122 / 132
第3章4部
一陣
しおりを挟む
古来、人間よりも先に存在していた精霊。その精霊と共に共存していたのが魔獣と呼ばれるものたちである。
動物に似た形容を持つ魔獣たちはそれぞれの特性を進化させ現代まで生存してきた。性格は温厚な個体から獰猛な個体までさまざまであり、人間には見えない精霊を本能的に察知する能力があると言われる。
人間に使役された精霊を見た魔獣たちは、己を活かす存在である人間に寄り添うことでその力を自由に変化することを覚えた。それを使役獣という。
「急に何の説明ですか、ジン先生。」
空を飛ぶドラゴンから視線を外さないまま、それでもセリカは急に始まったジンの説明に疑問を口にした。
「あの生き物がどういうものなのかを説明してやったんだ。ヴァースキは使役獣を持っていなかったし、隔離された生活の中で魔獣を見る機会はなかっただろう?」
同じくジンもドラゴンから視線を離さぬまま会話を続ける。
「確かに、あんなに大きな魔獣を見るのは初めてです。」
「魔獣はその辺に多く生息しているが、人間界に接触してくる個体は少ないからな。あんなデカいドラゴン、俺も見たことがないさ。」
「なんでこのタイミングで・・・」
「あいつの眼を見てみろ。怒りで正気を失っている。おそらく、咎人に何かを植え付けられたんだろう。」
それでもあんな個体がこの学園に現れる理由には違和感を覚える。ジンは軽く首を捻った。
「あんなのに暴れられたらより被害が拡大する。どうしてもここで止めなきゃならんだろう。」
「そのつもりです。説明ありがとうございました。」
「まぁ、こうやって何かを伝え教えるのも最後だろうしな。」
「え?」
滑空していたドラゴンは、その巨体には似合わぬ速度でセリカたちに突進してきた。
セリカとジンは左右に飛び退き回避する。ドラゴンによって抉られた地は、その凄まじい威力をを物語っていた。
「ALL Element 風精霊!」
両手を広げたジンの前に風精霊の紋章が浮かび上がる。
「鎌鼬!」
鋭い風の刃が幾つもジンの手から飛び出していくが、大きく翼を広げたドラゴンはその全てを突風で吹き飛ばしてしまった。それでもジンは死角から再び刃を飛ばし続ける。しかし、ドラゴンに直撃した刃はその鱗に弾かれてしまった。
「なんて硬い体だよ。」
ジンは空に手を伸ばす。すると大気が低い音を唸らせ、しなやかな細い渦を作り出した。やがてその渦はどんどんと層を厚くしていき、黒く荒々しい竜巻へと姿を変えていく。
「黒渦風!」
黒い渦がドラゴンをすっぽりと包み込むと、さらに渦の回転はその速度を早めていく。酸素すらも通さない密な空間に閉じ込められたドラゴンは、しかし口から強烈な光炎を吐き出しジンの魔法を無効化してしまった。
「おいおい・・・さっきのは少し本気を出したんだけどな。」
文句も言わないとやってられない。もう体力も魔法力もほとんど残っていないのだから。
「セリカ、一つ聞きたい。」
構えるセリカにジンは大声で話しかけた。
「精霊の真名は共有できるのか?」
ジンの魔法を匣に入れたことで、セリカもジンの精霊の真名を知っている。それを2人が同時に使役できるのか聞きたかったのだ。
「わかりません。」
「大魔術師の真名は?」
「知っています。だけど、ソフィアと共闘はしていません。」
「ヴァースキのは?」
「・・・おっしょうは教えてくれなかった。」
「なるほど。アイツらしい選択だ。でも、試す価値はあるってことだな。」
そう言うとジンは短く詠唱を口にする。するとジンの足元から、青緑の長い尾を持ち、透き通った翼を持つ四足歩行の動物が姿を現した。
尖った耳と毅然とした表情は野性味が溢れているが、黒く濡れた鼻をジンに押し付ける様子はジンへの信頼がうかがえた。
「俺の使役獣だ。攻撃力は低いが、スピードに長けた魔獣だ。俺は空から攻撃するからセリカはその隙を狙ってくれ。」
「分かりました。」
使役獣に乗ったジンは空へ飛び出す。そして空気をゆっくりと吐き出した。
