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第3章3部
アシェリナの魔術具
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(まさか聖霊のエレメントキューブまで・・・)
気配だけで雷精霊だと結論づけたシャノハは、デバイスの画面から目を離せずにいる。
状況を見やる余裕はない。持ち込んだデバイスのスペックは頼りなく、魔法力の出力を制限されたこの中では期待されたパフォーマンスを実現できるか分からなかったからだ。
宮殿に張り巡らされた結界が解析できない今、状況は絶望的だと言っていい。
(――それでも望みはある。)
きっとシャノハにしか分からない確信が、止まることなくデバイスの画面にコードを連ねていく。
送り続ける信号の先に高飛車な猫が思い出されシャノハは思わず口角を上げた。
(頼むよ、レイアちゃん。)
この学園に一欠片の忠誠心を持ち合わせていない彼女がこの窮地を救ってくれるか些か不安だし、学園の結界が無効化されたのならば、彼女の身も安全とはいえないだろう。もしかしたら、とよぎる最悪の可能性をシャノハは急いで打ち消した。
「早く僕のラブコールに気づいてくれよ、お姫様。」
彼女はきっと大丈夫。そしてもう少しで扉は解錠されるだろう。僅かな反応を見逃さないようにシャノハはデバイスを強く弾いた。
――――――――――――――――
透き通る氷壁に息が凍る。突如目の前に現れた氷に菲耶は驚きを隠せなかった。
両手を突き出し、肩で息を弾ませるエリスに駆け寄ろうとしたとき、ガリッと砕ける音がする。
ゆっくりと立ち上がる巨大な影にミトラが反応した。
「アシェリナッ!」
アシェリナがエリスの肩をポンと叩く。その瞬間、氷壁は大きな音を立てて崩れ消えていった。
「集中力と持続力に課題はあるが・・・よくやった。」
倒れ込むエリスを菲耶に託したアシェリナの傷はふさがっている。
「何デ・・・?」
さっきまで瀕死の状態だったはずのアシェリナに菲耶は首をかしげた。
「これだよ。」
そんな菲耶にアシェリナはレプトパス花を見せた。開花していた花は儚げにしおれていた。
「レプトパス花は特に珍しい花じゃあないが、蜜が希少なんだ。ある特定の条件下でしか蜜を分泌できないからな。そして、レプトパス花の蜜を凍らせると物質変化が起こり強力な治癒薬になるんだよ。」
さっきの砕けた音は、治療薬となった蜜の結晶をアシェリナが口にした音だったようだ。
「そ、そんなこと・・・」
その時、菲耶の腕にいたエリスが身じろいだ。
「そんなこと・・・教本にも、薬学書にも載ってません・・・。」
「だろうな。こんな珍らかな知識を持っている奴なんて他にはいねーだろうよ。あ、でもあいつなら・・・」
何かを思い出して笑うアシェリナだったが、しかしすぐに向き直る。
「この世の魔法や知識がすべて教本に載っていると思うな。この世は、知らないことや解明されていないことの方がはるかに多く、さらに魔法科学技術はどんどん発明されている。なぁ、そうだろ?」
最後はファルナに語りかけるように視線を向ける。
「仕留めそこねたか。」
「言ったろ、やることが中途半端だって。魔法を完全に無効化しないからだぜ?」
アシェリナは首を回す。そのたびに、ゴキッゴキッと鈍い音が鳴った。
そして大剣を両手に持つと思い切り空を薙ぎ払った。
震える剣圧が雷精霊に直撃すると落雷を発現させていた魔法が一気にその場から霧散した。
「い、一撃・・・!」
「すごい・・・。」
思わず脱力するインネとマソインの前に、アシェリナは剣を肩に担ぎ盾を取り出した。
剣と盾には灰色の丸い石がそれぞれに埋め込まれている。
「休んでていいぜ。こっからはオレが引き受ける。」
「し、しかし・・・!まだ魔法は完全には使えないぞ!」
