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21. 帰りの馬車で
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てっきりアンセルム様は王宮に帰られるのかと思っていたから俺達の邸へ帰ろうと言われ、私は驚いたの。
(…でもそうね。行きと同じ理由よね、きっと。次期公爵夫人が夫婦別々の場所に帰るなんて、不仲と見られても困るものね。)
俺達の、なんて嬉しいと思ったのは一瞬で、そう考えに至った私は随分と淋しく感じてしまったわ。
けれど。
馬車に乗り込んだ私達は、何故かアンセルム様は横並びに座った。
「…聞いてもいいか?」
「はい。」
アンセルム様はいつもに増して真面目な顔つきで、そう言ったきり、口元に手を充てて考えているみたい。
しばらくして、アンセルム様はやっと口を開いたの。
「スティナは、クリスタ様と一時期一緒に住んでいたって言っていたけど、どうしてか聞いてもいいか?」
うーん…父が伯爵だった私が、公爵家で一緒に、ってどういう事なのかと思ったという事かしら。
「はい。私の母は、一つ下の弟を生んで少しして亡くなりました。私の故郷ソランデル領は冬はものすごく寒くなります。理由ははっきりとは分かりませんが、私の母方の祖父である、亡きセーデルホルム公爵様が冬の間一緒に過ごさせて下さったそうです。それは祖父母が亡くなるまで続きました。」
「…そうか。随分と大変だったんだな。」
「いいえ、楽しかったですもの。とても良くして下さいました。クリスタ様はいろいろな所へ出掛けたいようで、いつもいろいろな場所へご一緒させていただいてました。私は恐れ多くも、姉のように友人のように思っておりました。」
「ふむ…。」
そう言ったきり、アンセルム様は黙ってしまったわ。
……でも、何故かいつの間にか私の手を握っていたのよ。これは、無意識なのかしら。さすがに、心臓に悪い。
「あの、アンセルム様……」
「ん?」
「な、何故手を…」
「え?あ…す、済まない!な、なんだか触れたくなったんだ。情けないが、まだ俺の質問に答えてくれるか?」
「…?はい。」
「ありがとう。これに見覚えはあるか?」
そう言うと、ズボンのポケットから白っぽいハンカチを出された。
…それは……あまり見たくなかったわね。なんだかまた、心がズキズキと痛むのよ。
「ええと…私達の結婚式の日に見せて下さった、アンセルム様の……好きな方からいただいた物?」
「ああ。見てくれるか?」
な、なんでそんな物を見せてくるのかしら…嫌がらせ?
私は、なんだか胸がモヤモヤとして、嫌な気持ちが湧き出てきたのだけれど、そのハンカチを手渡され思わず視線を向ける。
(…?どこかで見たような?)
何の変哲もない、何処にでもありそうな白っぽいハンカチではあるけれど、年月が経ったからか薄汚れてクリーム色ともいえる。
レースの縁取りをされたそのハンカチは、どことなく見覚えがあった。これがもっと真っ白であったなら、私が小さい頃に使っていたハンカチに似ていた。
四角形のようではあるが、角は、緩く弧を描いていて丸みを帯びている。私はよくそれを好んで使っていた。
「見覚え、ないか?」
「見覚え、といいましても。これは、アンセルム様がお好きな方からいただいたのでしょう!?私も幼い頃使っていた物も同じような物でした。そういう意味では、見覚えがあるといえますけど。でも、何処にでありそうなハンカチですわ!」
私は若干苛立つような言い方をしてしまった。でもなんだか心がザワザワとするのだもの。
「うーん、まぁそうか。ハンカチも、俺が血や土で汚してしまったし、いつも持ち歩いていて色も褪せてきたからな。じゃあ話を変える。クリスタ様は、魔力をお持ちか?」
「クリスタ様?うーん…分からないわ。少なくとも、一緒にいた頃は私の前では使った事は無かったし、私が使ったら、『凄い!』って褒めて下さったわ。」
「水魔力は?」
「水?さぁ…?」
アンセルム様は、何をお聞きになりたいのかしら?
