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2. 王命

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 ヨハナとガリナは、事ある毎に、私の部屋へ来ては自慢げに話していくから、世間の情勢にも置いていかれずに済んでいるわ。それだけは、有難いと思っているの。

 初めのうちは羨ましい、欲しい、行きたいという気持ちが勝っていた。なぜ私よりも年下のガリナだけ、とも思ったけれど、だんだん私には無縁の世界なのだと割り切るようにした。


 そうすると、二人の話も存外貴重な情報になるのだと気付いたの。


 ヨハナはガリナを小さな時から華やかと言われる社交の場に連れ回していた。ヨハナは踊り子をやっていたからか今でも年齢年齢よりも若く見え、身体付きは私から見てもとても魅力的。出る所は出て、腰は細くくびれている。それを受け継いでいるのかガリナも、小さな頃から見た目も話し方も大人びていた。そして可愛いドレスを着て、毎回のように出掛けては私に自慢げに話してきた。



『カッセル様は、さすがこの国の王子様だけの事はあるわ。金髪に緑の瞳で、神々しい雰囲気なのよ。背は、そんなに高くはないけれどそこがまたいいのよ。お姉様は会えなくて残念ね!』

『王宮は、とても広くて煌びやかなの。ダンスホールの天井はとても高くて、シャンデリアが幾つもあるのよ。夜には、それがキラキラと輝いているのよ。あぁ、また行きたいわ!あ、お姉様は、まだ一度もご覧になった事がないのでしたね、残念ね!』

『月夜会は、王宮の庭園でやられるのよ。夕方の日が落ちる手前から始まって、庭園には幾つもテーブルがあってお料理もあるのよ。奥には高い生け垣で出来た迷路があるの。どう?素晴らしいでしょう?あらでも、お姉様は、行かれないのでしたね、残念ね!』

『最近、見たこともないとても格好いい男性が舞踏会に来るのよ。銀色の髪なの。お姉様の髪に似てる人なんて初めて見たわ。ま、でもお姉様はあの人を見られないのよね、残念ね!』



 そして、一ヶ月後に月夜会が開かれる事も、自慢げに教えてくれた。

『一ヶ月後に、月夜会が開かれるの。私はもちろん行くわ!お母様もね。また王宮に行けるなんて本当に嬉しいわ!あ、お姉様は行けないのでしたね、残念ね!』

 月夜会とは、一年に一度満月がとても大きく見える日があり、それを王宮で観賞しようと開かれる会。
…というのは今年は建前で、ここターボル国の王子、カッセル様の結婚相手を見つけるのが理由だと言われている事も高らかに言っていた。『必ず私が、結婚相手に選ばれて見せるわ!』と鼻息荒く、言っていた。

 …でも、私はどちらにせよ行けないけれども。

 毎年、さまざまな舞踏会や夜会、ガーデンパーティーがある。けれども、私はドレスを準備されない為、行ったことがない。

 カリツが、いつか行く日の為とマナーはこっそりと教えてくれたけれど、未だかつてそれを披露した事はない。

 まぁ、ドレスを作ってもきっと奪われてしまうから、仕方ないのですけれども。



「大変よ!」

 廊下で、ヨハナの大きな声が響き渡り、屋敷で一番日当たりの悪い、北側の私の部屋まで聞こえてきた。

(今度は何の騒ぎかしら…私に火の粉が降りかからないといいのだけれど。)

 ヨハナとガリナは何かにつけて、大きな声で話しているから使用人に話す言葉でもよく聞こえてくる。
そして、そのあとたいてい私に当たり散らしてくるのだ。


ガチャ
「ちょっと!エミーリエ、あなたも月夜会に行くわよ!」

「お母様!どういう事ですか!?なぜお姉様まで!?いつもお姉様は行かないではないですか!」

 私の部屋をノックもせずに入って来て、ヨハナとガリナが続けざまに言った。
それは、今に始まった事ではないけれど、礼儀知らずなのを分かっているのかしら?
それよりも、私も参加ってどういう事かしら…。

「仕方ないじゃない!私だって連れて行きたくなんてないわ!!でも、王命なんだから逆らえない!こうなったら、ガリナのドレスと差を付けるしかないわね!」

「お母様!そうしてください!私のは、うんと可愛くして、お姉様のはうんとみすぼらしくしてくださいね!」

 カリツ…どうしましょう。マナーを披露する日がとうとう来てしまったわ。

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