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精霊姫ミリア
王女の恩返し Ⅰ
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ミリアが王宮に帰ってから、俺はラザルにもらった野菜や周辺の森で見つけた野菜や果物の種をどうにかして育てられないか研究をしていた。
家を建てるときに木をたくさん斬ったので周囲に空き地はたくさんある。おそらくそこに種をまけば育つのだろうが、それだけではいつになったら食べられるのか分からない。特に果物などは普通に育てたのでは早くても数年はかかるだろう。
「うーん、錬金術の力で土を肥えさせることが出来れば早く育つか? でもいくら土に栄養があっても豊かに育つだけで早くはならないよな」
人工物の極致である賢者の石を作ることは出来ても、自然を相手にすると錬金術も万能ではない。ちなみにトマトを魔力だけで錬成したことはあったが、少し味気なかった。やはり魔法の力では形や機能を再現出来ても味を再現するのは難しいらしい。
そんな訳で今日も家の前で土いじりをしていると、不意に目の前の木々がかさかさと揺れた。
「魔物か!?」
反射的に俺はそちらを向く。魔族の領域が近いこともあって魔物が侵入してくることは時々あるので常に警戒は怠れない。
「お久しぶりです。アルスさん」
「殿下!?」
木々の間から姿を現した人物を見て俺はある意味魔物よりも驚いた。そこに立っていたのは正真正銘の第三王女・ミリアであった。前に出会ったときは石の呪いで疲弊していたが、今は至極健康そうに見える。また、前回と違ってドレスではなく旅装を纏っていた。
そして俺の顔を見るとほっとしたように笑みを浮かべた。
「女性の顔を見てそんなに驚くのは失礼ではないですか?」
「すまん……いや、そうじゃなくって!」
一瞬ミリアのペースに乗せられて謝りそうになるが、どう考えても俺が驚くのは普通の反応のはずだ。
「何でまたこんなところに!?」
「何でって、冷静に考えてあんな石を渡してくるということはエレナ殿下は私に害意があるということですよね? 石は危険なので返さないといけませんでしたが、それが済んだらもう王宮にはいられませんよ」
「それはそうか」
言われて俺は納得する。正直エレナやコールがあの石がどういうものなのかどこまで把握していたのかは怪しいが、全てを理解したうえでミリアを始末しようとしていた可能性は確かにある。そうである以上王宮に長居することは出来ないとミリアが思うのは無理もないことだ。
「いや、だからといって何でここに来るんだ!?」
もしそうだとしても他にもっと行くところはあるはずだ……いや、案外そうでもないのか。
ミリアは元々離宮に引きこもっており、他人との交流は少ないことに定評があった。生母も産後に体調を崩して若くして死んだと聞いたことがある。そう考えると王宮以外に行くところはないのかもしれない。
「言ったじゃないですか、恩返しは必ずしますと。あの時アルスさんから見れば私は憎きオルメイア王家の一員であるにも関わらず、自分の身が危険に晒されるのもいとわずに石の呪いを解いてくれました」
なるほど、そういう解釈もあるのか。ミリアの俺への感謝が尋常でないことに戸惑っていたが、確かに俺の恨みが王家全体に及んでいると思っていたのならそうなるのかもしれない。
「いや、エレナのことは恨んでいるが、別に王家全員を恨んでる訳ではなかったからな」
「だとしても、あの石を触ることは一歩間違えばアルスさんの身に呪いが降りかかる危険がありました。王国からはもう追放されたのにそこまでの危険を冒してくださるなんて」
「俺も錬金術師としてあの石が何なのか興味があったからな。もっとも、完全に分かった訳ではないが」
これまで魔法の知識や技術を褒められることは多々あったが、人格を褒められるのは初めてだったので何となく恥ずかしい。しかも自分の気配りの出来なさが追放という結果を招いたということもあっただけになおさらだ。
「それに……熱心に看病もしていただきましたし」
そう言ってミリアは少し恥ずかしそうに俯く。
看病という言葉に、俺も彼女の服を着替えさせたことを思い出して恥ずかしくなる。
「こほん、それよりもお礼と言っていたが、具体的に何をしてくれるんだ?」
俺は少し強引に話題をそらす。
「はい、それなんですが王家を離れた私にはもはや何もないと言っても過言でもありません。ですので料理や掃除など、出来ることは何でもします!」
彼女は真剣な目で言ったが、俺が思っていたのとは違う。てっきり何か金品を送って終わりだと思っていた。