「なぁ、スティナ。君は、〝王家の森〟に行った事ある?」
「王家の森…?分からないわ。先ほども言ったように、セーデルホルム公爵家にいた頃は、よく森みたいな所へも行ったのだけれど、それがどこなのか分からないし。」
「いろいろ質問して悪かった。俺は、勘違いしていたのかもしれない…。俺の昔話を聞いて欲しい。俺は昔、八歳頃かな?森で鍛錬していたんだ。」
八歳で鍛錬…すごいわね。
「そうしたら、普段はあまり人に会わないのにその日は、花で首飾りか何かを作っている少女に出会ったんだ。」
そう言って、私の顔を覗き込むアンセルム様。思わず見つめてしまったわ。
「その少女は俺に驚いたのか、泣き出してしまったんだ。花飾りも落としてしまって崩れた。俺は悪い事をしてしまったと思って、風の魔力を見せた。そうしたら、笑顔を見せてくれてホッとしたんだ。」
…それって……?
「その少女は、俺の顔や腕や足に切り傷や土が付いているのを見て、水魔力を使って、このハンカチをくれたんだ。」
(うそ…!まさか、あの男の子だったの…?)
私は口を両手で押さえ、アンセルム様をずっと見つめていた。
「ごめん……その少女は、遠くでクリスタと呼ばれている声を聞いて立ち上がったから、クリスタという名前だと思ってしまったんだ。だが、今、いろいろと考えてみるとその少女は、もしかしてスティナ、君だったんじゃないか?」
そう言われ、私はなんだか胸がジーンと熱くなってきたの。そしてなぜだか目頭まで熱くなってきて。
「…スティナ。ごめんよ、また泣かせてしまったかな?」
そう言ったアンセルム様は、私の目元に手を持っていき、涙を拭ってくれる。
そして、ゆっくりと引き寄せられ、アンセルム様の胸の中に抱き寄せられていた。
(…でもそうね。行きと同じ理由よね、きっと。次期公爵夫人が夫婦別々の場所に帰るなんて、不仲と見られても困るものね。)
俺達の、なんて嬉しいと思ったのは一瞬で、そう考えに至った私は随分と淋しく感じてしまったわ。
けれど。
馬車に乗り込んだ私達は、何故かアンセルム様は横並びに座った。
「…聞いてもいいか?」
「はい。」
アンセルム様はいつもに増して真面目な顔つきで、そう言ったきり、口元に手を充てて考えているみたい。
しばらくして、アンセルム様はやっと口を開いたの。
「スティナは、クリスタ様と一時期一緒に住んでいたって言っていたけど、どうしてか聞いてもいいか?」
うーん…父が伯爵だった私が、公爵家で一緒に、ってどういう事なのかと思ったという事かしら。
「はい。私の母は、一つ下の弟を生んで少しして亡くなりました。私の故郷ソランデル領は冬はものすごく寒くなります。理由ははっきりとは分かりませんが、私の母方の祖父である、亡きセーデルホルム公爵様が冬の間一緒に過ごさせて下さったそうです。それは祖父母が亡くなるまで続きました。」
「…そうか。随分と大変だったんだな。」
「いいえ、楽しかったですもの。とても良くして下さいました。クリスタ様はいろいろな所へ出掛けたいようで、いつもいろいろな場所へご一緒させていただいてました。私は恐れ多くも、姉のように友人のように思っておりました。」
「ふむ…。」
そう言ったきり、アンセルム様は黙ってしまったわ。
……でも、何故かいつの間にか私の手を握っていたのよ。これは、無意識なのかしら。さすがに、心臓に悪い。
「あの、アンセルム様……」
「ん?」
「な、何故手を…」
「え?あ…す、済まない!な、なんだか触れたくなったんだ。情けないが、まだ俺の質問に答えてくれるか?」
「…?はい。」
「ありがとう。これに見覚えはあるか?」
そう言うと、ズボンのポケットから白っぽいハンカチを出された。
…それは……あまり見たくなかったわね。なんだかまた、心がズキズキと痛むのよ。
「ええと…私達の結婚式の日に見せて下さった、アンセルム様の……好きな方からいただいた物?」
「ああ。見てくれるか?」
な、なんでそんな物を見せてくるのかしら…嫌がらせ?
