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縋らせたい手
しおりを挟む「小山内さん、ちょっと」
業務終業時間の少し前。律也に呼び出された羽美。
「あ、はい」
律也のデスクに行くと、手招きされPC画面を見せる。
「これ、間違ってない?」
「………あ!すいません!直ぐに直します!」
「小山内さん、今日集中してないみたいだけど、それは仕事に関係する事?」
「…………い、いえ……関係……ありません……っ!」
身体の前に手を組み立つ羽美の手を握る律也。何かを持たせると、言葉を続ける。
「すまないが、終わらせてから帰ってね………あと、今度から気を付けて」
「申し訳……ありません……失礼します」
律也から渡された物を握り締めながら、自分のデスクに帰り、律也が指摘したファイルを開く。
―――こんな初歩的ミス……情けない……あ、コレ何だったんだろ……っ!
渡されたメモ。走り書きだろうか、字を崩して流れる様に書かれた楷書体の言葉。
『仕事終わったら、話がある』
「…………」
そのメモを破り捨てる事も出来ず、律也の書いたメモはマウスパッドの下に隠し、仕事を再開する。
―――今は集中しなきゃ……
終業時間を過ぎてから、少し経過した所でた終わった修正。律也はまだ仕事をしているらしく、報告も兼ねて先程のメモの裏に、羽美はメモを書き、律也の元へと行く。
「係長、先程のファイル、修正しました。確認して頂けると……」
デスクの片隅に、そっとメモを流し置き、律也にも分かるように目の前に残す。
「…………」
律也は無言のまま、ファイルを開く確認後、溜息を吐いた。
「…………分かった……お疲れ様」
「お先に失礼します」
『今日は、帰らせて下さい。気持ちの整理がつきません』
と、メモを残し羽美は営業部を出て行った。この一週間は夢の様な幸せな時間だったと思い、涙が溢れそうになりながら、我慢して会社を出ようとすると、高田が会社の前に立っていた。
「小山内さ~ん!」
「………高田さん?」
「今日こそ、先週のお礼させてよ」
そのまま帰るのも、気分ではなかったのもあった羽美。渋りながらではあるが、二つ返事で、高田に了承しようと思っていた。
しかし、羽美の腕を引っ張る者により、高田から引き離される。
「ちょっと来い!」
「係長?」
「高田、悪いがその礼をさせるつもりは無い!」
「………か、係長!……い、痛いです!歩きますから引っ張らないで下さい!ごめんなさい!高田さん!また明日!」
律也が慌てて出て来た様で、息を切らしながらズカズカと羽美を引っ張って歩く。それに堪らず羽美は解こうと、腕を掴む手を抓った。
「っ!」
「歩くって言ってるじゃないですか!引っ張るの止めて下さい!」
「……………はぁ……」
駅に近くなり、会社の社員もチラホラ見掛けるが、気にも止めていない様子の律也。
「羽美……」
「…………はい……」
「とりあえず、ついてきて」
「…………はい……」
羽美は、この場で拒否したら、恐らく無理矢理にでも律也に連れて行かれるだろう。その光景は律也には不利になる為、素直に従う羽美。
マンションに連れて行かれるだろうと思っていたら、隠れられそうなビルの間の物陰。
「…………聞いてたろ」
「な、何を………ですか?」
「常務室の会話だよ」
「…………聞こえたんです……怒鳴り合ってたから」
「…………ごめん……嫌な思いさせたな……」
「………っ!」
我慢していた思いが、その言葉でヒビが入る。泣くのを堪えていたのが溢れそうだった。
「俺がこっちに来てから見合い話は今迄散々あった……でも、全て断ってきている………安心してくれ………俺は羽美が好きだし、今羽美との付き合いを楽しみたいから、将来的にまだ結婚を考える時期にはないが、見合いで結婚なんて事にはするつもりないから………羽美?……そんなに泣くな……大丈夫だから」
「…………くっ…」
気が付けば涙が止まらず、律也を見つめていた羽美。頬に伝う涙も、律也から指摘され、やっと気が付く程だった。
律也がハンカチを出し、羽美の涙を拭う。
「羽美?」
「…………律也さん……好きです……誰にも渡したくない!」
「羽美………俺だってそうさ……好きじゃなきゃ焦って自分の物にしないさ……」
涙を拭き終えると、羽美をそのまま抱き寄せた律也。
「………私こそ、すいません……心にも無い事を言って……」
「………あぁ、女達に囲まれていた時の?仕方ないだろ、仕事中なら……その分、プライベートでは縋らせたくなるから、会社ではまだそれでいい………その代わり、プライベートでは甘えて我儘になっていい……今みたいな泣き顔、唆られるよ」
「…………っ!」
「………あぁ、気が付いたか?……今直ぐにでもめちゃくちゃに犯したいぐらいなんだよな………駄目か?」
抱き寄せられているので、スーツの中で硬く主張している律也の杭がむくむくと元気になっていくのが分かる。
律也は涙が完全に止まった、充血した目でいる顔の羽美を覗き込むと、目線が合った羽美は顔を火照らせた。
「よし!マンションに行くぞ!」
「…………え!平日ですよ!明日も仕事!」
「何の為に、服買って置いてあると思う?こういう時の為だろ?………拒否は却下する!もう俺その気」
先程とは違う意味の、引っ張られ方をしながら、羽美をマンションに連れ帰ったのは、もう会社の社員達の姿が見られなくなってからだった。
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