「そうだ。いくらアシェリナ殿とはいえ、この状況下の中、咎人と融合霊魔2体を相手にするのは無茶だ!」
実際にアシェリナの攻撃は1度も少女たちに届いていない。今 手に持っている大剣も盾も、少女たちからの攻撃を受けるだけの道具となっていたはずだ。
2人の心配をよそに、大剣と盾を自身の前に置いたアシェリナは身構える。
「無駄だよ。たとえ、あんたの魔法力がすごかろうが、魔術具を使おうが、魔法が使えない魔術師なんて、意味のない存在なんだから。」
「そうやって早々と諦めて咎人に鞍替えしたのか?」
「なんだって・・・?」
「お前さんだって元々は精霊を使役することができたはずだ。この世界は、その才能を伸ばすか伸ばさないかの岐路で人生が大きく変わる。さて、お前は自らの才能を伸ばそうとしたのか?」
「・・・」
「咎人は魔術師に変わって世界を統べるか・・・。そりゃあ大層なことだが、それは本当にお前の野望なのか?」
「なに・・・?」
「そんなでかい野望があるのなら魔術師でも目指すことができただろ?個人差はあれど、魔法力の器も魔法力も努力次第で変化させることができる。それをしなかった理由を咎人にすり替えて、ただ野心ある周囲に乗っかってるだけじゃねーのか?」
「は・・・?お前になにが――」
「分からねーよ。負け犬が吐く薄っぺらい戯言なんかな。」
「――!! 文、文!あいつを殺せっっ!!!!」
激昂したファルナの指示に少女たちはアシェリナに向かって飛び出した。
「あらら、図星だったか。もう少し溜めたかったが仕方ねーか。」
右手に剣を、左手に盾を持ったアシェリナは腕をクロスさせ剣と盾の距離を近づけた。その不思議な行動にファルナはある違和感を覚える。
(盾に付いている丸い石・・・あんな色だったか?)
盾に埋め込まれている石はくすんだ色で不気味に光り輝いている。あれだけの眩しい色を今まで見落としていたとは考えにくい。しかも盾の石の輝きはどんどんと薄くなっていっていた。その分、今度は剣に埋め込まれている石が少しずつ鮮やかさを増しているように見える。
(いや、どうせ奴は2人を殺れない・・・!)
ファルナはそう確信を持っていた。
咎人は負の感情に敏い。苦しみ、悲しみ、恨みや妬みなど、ネガティブな感情を根源に生き、糧として日常にまとっているからだ。
だからすぐにアシェリナが文と文に対して殺気が無いことを感じていた。アシェリナが持つ剣と盾は、まるで子どもと戯れるための刃の無いおもちゃのようだった。
2つの武器の様相に変化があるとはいえ、やはり今のアシェリナからも殺気を全く感じ取れないのだ。
「今度こそ息の根を止めてしまえっ!」
2人はさらにスピードを上げアシェリナに突貫していく。
「お昼寝の時間だ。」
まるで紐を操るかのような軽やかさで大剣を操るアシェリナと2人が交差した瞬間、意識を失った少女たちは力無くその場に倒れてしまった。
「文、文っっ!?」
何が起こったのかまったく見えなかった。ファルナが呼び戻そうとも2人は反応しない。
アシェリナは剣に埋め込まれている石を見た。
「濁った青藍色だな。これがお前の負の意識の色か。」
「何を、言っている・・・!」
「この剣と盾は素材は一級品なんだが、なかなかクセのある代物でな。」
アシェリナは乾いた手でその無骨な剣と盾を撫でて見せた。
「この盾は物理攻撃は防げても魔法攻撃を防ぐ能力を持ってねーんだ。厚くて重たいくせに盾としての働きはあまり期待できなくてな。
そしてこの剣だが、普段は鈍だ。霊魔どころか、その辺の包丁よりも切れ味は悪いかもしれん。腕力を乗せればある程度の剣圧は出るんだがな。」
「そんな魔術具で、文と文に何をしたんだっ!?」
「お前の気を利用させてもらった。」
「・・・気、だと・・・?」
「咎人と霊魔は咎人の負の意識で繋がっているんだろ?お前の憎しみや怒りの気を霊魔に送り意のままに操る、使役権限だっけか?
