継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃

文字の大きさ
9 / 29

夕食

しおりを挟む
 出来上がったお料理を持っていくと、食卓にいたのはブラッドと父であるアーノルド男爵、そして母上と彼の幼い妹、執事が一人だけでした。

「初めましてだな。まだ結婚もしていないのにこのようなことをさせてしまい申し訳ない」

 そう言ってアーノルド男爵は私に自己紹介をします。まさかこんな形で初対面になるとは思ってもみませんでしたし、いきなり手料理を振る舞うのはどきどきします。

「いえ、私も好きでやっているので大丈夫です。お口に合うとよろしいのですが」
「どんな娘が相手なのか気になっていたけどあなたのような方で良かったわ。よろしくね」

 次に口を開いたのはブラッドの母、つまり男爵夫人でした。
 エイダと違って質素な身なりをしているため、一見すると貴族の妻には見えませんが、エイダとは似ても似つかない、優し気な眼差しで私のことを見てくれています。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 私も慌てて頭を下げます。

「思っていたのとは大分違うが、一応これでも僕らの初めての顔合わせの食事だ。楽しく食べようじゃないか」

 ブラッドがそう言って、私たちは食事を始めます。

「……このお肉、おいしいわ」

 最初にそう言ってくれたのは男爵夫人でした。

「本当ですか?」
「ええ、普段はステーキの時は胡椒メインの味つけだけど、こんな味もあるのね。手が進むわ」
「ありがとうございます!」

 私は夫人の言葉に安堵しました。よく嫁ぎ先の嫁姑関係は問題になると聞きますが、彼女は気のいい女性だったようだったようです。

「ふむ、作ってもらった以上どんなものでも文句を言うつもりはなかったが、これは本当においしいな」

 そう言って男爵もおいしそうに食べてくださっています。

「すでに大体察していると思うが、恥ずかしい話うちは生活に必要なぎりぎりの使用人を雇うことしか出来ないんだ。せめて初日ぐらいはこんなところを見せたくなかったものだが、なかなかうまくいかないものだね」
「いえ、うちも似たような事情なので状況は察しています。ブラッド殿と結婚した後も、手が足りないことがあれば本来メイドがやることもどんどん手伝いますので遠慮しないでください」

 すると私の言葉に男爵は感動した様子でこちらを見てきます。

「実はこれまでいくつかの家に縁談を申し込んだのだが、皆我が家の状況を見て断られてしまったのだ。失礼ながらローウェル家はあまり評判が良くなかったから最後に回したつもりだったのだが、こんなことなら最初に申し込むべきだった」
「あはは……」

 うちの評判が悪いというのは私としても同意するところなので苦笑いする他ありません。大方、家の窮状を見かねて遊び歩いている贅沢な女に育てられた我が儘お嬢様が嫁いでくるとでも思うでしょう。

「そうね、ブラッドはこんな環境にも関わらず学問も武術も頑張って育ったというのにうちのせいでいい縁談に恵まれないのではないかと心配してたからほっとしたわ」

 男爵夫人もほっとします。ブラッドはしばしの間頬を赤くして照れていましたが、やがてこちらに向き直ります。

「……と言う訳で、こんな家でも良ければ我が家は君を歓迎するよ」
「ありがとうございます。私も婚約先がこの家で本当に良かったです」

 もし金持ちの貴族に嫁ぐことが出来ても、貧乏性だと馬鹿にされるぐらいなら貧乏でも温かい家に嫁ぐ方がよほどいいです。
 私を温かく迎えてくれる家に嫁ぐことが出来て良かった、と心からほっとします。

「片付けはどうにかするから君は今日は早めに休むといい」

 食事が終わると、ブラッドは私を客間に案内してくれます。
 ぼろぼろの屋敷ですが、客間も応接室と同じようにきれいに掃除され、ベッドはふかふかの布団が整えられていました。

「素晴らしい部屋ですね」
「そうだ。うちは応接室と客間だけはお金がかかっているからね。ではお休み」
「おやすみなさい」

 こうして私は殿下と別れ、ベッドに入るのでした。

 私が日ごろ使わせられている粗末なベッドと違い、ベッドはとてもふかふかで寝心地が良かったのですぐに意識が遠くなりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 あらまぁ...別に良いんですよ だって、貴方と婚約なんてしたくなかったですし。

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...