黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ

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四十二話 だから早く孫作れって言ったのに

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(あれがエミールの……)

 セルジュがこちらを見ていることに気がついたエミールが満面の笑みを浮かべた。二人のフェアリーはエミールが笑いかけているセルジュに気がつくと、三人揃ってヒラヒラとセルジュの前まで飛んできて、目の前で人間の姿に変化した。

(あ……)

「もしかして、うちの子を助けて下さった方ですか?」

 本当の父親らしいフェアリーは、背の高い人間の男性の姿になってセルジュに微笑みかけた。

「あ、その……」
「村が襲われた時、私がこの子を棚に隠したんです。フェアリーの赤ちゃんは人間よりずっとしっかりしてるんですけど、それでも生後まだ間もなかったので心配で」

 人間の女性の姿になった本当の母親らしきフェアリーは、エミールをぎゅっと抱きしめながらセルジュに向かってそう言った。

「あ、村でその子を助けたのはこいつなんです」
「ステヴナン伯爵ですか?」

 王領の村とはいえ、すぐ近くのステヴナン領の領主の顔はフェアリーにまで知れ渡っているようであった。

「本当にありがとうございます、伯爵」
「微力ながら、一年ほどこいつと二人で面倒を見させていただきました」
「あうー」

 クロードの言葉を肯定するかのように、エミールがにこにこ笑いながらクロードの長い髪を引っ張った。

「この子が人間の姿をとったところは初めて見るのですが、確かにお二人の子供みたいな容姿ですね」
「生きるために必死で私たちの姿を真似したのでしょう。素晴らしい生存本能です」
「ほう、それは興味深い」

 ロベール伯爵が面白がっているような表情で近づいて来た。

「こんな幼いのに大したものだ。魔法マナの量も普通のフェアリーよりかなり多いのだと兄も言っていた」
「ニコラス殿が?」
「ああ、兄は南の果物に適切な魔法を供給するために、毎年何かしらの魔法生物を持ってマルタン領を訪れるのだが、今年はキポエ村の件があったためにいつもより魔法を多く持つ生物を持って行ったのだ。ところがマルタン城にあるはずのない魔法が予想以上に溢れていたため、持って行った魔法生物が暴走して巨大化してしまったと言っていた」

 ロベール伯爵の説明を聞いたスワンが驚いてポカンと口を開けた。

「そんな、それでニコラス殿は毎年我が南領に? それならそうと言ってくだされば……」
「兄は今は気が向いているから果物の生育を助けているだけだ。来年はもう行かないかもしれないのに、いちいち説明などしない」
「ええっ! そんな……」
「まあそんなに心配するな。私は今の代の辺境伯を気に入っているから、そんな酷いことをするつもりは無い」

 ロベール伯爵はエミールとその両親に向き直った。

「ご子息の魔法の力は私の兄のお墨付きです。我がロベール領の後継者にぜひ推薦したい」
「西方ですか」

 エミールの両親は顔を見合わせた。

「やはり我々も西へ移住するしかないのでしょうか」
「こんなことがあったのだ。いつまでも先祖代々の土地にこだわる必要もあるまい」
「しかし我々がいなくなれば、北方の魔法が弱まってしまいます」
「そんなことを気にする必要はない」

 北方に住む聖職者のカトリーヌもそこで会話に加わった。

「魔法の加護が無くなるのは、魔法生物を乱獲した人間の自業自得だ。歴史は繰り返すのだから仕方あるまい」

 エミールの両親はクロードとセルジュの手を握った。

「西へ行けばもう我々はこちらに戻ることはできないでしょう。私たちの子供にまた会いに来てもらえますか?」

 そう言われると、セルジュは不本意ながらも目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

「もちろんです。許してもらえるなら」
「必ず来てくださいね」
「あ、そういえば」

 セルジュは鼻声になりそうなのを堪えながら、気になっていたことを質問した。

「その子、なんていう名前なんですか?」

 エミールの両親は顔を見合わせた後、父親が笑いながら口を開いた。

「実は生まれたばかりだったので、まだ名前を決めていなかったんです」
「え……」
「よろしければ名付け親になって下さいませんか?」

 これ以上は我慢の限界だった。ポロポロと涙をこぼすセルジュをそっと胸に抱いて、クロードが代わりに返答した。

「我々はエミールと呼んでいました」
「エミール、いい名前ですね」
「ステヴナン夫妻とのお別れは済んだかね?」

 ロベール伯爵が再び会話に割って入って来た。茶化すような口調だったが、少し焦っているのか目が笑っていなかった。

「私は今回の聖樹祭は欠席させてもらう。面倒が起こる前にここにいるフェアリー全員を西へ連れて行かなければならないのでね」
「ええっ! それはまずいんじゃ……」

 イザベルの忠告をロベール伯爵はフンと鼻を鳴らして一蹴した。

「君たち他所の辺境伯はともかく、陛下も私には一目置いてもらわねば困るのだ。何せなのだから」

 ロベール伯爵はそう言うと、自分のマントをさっと広げてその中にフェアリーたちを次々と隠していった。

「まさか、そのまま帰るんですか?」
「馬車までの辛抱だ。さあ、お前たちも早く」

 エミールは指をちゅぱちゅぱと吸っていたが、両親と一緒に本来のフェアリーの姿に戻った時は、人間のフリをしていた時よりずっと逞しく見えた。

(そりゃそうだ。人間の姿だとまだ伝い歩きとハイハイしかできなかったのに、フェアリーになったら空を飛び回れるんだから)

 エミールが満面の笑みを浮かべてセルジュとクロードに手を振った。セルジュも涙を拭って笑顔で手を振りかえした。

「じゃあな、エミール。幸せになれよ」
「ふげっ」
「エミール! 私たちのことも忘れないで下さいよ!」

 スワンは周りを憚ることなく男泣きに頬を濡らしており、イザベルもそっと目頭を押さえていた。

 エミールと両親がマントの奥に姿を消して、セルジュは再びクロードの胸を濡らしながらボロボロと泣いた。

「あーあ、だから早く孫作れって言ってたのに」

 去っていくロベール伯爵の背中を見ながら、カトリーヌも心なしか鼻声になっているようだった。

かすがいがいなくなっちまったけど、お前ら大丈夫……」

 二人の様子を見たカトリーヌはふっと笑った。

「まあ、大丈夫か」
「母上、ロベール伯爵はエミールを後継者にしたいと言っていましたが、それはどういうことなのですか? もしかして伯爵は……」
「さあ、西の辺境は謎に包まれていることが多い。私も本当の所は何も知らないよ。ただ……」

 カトリーヌは再びロベール伯爵の背中に視線を投げかけた。

「『白の騎士』西の辺境伯の受け継ぐ白の指輪は、魔法を強める力があるのだと噂に聞いたことはある。強めるってことは元々持っていないと意味がないから、聖職者かもしくは……そういうことだろう?」
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