それにオレの魔法力を混ぜてぶつけたんだ。オレのElementの力が混ざったことで命令系統に混乱を発生させたってこった。まぁ、うまくいくかは半分賭けだったがな。」
「オレの気にお前のElementを混ぜるだって?そんなことができるわけないだろう!」
「まぁな。咎人と魔術師は対極の存在だからそんなことは到底無理な話さ。そこでこいつらの出番ってわけさ。さっきと比べて石の色が変化しているだろう?」
確かにさっきに比べて剣の方の石は青く濁った輝きが薄れている。盾に石はすでに光を宿していなかった。
「この盾はな、魔法力を吸い取ることができるんだ。吸い取った魔法力の種類で石の輝きは様々に変化する。そしてその魔法力をこの剣の石に移すことで鈍だったコイツが本当の能力を発揮する。こんな風にな。」
アシェリナが軽く剣を振る。空気が鋭く揺れたその瞬間、ファルナは思わず立ち尽くした。
ゆっくりと後ろを振り返れば、鋭利な斬撃により後方の壁が大きく抉られていた。
(――半歩でも動いていたら体ごと裂かれていた・・・!)
逃げることすらできなかった。だから動けなかった。それは、あまりにも唐突にぶつけられた死への恐怖が起こした咄嗟の行動だったと言えるだろう。
「・・・っ!っはぁ、はぁ、はぁ・・・!」
突然の息苦しさに思わず息を吐き出す。呼吸すら忘れていたことにファルナは愕然とした。
「確かにこの2人を殺るつもりはなかったさ。お前には遊んでいるように見えたかもしれないが、殺れない理由が他にもあってな。
出力を制限されたせいで、この盾と剣に喰わす魔法力がここに無かったからだよ。魔法力を宿していない魔術具で霊魔は殺せないからな。でも、予想以上にこの2人が厄介でそんなことも言っていられなくなった。」
アシェリナは気を失っている2人に視線を向けた。
体を貫かれた瞬間、初めて少女の声を聞いた。
『やめて。お姉ちゃんを傷つけないで。』
確かに少女はそう言ったのだ。その目に光を宿していなかった少女が、僅かに示した意志にアシェリナは一瞬だけ不覚を取ったのだ。
「1度 融合霊魔になったら前の状態に分離することはできない。だからこの2人も、もう人間には戻れない・・・。
それでも・・・こんな大剣で子どもは斬れねーよ。」
改めて剣を持ち直したアシェリナは、その鋭い鋒を突きつけた。
気配だけで雷精霊だと結論づけたシャノハは、デバイスの画面から目を離せずにいる。
状況を見やる余裕はない。持ち込んだデバイスのスペックは頼りなく、魔法力の出力を制限されたこの中では期待されたパフォーマンスを実現できるか分からなかったからだ。
宮殿に張り巡らされた結界が解析できない今、状況は絶望的だと言っていい。
(――それでも望みはある。)
きっとシャノハにしか分からない確信が、止まることなくデバイスの画面にコードを連ねていく。
送り続ける信号の先に高飛車な猫が思い出されシャノハは思わず口角を上げた。
(頼むよ、レイアちゃん。)
この学園に一欠片の忠誠心を持ち合わせていない彼女がこの窮地を救ってくれるか些か不安だし、学園の結界が無効化されたのならば、彼女の身も安全とはいえないだろう。もしかしたら、とよぎる最悪の可能性をシャノハは急いで打ち消した。
「早く僕のラブコールに気づいてくれよ、お姫様。」
彼女はきっと大丈夫。そしてもう少しで扉は解錠されるだろう。僅かな反応を見逃さないようにシャノハはデバイスを強く弾いた。
――――――――――――――――
透き通る氷壁に息が凍る。突如目の前に現れた氷に菲耶は驚きを隠せなかった。
両手を突き出し、肩で息を弾ませるエリスに駆け寄ろうとしたとき、ガリッと砕ける音がする。
ゆっくりと立ち上がる巨大な影にミトラが反応した。
「アシェリナッ!」
アシェリナがエリスの肩をポンと叩く。その瞬間、氷壁は大きな音を立てて崩れ消えていった。
「集中力と持続力に課題はあるが・・・よくやった。」
倒れ込むエリスを菲耶に託したアシェリナの傷はふさがっている。