確かに俺はそういうことには疎いが、だからといってそれをミリアにやってもらうのも気が引ける。
「いや、さすがにそれはこっちの気が引ける」
「そうですか? 私特に料理には自信があるのですが」
そういう問題ではない、と言おうとしたが確かに料理に自信があるのはありがたい、と思ってしまう。俺が答えられないでいると彼女はふと周りを見渡す。家の周りの少し耕された土地と野菜や果物の種を見つける。
「そう言えばこれは何をしようとしていたんでしょうか?」
「ああ、実は野菜や果物を育てようと思っていたんだが、普通に育てても育つのに時間がかかるだろ? 魔法でどうにか早く収穫出来ないかと思ってな」
「そうですか。でしたら私、お役に立てると思いますよ? いでよノーム」
すると彼女の前に小人の形をした大地の精霊が現れる。精霊は体が魔力で構成されている言うなれば魔法生物のようなものだ。俺は精霊を初めてみたが、彼女は簡単に使役出来るらしい。
姿を現したノームは目の前に置かれた種に魔力を注ぎながら土に蒔いていく。蒔き終わると、土に魔力を注ぎ込む。
「お手数ですが、土に栄養を注ぎ込んでいただけますか? この辺は精霊力が弱く土が肥えていないので、一気に育てるとなると多分足りません」
「分かった。クリエイト・リッチ・サンド」
俺が土に魔法をかけると同時にノームが植えた植物はいきなり芽を出してすくすくと育っていく。まるで時間が何千倍も速く流れるようになったかのようだ。
「クリエイト・リッチ・サンド」
あっという間に栄養が吸い尽くされてしまったので俺は再び土に魔法をかける。こうして数分後には土の上にはトマトが育ち、赤くてつやつやと輝くおいしそうな実をつけていた。
「すげえ……」
それを見て俺は呆然とした。何でもとは言われたが、精霊姫の異名をとるだけあって出来ることの幅が違う。
そんな俺の反応を見てミリアはにっこりと笑う。
「どうでしょう、これでも私に恩返しさせていただけませんか?」
正直この力はこんなところで家庭菜園なんかに使わせていいものではないだろ、と思ったがそれを言えば俺も同じだ。
ここで俺が断ったとしても彼女が行く先が他にないのなら、その言葉に甘えさせてもらおう。
「分かった、それなら頼む」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってミリアは安堵の笑みを浮かべる。
それを見て本来お礼を言うべきはこっちなんだがな、と俺は思った。
家を建てるときに木をたくさん斬ったので周囲に空き地はたくさんある。おそらくそこに種をまけば育つのだろうが、それだけではいつになったら食べられるのか分からない。特に果物などは普通に育てたのでは早くても数年はかかるだろう。
「うーん、錬金術の力で土を肥えさせることが出来れば早く育つか? でもいくら土に栄養があっても豊かに育つだけで早くはならないよな」
人工物の極致である賢者の石を作ることは出来ても、自然を相手にすると錬金術も万能ではない。ちなみにトマトを魔力だけで錬成したことはあったが、少し味気なかった。やはり魔法の力では形や機能を再現出来ても味を再現するのは難しいらしい。
そんな訳で今日も家の前で土いじりをしていると、不意に目の前の木々がかさかさと揺れた。
「魔物か!?」
反射的に俺はそちらを向く。魔族の領域が近いこともあって魔物が侵入してくることは時々あるので常に警戒は怠れない。
「お久しぶりです。アルスさん」
「殿下!?」
木々の間から姿を現した人物を見て俺はある意味魔物よりも驚いた。そこに立っていたのは正真正銘の第三王女・ミリアであった。前に出会ったときは石の呪いで疲弊していたが、今は至極健康そうに見える。また、前回と違ってドレスではなく旅装を纏っていた。
そして俺の顔を見るとほっとしたように笑みを浮かべた。
「女性の顔を見てそんなに驚くのは失礼ではないですか?」
「すまん……いや、そうじゃなくって!」
一瞬ミリアのペースに乗せられて謝りそうになるが、どう考えても俺が驚くのは普通の反応のはずだ。
「何でまたこんなところに!?」
「何でって、冷静に考えてあんな石を渡してくるということはエレナ殿下は私に害意があるということですよね? 石は危険なので返さないといけませんでしたが、それが済んだらもう王宮にはいられませんよ」
「それはそうか」
言われて俺は納得する。正直エレナやコールがあの石がどういうものなのかどこまで把握していたのかは怪しいが、全てを理解したうえでミリアを始末しようとしていた可能性は確かにある。そうである以上王宮に長居することは出来ないとミリアが思うのは無理もないことだ。
