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帝国の影
衝撃
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頑張った甲斐があり、祈りが終わるとガルドは満足そうに頷きました。
“確かに巫女の祈りを受け取った。今後王都付近に祭壇を作らせ、どこで祈りを捧げるように”
“分かった”
ガルドの言葉に御使様が頷きます。
守護竜様に祈る時、別に守護竜様が目の前にいなくても私の祈りが届いているのはあの祭壇のおかげでしょう。つまりガルドの祭壇を王都に作ってもらえば、今後はわざわざここまで出向かなくてもよくなりそうです。
もちろん、祈りを捧げる頻度が二倍になれば大変でしょうが、逆に言えばそれしか仕事がない訳ですからどうにか勤めを全うしたいところです。
“祭壇については任せて大丈夫?”
“ああ、建物か敷地さえもらえれば我ら竜族の力で用意しよう”
“分かった。それなら大丈夫”
竜たちとの話がまとまった私はほっとして殿下に報告します。
「殿下、どうにか話がまとまりました」
「本当か!?」
私が声をかけると殿下は嬉しそうに反応します。
そこで私は今の話を殿下にしました。すると彼はほっと胸を撫で下ろします。
「良かった、これで竜たちは再び人間に好意を抱いてくれる。しかしシンシア、そなたは大丈夫なのか?」
「はい、私は祈ることでしか皆様のお役に立てないのでそれを全うするのみです」
「祈ることでしか、などと否定的な言い方をするものではない。そなたは国に一番貢献してくれている」
殿下にそう言われると他の方に同じことを言われるよりも嬉しいもので、私の心は温かくなります。
「ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。……そう言えば、結局そちらの男は?」
私は血を流して倒れている男を指さします。
それを見て殿下は難しい表情をしました。
「デュアノス帝国は我らと竜を揉めさせようとしたのだろう。今回は巫女がうまく決まったからそうはならなかったが、もし巫女が決まらなければ、我が国は完全に竜の庇護を失い、魔物に国を奪われていたかもしれない」
「一体なぜそんなことを……」
「帝国はネクスタ王国に攻め入ろうと思っていた。そこで我が国が援軍を出すと厄介だと思ったのだろう。もしくは、ネクスタ王国を滅ぼした後はその勢いで我が国を滅ぼすことも考えているのかもしれない」
「何と言うことを」
帝国の欲望の際限のなさに私は思わず声を上げてしまいます。なぜそこまでして領地を広げようとするのでしょうか。私には理解出来ません。
「とはいえ、帝国の陰謀だと分かればこうしてはいられない。急いで王都に戻ってこのことを知らせなければ」
そう言って殿下は竜たちに一礼するとヘルメスに飛び乗ります。
私も御使様の背に乗ると、ガルドが私に声をかけてきました。
“巫女殿も気を付けて欲しい。先ほどの者は随分前から我らに声をかけてきた。奴らの陰謀は周到だ”
“ありがとうございます”
ガルドの言葉に私は戦慄します。言われてみればあの男は流暢な竜語を話していました。巫女候補でも竜とのコミュニケーションには苦労していたところを見ると、高度な言語変換魔法を使っているのでしょうが、そのような高位の魔術師を送り込んでくるということはそれだけ本気の計画ということでしょう。
私はガルドにお礼を言って御使様の背に乗ったのでした。
さて、最初にネクスタ王国から援軍の使者が届いたのはバルク王子軍が帝国に敗北してすぐのことでした。それから数日間の準備の末私たちは出発し、さらに往復で十日の時間が経過しています。
十日ぶりに私たちが王都に戻ってくると王都はどことなくざわついている様子でした。
私たちが急いで王宮の庭に降り立つと、家臣たちが血相を変えて飛び出してきます。
「大変です殿下! デュアノス帝国の軍勢によってネクスタ王国の王都が陥落いたしました!」
「何だと!?」「嘘!?」
それを聞いて私たちは思わず竜の背から落ちそうになるほどの衝撃を受けました。
基本的に王都というのは国で一番重要な場所。そのため、城下町を囲む城壁があり、さらにその中には堅固な備えをした王宮があります。特にネクスタ王国の王宮は改修したばかりと聞きました。そんなに簡単に陥落することなどがあるでしょうか。
呆然とする私たちに家臣は事情を話します。
「それが、バルク王子が帝国に敗戦してから真っ先に逃亡したことで士気が下がって兵士たちが逃亡。さらに貴族たちも王宮の改修による厳しい労役で嫌気が差していたようで、誰もまともに戦わなかったようです。そんな中、裏切り者が出て内部から城門が開いたとのこと」
「まさかそこまでの事態に陥っていたとは」
殿下は呆然としていましたが、やがて我に返って質問します。
「それで我が国はどうするのだ?」
すでに王都にその知らせが届いているのであれば国王らが対応を決めているでしょう。
「とりあえず国境沿いに軍勢を集めて帝国軍の侵入を防ぐ予定です」
「分かった」
そう言って殿下は力なく頷きます。
そして私の方を向きました。
「祖国がこんなことになっているのに助けることも出来なくて済まない」
「いえ……」
大丈夫です、と答えようと思いましたが私自身その知らせにショックを受けていたのでしょう、その続きは言葉になりませんでした。
結局その後のことはよく覚えていません。よろよろと部屋に戻るとろくにご飯も食べずに眠ってしまったのでした。
“確かに巫女の祈りを受け取った。今後王都付近に祭壇を作らせ、どこで祈りを捧げるように”
“分かった”
ガルドの言葉に御使様が頷きます。
守護竜様に祈る時、別に守護竜様が目の前にいなくても私の祈りが届いているのはあの祭壇のおかげでしょう。つまりガルドの祭壇を王都に作ってもらえば、今後はわざわざここまで出向かなくてもよくなりそうです。
もちろん、祈りを捧げる頻度が二倍になれば大変でしょうが、逆に言えばそれしか仕事がない訳ですからどうにか勤めを全うしたいところです。
“祭壇については任せて大丈夫?”
