神官の特別な奉仕

Bee

文字の大きさ
上 下
58 / 68
番外編

番外編 スルトの迷惑な客人4

しおりを挟む
「いってくる」

「ん、いってらっしゃい」

 サーシャは仕事に行くため身なりを整えると、抱き潰され起き上がれないスルトをシーツの上から抱きしめ、そして頬に口づけを落としてから、部屋を出ていった。



 結局この夜は、寝室へ移動したあとも、サーシャに求められるまま夜通し激しく睦み合い、ゆっくり話すことはできなかった。

 しかし何かにつけ聡いサーシャが街の噂を知らないとは思えず、自分に何も言わないというこは、心配するなということなのだろうと、スルトは解釈した。

 例え、もしここでスルトが男娼であったことが公になり、これまでの歓迎ムードが一転、反発をくらいサーシャ自身の立場が危うくなったとしても、おそらくサーシャはスルトを離さないだろう。


 ……自意識過剰かと思われるかもしれないが、昨晩これだけの執着を見せられると、さすがにそう思うしかない。


(まさか、サーシャがレラに嫉妬するとはね)

 おそらく書斎でレラからあの夜・・・のことを聞いたのだろう。

 レラがどんなことをサーシャに言ったのかはよくわからないが、誤解を与えるような言い方だったんだろうということは想像がつく。

 だがあのサーシャがレラの言葉を信じるとは思えない。……それでも嫉妬心に火がついたことは確かだ。


「ひぇ」

 スルトは少し起き上がり、あらためて自身の体に残るサーシャからつけられた痕の凄まじさを目にし、思わず小さな悲鳴が口から漏れた。

(いつもより痕がすごいな。ここなんか歯型までくっきり)

 散々嬲られ、体中に俺のものだと言わんばかりに、吸い付き噛みついた痕が所有印として黒く散らばっている。

 とくに下腹部からうち太腿に痕が集中していて、その執着と独占欲の強さに苦笑する。

「こんなにされたのは、さすがにはじめてだな」

 これだけされると、鬱血痕にもやや痛みが残る。腰も限界だし、今日は寝台の上でのんびりするかと、スルトはパタンと寝台に倒れた。




△△△




「スルト様! スルト様、大変です!」

 これで今日何度目のうたた寝か、昼食のあと、気がつくと眠ってしまっていたスルトは、家来の慌てた声で目が覚めた。

「起きてるよ、どうしたの」

 慌ててガウンを纏い、寝室の扉を開けると、青ざめた表情の家来が立っていた。

「スルト様、たった今、旦那様のお役目放棄が議会で否認となりました。それで今……」

「今?」

「子を成すため、正妻を娶るようにとお達しが」

「え」



 このサーシャが放棄するはずだったその“お役目”というのは、次期皇子の父親役として子を成す役目のことだ。

 サーシャの実父が皇子アンブリーテスを成したように、サーシャもまた皇子の父親となるため子種を蒔くことを期待されていた。

 しかしサーシャ自身が“種馬”と揶揄するその役目を、スルトという伴侶を得たことで、ようやく放棄することができるはずだった。——だがそれは叶わぬ願いだったようだ。

 子を成せぬスルトではなく、正妻を娶り子を成せと。

 そしてそれでも足りぬなら種を撒き散らしてでも、あわよくば星を持つ皇子を成せと、そういうことだ。



「…………なんで? お役目は放棄できたんじゃ……」

「それが、その、申し上げにくいのですが……………………。スルト様の噂を聞いた者が、お役目を担いたくない旦那様が、男娼を利用し偽の伴侶をでっちあげて、役目を放棄したのではないかと、そう訴えたと……」

 スルトは愕然とした。

「あ……………………サーシャは……サーシャはなんて?」

「……旦那様からはまだ何も…………しかしスルト様、スルト様が偽者の伴侶などと誰も思ってはおりません。ですからこれについてお気になさる必要はございません。これはあくまで旦那様個人の問題でございます。皇子を身内に持つ者の宿命のようなものなのです。それに旦那様のことです。きっとどうにかなさいます」