「いや、だからといって何でここに来るんだ!?」
もしそうだとしても他にもっと行くところはあるはずだ……いや、案外そうでもないのか。
ミリアは元々離宮に引きこもっており、他人との交流は少ないことに定評があった。生母も産後に体調を崩して若くして死んだと聞いたことがある。そう考えると王宮以外に行くところはないのかもしれない。
「言ったじゃないですか、恩返しは必ずしますと。あの時アルスさんから見れば私は憎きオルメイア王家の一員であるにも関わらず、自分の身が危険に晒されるのもいとわずに石の呪いを解いてくれました」
なるほど、そういう解釈もあるのか。ミリアの俺への感謝が尋常でないことに戸惑っていたが、確かに俺の恨みが王家全体に及んでいると思っていたのならそうなるのかもしれない。
「いや、エレナのことは恨んでいるが、別に王家全員を恨んでる訳ではなかったからな」
「だとしても、あの石を触ることは一歩間違えばアルスさんの身に呪いが降りかかる危険がありました。王国からはもう追放されたのにそこまでの危険を冒してくださるなんて」
「俺も錬金術師としてあの石が何なのか興味があったからな。もっとも、完全に分かった訳ではないが」
これまで魔法の知識や技術を褒められることは多々あったが、人格を褒められるのは初めてだったので何となく恥ずかしい。しかも自分の気配りの出来なさが追放という結果を招いたということもあっただけになおさらだ。
「それに……熱心に看病もしていただきましたし」
そう言ってミリアは少し恥ずかしそうに俯く。
看病という言葉に、俺も彼女の服を着替えさせたことを思い出して恥ずかしくなる。
「こほん、それよりもお礼と言っていたが、具体的に何をしてくれるんだ?」
俺は少し強引に話題をそらす。
「はい、それなんですが王家を離れた私にはもはや何もないと言っても過言でもありません。ですので料理や掃除など、出来ることは何でもします!」
彼女は真剣な目で言ったが、俺が思っていたのとは違う。てっきり何か金品を送って終わりだと思っていた。
確かに俺はそういうことには疎いが、だからといってそれをミリアにやってもらうのも気が引ける。
「いや、さすがにそれはこっちの気が引ける」
「そうですか? 私特に料理には自信があるのですが」
そういう問題ではない、と言おうとしたが確かに料理に自信があるのはありがたい、と思ってしまう。俺が答えられないでいると彼女はふと周りを見渡す。家の周りの少し耕された土地と野菜や果物の種を見つける。
「そう言えばこれは何をしようとしていたんでしょうか?」
「ああ、実は野菜や果物を育てようと思っていたんだが、普通に育てても育つのに時間がかかるだろ? 魔法でどうにか早く収穫出来ないかと思ってな」
「そうですか。でしたら私、お役に立てると思いますよ? いでよノーム」
すると彼女の前に小人の形をした大地の精霊が現れる。精霊は体が魔力で構成されている言うなれば魔法生物のようなものだ。俺は精霊を初めてみたが、彼女は簡単に使役出来るらしい。
姿を現したノームは目の前に置かれた種に魔力を注ぎながら土に蒔いていく。蒔き終わると、土に魔力を注ぎ込む。
「お手数ですが、土に栄養を注ぎ込んでいただけますか? この辺は精霊力が弱く土が肥えていないので、一気に育てるとなると多分足りません」
「分かった。クリエイト・リッチ・サンド」
俺が土に魔法をかけると同時にノームが植えた植物はいきなり芽を出してすくすくと育っていく。まるで時間が何千倍も速く流れるようになったかのようだ。
「クリエイト・リッチ・サンド」
あっという間に栄養が吸い尽くされてしまったので俺は再び土に魔法をかける。こうして数分後には土の上にはトマトが育ち、赤くてつやつやと輝くおいしそうな実をつけていた。
「すげえ……」
それを見て俺は呆然とした。何でもとは言われたが、精霊姫の異名をとるだけあって出来ることの幅が違う。
そんな俺の反応を見てミリアはにっこりと笑う。
「どうでしょう、これでも私に恩返しさせていただけませんか?」
正直この力はこんなところで家庭菜園なんかに使わせていいものではないだろ、と思ったがそれを言えば俺も同じだ。
ここで俺が断ったとしても彼女が行く先が他にないのなら、その言葉に甘えさせてもらおう。
「分かった、それなら頼む」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってミリアは安堵の笑みを浮かべる。
それを見て本来お礼を言うべきはこっちなんだがな、と俺は思った。
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