「風精霊 夜凪!」
ジンの詠唱は周囲に眩い光を溢れさせた。空気が波のように揺れ動き、ゆっくりと辺りを優しく包み込む。
まるで凪いだ夜に佇む感覚に、セリカはハッと息を呑んだ。
静かに流れる光から現れたのは、長く緩やかな髪を揺らす少年だった。中性的な顔立ちをした夜凪は黄緑色のヴェールをまとい、自身の体よりも大きな翼を思い切り広げ震わせた。
「久しぶりに呼び出したかと思えば、随分とへばっているね、ジン。」
使役獣に乗るジンを振り返り、夜凪はニヤリと笑う。
「うるせぇ。それに久しぶりじゃねーよ。俺が呼んでもお前が来ないんだろうが。」
「僕が出るほどの相手じゃなかったし、気が乗らなかったんだよ。」
「ったく、この気分屋が。でも今日は来たんだな。相手にとって不足無しってことか?」
ジンたちの視線の先には、血走った眼でこちらを睨む魔獣の姿がある。
「この魔獣がこんなに暴れるなんて見たことがないからね。相当負の意識を注がれているよ。」
「やっぱりか・・・。コイツを何とかしたいんだ。力を貸してくれ。」
「僕を使える力は残っているの?」
遠慮の無い鋭い視線にジンはたじろぐ。その様子に夜凪は鼻息を荒くした。
「そんな状態でこの僕を使役できると思わないでほしいな。」
「ぐっ・・・」
「リタが戻ってきて舞い上がっているのかもしれないけど、精霊の真名の力を軽視するなんてジンらしくないんじゃない。」
「軽視なんて・・・」
「今のジンに使役される気はないよ。」
「・・・っ」
ジンが圧されている。ジンの使役獣である魔獣が心配そうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、あいつだったらいいのか?」
その存在をもう分かっていたのだろう。夜凪はジンが見据える先に居る人物へ振り返った。
「お前が名前を教えるなんて思わなかったさ。真名を教えたってことは、お前もあいつを認めたってことだろ?」
視線の先で、セリカは果敢にドラゴンへ立ち向かっている。
「認めるには尚早だよ。僕はあの人のことを何にも知らないんだから。」
「じゃあどうして。」
「あの人の中に鴉がいたんだ。」
「鴉?」
「うん。口数は少ないんだけど、色々教えてくれたよ。それにヒマだったんだって。」
「ヒマ?」
「元の魔術師も居心地がいいんだけど、自分の名を呼んでもらえることが少なくなったって。でもあの人に入ってから、外に出る機会が増えて自由に飛び回れるのが嬉しいって言ってた。」
「へぇ。」
「あとフリージアの匂いがした。」
「花の匂いか?」
「うん。すごく落ち着く匂いで、僕もここに居たいと思った。だから真名《まな》を教えたんだ。」
「夜凪を、俺とあいつが同時に使役することはできるのか?」
「同時には無理だね。僕の体は一つしかないから。そして、使役される優先順位は魔法力の大きさに準ずると思ってくれていい。魔法技術や素質を抜いた今の状態でいえば、圧倒的にあの人の方がだね。」
「俺の魔法力の器はすでに枯渇寸前だからな。」
自分の不甲斐なさに、ジンは肩を落とした。
「それに・・・」
「ん?」
「ううん、なんでもない・・・。」
「何だよ、やっぱり俺よりあっちの方がいいっていうのか?」
「何言ってるんだよ!僕はジンの精霊だ。だからまず優先するのはジンなんだから、勘違いするなよ!」
「ははははっ。分かっているよ。夜凪は俺の自慢の精霊だ。俺がこんな状態じゃなかったら一緒に戦えたのに、申し訳ない。」
「リタを救えたんだ。良かったよ。だから余計に今のジンとは一緒に戦えない。僕の力がジンを壊してしまうかもれしれないから。」
「分かった。なら俺はお前とセリカを信じるよ。」
「あの人、セリカっていう名前なんだね。」
夜凪はその翼を大きく広げセリカの元へ羽ばたいた。そして、肩にフワリとその身を預けた。
「はじめまして、セリカ。」
「夜凪!私と話せるのか?」
「もちろんだよ。セリカは僕の真名を知っているからね。」