「………………うん。…………今日サーシャは?」

「…………それが、本日はまだ、お戻りにについて連絡がきておりません」

「…………そっか」



 今忙しいと言っている仕事というのも、もしかするとこのことで、何かしら矢面に立たされているのかもしれない。

 昨日の閨での激しさも、これで納得がいく。

(いろいろ大変だったのに、帰ったらレラのことまで……。サーシャ……)

「スルト様……今日はお部屋でお体をお休めになっていてください。あとでお茶をお持ちします」

 顔を青褪めさせ、ガウンを握りしめるスルトの体調を慮り、家来が部屋へ戻るよう促したときだった。


「ね、それってさ、旦那さんが兄さんを本当に利用したってことも考えられるんじゃないの? 自分に好意をもつ男娼ならさ、簡単に騙せるじゃん」


 家来の背後に、いつのまにかレラが立っていた。

「レラ様! なんてことを! 旦那様への侮辱はいくらスルト様の客人であっても許しませんよ」

「——サーシャに限ってそれはないよ。レラ。彼はそんなことで人を利用したりはしない」

「ふん、なんでそう言えるのさ」

 スルトは黙ってガウンの紐を解き、鬱血痕だらけの自分の体を曝け出した。

「…………スルト様! 素肌を他人に見せてはいけません!」

 家来が慌ててガウンの前を整え、レラに見えないよう体を覆い隠した。

「レラ、これ、全部サーシャにつけられた痕だよ。昨日レラが煽ったせいさ。おかげで今日は腰が立たなくて散々だよ。……心のない相手に普通ここまですると思う?」

「……なにそれ、兄さん。それが愛されてる証拠だって言いたいの? バカみたい」

 憎々しげに顔をしかめると、スルトから目をそらし、自分に与えられた部屋のほうではなく、玄関に向かって足早に去っていった。

「…………レラ…………」

「スルト様、旦那様からの連絡があればすぐにお伝え致しますので、お部屋でお休みください」

「家来さん、俺は大丈夫だから」

「いえ、お顔が真っ青です。あとで気を落ち着かせる飲み物をお持ちしますので、寝台にお上がりください」

「分かったよ、ありがとう」

 家来に促されるまま部屋に戻り、寝台に横になった。



 たった数日の間で、これだけ事態が急変するとはなぁと、スルトはため息まじりで呟いた。

 まあこれまでさすがに順調に行き過ぎた気もするし、——誰にも言えないが、密かにサーシャの赤ちゃんも見たいと思う自分もいる。

(サーシャの赤ちゃん、きっとかわいいだろうなぁ)

 正妻になる女性が良い方であれば、うまく関係を築く努力ができるはずだ。

 運が良ければ、産まれた赤子をこの手で抱くこともできるだろう。

(はぁー、複雑な悩みだな)

 サーシャが自分以外の者を抱くことについては、考えるだけでも胸が痛む。だが、それは覚悟していたことでもある。

 しかしサーシャもあれで案外一途なのだ。スルトに想いを寄せてからは、誰とも寝ていないと聞く。

 もしかすると、スルト以上に他者を抱くことが苦痛に思うようになっているのかもしれない。

(家来さんの言うとおり、これはサーシャ自身の問題で、俺はサーシャが決めたことに従うのみ)

 噂の出所はレラの可能性が高い。

 とにかく噂をなんとかしないとこの問題は片付かない。しかし噂を封じることなどできるのだろうか。

 スルトは眉間にシワを寄せ、目を閉じた。
しおりを挟む
※現在、コウとセイドリックの話『失恋した神兵はノンケに恋をする』を新作として公開しています。閑話コウの受難の続きでセイドリック視点で始まります。コウの受難の続きが気になっていた方がいればぜひ。
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...