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プロローグ
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雲一つない青々とした空には、天高く昇った太陽が白く輝き、辺りを明るく照らしている。時折吹く風は優しく肌を撫で、豊かなユリの香りを運んできた。
「この先交わされる誓いは、この世界を創りたもうた四柱の精霊王への誓いであり、それぞれに加護を与える互いの精霊への誓いであり、伴侶となる者への誓いでもあります。誓いを立てる者は宣誓を」
司祭の高らかな声に、隣に立つレオンハルトは静かに息を吸った。
「レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクは誓いを反故にすることなく守ることをここに誓います」
それに続くように、ルシアナも言葉を続ける。
「ルシアナ・ベリト・トゥルエノは、誓いを反故にすることなく守ることを、ここに誓います」
二人の言葉を受け、司祭はしっかりと頷くと顔を上げ列席者を見る。
「トゥルエノ王国フォニス教会司祭エリアス・マルティンが、この誓いの証人となり、式の正式な開会を宣言いたします」
――ついに、だな。
(――うん。ついに、だね)
脳内に直接響く声に心の中で答えると、声の主は盛大な溜息を漏らす。
――でも、本当にいいのか? 婚約期間中ずっとこの男の邸にいたけど、ろくに距離も縮まらず、他人のままだったろう。
(――あら、今まさに夫婦になるところだわ)
――いや、そういうことじゃなくてだな……。
もう一度溜息を漏らした相手に心の中で笑みを漏らすと、ルシアナは隣を盗み見る。
ベール越しでも、陽に照らされ煌めくシルバーグレイの髪と、真っ直ぐ司祭を見つめるシアンの瞳がはっきりと見えた。純白のドレスに身を包んだルシアナとは対照的な黒い騎士服を身に纏っており、太陽の熱を受けて少々暑そうにも思える。
「レオンハルト・バウル・ヴァステンブルク。貴方はシルバキエ公爵としての義務を果たすとともに、妻となるルシアナ・ベリト・トゥルエノに対し、一人の人間として誠実に向き合い、慈しみ、支え合いながら、生涯を共にすることを誓いますか」
「誓います」
忌避感も歓喜もなく、落ち着いた声色で淡々と答えるレオンハルトに、今度は心の中ではなく笑みがこぼれた。
――ベールがあってよかったな。
(――ふふ、結婚式は慶事よ。笑っていても不自然ではないわ)
「ルシアナ・ベリト・トゥルエノ」
優しく温かな司祭の声に、ルシアナは意識を目の前の人物へと向ける。
「貴女はシルバキエ公爵夫人としての義務を果たすとともに、夫となるレオンハルト・パウル・ヴァステンブルクに対し、一人の人間として誠実に向き合い、慈しみ、支え合いながら、生涯を共にすることを誓いますか」
ルシアナは一度深く息を吸い込むと、ゆっくりと口を開く。
「はい、誓います」
はっきりとそう告げれば、司祭は柔らかな笑みを浮かべ頷いた。
――あーあ。これでもう後戻りはできないぞ。
(――最初に宣誓した時点で、その選択肢はなくなっているわ。……大丈夫よ。すべてはここから。これからだわ)
ルシアナは、目の前の台に置かれた、赤い宝石のようなものが埋め込まれた剣を手に取る。よく手に馴染んだ、ほのかに温かい剣を握りながら、半年前の出来事を思い出していた。
「この先交わされる誓いは、この世界を創りたもうた四柱の精霊王への誓いであり、それぞれに加護を与える互いの精霊への誓いであり、伴侶となる者への誓いでもあります。誓いを立てる者は宣誓を」
司祭の高らかな声に、隣に立つレオンハルトは静かに息を吸った。
「レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクは誓いを反故にすることなく守ることをここに誓います」
それに続くように、ルシアナも言葉を続ける。
「ルシアナ・ベリト・トゥルエノは、誓いを反故にすることなく守ることを、ここに誓います」
二人の言葉を受け、司祭はしっかりと頷くと顔を上げ列席者を見る。
「トゥルエノ王国フォニス教会司祭エリアス・マルティンが、この誓いの証人となり、式の正式な開会を宣言いたします」
――ついに、だな。
(――うん。ついに、だね)
脳内に直接響く声に心の中で答えると、声の主は盛大な溜息を漏らす。
――でも、本当にいいのか? 婚約期間中ずっとこの男の邸にいたけど、ろくに距離も縮まらず、他人のままだったろう。
(――あら、今まさに夫婦になるところだわ)
――いや、そういうことじゃなくてだな……。
もう一度溜息を漏らした相手に心の中で笑みを漏らすと、ルシアナは隣を盗み見る。
ベール越しでも、陽に照らされ煌めくシルバーグレイの髪と、真っ直ぐ司祭を見つめるシアンの瞳がはっきりと見えた。純白のドレスに身を包んだルシアナとは対照的な黒い騎士服を身に纏っており、太陽の熱を受けて少々暑そうにも思える。
「レオンハルト・バウル・ヴァステンブルク。貴方はシルバキエ公爵としての義務を果たすとともに、妻となるルシアナ・ベリト・トゥルエノに対し、一人の人間として誠実に向き合い、慈しみ、支え合いながら、生涯を共にすることを誓いますか」
「誓います」
忌避感も歓喜もなく、落ち着いた声色で淡々と答えるレオンハルトに、今度は心の中ではなく笑みがこぼれた。
――ベールがあってよかったな。
(――ふふ、結婚式は慶事よ。笑っていても不自然ではないわ)
「ルシアナ・ベリト・トゥルエノ」
優しく温かな司祭の声に、ルシアナは意識を目の前の人物へと向ける。
「貴女はシルバキエ公爵夫人としての義務を果たすとともに、夫となるレオンハルト・パウル・ヴァステンブルクに対し、一人の人間として誠実に向き合い、慈しみ、支え合いながら、生涯を共にすることを誓いますか」
ルシアナは一度深く息を吸い込むと、ゆっくりと口を開く。
「はい、誓います」
はっきりとそう告げれば、司祭は柔らかな笑みを浮かべ頷いた。
――あーあ。これでもう後戻りはできないぞ。
(――最初に宣誓した時点で、その選択肢はなくなっているわ。……大丈夫よ。すべてはここから。これからだわ)
ルシアナは、目の前の台に置かれた、赤い宝石のようなものが埋め込まれた剣を手に取る。よく手に馴染んだ、ほのかに温かい剣を握りながら、半年前の出来事を思い出していた。
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