「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

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 さて、ヘレンを確保した以上後は機会を設けて周辺の貴族たちに真実を発表するだけです。屋敷に帰った私は父上たちに事情を説明してその日は眠りにつきました。

 翌日から私は父上とともに、どのようにしてヘレンの証言を公表するかを考えます。

「とりあえずパーティーでも開き、たくさんの人を集めてその場に周辺の貴族もウィルも皆呼んで真実を話すしかないだろうな」

 基本的に貴族は自分の領地にいるか、屋敷にいても様々な用件で忙しくしていることが多いので大きなパーティーでもなければ集まることはありません。

 また、王宮やもっとえらい貴族が主催する会議を除いては会議の名目で貴族をたくさん集めることはあまり行われていません。要するにうちのような弱小貴族が人を集めるには適当な名目でパーティーを開く必要があるということです。

「でも我が家にそんな大規模なパーティーを開く財力はあるでしょうか?」
「それは……我が家の方が正しかったとなれば周辺貴族に支援を頼めばどうにかなるだろう」
「分かりました」

 そんな訳で私たちは数日の間、その準備と周辺貴族への手紙の送付などで忙しくなります。

 が、そんなある日のことでした。
 一人の家臣が蒼い顔で私たちが準備をしている部屋に駆け込んできます。

「大変です!」
「一体どうした?」
「それが、おそらくランカスター家の仕業なのですが、エレン様がメルヴィン子爵を誘惑してランカスター家の使用人の身柄をもらい、自分に有利な証言をさせようとしているという噂が」
「何だと、そんな根も葉もないことを」

 それを聞いた瞬間、父上は吐き捨てるように言います。
 そんなくだらない噂など周りの貴族もいちいち取り合わないものだと思いますが。

 が、家臣は依然として蒼い顔のままです。

「いえ、それが……あの金に汚いメルヴィン子爵が我が家にメイドを引き渡したのは色仕掛けしかない、と納得している方も多いとか」
「何だと」

 確かに言われてみれば、門外不出のレシピで見事料理を作って気に入られた、などという話よりも色仕掛けの方が納得されやすいです。
 それに、こういうゴシップめいた噂は得てして広がりやすいものです。

 とはいえこの噂だと私よりもメルヴィン子爵に対する悪口になっているような気もしますが……子爵は何を言われてもあまり気にしていないような気がします。

「これは由々しきことになったな。このままではうちが何を言っても、偽の証言をさせている、などと言われてしまうかもしれぬ。パーティーもやめた方がいいのだろうか?」

 父上は不安そうな表情をしています。
 恐らくこの状況でパーティーを開けばやってきた貴族たちは私、もしくは私だけでなく他の家族をもそういう目で見てくるかもしれません。
 こちらの主張が正しいことを示すどころか、一斉に糾弾される場になってしまうかもしれません。

 それを想像するのはとても怖いですが、ここで退く訳にはいきません。

「お待ちください、父上。確かにこの噂が流されているのはよろしくないですが、ここでパーティーをやめても何も解決しません。ランカスター家はうちの信用を落とすために次々と悪い噂を流そうとしてくるでしょうし、そうなれば財力も影響力も強い向こうが勝ってしまうかもしれません」
「そ、それは確かに……」
「幸い噂が流れた以上うちがパーティーを開けば、周辺の貴族は様子をみるために次々とうちにやってくるでしょう。そこで全員の前できっちり白黒はっきりさせることが出来れば逆転できます」

 私の言葉に父上は少し考えて頷きます。

「確かに。だが大丈夫だろうか?」
「大丈夫です。だって正しいことを言っているのはこちらなのですから。面と向かって対決すれば必ず向こうに綻びが出るはずです」
「分かった……。ならばやってみよう」

 こうして私たちはパーティーの準備を再開するのでした。
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