エレメント ウィザード

あさぎ

文字の大きさ
106 / 135
第3章3部

エレメントキューブ

しおりを挟む
 「さて。残るは霊魔を失った咎人1人だ。殺しても構わんが、さっきの聖霊ディスオーダの魔法のようにお前の持っている情報を欲しがる奴もいるだろう。さっさと降参したほうがいいぞ。」
 「はっ!誰がっ!!」
 「おいおい、お前を守る霊魔はいないんだぞ。そもそも、あんな幼い少女に守られるなんて情けねーと思わねーのか?」
 「あんたにあやふみのことをとやかく言われる筋合いなんてないさ。オレたちお互いがちゃんと理解していればいい。」
 「はぁー。とにかくお前はもう詰みだ。早くここの結界を解け。」
 「だから、オレはこの結界のことは何も知らねーんだって。たとえオレたちを殺したとしても、あんたたちがここから出れる保証は無いってこと。残念だったね。」
 「この状況の中、お前1人で何ができる?」
 「それよく言われるんだよね。霊魔がいない咎人なんて敵じゃないみたいな。」
 「実際そうだろう?精霊も使役できない上、霊魔も操れないお前たちに何ができるんだよ。」
 「1つのエレメントに縛られてる魔術師ウィザードより、自由が利く分 魔法の幅は広いんだぜ。やろうと思えば何だってできるさ。」
 「強がりを。」
 「さぁ、それはどうかな。それより・・・1人で何ができると言ったな。」

 それは突然だった。頭上から振り下ろされる攻撃を咄嗟に盾で防いだアシェリナの視界に灰色のローブが映る。さらに繰り出される攻撃があまりに無作為だったため、アシェリナは思わず後ずさった。

  「これは・・・!」

 誰もが目を疑った。アシェリナを襲ってきたのは連合ユニオンからの使者だったからだ。
 しかし、使者の目はかたく閉ざされ、顔も白っぽく血色は認められない。誰がどう見てもただの死人である。
 人間の動きとは思えないデタラメな攻撃から不気味な異音に気づいたアシェリナは唖然とする。それは骨が折れ続け、筋肉と皮膚がちぎれる音だったからだ。
 ファルナが握る漆黒の石が不気味に光ると使者の身体はダランとその場で直立した。

 「ど、どういう、こと・・・?」
 「死者の体を操って、る・・・」

 目の前の状況にエリスと菲耶フェイは息を呑んだ。

 「お前たちは運がいい。闇精霊ヤンマなんてなかなか見る機会がないからな。」
 「こ、これが、闇精霊ヤンマ・・・?」

 空気がひどく重い。まるで見えない何かが体に伸し掛かっているようだ。自然と乱れる呼吸に心音が大きく聞こえる。
 そんななか、アシェリナだけは変わらぬ姿勢でファルナと対峙していた。強く握る拳がわずかに震えているのをミトラは見逃さなかった。

 「お前、何をしているのか分かっているのか。」
 「死体の使い道なんて、これぐらいしかないだろ?しかし、さすが魔術師ウィザードの英雄ってやつか。闇精霊ヤンマにも全然動じない。初見じゃあなさそうだ。」
 「場数を踏んだ数が違うだけだ。だが、こんな胸糞悪い闇精霊ヤンマなんて初めてだよ。」
 「やったね、初体験じゃん。」

 振りかぶる大剣に躊躇はない。ニヤリと笑うファルナは、手のひらの石を弾いて見せた。
 ファルナの前に飛び出した使者の姿に動揺はしなかった。恨みは無いが、相手はすでに死人しびと。ファルナともども薙ぎ払おうとするアシェリナに悪魔が囁いた。

 「真っ二つの遺体を家族に返すのか?」

 その瞬間、アシェリナの背中から血が吹き出す。
 弾かれたように距離を取ったアシェリナの背後から、靄のかかったいくつもの黒い矢が飛び出してきたからだ。

 「あんた、本当に甘いね。その甘さでさっき死にかけたの忘れたの?」

 刺さった矢を勢いよく引き抜けば、鮮やかな色をした血が周囲に飛び散った。

 「ア、アシェリナ・・・」
 「アシェリナ、様・・・」

 防具の色がみるみると変わっていく。しかしアシェリナは微動だにしなかった。

 「タフだなー。闇精霊ヤンマの魔法を喰らっても倒れないなんて。」
 「闇精霊ヤンマじゃねーよ、こんなの。」

 その言葉にファルナがピクリと反応する。

 「今の攻撃が本当に闇精霊ヤンマなら、今オレはここに立ってねーよ。」
 「何が言いたい。」
 「その石が玩具だということだ。」
 「おもちゃ・・・だと?」
 「どうやら学園の技術であるエレメントキューブを模した物のようだが、とんだ紛い物だな。本物の3分の1の力も出てねーよ。」
 「エレメントキューブ・・・?」

 マソインはミトラに視線を向ける。

 「自分のエレメントではない魔法を具現化できるアイテムです。うちのクラスが開発した技術で秘匿扱いだったんですが、製造工程や仕組みが外部に漏れてしまって。」
 「じゃあ、アイツの持っている石はそれを真似て作られたということか?」
 「おそらく。ただ、僕たち学園では聖霊ディスオーダのエレメントキューブは精製したことがありません。というか、精製することができないんです。」
 「どういうことだ?」
 「エレメントキューブとは、魔法力の器から直接抽出したエレメントを特殊なキューブに注入し凝固したものです。これには魔法力の器を所有している魔術師ウィザードの協力が不可欠となります。」
 「聖霊ディスオーダのエレメントを有している魔術師ウィザードなんて存在しない・・・。」
 「えぇ。さらに、特殊な機械を使って抽出・凝固を可能にするんですが、その機械はサージュベル学園にしかありません。だからうちが開発したクオリティのエレメントキューブをそのまま精製するのは不可能のはず・・・。」
 「じゃあ、咎人たちはどうやって・・・」

 漆黒の石は上品な光沢をはなってはいるが、その輝きはどこか不気味さを兼ね備えていた。

 「どんな方法を使って聖霊ディスオーダの魔法を使っているか知らねーが、どこか薄っぺらいんだよ、その石の力は。そんな紛い物でオレは倒せねー。
 そもそも、オレはエレメントキューブって代物が気に入らなくてな。」

 僅かの瞬間、アシェリナはミトラを一瞥した。

 「さらに死者を操るなんて度が過ぎているぞ。」
 「お前たちにはできない使用方法だろ?」
 「ふざけるな!例え気に入らねーアイテムでも、盗んだ技術を悪用されたら黙っていられねーよ。」
 「悪用、ねー。」

 意味ありげに微笑むファルナにミトラは嫌な予感がした。

 「俺たちは隠され棄てられた物を拾っただけだぜ。」
 「!!」

 明らかにアシェリナの表情に動揺が見える。その変化をファルナは見逃さなかった。

 「なんだ、あんたも知っている人間か。ならこの石がどうやって作り出されたか知っているんだろ。」
 「まさか、お前たち・・・」
 「俺たちはあんたたちの技術にちょっと色を加えただけだ。そもそもこの石は、死にかけの人間を犠牲にした人体実験で造り出されたのがキッカケだったんだろ?」
 「・・・え?」
 「な、なんだって・・・?」
 「それを指示したのは当時の元老院、だったよね、おじいちゃん♪」

 ファルナの視線の先には、エリスの隣でブルブルと震える元老院の姿がある。

 「お、お祖父じい様・・・。どういうことですか?死にかけの人間・・・犠牲って・・・」
 「ち、違う・・・ワシたちは・・・その・・・」

 エリスの祖父は、両手で強く耳を抑えブンブンと頭を振っている。

 「ど、どういうことですか、アシェリナ殿!説明してください。」
 「お祖父さま!何があったんですか!?」

 混乱する場を制止する為にミトラが飛び出したとき、アシェリナの舌打ちが聞こえた。

 「いい、ミトラ。オレが話す。」
 「ア、アシェリナ・・・。」
 「当時、4つの魔法域レギオン連合ユニオンから評価に基づいたスコアが与えられるようになった。上位の魔法域レギオンには多額の援助資金が支給されることで対立関係は激化。他の魔法域レギオンを出し抜こうと、この学園が考えだした施策が自分とは違うエレメントを扱えるという画期的なアイテムの精製だった。
 ただ、研究開発費が乏しかった当時、核となるエレメントの材料を確保するのが難しく研究は頓挫。焦った元老院は、人間に備わる魔法力の器に蓄えられたエレメントに注目したんだ。金のかからない材料があるじゃないかと。
 しかし材料は見つかってもそれを取り出す方法が無かった。器にあるエレメントは精霊を使役し魔法を使うことで消費される。そもそも、視覚的な形態が難しかったんだ。
 まだ試作段階の研究に、材料確保のため身体を使った実験をさせてくれなんて言い出せなかった元老院たちは病院で療養している人々に目を付けたんだ。
 ケガで助かる見込みのない患者や、魔障痕によりうまく魔法が使えなくなった者、長期療養を続けている治療困難な患者たちにあらゆる理由を付け、口車に乗せて人体実験を繰り返したんだ。」
 「な、なんと・・・」
 「なんてことを・・・!」
 「実験はうまくいかなかった。不自然な死を迎えた人間を隠蔽するにも限界がある。それでも、後に引けなくなった元老院たちはこの非人道な実験を止めようとはしなかった。」

 エリスが祖父の様子を見れば、身体を縮こめたまま細かく震えている。

 「その時、偶然その実態を知った生徒がいたんだ。その生徒は立場に関係なく元老院を糾弾したよ。すべてを公にするってな。
 しかし相手は学園の最高機関である元老院。事実も生徒も揉み潰すことは簡単だった。それを危惧した生徒はある取引を持ちかけたんだ。このことは話さないから自分の体を使ってくれ。その代わり、学園運営を一任した組織に自分を任命してくれってな。」
 「それって・・・」
 「マサか・・・」

 エリスと菲耶フェイは視線を向ける。そこには観念したかのようにため息をこぼすミトラの姿があった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。 【改稿】2026/01/01、第一章の36話までを大幅改稿しました。 これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。 ・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。 ・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...