エレメント ウィザード

あさぎ

文字の大きさ
96 / 135
第3章2部

握った手

しおりを挟む
 『ノノリ君って、ちょっと怖いよね。』
 『アイツ、大人みたいなことばっかり言って話が全然分からない。』
 『オレたちのこと見下してるんじゃねーの?』

 ただひたむきに興味のあることに向き合っていたら、同級生との距離がどんどんと広がっていった。
 易しすぎる授業とそれに頭を抱える同級生が理解できなかったし、ノノリの質問に教師は顔を青くした。スゴイと褒められても実感はなかった。
 心無い声が聞こえてくるたびに、ノノリの心にドス黒い気持ちが溢れてくる。それに蓋をするように、ノノリは連日学園の図書室に入り浸った。
 知らなかった知識を得るのは刺激的だったし、予想通りの実証結果は大きな自信となったが、自分の探究心とそれに対する周りの反応にノノリは疲弊していく。周りの色に同調する方法を知らなかったし、それが必要なのかも判断できなかったからだ。

 『君の力が必要なんだ。生徒会プリンシパルに入ってもらえないだろうか?』

 そう誘われたのは、周りの目に怯える日々を過ごしていた秋空の日だった。
 陽の光さえ霞む金糸の髪がフワリと揺れる。差し出されたミトラの手にノノリは躊躇した。

 『僕は普通の生徒です。生徒を代表する自治組織である生徒会プリンシパルなんて入る力はありません。』

 自分が執筆したいくつもの魔法研究資料が、連合ユニオンから高い評価を受けていることは知っていた。
 称賛の拍手を送られながら、周囲の同級生はさらにノノリから距離を取るようになった。ノノリにとって功績はただの重荷にしかならなかったのだ。

 『僕はスゴイことをしたいわけではないんです。ただ、ただ・・・知りたかっただけで・・・。』

 鼻の奥がツンとする。全力で臨んだ結果を喜ぶことができない。本当は嬉しいはずなのに笑うことができない。それがとても悔しくて苦しかった。
 ジレンマに耐えられなくなったノノリは、いつしか無意識に感情や探究心にブレーキをかけていく。それは、全力で取り組んだ結果からの自衛だったのだろう。

 『力なんて必要ないさ。』

 ミトラはにっこりと笑いながら腰をかがめる。

 『え・・・?』
 『特別なことなんてしなくていい。ただ僕たちを手伝ってくれないだろうか?』
 『手伝う?』
 『うん。僕たちの活動は多岐にわたっていて雑務を含めれば膨大な量になる。それをまとめる時間もなければ、効率よく捌く方法も分からない。目を背けていたんだけど、そろそろ限界でね。』

 ははは、と困った顔をする生徒会長は、いつも完璧な姿で登壇に上がる人物とまるで違った。こんな顔もするのだと、ノノリはぼんやりと思った。

 『君の活躍は知っているよ。研究資料も読ませてもらった。でも勘違いしないでほしい。その成果で生徒会プリンシパルに誘っているわけではないんだ。』
 『え・・・?』
 『おもしろい着眼点を持っているなって思ってね。なかなか思いつかない視点から切り込む問題提起から、角度を変えたプロセスと見事な着地点。この子だったら生徒会プリンシパルの問題をどう解決するんだろうって単純に興味がわいたんだ。』
 『でも・・・』

 称賛の裏に潜む感情に敏感になっていたノノリは、ミトラの言葉を素直に受け取ることができなかった。
 望まれることに臆病になっているノノリの狼狽に、ミトラはギュッと手を握る。

 『思ったことを言っていいよ。試したいことをやっていい。僕は君の努力を全力で応援する。』
 『・・・努、力・・・?』
 『ああ。今までの成果は君の努力の塊だ。自分をもっと褒めてやっていい。』

 衝撃だった。
 自分のことをそんな風に見てくれたのは初めてだったからだ。
 誰もがノノリの出す結果だけに注目し、妬み僻みをぶつけてくる。天才少年と揶揄され、出した結果を当たり前と処理されたノノリの乾いた心に、ミトラの言葉は一滴ひとしずくの希望として潤していった。

 『僕は、僕は頑張ってますか・・・?』
 『あぁ、もちろんさ。』
 『僕は・・・胸を張っていいですか?』
 『あぁ、君はもっと自分を誇っていい。』
 『僕は・・・僕は・・・。』

 気づけばノノリの目から大粒の涙がポロポロとこぼれていた。誰も見てくれなかった自分の努力を初めて認めてもらえたノノリは、鼻を真っ赤にして声を出し泣いた。そんなノノリをミトラは優しく抱きしめる。

 『1人でよく頑張ったね。でも1人に慣れなくていいんだ。君の嬉しさや楽しさ、苦しみや悲しみを一緒に共有させてほしい。』

 抱きしめられた温もりと優しい言葉に涙が止まらない。ミトラの首元に顔をうずめたノノリは、揺れる金糸の髪の毛に触れ、まるで太陽みたいだとおぼろげに思った。


 音楽隊の奏でる音が頭の中を巡っている。振り返った先にある楽しそうな笑い声に何度も惹きつけられたノノリは、しかし手を伸ばせずにいた。
 望んでもいいのだろうか。ワガママじゃないだろうか。しかし、ノノリの抱く不安のモヤは、信頼できるかっこいい生徒会プリンシパルメンバーの笑顔にかき消されていく。
 そうだ、自分が今、全力で物事に取り組めているのは、我慢しなくてもよくなったのはいつだって傍にいてくれたミトラたちのおかげではないか。

 「今からでも・・・間に合うでしょうか!?」

 数秒の沈黙があった。しかしセリカはノノリの言いたいことをすぐに理解した。

 「始めることに遅いなんてことはない。」

 隣でシリアも頷く。

 「僕も・・・僕も音楽を奏でてみたい。だから、ミトラさんたちに相談してみます!」

 顔を上げたノノリの笑顔にセリカはホッとする。

 「私もよかったら参加させてほしい。」
 「私もですわ。」
 「はいっ!!」

 歓声が響く。セレモニーが終盤を迎えようとしているのだろう。

 「あっ、いけない。僕はそろそろ失礼するのです。」
 「そうでしたわ。ノノリさんも評議会に参加しなければいけませんもんね。」
 「いえ、評議会に参加するのはミトラ会長とアシェリナ様、あとシャノハ博士です。」

 本当は元老院も出席することになっている。しかし、元老院の目的は話し合いではなく監視のためだ。だからノノリは敢えて口には出さなかった。

 「あと、特別枠でエリス・マークディルワスさんと菲耶フェイ邵呉シャオウーさんが参加されます。」
 「えっ!?エリスとフェイがですか?」
 「はい。特別枠については直前に決まったということでバタバタしたのです。それでは僕は失礼するのです。」
 「あぁ、引き留めて悪かった。ノノリも頑張ってな。」
 「はいです!」

 そう言うとノノリはパタパタと去っていった。残された2人は思わず顔を見合わせる。

 「エリスと菲耶フェイが評議会に参加なんてどういうことでしょう。一般生徒の参加なんて聞いたことありませんわ。」
 「許可を得ての参加だから理由があるんだろう。でもエリスにとってはとても貴重な機会なんじゃないか?」
 「そうですわね。終わったら聞いてみましょう。」

 そう話す2人の頭上には、薄く広がる巻雲が流れるように浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。 【改稿】2026/01/01、第一章の36話までを大幅改稿しました。 これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。 ・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。 ・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...