兄が申し訳ありません」

 エミリー様も謝罪するものの、手を振り解こうとはしない。
 そして二人仲良くどこかへ行ってしまった。え、ちょ、私はどうすれば……?
 クラレンス様をチラッと見ると、呆然と立ち尽くしていた。
 ありゃりゃ、こっちも置いて行かれちゃったのね。

「クラレンス様。もしよろしければ、私とお喋りしませんか?」

 私がそう声をかけると、クラレンス様は目を丸くしてから「うん」と小さく頷いた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】婚約者に虐げられ続けた完璧令嬢は自身で白薔薇を赤く染めた

砂礫レキ
恋愛
オーレリア・ベルジュ公爵令嬢。 彼女は生まれた頃から王妃となることを決められていた。 その為血の滲むような努力をして完璧な淑女として振舞っている。 けれど婚約者であるアラン王子はそれを上辺だけの見せかけだと否定し続けた。 つまらない女、笑っていればいいと思っている。俺には全部分かっている。 会う度そんなことを言われ、何を言っても不機嫌になる王子にオーレリアの心は次第に不安定になっていく。 そんなある日、突然城の庭に呼びつけられたオーレリア。 戸惑う彼女に婚約者はいつもの台詞を言う。 「そうやって笑ってればいいと思って、俺は全部分かっているんだからな」 理不尽な言葉に傷つくオーレリアの目に咲き誇る白薔薇が飛び込んでくる。 今日がその日なのかもしれない。 そう庭に置かれたテーブルの上にあるものを発見して公爵令嬢は思う。 それは閃きに近いものだった。

【完結】これからはあなたに何も望みません

春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。 でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。 結婚して三年が過ぎ。 このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。 リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。 ※完結まで作成済み。11/22完結。 ※完結後におまけが数話あります。 ※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

あなたを愛するなんて……もう無理です。

水垣するめ
恋愛
主人公エミリア・パーカーは王子のウィリアム・ワトソンと婚約していた。 当初、婚約した時は二人で国を将来支えていこう、と誓いあったほど関係は良好だった。 しかし、学園に通うようになってからウィリアムは豹変する。 度重なる女遊び。 エミリアが幾度注意しても聞き入れる様子はなく、逆にエミリアを侮るようになった。 そして、金遣いが荒くなったウィリアムはついにエミリアの私物に手を付けるようになった。 勝手に鞄の中を漁っては金品を持ち出し、自分の物にしていた。 そしてついにウィリアムはエミリアの大切なものを盗み出した。 エミリアがウィリアムを激しく非難すると、ウィリアムは逆ギレをしてエミリアに暴力を振るった。 エミリアはついにウィリアムに愛想を尽かし、婚約の解消を国王へ申し出る。 するとウィリアムを取り巻く状況はどんどんと変わっていき……?

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...