「何デ・・・?」
さっきまで瀕死の状態だったはずのアシェリナに菲耶は首をかしげた。
「これだよ。」
そんな菲耶にアシェリナはレプトパス花を見せた。開花していた花は儚げにしおれていた。
「レプトパス花は特に珍しい花じゃあないが、蜜が希少なんだ。ある特定の条件下でしか蜜を分泌できないからな。そして、レプトパス花の蜜を凍らせると物質変化が起こり強力な治癒薬になるんだよ。」
さっきの砕けた音は、治療薬となった蜜の結晶をアシェリナが口にした音だったようだ。
「そ、そんなこと・・・」
その時、菲耶の腕にいたエリスが身じろいだ。
「そんなこと・・・教本にも、薬学書にも載ってません・・・。」
「だろうな。こんな珍らかな知識を持っている奴なんて他にはいねーだろうよ。あ、でもあいつなら・・・」
何かを思い出して笑うアシェリナだったが、しかしすぐに向き直る。
「この世の魔法や知識がすべて教本に載っていると思うな。この世は、知らないことや解明されていないことの方がはるかに多く、さらに魔法科学技術はどんどん発明されている。なぁ、そうだろ?」
最後はファルナに語りかけるように視線を向ける。
「仕留めそこねたか。」
「言ったろ、やることが中途半端だって。魔法を完全に無効化しないからだぜ?」
アシェリナは首を回す。そのたびに、ゴキッゴキッと鈍い音が鳴った。
そして大剣を両手に持つと思い切り空を薙ぎ払った。
震える剣圧が雷精霊に直撃すると落雷を発現させていた魔法が一気にその場から霧散した。
「い、一撃・・・!」
「すごい・・・。」
思わず脱力するインネとマソインの前に、アシェリナは剣を肩に担ぎ盾を取り出した。
剣と盾には灰色の丸い石がそれぞれに埋め込まれている。
「休んでていいぜ。こっからはオレが引き受ける。」
「し、しかし・・・!まだ魔法は完全には使えないぞ!」
「そうだ。いくらアシェリナ殿とはいえ、この状況下の中、咎人と融合霊魔2体を相手にするのは無茶だ!」
実際にアシェリナの攻撃は1度も少女たちに届いていない。今 手に持っている大剣も盾も、少女たちからの攻撃を受けるだけの道具となっていたはずだ。
2人の心配をよそに、大剣と盾を自身の前に置いたアシェリナは身構える。
「無駄だよ。たとえ、あんたの魔法力がすごかろうが、魔術具を使おうが、魔法が使えない魔術師なんて、意味のない存在なんだから。」
「そうやって早々と諦めて咎人に鞍替えしたのか?」
「なんだって・・・?」
「お前さんだって元々は精霊を使役することができたはずだ。この世界は、その才能を伸ばすか伸ばさないかの岐路で人生が大きく変わる。さて、お前は自らの才能を伸ばそうとしたのか?」
「・・・」
「咎人は魔術師に変わって世界を統べるか・・・。そりゃあ大層なことだが、それは本当にお前の野望なのか?」
「なに・・・?」
「そんなでかい野望があるのなら魔術師でも目指すことができただろ?個人差はあれど、魔法力の器も魔法力も努力次第で変化させることができる。それをしなかった理由を咎人にすり替えて、ただ野心ある周囲に乗っかってるだけじゃねーのか?」
「は・・・?お前になにが――」
「分からねーよ。負け犬が吐く薄っぺらい戯言なんかな。」
「――!! 文、文!あいつを殺せっっ!!!!」
激昂したファルナの指示に少女たちはアシェリナに向かって飛び出した。
「あらら、図星だったか。もう少し溜めたかったが仕方ねーか。」
右手に剣を、左手に盾を持ったアシェリナは腕をクロスさせ剣と盾の距離を近づけた。その不思議な行動にファルナはある違和感を覚える。
(盾に付いている丸い石・・・あんな色だったか?)
盾に埋め込まれている石はくすんだ色で不気味に光り輝いている。あれだけの眩しい色を今まで見落としていたとは考えにくい。しかも盾の石の輝きはどんどんと薄くなっていっていた。その分、今度は剣に埋め込まれている石が少しずつ鮮やかさを増しているように見える。
(いや、どうせ奴は2人を殺れない・・・!)
