決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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第3堡塁の側壁

第5話 決意のメッセージ

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 条約軍側は陸上自衛隊部隊の合流以降、明朝から上陸作戦を敢行、総攻撃は近代戦史では希なほどの熾烈を極め、戦いはその開始から2週間が過ぎていた。

 「玉砕」

 そんな言葉がささやき始めると、守備隊100名の生命を軽んじる、また旧軍を彷彿とさせるその考え方に国際社会だけではなく、日本国民からも多くの非難が浴びせられていた。
 特に、この玉砕という言葉には、日本国民は敏感になっていた。
 それはかつて、陸上自衛隊が第三次世界大戦を戦い抜き、軍備の脆弱さから、多くの戦場で部隊が孤立した。
 国民の多くは、それまでの日本政府が防衛予算を削減し、戦争に準備してこなかったことに対し批判した。
 ところが、多くの戦場では、拠点を防御する現場指揮官判断により、最後の突撃や籠城の責任を取る指揮官の自決や切腹までが行われ、統合幕僚長から玉砕はまかりならぬとの通達が発せられるほどであった。
 しかし、これを見た国民は、突然突き付けられた現職自衛官の悲壮なまでの覚悟と、その凄惨な現実に恐怖し、玉砕に対する批判だけが独り歩きし、それは自衛隊に対する批判という形で、大いに世論を先導したのである。
 今回の件は、そんな記憶を彷彿とさせる事件であった。

 そして、視聴者たる国民を更にざわめかせたのは、守備隊の運命を分ける一連の速報と、国立競技場での事件が、同じ「三枝」という名字をきっかけにに引き起こされているからである。


 多くの災害、地殻変動、そこから発生した地域紛争により、世界地図は地形ごと変化し、日本を取り巻く環境に少なからぬ変化が生じたこの時代、高校サッカーは夏の全国高校野球と並び国民の関心事であり、一大イベントとなっていた。
 その決勝ともなれば年間視聴率のトップ10に入るほどの人気スポーツであり、試合の場は新国立競技場へと移されていた。
 このときばかりは、仕事を一時中断してまでテレビやネットの画面に拘束される人々が多かった。
 この決勝戦は、まさにサッカーの名門、東京代表、佳一高校と、一昨年まで全くの無名校、神奈川県代表、北勢高校との因縁の対決である。
 佳一高校キャプテン城島啓介と、北勢高校キャプテン三枝龍二は、共にライバルとして常に高校サッカー界の注目を集める存在であった。
 特に北勢の三枝龍二は、それまで全くの無名校であった同校サッカー部を、昨年全国大会に導き、今年その刃を佳一高校の喉元に突きつけた形となっていた。
 そしてその最終決戦の場となる国立競技場は、今や国民の一大関心事であり、ここから多くの有名選手が海外のクラブチームへと旅立っていった。
 そのため、国内はもとより国外メディアからの取材も盛んに行われている。
 そんな盛り上がりに水を刺す事件が、2週間前発生しあのである。
 三枝龍二の兄で、陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一による国連軍本部の命令違反事件、ドグミス島への独断による最上陸作戦の敢行、そして籠城戦である。
 そしてこの兄の反抗に対し、北勢高校サッカー部監督と学校首脳部は、その世論の影響に鑑みて三枝龍二の出場を見合わせ、ベンチ入りスタートとの政治的判断を下した。
 当初は、このエース不在の判断も、作戦の一つ程度にしか考えていなかった佳一高校側は、後半戦に入り、ようやく三枝の不参加が世論とメディアを意識した政治的行為であると、その異常事態を理解したのである。

 試合は突然、佳一高校キャプテン、城島のタイム要求により中断さらた。

 「俺たちは三枝のいる北勢高校を潰しに来たんじゃないのか、高校サッカーに政治なんぞ持ち込みやがって、俺たちの神聖な勝負を汚す奴らは、どこのどいつだ」

 城島はベンチ側に向かって怒りを爆発させた。

 「こんなクソみてぇな試合は無効だ、俺は抗議する。フェアな戦いができないなら俺もこの試合にいは参加しない、やめたやめた!」

 城島の言葉に佳一側のイレブンの心はざわめいた。
 そして城島は観客席に向かって勢いよくボールを蹴り飛ばすと、そのままベンチへ引き返してしまった。
 1対0で先制し、念願の北勢高校との決勝戦、そして優勝を目前にしながら、心にかかる不快な霧は一体何であったろうか。
 そんなことは誰にでも解っていることだった。
 それを強烈な叫びとして吐き出したのが城島だった。
 高校の3年間、受験勉強すら後回しにし、青春の多くを犠牲にここまでのし上がってきた両校の選手たちは、同じ思いであった。
 その気持ちは、丁度溶けた鉛の固まりを飲み込んだまま、彼らの胸の中で焼けただれていくように、不快にくすぶり続けていたのである。
 ・・・そうだ、三枝龍二のいないこの試合に意味はない。
 そんな思いが堰を切ったように、彼らの反骨精神に火を付けたのである。

 「満員の国立競技場は見たこともない異様な光景に包まれています。コートには選手が一人もおらず、ただ時間が経過していきます。」

 実況中継のアナウンサーも、すでにどう中継をしたら良いのかの限界に来ていた。
 とてもデリケートな内容に言葉がみつからない状態である。そんなとき、アナウンサーの元に意外な内容のメモが手渡された。

 「番組放送中ですが、たった今、情報が入ってまいりました。それではここで、一端報道スタジオへお返しします。」

 臨時ニュースだった、内容はサッカーのことでないならば、カンザニア諸島ドグミス基地に関する内容であることは誰の目にも明らかである。
 しかし問題はその内容である、報道スタジオから情報がもたらされた、そしてその放送は高校サッカー決勝の地、新国立競技場の大画面にも写し出されていた。

 「ドグミス島守備隊長、三枝啓一1等陸尉からの、日本政府に対する音声メッセージがたった今、防衛省から公開されました、事態を正確に、透明性を保持するためにとの配慮から、そのままお送りします。」

 国立競技場内は別の質感でざわめいた。
 この放送の主、三枝1尉の実の弟は、今この場内にいるのである。
 その異常さと、その後の三枝兄弟のリアクションに対し、観衆の下品な関心は否応なしに高ぶった。
 
 しかし、そこで映し出されたのは、傷つきやせ細った守備隊の隊員達であった。
 そして彼らは。自己防衛に必要なヘルメットと防弾チョッキを外し、全員が決死の白鉢巻きを巻き付け、眼光鋭く直立不動でそこにいたのである。
 100名いたはずの日本隊は、この時点で既に30名ほどに見えた。
 その姿を見れば、それは誰にでも解ることだった、今現在、彼らがどのような状況であるのか、そして、その決意の程を。
 そして、この放送で、三枝啓一1尉が一体何を話すのか、モニターを見る国民の多くは、単に興味という品のない視線を向けるのであった。
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