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第1章 土佐の以蔵
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半平太の説明はこうだった。
純潔の妖怪たちは、今ではほとんどその存在を隠しているという。幕政による厳しい差別により、彼らは半ば奴隷のように扱われることもあった。それにより町に住んでいた多くの妖怪たちは過労や負傷、栄養失調で命を落とし、残った者達は人間たちから離れていったのだ。
山奥に棲んでいるとか、夜だけ姿を見せるとか、恨みから人を喰うとか。決していいと言えない噂だけを残して、彼らは忽然と消えてしまっていた。
しかし最近、その姿が多く目撃されているという。
過激派を装っているが、彼らは人間であれば女子供であろうと容赦なく殺すことから、ほかの集団とは一線を画している。そして刀を使わず、不思議なわざにより跡形もなく消されるそうだ。
何処まで本当かはわからないが、彼らが人間を襲っていることは確かである。
「動きは京都を中心に全国に広がっているらしい。もちろん、この土佐にもな」
過去の確執は争いしか生まない。
半平太はそう呟いて目を伏せる。
以蔵は何となくわかる気がした。
差別されていた妖怪たちの、叫びが。怒りが。復讐心が。
自分を下に見てきた者達を、傷つけた者達を、同じ目に合わせてやりたい。……いや、それ以上の報復をせねば。
以蔵は直接殴られたり蹴られたりしたことはない。からかわれたり、じっと見られたり、避けられたり。
けれども人間の彼らに対する扱いはそれどころではなかったのだろう。負傷が死につながるほどだ。相当ひどい暴力を受け、傷を治すことができる環境になかったに違いない。
以蔵には、不思議と妖怪たちが受けた傷を理解することができた。少し考えるだけで、まるで見てきたかのように脳裏に映像が浮かんでくる。罵声を浴びながら何度も棒で殴られている男。汚れた茶碗で懸命に水を飲む子供。二度と帰ることのない亭主を薄暗い小屋で待つ女。
以蔵は思わず身震いをした。
恐ろしい。
純粋に、そう思った。
これは、ほんとうに人が人に対してすることなのか。現実に、今の時代のどこかでも起こっていることなのだろうか。
身分差別が厳しいといっても、ここは土佐。妖怪たちは古来より京都を中心に暮らしており、それは年月を経た今でもほとんど変わっていなかった。妖怪混じりたちは地方へと移り住んでいったが、生粋の妖怪たちは京都を離れようとしないという。そのため以蔵は妖怪たちを見たことがなかったし、ましてやその差別の実情など全く知らなかったのだ。
以蔵は思った。
自分ならともかく、義平が、里江が、啓吉がそのような目に合い、命を落としたと想像すると、心臓を八つ裂きにされたような思いがする。
どんな手を使ってでもその相手を突き止め、息の根を止めなければ気が済まないだろう。
たとえ何人巻き込もうとも。
そう。彼らは怒っているのだ。きっと人間を、自分たち以外のすべてを殺してしまいたいほどに。
「もともと、悪いのは幕府の方だ。妖怪の力を恐れてそのような制度を作って……。決まり事では人の行動は完全に縛れない。妖怪たちの力なら尚更だ。そのようなこと、わかりきっているというのに」
以蔵の深刻な表情を見て、半平太の眉間にも皺が刻まれた。
純潔の妖怪たちは、今ではほとんどその存在を隠しているという。幕政による厳しい差別により、彼らは半ば奴隷のように扱われることもあった。それにより町に住んでいた多くの妖怪たちは過労や負傷、栄養失調で命を落とし、残った者達は人間たちから離れていったのだ。
山奥に棲んでいるとか、夜だけ姿を見せるとか、恨みから人を喰うとか。決していいと言えない噂だけを残して、彼らは忽然と消えてしまっていた。
しかし最近、その姿が多く目撃されているという。
過激派を装っているが、彼らは人間であれば女子供であろうと容赦なく殺すことから、ほかの集団とは一線を画している。そして刀を使わず、不思議なわざにより跡形もなく消されるそうだ。
何処まで本当かはわからないが、彼らが人間を襲っていることは確かである。
「動きは京都を中心に全国に広がっているらしい。もちろん、この土佐にもな」
過去の確執は争いしか生まない。
半平太はそう呟いて目を伏せる。
以蔵は何となくわかる気がした。
差別されていた妖怪たちの、叫びが。怒りが。復讐心が。
自分を下に見てきた者達を、傷つけた者達を、同じ目に合わせてやりたい。……いや、それ以上の報復をせねば。
以蔵は直接殴られたり蹴られたりしたことはない。からかわれたり、じっと見られたり、避けられたり。
けれども人間の彼らに対する扱いはそれどころではなかったのだろう。負傷が死につながるほどだ。相当ひどい暴力を受け、傷を治すことができる環境になかったに違いない。
以蔵には、不思議と妖怪たちが受けた傷を理解することができた。少し考えるだけで、まるで見てきたかのように脳裏に映像が浮かんでくる。罵声を浴びながら何度も棒で殴られている男。汚れた茶碗で懸命に水を飲む子供。二度と帰ることのない亭主を薄暗い小屋で待つ女。
以蔵は思わず身震いをした。
恐ろしい。
純粋に、そう思った。
これは、ほんとうに人が人に対してすることなのか。現実に、今の時代のどこかでも起こっていることなのだろうか。
身分差別が厳しいといっても、ここは土佐。妖怪たちは古来より京都を中心に暮らしており、それは年月を経た今でもほとんど変わっていなかった。妖怪混じりたちは地方へと移り住んでいったが、生粋の妖怪たちは京都を離れようとしないという。そのため以蔵は妖怪たちを見たことがなかったし、ましてやその差別の実情など全く知らなかったのだ。
以蔵は思った。
自分ならともかく、義平が、里江が、啓吉がそのような目に合い、命を落としたと想像すると、心臓を八つ裂きにされたような思いがする。
どんな手を使ってでもその相手を突き止め、息の根を止めなければ気が済まないだろう。
たとえ何人巻き込もうとも。
そう。彼らは怒っているのだ。きっと人間を、自分たち以外のすべてを殺してしまいたいほどに。
「もともと、悪いのは幕府の方だ。妖怪の力を恐れてそのような制度を作って……。決まり事では人の行動は完全に縛れない。妖怪たちの力なら尚更だ。そのようなこと、わかりきっているというのに」
以蔵の深刻な表情を見て、半平太の眉間にも皺が刻まれた。
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