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1. 儚い夢
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ーーー
ーー
ー
「ねぇお母様!花冠、上手に出来たでしょう?」
「あら、本当に。素敵ねぇ。」
「これはね、…にあげるわ!」
「本当かい?ありがとう。じゃあ僕は、花輪をあげる。いつか本物の指輪を渡したら、はめてくれる?」
「…がくれるの?嬉しい!うん、はめるー!」
「あらあら。それって、求婚じゃないの?」
「お母様、きゅうこんって?」
「僕はエミーリエと、大きくなったら結婚したいって事だよ。」
「まぁ!本当!?私も…としたい!ずーっと一緒にいたい!」
「それは嬉しいなぁ。じゃぁ、僕、うんと頑張って迎えに来るからね。」
「ええ!待っているわ!」
ーーーー
ーーー
ーー
「夢…。」
私はエミーリエ。エミーリエ=ソベレツ。
とても懐かしい、一番良いときだった頃の夢を見た。
いつも優しく、朗らかで大好きだった私のお母様は、今から十二年前、私が四歳の頃に亡くなった。
それから、お父様であるキーベック=ソベレツ辺境伯は、隣国との検問所を護る役割を担う傍ら、すぐに焦げ茶色でくせのある髪のヨハナという踊り子と再婚した。
ヨハナは各地を転々としていたらしいが、このソベレツの酒場に辿り着き、そこでお父様と出会い、半ば押しかけのような形でお父様と再婚した。
…私は小さかったので、そんな出会いまでは知らなかったが、ヨハナが私に自慢げに話してくるから覚えてしまった。
私はお母様が亡くなってすぐにお父様が再婚された為、当初は複雑ではあったけれど、甘えたい年頃であったから、なんとなく喜んだ、と思う。
けれど、話しかけに行っても相手にしてもらえなかった。
やがて、一年もしない内に義母に娘のガリナ、その次の年に息子のダーヴィズが産まれると、それはもう露骨に私をいじめるようになった。
汚い言葉は日常茶飯事。
叩かれる事も、食事を抜かれる事だってあった。
物も与えられないし、与えられた物はすぐに奪い取られてしまう。
でも、お父様は辺境伯の仕事をするのに手一杯で、なかなか家に居ない。国境付近の砦にいるから。
だから、お義母様がしている事なんてきっと知らないのだわ。
使用人達も、私の肩を持ってくれて口答えする者はさまざまな理由を付けてヨハナが辞めさせてしまった為、とうとう私の味方をする使用人は他にいなくなった。
ただ一人、お母様に付いていた侍女のカリツだけは、ヨハナや義妹のガリナには気付かれないよう上手い具合にやってくれている。
お母様が亡くなって私の侍女になり、それからは姉のように、母のように私は慕っている。
でも、それは二人の時だけ。
外では、カリツは私に素っ気ないフリをして接してくれている。だからきっと、今まで一緒にいられるのだと思う。
あの夢は、お母様がまだ健在だった頃、名前や顔はぼんやりとしていて、はっきりとは覚えていないけれど、雰囲気の柔らかい、少し年上の優しい男の子と遊んでいた時の事だと思う。
この屋敷に、お母様と仲の良い女性と、その息子がよく遊びに来ていたのだ。
(あの時は楽しかった…。)
何も考えず、ただひたすらに自分の好きな事をしていられた。好きな事を好きだとはっきり言う事もできた。
でも、今はそんな事をしようものならば、ヨハナと娘のガリナが、徹底的に潰しにかかってくる。
この前だって、私の誕生日にネックレスをお父様がくれたのに、それをヨハナがガリナと一緒に部屋に来て、奪いとって行った。
「エミーリエには、付けていく場所も無いのだから、必要ないでしょう?」
「そうよ!お姉様より私の方がよほど似合うわ!」
「あら。私のが似合うわよ。だから私が貰うわね。ガリナ、あなたにもたまには貸してあげるけれどね。」
いつもそう。
早く、こんな生活から抜け出したい。幸せだった時の夢のようには、現実にはならないし、どうすれば抜け出せるのかしら。