「焔鴉と会話したことがなかったから話せないんだと思っていた。意思疎通はできるんだけど。」
「口下手なやつみたいだね。でも君のことを気に入っているみたいだよ。」
「本当か!それは嬉しいな。焔鴉には助けられてばっかりだから。」
「やっぱりね。」
「?」
「セリカ、精霊と話すの初めてじゃないだろ?」
「え?」
「たとえ上級魔術師でも、その全員が精霊の真名を知ってその肩書を背負っているわけじゃない。真名を知ることが上級魔術師への条件じゃないしね。それほどに、精霊の真名《まな》を知ることは容易ではないんだ。
精霊と人間の間にある大きな隔たりが魔法という潤滑油で結ばれているなかで、どうしても生まれる摩擦を埋めるのが精霊の真名なんだ。君には精霊と人間との間にある当たり前にある摩擦が無い。上級魔術師でもなければ、魔術師でもないのにね。」
「それが初めてじゃないと気づいた理由?」
「今のは大前提の話しさ。もちろん他に理由はあるよ。
まず僕が精霊だからということ。君の中に同族の気配がしたんだ。もちろん、それに焔鴉も含まれているよ。あとはそうだな・・・馴染みかな。」
「馴染み?」
「うん。君の中は精霊の痕跡で溢れている。それが既にしっくりと馴染んで形成されているんだ。」
「ちょっと言っていることが・・・」
「抽象的なイメージだからね。人間には分かりにくいかもしれない。でも、君の中には人間と精霊間の摩擦や抵抗が無い。それは僕や焔鴉よりもずっと前から精霊の真名を知っているという証拠なんだ。」
セリカの表情が曇る。その様子に夜凪はセリカの顔の前へ飛び出した。
「大事なやつなんだろ?」
「・・・うん、すごく!」
「だったら取り戻せよ。」
「もちろんだ!そのために力をつけてきた。」
「いいね、いい風が吹いてきた。じゃあ、まずはあいつをなんとかするよ、セリカ。」
「うん!」
セリカと夜凪は空へ視線を移す。そこには牙をむき出しにして威嚇するドラゴンの姿があった。
頬にそよぐ風を感じたセリカは、力強く空へと飛び出した。
動物に似た形容を持つ魔獣たちはそれぞれの特性を進化させ現代まで生存してきた。性格は温厚な個体から獰猛な個体までさまざまであり、人間には見えない精霊を本能的に察知する能力があると言われる。
人間に使役された精霊を見た魔獣たちは、己を活かす存在である人間に寄り添うことでその力を自由に変化することを覚えた。それを使役獣という。
「急に何の説明ですか、ジン先生。」
空を飛ぶドラゴンから視線を外さないまま、それでもセリカは急に始まったジンの説明に疑問を口にした。
「あの生き物がどういうものなのかを説明してやったんだ。ヴァースキは使役獣を持っていなかったし、隔離された生活の中で魔獣を見る機会はなかっただろう?」
同じくジンもドラゴンから視線を離さぬまま会話を続ける。
「確かに、あんなに大きな魔獣を見るのは初めてです。」
「魔獣はその辺に多く生息しているが、人間界に接触してくる個体は少ないからな。あんなデカいドラゴン、俺も見たことがないさ。」
「なんでこのタイミングで・・・」
「あいつの眼を見てみろ。怒りで正気を失っている。おそらく、咎人に何かを植え付けられたんだろう。」
それでもあんな個体がこの学園に現れる理由には違和感を覚える。ジンは軽く首を捻った。
「あんなのに暴れられたらより被害が拡大する。どうしてもここで止めなきゃならんだろう。」
「そのつもりです。説明ありがとうございました。」
「まぁ、こうやって何かを伝え教えるのも最後だろうしな。」
「え?」
滑空していたドラゴンは、その巨体には似合わぬ速度でセリカたちに突進してきた。
セリカとジンは左右に飛び退き回避する。ドラゴンによって抉られた地は、その凄まじい威力をを物語っていた。
「ALL Element 風精霊!」
両手を広げたジンの前に風精霊の紋章が浮かび上がる。
「鎌鼬!」