“ああ、建物か敷地さえもらえれば我ら竜族の力で用意しよう”
“分かった。それなら大丈夫”
竜たちとの話がまとまった私はほっとして殿下に報告します。
「殿下、どうにか話がまとまりました」
「本当か!?」
私が声をかけると殿下は嬉しそうに反応します。
そこで私は今の話を殿下にしました。すると彼はほっと胸を撫で下ろします。
「良かった、これで竜たちは再び人間に好意を抱いてくれる。しかしシンシア、そなたは大丈夫なのか?」
「はい、私は祈ることでしか皆様のお役に立てないのでそれを全うするのみです」
「祈ることでしか、などと否定的な言い方をするものではない。そなたは国に一番貢献してくれている」
殿下にそう言われると他の方に同じことを言われるよりも嬉しいもので、私の心は温かくなります。
「ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。……そう言えば、結局そちらの男は?」
私は血を流して倒れている男を指さします。
それを見て殿下は難しい表情をしました。
「デュアノス帝国は我らと竜を揉めさせようとしたのだろう。今回は巫女がうまく決まったからそうはならなかったが、もし巫女が決まらなければ、我が国は完全に竜の庇護を失い、魔物に国を奪われていたかもしれない」
「一体なぜそんなことを……」
「帝国はネクスタ王国に攻め入ろうと思っていた。そこで我が国が援軍を出すと厄介だと思ったのだろう。もしくは、ネクスタ王国を滅ぼした後はその勢いで我が国を滅ぼすことも考えているのかもしれない」
「何と言うことを」
帝国の欲望の際限のなさに私は思わず声を上げてしまいます。なぜそこまでして領地を広げようとするのでしょうか。私には理解出来ません。
「とはいえ、帝国の陰謀だと分かればこうしてはいられない。急いで王都に戻ってこのことを知らせなければ」
そう言って殿下は竜たちに一礼するとヘルメスに飛び乗ります。
私も御使様の背に乗ると、ガルドが私に声をかけてきました。
“巫女殿も気を付けて欲しい。先ほどの者は随分前から我らに声をかけてきた。奴らの陰謀は周到だ”
“ありがとうございます”
ガルドの言葉に私は戦慄します。言われてみればあの男は流暢な竜語を話していました。巫女候補でも竜とのコミュニケーションには苦労していたところを見ると、高度な言語変換魔法を使っているのでしょうが、そのような高位の魔術師を送り込んでくるということはそれだけ本気の計画ということでしょう。
私はガルドにお礼を言って御使様の背に乗ったのでした。
さて、最初にネクスタ王国から援軍の使者が届いたのはバルク王子軍が帝国に敗北してすぐのことでした。それから数日間の準備の末私たちは出発し、さらに往復で十日の時間が経過しています。
十日ぶりに私たちが王都に戻ってくると王都はどことなくざわついている様子でした。
私たちが急いで王宮の庭に降り立つと、家臣たちが血相を変えて飛び出してきます。
「大変です殿下! デュアノス帝国の軍勢によってネクスタ王国の王都が陥落いたしました!」
「何だと!?」「嘘!?」
それを聞いて私たちは思わず竜の背から落ちそうになるほどの衝撃を受けました。
基本的に王都というのは国で一番重要な場所。そのため、城下町を囲む城壁があり、さらにその中には堅固な備えをした王宮があります。特にネクスタ王国の王宮は改修したばかりと聞きました。そんなに簡単に陥落することなどがあるでしょうか。
呆然とする私たちに家臣は事情を話します。
「それが、バルク王子が帝国に敗戦してから真っ先に逃亡したことで士気が下がって兵士たちが逃亡。さらに貴族たちも王宮の改修による厳しい労役で嫌気が差していたようで、誰もまともに戦わなかったようです。そんな中、裏切り者が出て内部から城門が開いたとのこと」
「まさかそこまでの事態に陥っていたとは」
殿下は呆然としていましたが、やがて我に返って質問します。
「それで我が国はどうするのだ?」
すでに王都にその知らせが届いているのであれば国王らが対応を決めているでしょう。
「とりあえず国境沿いに軍勢を集めて帝国軍の侵入を防ぐ予定です」
「分かった」
そう言って殿下は力なく頷きます。
そして私の方を向きました。
「祖国がこんなことになっているのに助けることも出来なくて済まない」
「いえ……」
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