ファルナはそう確信を持っていた。
咎人は負の感情に敏い。苦しみ、悲しみ、恨みや妬みなど、ネガティブな感情を根源に生き、糧として日常にまとっているからだ。
だからすぐにアシェリナが文と文に対して殺気が無いことを感じていた。アシェリナが持つ剣と盾は、まるで子どもと戯れるための刃の無いおもちゃのようだった。
2つの武器の様相に変化があるとはいえ、やはり今のアシェリナからも殺気を全く感じ取れないのだ。
「今度こそ息の根を止めてしまえっ!」
2人はさらにスピードを上げアシェリナに突貫していく。
「お昼寝の時間だ。」
まるで紐を操るかのような軽やかさで大剣を操るアシェリナと2人が交差した瞬間、意識を失った少女たちは力無くその場に倒れてしまった。
「文、文っっ!?」
何が起こったのかまったく見えなかった。ファルナが呼び戻そうとも2人は反応しない。
アシェリナは剣に埋め込まれている石を見た。
「濁った青藍色だな。これがお前の負の意識の色か。」
「何を、言っている・・・!」
「この剣と盾は素材は一級品なんだが、なかなかクセのある代物でな。」
アシェリナは乾いた手でその無骨な剣と盾を撫でて見せた。
「この盾は物理攻撃は防げても魔法攻撃を防ぐ能力を持ってねーんだ。厚くて重たいくせに盾としての働きはあまり期待できなくてな。
そしてこの剣だが、普段は鈍だ。霊魔どころか、その辺の包丁よりも切れ味は悪いかもしれん。腕力を乗せればある程度の剣圧は出るんだがな。」
「そんな魔術具で、文と文に何をしたんだっ!?」
「お前の気を利用させてもらった。」
「・・・気、だと・・・?」
「咎人と霊魔は咎人の負の意識で繋がっているんだろ?お前の憎しみや怒りの気を霊魔に送り意のままに操る、使役権限だっけか?
それにオレの魔法力を混ぜてぶつけたんだ。オレのElementの力が混ざったことで命令系統に混乱を発生させたってこった。まぁ、うまくいくかは半分賭けだったがな。」
「オレの気にお前のElementを混ぜるだって?そんなことができるわけないだろう!」
「まぁな。咎人と魔術師は対極の存在だからそんなことは到底無理な話さ。そこでこいつらの出番ってわけさ。さっきと比べて石の色が変化しているだろう?」
確かにさっきに比べて剣の方の石は青く濁った輝きが薄れている。盾に石はすでに光を宿していなかった。
「この盾はな、魔法力を吸い取ることができるんだ。吸い取った魔法力の種類で石の輝きは様々に変化する。そしてその魔法力をこの剣の石に移すことで鈍だったコイツが本当の能力を発揮する。こんな風にな。」
アシェリナが軽く剣を振る。空気が鋭く揺れたその瞬間、ファルナは思わず立ち尽くした。
ゆっくりと後ろを振り返れば、鋭利な斬撃により後方の壁が大きく抉られていた。
(――半歩でも動いていたら体ごと裂かれていた・・・!)
逃げることすらできなかった。だから動けなかった。それは、あまりにも唐突にぶつけられた死への恐怖が起こした咄嗟の行動だったと言えるだろう。
「・・・っ!っはぁ、はぁ、はぁ・・・!」
突然の息苦しさに思わず息を吐き出す。呼吸すら忘れていたことにファルナは愕然とした。
「確かにこの2人を殺るつもりはなかったさ。お前には遊んでいるように見えたかもしれないが、殺れない理由が他にもあってな。
出力を制限されたせいで、この盾と剣に喰わす魔法力がここに無かったからだよ。魔法力を宿していない魔術具で霊魔は殺せないからな。でも、予想以上にこの2人が厄介でそんなことも言っていられなくなった。」
アシェリナは気を失っている2人に視線を向けた。
体を貫かれた瞬間、初めて少女の声を聞いた。
『やめて。お姉ちゃんを傷つけないで。』
確かに少女はそう言ったのだ。その目に光を宿していなかった少女が、僅かに示した意志にアシェリナは一瞬だけ不覚を取ったのだ。
「1度 融合霊魔になったら前の状態に分離することはできない。だからこの2人も、もう人間には戻れない・・・。
それでも・・・こんな大剣で子どもは斬れねーよ。」
改めて剣を持ち直したアシェリナは、その鋭い鋒を突きつけた。
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