私は、なんだか胸がモヤモヤとして、嫌な気持ちが湧き出てきたのだけれど、そのハンカチを手渡され思わず視線を向ける。
(…?どこかで見たような?)
何の変哲もない、何処にでもありそうな白っぽいハンカチではあるけれど、年月が経ったからか薄汚れてクリーム色ともいえる。
レースの縁取りをされたそのハンカチは、どことなく見覚えがあった。これがもっと真っ白であったなら、私が小さい頃に使っていたハンカチに似ていた。
四角形のようではあるが、角は、緩く弧を描いていて丸みを帯びている。私はよくそれを好んで使っていた。
「見覚え、ないか?」
「見覚え、といいましても。これは、アンセルム様がお好きな方からいただいたのでしょう!?私も幼い頃使っていた物も同じような物でした。そういう意味では、見覚えがあるといえますけど。でも、何処にでありそうなハンカチですわ!」
私は若干苛立つような言い方をしてしまった。でもなんだか心がザワザワとするのだもの。
「うーん、まぁそうか。ハンカチも、俺が血や土で汚してしまったし、いつも持ち歩いていて色も褪せてきたからな。じゃあ話を変える。クリスタ様は、魔力をお持ちか?」
「クリスタ様?うーん…分からないわ。少なくとも、一緒にいた頃は私の前では使った事は無かったし、私が使ったら、『凄い!』って褒めて下さったわ。」
「水魔力は?」
「水?さぁ…?」
アンセルム様は、何をお聞きになりたいのかしら?
「なぁ、スティナ。君は、〝王家の森〟に行った事ある?」
「王家の森…?分からないわ。先ほども言ったように、セーデルホルム公爵家にいた頃は、よく森みたいな所へも行ったのだけれど、それがどこなのか分からないし。」
「いろいろ質問して悪かった。俺は、勘違いしていたのかもしれない…。俺の昔話を聞いて欲しい。俺は昔、八歳頃かな?森で鍛錬していたんだ。」
八歳で鍛錬…すごいわね。
「そうしたら、普段はあまり人に会わないのにその日は、花で首飾りか何かを作っている少女に出会ったんだ。」
そう言って、私の顔を覗き込むアンセルム様。思わず見つめてしまったわ。
「その少女は俺に驚いたのか、泣き出してしまったんだ。花飾りも落としてしまって崩れた。俺は悪い事をしてしまったと思って、風の魔力を見せた。そうしたら、笑顔を見せてくれてホッとしたんだ。」
…それって……?
「その少女は、俺の顔や腕や足に切り傷や土が付いているのを見て、水魔力を使って、このハンカチをくれたんだ。」
(うそ…!まさか、あの男の子だったの…?)
私は口を両手で押さえ、アンセルム様をずっと見つめていた。
「ごめん……その少女は、遠くでクリスタと呼ばれている声を聞いて立ち上がったから、クリスタという名前だと思ってしまったんだ。だが、今、いろいろと考えてみるとその少女は、もしかしてスティナ、君だったんじゃないか?」
そう言われ、私はなんだか胸がジーンと熱くなってきたの。そしてなぜだか目頭まで熱くなってきて。
「…スティナ。ごめんよ、また泣かせてしまったかな?」
そう言ったアンセルム様は、私の目元に手を持っていき、涙を拭ってくれる。
そして、ゆっくりと引き寄せられ、アンセルム様の胸の中に抱き寄せられていた。
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