本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃

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神巫

あるべき形

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 その後の調査によると、古の聖女は特別に用意された祭壇のようなところで神巫に祈りを捧げていたようです。祭壇についての資料を読むと、竜の巫女の時に使っていた祭壇のように特別な魔法が必要なのですが、興味深いことに今王宮にある『祈祷の間』に酷似しているのです。もしかするとネクスタ王国建国時に部屋の作りだけは継承したのかもしれません。

「やりましたね! これが分かれば私たちがシンシア様に力を与えることが出来ます」

 資料を読んだ神官が喜びの声を上げます。
 が、エメラルダは不安そうな声で言いました。

「とはいえ私たちは聖女の加護を持っている訳ではありません。それでも本当に神巫の力になることが出来るのでしょうか?」
「加護はあくまでその人の適正を高めるものです。加護を持っていなくても多少は力を分けていただくことは出来るはずです」

 実際、農家の人が全員農業関連の加護を持っている訳ではありません。
 それにそういうことを言うならば、この国の外の人々は全員加護なしで頑張っています。

「なるほど」
「そのため、新しい聖女の加護を持った者が現れるまで、エメラルダに聖女代行を務めて欲しいのです」
「え、私がですか? 聖女というのは人間の代表として神巫に祈りを捧げる役目と聞きましたが」

 エメラルダは驚きます。確かに急に人間を代表しろといわれれば誰でもそういう反応になるでしょう。私も最初聖女になった時はそんな気持ちでした。

 しかし大司教様の娘である生まれや、持っている魔力量などを考慮すると彼女しか適任はいないでしょう。他の神官たちも彼女を見て次々に頷きました。
 それを見てエメラルダも決心します。

「分かりました。でしたら私がやらせていただきます」
「ではよろしくお願いします」

 そして緊張した面持ちのエメラルダは祈祷の間に入っていくのでした。神巫が当時どこで祈りを捧げていたのかは定かではありませんでしたが、これまで竜国いた時も神託を受けることが出来た以上、場所に制限はないのかもしれません。

 私は神殿の最上階に上がり、そこで外を見ながら祈りを捧げます。

 神殿はそこまで高い建物ではありませんが、そこからでも王都の中を行き来する人々の姿や、ぼろぼろの王宮や街並みが目に入ります。何とかこの国が早く立ち直って欲しい。そんな思いをこめて私は手を合わせます。

 その時でした。

 突然、下の階にある祈祷の間からエメラルダの魔力が奔流となって私に流れてくるのを感じます。エメラルダは正規の聖女ではありませんし、現在ネクスタ王国の信仰の力は失われかけており、エメラルダから流れてくる力からは万全には程遠いという感触があります。

 しかしそれでも人間を代表しているだけはあり、私個人の力を上回るものでした。魔力がかなりあると言われた私ですら軽々超えるような魔力量が流れ込んできて、まるで自分の体内で激流が暴れ回っているような感じです。私はしばらくの間その感覚に慣れるのが精いっぱいでした。これが不完全とはいえ、国民全員の祈りの力なのでしょう。

「ありがとう、エメラルダ」

 私は彼女に感謝を言いながら神様に祈ります。すると早速脳裏に声が響きました。

 “これまでのどの祈りよりも力を感じる”

 それを聞いて私は安堵します。私たちの試みは方向性は合っていたようです。

 “このペースで祈りを捧げられれば、遠からず力を回復していくだろう。悪いが、完全に我が力が回復するまでよろしく頼む。さすれば、次の加護授与の時期に聖女や巫女の加護を与えることが出来るようになるだろう”
 “本当ですか!?”
 “そうだ。また、我が力が戻ればそれまでおぬしが竜の巫女としてやっていた竜への力の授与も我の方から行うことが出来るようになりそうだ”

 なるほど、そういうシステムだったのか、と私は納得します。

 私は聖女が神様に、竜の巫女が竜に祈りを捧げるのがあるべき姿だと思っていましたが、本来は聖女と巫女が神巫に祈りを捧げ、神巫が神に祈りを捧げ、神様が竜や人間たちに力を与えるという形だったらしいのです。

 そして私はもう一つのことに気づきました。

 “もしや神様、古代の記憶が戻っています?”
 “言われてみればそうだ。確かに、神巫はただ聖女の代わりが務まるだけの存在ではなかったのだ……。このような重要なことを忘れていたとは、力の衰えというのは恐ろしいものだ!”

 それから神様は最近私が調べていたようなことを述べます。
 おそらく、遠からずしてこの周辺一帯は神様の加護に包まれることでしょう。
 私は神様が力と記憶を取り戻しかけていることを知って安堵したのでした。
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