鋭い風の刃が幾つもジンの手から飛び出していくが、大きく翼を広げたドラゴンはその全てを突風で吹き飛ばしてしまった。それでもジンは死角から再び刃を飛ばし続ける。しかし、ドラゴンに直撃した刃はその鱗に弾かれてしまった。
「なんて硬い体だよ。」
ジンは空に手を伸ばす。すると大気が低い音を唸らせ、しなやかな細い渦を作り出した。やがてその渦はどんどんと層を厚くしていき、黒く荒々しい竜巻へと姿を変えていく。
「黒渦風!」
黒い渦がドラゴンをすっぽりと包み込むと、さらに渦の回転はその速度を早めていく。酸素すらも通さない密な空間に閉じ込められたドラゴンは、しかし口から強烈な光炎を吐き出しジンの魔法を無効化してしまった。
「おいおい・・・さっきのは少し本気を出したんだけどな。」
文句も言わないとやってられない。もう体力も魔法力もほとんど残っていないのだから。
「セリカ、一つ聞きたい。」
構えるセリカにジンは大声で話しかけた。
「精霊の真名は共有できるのか?」
ジンの魔法を匣に入れたことで、セリカもジンの精霊の真名を知っている。それを2人が同時に使役できるのか聞きたかったのだ。
「わかりません。」
「大魔術師の真名は?」
「知っています。だけど、ソフィアと共闘はしていません。」
「ヴァースキのは?」
「・・・おっしょうは教えてくれなかった。」
「なるほど。アイツらしい選択だ。でも、試す価値はあるってことだな。」
そう言うとジンは短く詠唱を口にする。するとジンの足元から、青緑の長い尾を持ち、透き通った翼を持つ四足歩行の動物が姿を現した。
尖った耳と毅然とした表情は野性味が溢れているが、黒く濡れた鼻をジンに押し付ける様子はジンへの信頼がうかがえた。
「俺の使役獣だ。攻撃力は低いが、スピードに長けた魔獣だ。俺は空から攻撃するからセリカはその隙を狙ってくれ。」
「分かりました。」
使役獣に乗ったジンは空へ飛び出す。そして空気をゆっくりと吐き出した。
「風精霊 夜凪!」
ジンの詠唱は周囲に眩い光を溢れさせた。空気が波のように揺れ動き、ゆっくりと辺りを優しく包み込む。
まるで凪いだ夜に佇む感覚に、セリカはハッと息を呑んだ。
静かに流れる光から現れたのは、長く緩やかな髪を揺らす少年だった。中性的な顔立ちをした夜凪は黄緑色のヴェールをまとい、自身の体よりも大きな翼を思い切り広げ震わせた。
「久しぶりに呼び出したかと思えば、随分とへばっているね、ジン。」
使役獣に乗るジンを振り返り、夜凪はニヤリと笑う。
「うるせぇ。それに久しぶりじゃねーよ。俺が呼んでもお前が来ないんだろうが。」
「僕が出るほどの相手じゃなかったし、気が乗らなかったんだよ。」
「ったく、この気分屋が。でも今日は来たんだな。相手にとって不足無しってことか?」
ジンたちの視線の先には、血走った眼でこちらを睨む魔獣の姿がある。
「この魔獣がこんなに暴れるなんて見たことがないからね。相当負の意識を注がれているよ。」
「やっぱりか・・・。コイツを何とかしたいんだ。力を貸してくれ。」
「僕を使える力は残っているの?」
遠慮の無い鋭い視線にジンはたじろぐ。その様子に夜凪は鼻息を荒くした。
「そんな状態でこの僕を使役できると思わないでほしいな。」
「ぐっ・・・」
「リタが戻ってきて舞い上がっているのかもしれないけど、精霊の真名の力を軽視するなんてジンらしくないんじゃない。」
「軽視なんて・・・」
「今のジンに使役される気はないよ。」
「・・・っ」
ジンが圧されている。ジンの使役獣である魔獣が心配そうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、あいつだったらいいのか?」
その存在をもう分かっていたのだろう。夜凪はジンが見据える先に居る人物へ振り返った。
「お前が名前を教えるなんて思わなかったさ。真名を教えたってことは、お前もあいつを認めたってことだろ?」
視線の先で、セリカは果敢にドラゴンへ立ち向かっている。
「認めるには尚早だよ。僕はあの人のことを何にも知らないんだから。」
「じゃあどうして。」
