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22. 語らい
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しばらくアンセルム様に抱き寄せられていたが、ガタンと音がして馬車が止まった。
その音にハッとして私は、アンセルム様の胸をそっと押して離れ、真っ直ぐに座り直した。
だってもうすぐ、扉が開けられるのよ。
「残念だ。」
アンセルム様がそう言ったので、そちらを向くと、困ったように笑っていて、
「まだ一緒にいたい気持ちがあるのは、俺だけか?」
と問われた。
「いいえ…私も。」
と、そう言うのが精一杯だったけれど、アンセルム様は今度は嬉しそうに微笑み、
「じゃあ、互いに風呂に入ったら食堂で一緒に軽く食事をしよう。」
と言われた。
そうね。確かにお腹がすいたわ。ドレスを着ているから、行く前にあまり食べられなかったし。
「はい!」
☆★
食事はいつもに増して楽しめたわ。お腹がすいていただけではないのはもう認めるしかないわね。アンセルム様が、幼い頃に会っていたあの男の子だったのだもの。
「どうかな。談話室で話さないか?それとも、もう寝るか?」
そう問われたので、私はアンセルム様に逆に尋ねた。
「アンセルム様は明日はお仕事ですか?私はどちらでもいいです。」
「どちらでもか…俺はまだ話し足りない。君にしっかり謝れてもいないし。では談話室に行こう。俺は明日一応休みだよ。夜会がある次の日は大抵休みだからな。悪獣が出て来ない事を祈ろう。」
談話室では、対面に座った。椅子が一人掛けだからだ。
「この椅子じゃあスティナが遠く感じる。」
と言っていた。
「スティナ。初めからやり直せたらどんなにいいか…。俺の好きな人は、初めから君だったんだ。」
真っ直ぐに私を見て、アンセルム様はそう言った。だから私も、ポロリと本音をこぼした。
「結婚式の日、頭を殴られたように切なくて、悲しかったのですよ。」
「そ、そう…そうだよな。俺はなんて酷い言葉を掛けてしまったのだろう。それなのに君は、この領地で、領民の為に…済まない。」
「なにか、私の存在意義を確かめたかったのです。私が必要とされているという証を残したくて…」
優しいアンセルム様の声に導かれるように、恨み節がこぼれてくる。
「そうか…。スティナ。俺には初めから、君が必要だったよ。不安にさせてごめん。…おいで。」
さぁ、と手を広げたアンセルム様の元へ行くと、膝の上に私を乗せた。
ちょっと恥ずかしいし、重くないのかしら。
「スティナ。俺…いや、私、アンセルム=ベンディクスは、これから君を愛し大切にする事を誓う。不安にさせた分、倍以上の愛をスティナへこれから返して行くから。好きだよ。ずっと、君だけが心の支えだった。俺に、魔力は悪獣だけに向けるものではないと教えてくれた心優しいスティナ。」
「アンセルム様…。」
私に顔を近づけ、優しく囁くようにそう言葉を繋いだアンセルム様。視線は絡み合うように、お互い見つめ合ったままで。
「どうか、アンセルムと呼んでくれないか。」
「え?あ、アンセルム?」
「あぁ!あの時の少女と俺は今一緒にいるなんて夢のようだ!」
そう言ってまた、アンセルム様…アンセルムはいつまでもギュウギュウと抱き締めてくれた。
「私…淋しかったのよ。」
しばらくしてアンセルムの胸に顔を埋めながら呟く。
こんな時だからこそ、今までの恨み節が口からまたもこぼれた。
「うん、悪かった。俺の勘違いから始まったんだ。スティナ、いつまでも何度でもいうよ、淋しい思いをさせてごめん。」
それをちゃんと拾って、温かい言葉を返してくれるから、私は更に繋いだ。
「じゃあ…これからは王宮に帰らない?」
「あぁ。帰る場所はスティナがいる場所さ。愛する俺の奥さんだからな。」
「本当?一緒に過ごしてくれる?」
「ああもちろん!今まで淋しくさせて本当に済まなかった。その分いつまでも、歳を取ったとしても一緒に過ごそう!という事で、スティナの部屋へ行こう!」
「え?え!?」
「気づいていた?俺はここで過ごす事はしばらくないと思っていたから、君の部屋が、この邸の中で一番いい部屋なんだ。主の部屋だな。」
「え…それは、まぁ…」
「だから、一緒に過ごそう。」
「でも…」
「いやか?そうか…嫌か……」
「嫌ではないわ!ただいきなりで…その…」
「そうだな。じゃあとりあえず、スティナの部屋へ行こう。嫌がる事はしないから。」
そう言ったアンセルムは、私を抱えてそのまま立ち上がった。
「え!きゃぁ!」
「動くと落ちる。さぁ、行こう!」
アンセルムは私を軽々と抱えて、私達の部屋へと颯爽と向かったーーー。
私は、いきなりの結婚で、公爵様と公爵夫人という間柄の絆くらいは繋げられたらいいなとは思っていたけれど、当初はそれさえも難しいと悲しみました。
けれど、いつしか、アンセルムとは互いに愛し愛され想い合う関係になる事が出来ました。
悲しい思いをした分、いつまでも何度でも謝ってくれるというから、きっとアンセルムは反省してるのかもしれないわね。だからたまには恨み節、言ってもいいわよね。
私、幸せです!!
☆★☆★
これで終わりです。
最後までお読み下さいまして、ありがとうございました!
