自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

改変世界の作戦会議

第87話 ハイハープ峡谷のことですね

　シズから送られてきた詳細な地形図は、俺が予想した通りこの城の意外な弱点を明確に示すものだった。
　北側を急峻な山岳地帯、南を同じく山岳と湿地帯で覆われているこの地形、経路は道路一本のようであるが、峡谷を形成する河川が一本通っている。
　城からも取水のために一部築城されているが、基本的に戦術的な価値を見いだせていないようだった。
　それもそうだ、この時代の戦い方は、兵士を横一列に並べて、土地の「面」を取り合う方式だ。
　だから、渓谷の河川に兵を進めても、それは戦いに勝ったことにはならない。
　中世ヨーロッパと同じ考え方だとすれば、この渓谷を使った戦い方は「卑劣」な手段ということになるだろう。
　それ故に、真っ正面から戦って、この城を陥落させる方法はほぼ無いに等しい。
　だからこそ、なんだ、俺がこの世界に来た理由は、恐らくこの世界にはない戦い方でドットスを勝利に導くことだと感じている。

「ユウスケ様、Ｂ中隊長のノアンカ大尉です、入ります」

　軽歩兵Ｂ中隊長のノアンカ大尉が早速部屋に来てくれた。
　
「ノアンカ大尉、悪いね、わざわざ来てもらって」

「いえ、、、滅相もありません、現在私はユウスケ様の指揮下ですので、何なりと」

「感謝する、早速だが、これを見てほしい」

　俺は、さっきシズが測量した１/10000地図の印刷されたものをノアンカ大尉に見せた。

「おお、、これは、すばらしい地図ですね、実にこの城の特徴を捉えています、これはユウスケ様が作成を？」

「ああ、まあ、母国の技を使ったがね。ノアンカ大尉、この地図にあるこの渓谷をどう思う？」

「渓谷、この位置ですと、ハイハープ峡谷のことですね」

　ハイハープって言うんだな、シズにメモってもらおう。
　ノアンカ大尉は、地図に覆い被さるようにかじり付いた、そしてしばらく渓谷を見ていると、驚いたように俺にこう言った。

「もしや、ユウスケ様は、このハイハープからオルコの軍勢が遡上してくるとお考えですか？」

「ああ、おかしいか？」

「いえ、あまり一般的な考え方ではありませんが、これは盲点ですね、たしかにこれは放置しておくと危険な構図です」

　良かった、いくらか理解出来る軍人が居てくれた。
　すると、Ｂ中隊にはこの峡谷に詳しい兵がいることを教えてくれた。
　なんでも、この峡谷には、ここにしか生えていない珍しい薬草があるのだそうだ、このハイハープという名前も、古い時代に、「高所に自生する薬草」にちなんで付けられた地名なんだとか。
　なんだか、そうやって聞くとモロに英語なんだよな。