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【2】一刻寮大忘年会って?
(6)悪夢の? カクテルコンパ事件
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酒がノンアルコールの別の飲み物にすり替わっていた話について検討する予定だったのだが、話の流れで話題に上がってしまった『悪夢のカクテルコンパ事件』が気になり、一年生達はまずそちらの説明を求めた。
「……集まった本来の目的を忘れているような気がするんだが……」
そう言いつつも、一旦鍋を片付けてからいそいそと語りたそうにしていいるあたり、蟻川もまんざらでは無いようだった。
シメのスープまで、鳥鍋は美味で、後輩達は一瞬馬橋を尊敬した。
「でもまあ、わりと出落ちっぽい話ではあるんだけどね」
「すでに落ちは見えているという説もあるし……」
「いえ、でもなんでそんな話になったのかなーという所は」
「きっかけは有志主催のイベントだったんだよねー、いつも寮の飲み会っていうと、ビール、日本酒、あとあってもワインと酎ハイくらい?」
「最初はちゃんとウオッカなりジンなり買ってカクテルを作ろうって話になったんだけど、種類を揃えるとそれなりに出費を覚悟しないといかんし」
「で、偶々酒屋のコネがあって、炭酸水で希釈するタイプの飲料を買うことにしたんだけど……」
「あまっちゃったんだよねー、大量に」
日頃ビールや日本酒でやっている飲み会をカクテルに変えて急に受け入れられるというものでは無かったのでは、というのが、有志反省会の弁だった……が。
「余ったカクテルコンクで反省会兼打ち上げをやる事になったんだけどさー」
「炭酸水が足りなくなってねー」
「歩いて行ける範囲のコンビニ打ち止めにしちゃってさー、面倒だから皆ロックで飲み始めたんだけど……」
「あれは悪酔いした、めちゃめちゃ悪酔いした」
「食べ物もほとんど無くなって、でも、なんかスイッチ入っちゃってさー」
アルコール度数の高さを忘れる程度にそれらは甘く、口当たりがよかったから、というのが蟻川の言い分だった。
「私もあれは思い出したくない……」
思い出しただけで気分が悪くなりそうな遼子は思わず胸のあたりを押さえながら遼子が言った。
「でも、その手の現役ってけっこう高いんじゃないんですか?」
譲二が尋ねると、蟻川が思いついたように答えた。
「だからほら、酒屋に伝手があったって話、賞味期限近いやつを格安で譲ってもらえたんだって」
「賞味期限が近いだけに、打ち上げで飲んじまおうって話にもなったし」
鯨井が続ける。
「酒屋の伝手……って、誰ですか?」
「えーっと、あれは……」
蟻川が記憶を探るように天井を見た。
「あああああああああ!!!」
ふいに、鯨井が頓狂な声を上げた。
「何、どしたの」
「常木だ」
「なんでそこで常木君の名前が出てくるの」
遼子は気づいていないようだったが、蟻川も鯨井の声で触発されたのか、ピンときたように互いを見た。
「そうか、最初からすり替わってたら疑わない」
「ごめん、話が見えないんだけど……」
一人蚊帳の外な気持ちで遼子が言うと、鯨井と蟻川が物わかりの悪さに苛つくように言った。
「酒がノンアルコールに変わったんじゃ無い、最初からノンアルコールの飲み物が納品されてたって事」
「だからそれと常木君に何の関係があるの」
最初から? 最初から言わないとダメなのか? という顔を作って、しかし遼子同様ピンときていない一年生にもわかるように蟻川と鯨井が説明を始めた。
「ここ数年、というか、去年からか、酒の仕入れはだいたい珠笑ってディスカウントのリカーショップを使っている」
「ああ、あの旧道の方にあるお店でしょ、あそこ、安いよね」
「珠笑は普通に買っても安いが、去年からあそこでバイトをしてるやつがいる」
「常木だ」
「大量の酒がいる時は馬橋とか、車持ちに声をかけて取りに行ってるが、少量の場合は、あらかじめ常木に言っておけば届けてくれるんだ、バイト帰りに」
「……ちなみに、入れ替わっていたっていうコンパの時って……」
「確かめないとわからんが、少なくとも羊谷が担当したあれは常木が持ってきてた」
「……なるほど、西翼で連続、とかじゃなくて、西翼、東翼、南塔でそれぞれ起きたのは怪しまれない為か」
「でもいったい何の為に? 目的は?」
「それこそ本人に問いあわせないとわからんが、注文を受けて、金だけ受け取って、差額分を着服してる、とか?」
「うわー、ありそー」
「待て待て、いくら常木でもさすがにそれは無いだろう、バイト先にバレたら横領だろう?」
「……でも、常木ですよ?」
「証拠が必要だなー、今のままじゃ単なる邪推にすぎない」
蟻川がぽつりと言い、手にしたグラスのビールを飲み干した。
「……集まった本来の目的を忘れているような気がするんだが……」
そう言いつつも、一旦鍋を片付けてからいそいそと語りたそうにしていいるあたり、蟻川もまんざらでは無いようだった。
シメのスープまで、鳥鍋は美味で、後輩達は一瞬馬橋を尊敬した。
「でもまあ、わりと出落ちっぽい話ではあるんだけどね」
「すでに落ちは見えているという説もあるし……」
「いえ、でもなんでそんな話になったのかなーという所は」
「きっかけは有志主催のイベントだったんだよねー、いつも寮の飲み会っていうと、ビール、日本酒、あとあってもワインと酎ハイくらい?」
「最初はちゃんとウオッカなりジンなり買ってカクテルを作ろうって話になったんだけど、種類を揃えるとそれなりに出費を覚悟しないといかんし」
「で、偶々酒屋のコネがあって、炭酸水で希釈するタイプの飲料を買うことにしたんだけど……」
「あまっちゃったんだよねー、大量に」
日頃ビールや日本酒でやっている飲み会をカクテルに変えて急に受け入れられるというものでは無かったのでは、というのが、有志反省会の弁だった……が。
「余ったカクテルコンクで反省会兼打ち上げをやる事になったんだけどさー」
「炭酸水が足りなくなってねー」
「歩いて行ける範囲のコンビニ打ち止めにしちゃってさー、面倒だから皆ロックで飲み始めたんだけど……」
「あれは悪酔いした、めちゃめちゃ悪酔いした」
「食べ物もほとんど無くなって、でも、なんかスイッチ入っちゃってさー」
アルコール度数の高さを忘れる程度にそれらは甘く、口当たりがよかったから、というのが蟻川の言い分だった。
「私もあれは思い出したくない……」
思い出しただけで気分が悪くなりそうな遼子は思わず胸のあたりを押さえながら遼子が言った。
「でも、その手の現役ってけっこう高いんじゃないんですか?」
譲二が尋ねると、蟻川が思いついたように答えた。
「だからほら、酒屋に伝手があったって話、賞味期限近いやつを格安で譲ってもらえたんだって」
「賞味期限が近いだけに、打ち上げで飲んじまおうって話にもなったし」
鯨井が続ける。
「酒屋の伝手……って、誰ですか?」
「えーっと、あれは……」
蟻川が記憶を探るように天井を見た。
「あああああああああ!!!」
ふいに、鯨井が頓狂な声を上げた。
「何、どしたの」
「常木だ」
「なんでそこで常木君の名前が出てくるの」
遼子は気づいていないようだったが、蟻川も鯨井の声で触発されたのか、ピンときたように互いを見た。
「そうか、最初からすり替わってたら疑わない」
「ごめん、話が見えないんだけど……」
一人蚊帳の外な気持ちで遼子が言うと、鯨井と蟻川が物わかりの悪さに苛つくように言った。
「酒がノンアルコールに変わったんじゃ無い、最初からノンアルコールの飲み物が納品されてたって事」
「だからそれと常木君に何の関係があるの」
最初から? 最初から言わないとダメなのか? という顔を作って、しかし遼子同様ピンときていない一年生にもわかるように蟻川と鯨井が説明を始めた。
「ここ数年、というか、去年からか、酒の仕入れはだいたい珠笑ってディスカウントのリカーショップを使っている」
「ああ、あの旧道の方にあるお店でしょ、あそこ、安いよね」
「珠笑は普通に買っても安いが、去年からあそこでバイトをしてるやつがいる」
「常木だ」
「大量の酒がいる時は馬橋とか、車持ちに声をかけて取りに行ってるが、少量の場合は、あらかじめ常木に言っておけば届けてくれるんだ、バイト帰りに」
「……ちなみに、入れ替わっていたっていうコンパの時って……」
「確かめないとわからんが、少なくとも羊谷が担当したあれは常木が持ってきてた」
「……なるほど、西翼で連続、とかじゃなくて、西翼、東翼、南塔でそれぞれ起きたのは怪しまれない為か」
「でもいったい何の為に? 目的は?」
「それこそ本人に問いあわせないとわからんが、注文を受けて、金だけ受け取って、差額分を着服してる、とか?」
「うわー、ありそー」
「待て待て、いくら常木でもさすがにそれは無いだろう、バイト先にバレたら横領だろう?」
「……でも、常木ですよ?」
「証拠が必要だなー、今のままじゃ単なる邪推にすぎない」
蟻川がぽつりと言い、手にしたグラスのビールを飲み干した。
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