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雄大。
しおりを挟む雪華「・・・・え?」
雄大「横になってるんで・・・気分でも悪いですか?」
私は倒していた上半身を起こした。
雪華「大丈夫です。」
そういうとこの人は私の近くに顔を寄せてきた。
なにやらすんすんと匂いを嗅いでる。
雄大「酒の匂いがするけど・・・キミ、いくつ?」
雪華「!!」
私は・・・童顔だ。
年相応に見られたことなんてただの1回もない。
雪華「はぁー・・・成人してます!」
雄大「証明できる?」
私は枕にしていた鞄から財布を取り出した。
中に入れてる身分証明書を取り出して、この人に見せる。
雪華「これでも25歳です。」
そう言うとこの人は身分証明書を確認してから返してくれた。
雄大「失礼しました。」
雪華「別にいいです。いつものことなんで。・・・ちょっと飲み過ぎたんで休んでたんです。」
雄大「あぁ、なら中で休んでいく?」
雪華「え?」
外灯に照らされて見えたこの人の服は、オレンジの色をしていた。
全身オレンジで・・・夜なのに帽子をかぶってる。
その姿は・・・まるで消防士さんだ。
雪華「消・・防士・・さん?」
雄大「ん?そうだよ?ここ、消防署だし。」
雪華「・・・え!?」
私は立ち上がって後ろを見た。
そこには大きな消防車や救急車が建物の中にあるのが見えた。
雪華「あっ・・!すみません!」
雄大「いいよ?それよりこんな深夜に女の子が一人で寝てるとか・・・危ないと思うんだけど・・・。」
雪華「危ないとは思わないですけど・・・もうちょっとだけここで休ませてもらえますか?まだお腹がいっぱいで・・・。」
そう言いながらお腹をさすった。
さっきよりはほんの少しマシだと思うけど、まだまだお腹がいっぱいなことに変わりはなかった。
雄大「よかったら中どうぞ?」
消防士さんは自分の膝上くらいに手をついて、中腰のような姿勢を取った。
私に目線を合わせるために屈んでくれたようだ。
雪華「いや、それは申し訳ないので・・・」
ただ飲みすぎてるだけのに消防署の中にまでお邪魔するとか考えられなかった。
ここで少し・・・1時間くらい横になってればだいぶ体が楽になる予定だった。
雄大「ここでなんかあったら警察も来るけど?」
雪華「うっ・・・。それは・・・困ります・・。」
雄大「ほら、どうぞ?」
雪華「・・・すみません。」
まだまだお腹がちゃぷちゃぷな私はもう少し休みたくてこの消防士さんの言葉に甘えることにした。
ベンチから立ち上がり、荷物を持って消防署の敷地に足を踏み入れる。
雄大「結構飲んだって言ってたよね、どれくらい?」
雪華「あー・・・中ジョッキで、えーと・・・・・」
私は飲んだ量を思い返した。
まず、居酒屋に入った時に1杯。
それを一気飲みしておかわりして・・・・
両手をパーにした状態で指を折って数えていく。
指は10本全て折られ、また伸びていった。
雄大「どんだけ飲んでんだよ・・・。」
雪華「たぶん・・・18杯?」
雄大「じゅ・・!?よく歩けるな・・・。」
雪華「あ、どれだけ飲んでも酔わないんで。」
ふわふわする感覚はあるものの、歩けなくなったり記憶をなくすことはない。
雄大「『ザル』か。」
雪華「・・・そうです。」
雄大「へぇー・・女の子でザルな子は初めて見たな。」
消防士さんと歩いて行き、私は建物の中に入った。
そこにベンチがあって・・・消防士さんはそのベンチを指差した。
雄大「ここ座ってていいよ?」
雪華「ありがとうございます。」
そのベンチはさっきのベンチと違ってクッション性がよかった。
ふわふわとした感触のところに腰を落とし、荷物を隣に置く。
雄大「好きなだけいててくれていいけど、帰るときは誰かに『帰る』って言って?」
雪華「わかりました。」
そう答えた時、消防署の外から誰かの声が聞こえて来た。
「おい雄大ー!車両点検行くぞー!」
雄大「すぐ行きまーす!・・・じゃ、俺は仕事に戻るから。」
そう言って外に駆けて行ってしまった。
雪華「『雄大』さんって名前なんだ。」
私は隣に置いた荷物を枕にしてさっきと同じように横になった。
さっきは星空が見えていたけど、今は蛍光灯の灯りが目に入る。
雪華「あー・・・このベンチ、めっちゃ心地がいい・・・・。」
私は目を閉じた。
今日あったことは眠ってしまえば無かったことになるかもしれない。
まぁ、そんなことはないけど・・・ちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ眠りにつきたかった。
雪華「んー・・・・・zzz。」
ーーーーーーー
ーーーーーーー
雄大side・・・
車両点検が終わったあと、俺はさっきの女の子のところに向かって足を進めた。
雄大「あれから1時間くらい経ったけど・・・酒は少しは抜けたかな。」
女の子が深夜に一人で寝てるとか、危険すぎて声をかけた。
消防署の前とはいえ、街灯は一つしかなく、安全とは言えない。
雄大「それにめっちゃ可愛い子だったし・・・。あの顔で25歳って・・・反則じゃね?」
どう見ても学生にしか見えない彼女。
ショートボブの髪の毛がくるくると巻いてて・・・きれいな顔立ちを更に強調させていた。
たとえ成人しててもあの顔立ちで一人で横になってるとか・・・犯罪を呼び込みそうだ。
雄大「・・なんか・・署の入り口が騒がしい・・・。」
さっき女の子を保護したベンチが人だかりになってるのが見えた。
雄大「なにしてんすか?」
そう聞くとみんなが口々に俺に言い始めた。
「なんかめっちゃ可愛い子が寝てんだけど・・・。」
「無防備に寝てんなー・・・。」
「誰かの連れかと思って聞いたけど誰も知らないっていうしさー・・雄大、知ってるか?」
雄大「・・・・。」
さっき、署の前にあるベンチで寝てたような格好で寝てしまってる彼女。
俺は後ろ手に頭を掻きながら先輩方に言った。
雄大「・・・俺の連れです。だいぶ酔ってたんで中に入れました。」
「なら仮眠室に入れてやれ。ここじゃみんなの注目の的だ。」
雄大「・・・はい。」
人ごみをかき分けて彼女の元に行き、抱きかかえる。
完全に眠ってしまってる彼女は起きる気配がない。
雄大(軽すぎだろ・・・。)
細くて小さい彼女は俺の腕にすっぽりハマった。
ずり落ちないようにぎゅっと抱きしめて仮眠室に運んでいく。
雄大「よっと・・・。起きたら・・・悩むかな。」
ベッドに寝かせて荷物を枕元に置いた。
俺は自分のポケットから手帳を取り出して一枚破った。
その紙をメモとして使う。
『起きたら内線電話。受話器を上げて101を押して。』
雄大「ま、これでわかるだろ。」
彼女の荷物の上にメモを置き、俺は書類仕事を終わらせにデスクルームに向かった。
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