「あの人の中に鴉がいたんだ。」
「鴉?」
「うん。口数は少ないんだけど、色々教えてくれたよ。それにヒマだったんだって。」
「ヒマ?」
「元の魔術師も居心地がいいんだけど、自分の名を呼んでもらえることが少なくなったって。でもあの人に入ってから、外に出る機会が増えて自由に飛び回れるのが嬉しいって言ってた。」
「へぇ。」
「あとフリージアの匂いがした。」
「花の匂いか?」
「うん。すごく落ち着く匂いで、僕もここに居たいと思った。だから真名《まな》を教えたんだ。」
「夜凪を、俺とあいつが同時に使役することはできるのか?」
「同時には無理だね。僕の体は一つしかないから。そして、使役される優先順位は魔法力の大きさに準ずると思ってくれていい。魔法技術や素質を抜いた今の状態でいえば、圧倒的にあの人の方がだね。」
「俺の魔法力の器はすでに枯渇寸前だからな。」
自分の不甲斐なさに、ジンは肩を落とした。
「それに・・・」
「ん?」
「ううん、なんでもない・・・。」
「何だよ、やっぱり俺よりあっちの方がいいっていうのか?」
「何言ってるんだよ!僕はジンの精霊だ。だからまず優先するのはジンなんだから、勘違いするなよ!」
「ははははっ。分かっているよ。夜凪は俺の自慢の精霊だ。俺がこんな状態じゃなかったら一緒に戦えたのに、申し訳ない。」
「リタを救えたんだ。良かったよ。だから余計に今のジンとは一緒に戦えない。僕の力がジンを壊してしまうかもれしれないから。」
「分かった。なら俺はお前とセリカを信じるよ。」
「あの人、セリカっていう名前なんだね。」
夜凪はその翼を大きく広げセリカの元へ羽ばたいた。そして、肩にフワリとその身を預けた。
「はじめまして、セリカ。」
「夜凪!私と話せるのか?」
「もちろんだよ。セリカは僕の真名を知っているからね。」
「焔鴉と会話したことがなかったから話せないんだと思っていた。意思疎通はできるんだけど。」
「口下手なやつみたいだね。でも君のことを気に入っているみたいだよ。」
「本当か!それは嬉しいな。焔鴉には助けられてばっかりだから。」
「やっぱりね。」
「?」
「セリカ、精霊と話すの初めてじゃないだろ?」
「え?」
「たとえ上級魔術師でも、その全員が精霊の真名を知ってその肩書を背負っているわけじゃない。真名を知ることが上級魔術師への条件じゃないしね。それほどに、精霊の真名《まな》を知ることは容易ではないんだ。
精霊と人間の間にある大きな隔たりが魔法という潤滑油で結ばれているなかで、どうしても生まれる摩擦を埋めるのが精霊の真名なんだ。君には精霊と人間との間にある当たり前にある摩擦が無い。上級魔術師でもなければ、魔術師でもないのにね。」
「それが初めてじゃないと気づいた理由?」
「今のは大前提の話しさ。もちろん他に理由はあるよ。
まず僕が精霊だからということ。君の中に同族の気配がしたんだ。もちろん、それに焔鴉も含まれているよ。あとはそうだな・・・馴染みかな。」
「馴染み?」
「うん。君の中は精霊の痕跡で溢れている。それが既にしっくりと馴染んで形成されているんだ。」
「ちょっと言っていることが・・・」
「抽象的なイメージだからね。人間には分かりにくいかもしれない。でも、君の中には人間と精霊間の摩擦や抵抗が無い。それは僕や焔鴉よりもずっと前から精霊の真名を知っているという証拠なんだ。」
セリカの表情が曇る。その様子に夜凪はセリカの顔の前へ飛び出した。
「大事なやつなんだろ?」
「・・・うん、すごく!」
「だったら取り戻せよ。」
「もちろんだ!そのために力をつけてきた。」
「いいね、いい風が吹いてきた。じゃあ、まずはあいつをなんとかするよ、セリカ。」
「うん!」
セリカと夜凪は空へ視線を移す。そこには牙をむき出しにして威嚇するドラゴンの姿があった。
頬にそよぐ風を感じたセリカは、力強く空へと飛び出した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる