溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。

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俺が雪華の家に泊まってから数週間の時間が流れた。

季節はすっかり秋になり、昼間でも長袖が必要になってきた。



雪華は最近、カフェ開店の計画を本格的に練り始めたのか、セミナーやら機材販売の業者やらを覗きに行ってる。

夢に近づくのはいいけど・・・計算が大変なようで毎日ノートを見ながら頭を悩ませてる。




雪華「うー・・・・」




俺はというと、せっかくの出世のチャンスを逃したくなく、日に日に加算されていく仕事内容を着実にこなせるよう努力していた。

年が明けたら年度が変わる。

どの会社も・・・年が変わるときは忙しくなる。

その時に慌てないように・・・今から忙しい。


そんなある日・・・







ーーーーー







雄大「あー・・・もう1週間も雪華に会えてない・・・。」




署内で書類仕事を黙々としながら俺はぼやいた。

1週間も署内に缶詰め状態で仕事をしてる。

机に山積みにされた書類を恨めしそうにみながら・・・ぼそっと呟いた。




雄大「雪華のメシ食べたい・・・。」




俺のつぶやきは、俺にしか聞こえないように言ったはずだ。

なのに、同じデスクルームにいた隊のメンバー達が俺のデスクに駆け寄ってきた。




「せっちゃんのご飯!?」

「雄大だけずるいぞ!?」


雄大「えー・・・でも出れないから食いに行けないし・・・。」




署から出ることを禁止されてるわけじゃないけど、出動のことを考えたら食べには行けなかった。

出前やカップ麺で・・・この1週間は過ごしてる。




「署に缶詰めなのは雄大だけじゃないからな!?」

「俺たちもあったかいご飯が食べたい・・・。」

雄大「・・・。」




俺はポケットからケータイを取り出して画面を見つめた。

雪華と一緒に取った、キャンドルホルダーが待ち受け画面だ。

見るたびに雪華に会いたくなる。




「そうだ・・・せっちゃんに作りに来てもらうのはどうだ!?」

雄大「・・・え!?」

「いつも差し入れっていってサンドイッチとかおにぎり持って来てくれるだろ?ならもうここで作ってもらった方がいいんじゃない!?」

雄大「それは・・・」




俺だって助かる。

雪華の温かいご飯が食べれるなら・・・あと数週間だって署内に缶詰めでも大丈夫だ。




雄大「でも本人に聞いてみないと・・・・」

「今すぐ電話だ!雄大!」

雄大「えー・・・」




俺はケータイの画面をつけて、雪華のアドレスを出した。

発信ボタンを押す前に・・もう一度隊のメンバーに確認する。



雄大「強要はしないからな!?断られても文句言うなよ!?」

「おっけ!!」

雄大「・・・。」





若干不安になりながらも俺は発信ボタンを押した。

ちらっと時計を見ると、今の時間は13時過ぎ。

イレギュラーがない限り、きっと雪華は・・・休憩中だ。





ピッ・・ピッ・・ピッ・・・





雪華「も・・もしもし?」

雄大「!・・・雪華?今、いい?」

雪華「うん、休憩でご飯食べてるけど・・」

雄大「ちょっと頼み事があるんだけど・・・・」

雪華「なに?」

雄大「その・・・・」




『雪華のご飯が食べたいから署まで作りに来てくれない?』



その言葉をどういうか悩んでると、俺の背後から隊のメンバーが声を揃えて叫んだ。





「せっちゃーん!ご飯作りに来てーっ!!」

雄大「!?」

雪華「・・・へ?ごはん?」

雄大「あっ・・!いや、その・・・・」

雪華「作りに行くの?」





俺は仕方なく、雪華に事情を説明した。

この1週間、まともなものを食ってないことと、みんなも雪華のご飯を食べたがってることを。




雪華「あははっ、いいよ?」

雄大「いいの!?」

雪華「うん、いつにする?」

雄大「いつって・・・・」




そう言うと隊のメンバーは何の話をしてるのか瞬時に分かったらしく、また声を揃えて叫んだ。



「今日!!」

雄大「!?」

雪華「わかったー、仕事終わるのが17時だから・・・買い物だけ行っててくれたら助かるんだけど?」

雄大「そりゃ行くけど・・・何買って来たらいい?」

雪華「なんでもいいよ?あっ・・!私、もう休憩終わるから行くね?じゃあまた後でっ。」ピッ・・!



雄大「ちょ・・!?雪華!?」




切られてしまったケータイを見つめてると、隊のメンバーがケータイを覗き込んできた。




「なんだって?」

「せっちゃん来るって?」

雄大「17時に仕事終わるから・・・そのあと来てくれるって。」

「ぃやったぁ!」

雄大「材料買っといてって・・・なに買ったらいいんだ?」





俺の悩みとは裏腹に、デスクルームでは着々と指示が飛ぶ。



「よし!買い出し班は即刻スーパーへ!!金は全員から千円ずつ徴収しろ!!」

「はい!!」

「残りはキッチンの確保だ!使用願を事務所に提出!!」

「はいっ!!」


雄大(こんなときだけ抜群のチームワークを発揮しやがって・・・。)



雪華のご飯も楽しみだったけど、久しぶりに雪華に会えることを俺は嬉しく思っていた。

雪華が17時に仕事を終えるまで、あと4時間。

俺たちは晩御飯を楽しみに・・・仕事を進めた。






ーーーーーー






17時過ぎ・・・





雪華side・・・





仕事が終わった私は消防署に向かって足を進めていた。

昼に雄大さんから『晩御飯のお誘い』を受けて・・・急遽会えることになったことが私は嬉しかった。



雪華「ふふっ、雄大さんに会えるっ。」




付き合い始めてから1週間以上会わない日はない。

だから・・とても寂しかったのだ。




雪華「でも・・・私の作るご飯でいいのかな・・・。」




そんなことを考えながら私は消防署につき、雄大さんがいてるデスクルームのドアをノックした。




コンコン・・・ガチャ・・・




雪華「失礼しまーす?」



ドアを開けると、雄大さんの隊の人が一斉に私を見た。



「せっちゃん!!」

雪華「こんばんは。・・・ご飯作りに来たと思うんですけど・・・?」




そう言うと隊のリーダーさんが私に駆け寄ってきた。



「悪いな、せっちゃん。雄大はキッチンにいるから案内するよ。」

雪華「お願いします。」




私はリーダーさんに連れられてデスクルームを出た。

通路を歩きながら・・・リーダーさんは私に話を振ってくる。




「最近会えてないんだろ?雄大と。」

雪華「あー・・・そうですね。私も忙しいですし・・・雄大さんも・・・。」

「せっちゃんとの将来を超真面目に考えてるみたいだからさ、もうちょっと待ってやって?」

雪華「!・・・ふふ、そうですね。私も彼にふさわしくなるよう頑張ります。」

「あー・・・ほんと雄大にはもったいない子だなぁ。」




そんな話をしてるうちにキッチンについた。



「ほらここ。」

雪華「お邪魔しまーす。」




ドアがないキッチンに、ひょこっと顔をだすと中に雄大さんの姿があった。




雪華「・・・雄大さんっ。」

雄大「!・・・雪華。」




仕事姿の雄大さんはいつ見ても格好良く、自然と頬が緩んでしまう。




雪華「へへっ。」

「じゃあ・・・できたら呼んでくれ。雄大はそのまま彼女のサポートしてていいから。」

雄大「リョーカイ。」

「ごめんな、急にお願いして。・・・よろしく。」




リーダーさんはそう言って仕事に戻って行った。

ぐるっとキッチンの中を見渡すと、大きなシンクに、コンロが四つ。

ここで食べるのか10人掛けくらいの長いテーブルに椅子が12脚あった。

私は空いてる椅子に荷物を置いて、袖をまくる。




雪華「買い物は?してくれたの?」

雄大「うん。でも・・・・」

雪華「?」

雄大「男の買い物だからさ・・・随分偏っちゃってて・・・」



私はキッチンにあった冷蔵庫を開けた。

中は・・・見事にお肉ばかり入ってる。



雪華「うわぁー・・・・。」

雄大「まぁ、肉食なやつらばかりだし・・・この際栄養は気にしないで?」

雪華「あははっ。・・・ここにあるの全部使っていいの?」



冷蔵庫のドアポケットに色々と調味料が入ってるのが見えた。



雄大「いいよ。ぜーんぶ使っちゃって?」

雪華「ありがと。・・・それでもちょっと足りないなー・・・取りに帰ってもいい?」



生姜やニンニクはチューブであるけど、他の調味料が無さそうだった。

辺りを見回すとキッチンの作業台に砂糖やしょうゆは見えるけど、ごま油とかはない。



雄大「いいよ?一緒に行く?」

雪華「あ、それなら雄大さん、取って来てくれる?ちょうど合鍵渡したかったし。」



私は置いた鞄から財布に入れていた合鍵を1本取り出した。




雪華「赤味噌と、ゼラチンと、あとはーーーーー」




何を取って来てもらうのかを伝えると、雄大さんは自分の手帳を取り出してメモを取り始めた。

全部伝え終わって合鍵を渡すと・・・雄大さんは大事そうに受け取ってくれた。




雄大「・・・大切にする。」

雪華「・・・うんっ。」




雄大さんはその鍵を持って、私の家に向かった。

私は作業を進めていく。



雪華「さてと・・・何品作れるかなー?」




これは自分の腕を試すチャンスだ。

食材からメニューを考えることはそうそうない。

カフェ経営にイレギュラーはそんなにないと思うけど・・・どこまでやれるか検証しても損はない。




雪華「全力で作るけど・・・隊のみなさんには犠牲になってもらおう(笑)」





私は料理を開始した。














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