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「ねぇお母様!花冠、上手に出来たでしょう?」
「あら、本当に。素敵ねぇ。」
「これはね、…にあげるわ!」
「本当かい?ありがとう。じゃあ僕は、花輪をあげる。いつか本物の指輪を渡したら、はめてくれる?」
「…がくれるの?嬉しい!うん、はめるー!」
「あらあら。それって、求婚じゃないの?」
「お母様、きゅうこんって?」
「僕はエミーリエと、大きくなったら結婚したいって事だよ。」
「まぁ!本当!?私も…としたい!ずーっと一緒にいたい!」
「それは嬉しいなぁ。じゃぁ、僕、うんと頑張って迎えに来るからね。」
「ええ!待っているわ!」
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「夢…。」
私はエミーリエ。エミーリエ=ソベレツ。
とても懐かしい、一番良いときだった頃の夢を見た。
いつも優しく、朗らかで大好きだった私のお母様は、今から十二年前、私が四歳の頃に亡くなった。
それから、お父様であるキーベック=ソベレツ辺境伯は、隣国との検問所を護る役割を担う傍ら、すぐに焦げ茶色でくせのある髪のヨハナという踊り子と再婚した。
ヨハナは各地を転々としていたらしいが、このソベレツの酒場に辿り着き、そこでお父様と出会い、半ば押しかけのような形でお父様と再婚した。
…私は小さかったので、そんな出会いまでは知らなかったが、ヨハナが私に自慢げに話してくるから覚えてしまった。
私はお母様が亡くなってすぐにお父様が再婚された為、当初は複雑ではあったけれど、甘えたい年頃であったから、なんとなく喜んだ、と思う。
けれど、話しかけに行っても相手にしてもらえなかった。
やがて、一年もしない内に義母に娘のガリナ、その次の年に息子のダーヴィズが産まれると、それはもう露骨に私をいじめるようになった。
汚い言葉は日常茶飯事。
叩かれる事も、食事を抜かれる事だってあった。
物も与えられないし、与えられた物はすぐに奪い取られてしまう。
でも、お父様は辺境伯の仕事をするのに手一杯で、なかなか家に居ない。国境付近の砦にいるから。
だから、お義母様がしている事なんてきっと知らないのだわ。
使用人達も、私の肩を持ってくれて口答えする者はさまざまな理由を付けてヨハナが辞めさせてしまった為、とうとう私の味方をする使用人は他にいなくなった。
ただ一人、お母様に付いていた侍女のカリツだけは、ヨハナや義妹のガリナには気付かれないよう上手い具合にやってくれている。
お母様が亡くなって私の侍女になり、それからは姉のように、母のように私は慕っている。
でも、それは二人の時だけ。
外では、カリツは私に素っ気ないフリをして接してくれている。だからきっと、今まで一緒にいられるのだと思う。
あの夢は、お母様がまだ健在だった頃、名前や顔はぼんやりとしていて、はっきりとは覚えていないけれど、雰囲気の柔らかい、少し年上の優しい男の子と遊んでいた時の事だと思う。
この屋敷に、お母様と仲の良い女性と、その息子がよく遊びに来ていたのだ。
(あの時は楽しかった…。)
何も考えず、ただひたすらに自分の好きな事をしていられた。好きな事を好きだとはっきり言う事もできた。
でも、今はそんな事をしようものならば、ヨハナと娘のガリナが、徹底的に潰しにかかってくる。
この前だって、私の誕生日にネックレスをお父様がくれたのに、それをヨハナがガリナと一緒に部屋に来て、奪いとって行った。
「エミーリエには、付けていく場所も無いのだから、必要ないでしょう?」
「そうよ!お姉様より私の方がよほど似合うわ!」
「あら。私のが似合うわよ。だから私が貰うわね。ガリナ、あなたにもたまには貸してあげるけれどね。」
いつもそう。
早く、こんな生活から抜け出したい。幸せだった時の夢のようには、現実にはならないし、どうすれば抜け出せるのかしら。
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