しおりを挟んでくれた方、お気に入り登録をしてくれた方本当にありがとうございました。
感想を下さった方も、毎回とてもありがたく拝見しておりました。
おまけをあと一つ、書きました。それも読んで下さるとうれしいです。
その音にハッとして私は、アンセルム様の胸をそっと押して離れ、真っ直ぐに座り直した。
だってもうすぐ、扉が開けられるのよ。
「残念だ。」
アンセルム様がそう言ったので、そちらを向くと、困ったように笑っていて、
「まだ一緒にいたい気持ちがあるのは、俺だけか?」
と問われた。
「いいえ…私も。」
と、そう言うのが精一杯だったけれど、アンセルム様は今度は嬉しそうに微笑み、
「じゃあ、互いに風呂に入ったら食堂で一緒に軽く食事をしよう。」
と言われた。
そうね。確かにお腹がすいたわ。ドレスを着ているから、行く前にあまり食べられなかったし。
「はい!」
☆★
食事はいつもに増して楽しめたわ。お腹がすいていただけではないのはもう認めるしかないわね。アンセルム様が、幼い頃に会っていたあの男の子だったのだもの。
「どうかな。談話室で話さないか?それとも、もう寝るか?」
そう問われたので、私はアンセルム様に逆に尋ねた。
「アンセルム様は明日はお仕事ですか?私はどちらでもいいです。」
「どちらでもか…俺はまだ話し足りない。君にしっかり謝れてもいないし。では談話室に行こう。俺は明日一応休みだよ。夜会がある次の日は大抵休みだからな。悪獣が出て来ない事を祈ろう。」
談話室では、対面に座った。椅子が一人掛けだからだ。
「この椅子じゃあスティナが遠く感じる。」
と言っていた。
「スティナ。初めからやり直せたらどんなにいいか…。俺の好きな人は、初めから君だったんだ。」
真っ直ぐに私を見て、アンセルム様はそう言った。だから私も、ポロリと本音をこぼした。
「結婚式の日、頭を殴られたように切なくて、悲しかったのですよ。」
「そ、そう…そうだよな。俺はなんて酷い言葉を掛けてしまったのだろう。それなのに君は、この領地で、領民の為に…済まない。」
「なにか、私の存在意義を確かめたかったのです。私が必要とされているという証を残したくて…」
優しいアンセルム様の声に導かれるように、恨み節がこぼれてくる。
「そうか…。スティナ。俺には初めから、君が必要だったよ。不安にさせてごめん。…おいで。」
さぁ、と手を広げたアンセルム様の元へ行くと、膝の上に私を乗せた。
ちょっと恥ずかしいし、重くないのかしら。
「スティナ。俺…いや、私、アンセルム=ベンディクスは、これから君を愛し大切にする事を誓う。不安にさせた分、倍以上の愛をスティナへこれから返して行くから。好きだよ。ずっと、君だけが心の支えだった。俺に、魔力は悪獣だけに向けるものではないと教えてくれた心優しいスティナ。」
「アンセルム様…。」
私に顔を近づけ、優しく囁くようにそう言葉を繋いだアンセルム様。視線は絡み合うように、お互い見つめ合ったままで。
「どうか、アンセルムと呼んでくれないか。」
「え?あ、アンセルム?」
「あぁ!あの時の少女と俺は今一緒にいるなんて夢のようだ!」
そう言ってまた、アンセルム様…アンセルムはいつまでもギュウギュウと抱き締めてくれた。
「私…淋しかったのよ。」
しばらくしてアンセルムの胸に顔を埋めながら呟く。
こんな時だからこそ、今までの恨み節が口からまたもこぼれた。
「うん、悪かった。俺の勘違いから始まったんだ。スティナ、いつまでも何度でもいうよ、淋しい思いをさせてごめん。」
それをちゃんと拾って、温かい言葉を返してくれるから、私は更に繋いだ。
「じゃあ…これからは王宮に帰らない?」
「あぁ。帰る場所はスティナがいる場所さ。愛する俺の奥さんだからな。」
「本当?一緒に過ごしてくれる?」
「ああもちろん!今まで淋しくさせて本当に済まなかった。その分いつまでも、歳を取ったとしても一緒に過ごそう!という事で、スティナの部屋へ行こう!」
「え?え!?」
「気づいていた?俺はここで過ごす事はしばらくないと思っていたから、君の部屋が、この邸の中で一番いい部屋なんだ。主の部屋だな。」
「え…それは、まぁ…」
「だから、一緒に過ごそう。」
「でも…」
「いやか?そうか…嫌か……」
「嫌ではないわ!ただいきなりで…その…」
「そうだな。じゃあとりあえず、スティナの部屋へ行こう。嫌がる事はしないから。」
そう言ったアンセルムは、私を抱えてそのまま立ち上がった。
「え!きゃぁ!」
「動くと落ちる。さぁ、行こう!」
アンセルムは私を軽々と抱えて、私達の部屋へと颯爽と向かったーーー。
私は、いきなりの結婚で、公爵様と公爵夫人という間柄の絆くらいは繋げられたらいいなとは思っていたけれど、当初はそれさえも難しいと悲しみました。
けれど、いつしか、アンセルムとは互いに愛し愛され想い合う関係になる事が出来ました。
悲しい思いをした分、いつまでも何度でも謝ってくれるというから、きっとアンセルムは反省してるのかもしれないわね。だからたまには恨み節、言ってもいいわよね。
私、幸せです!!
☆★☆★
これで終わりです。
最後までお読み下さいまして、ありがとうございました!
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