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第2章 イスパノスイザ アルフォンソ13世に乗って
(8)民族衣装
しおりを挟む「早くドレスの染みを抜かなくちゃ。あなたアルビノでしょう。気にしないで。シャワーを使うと良いわ」
メリーネと名乗った家の主に見抜かれて戸惑ったが、土砂降りになった雨の中、何処にも出られず世話になるしかない。
「ドレスの染みは諦めます。タオルを貰えますか」
ラナンタータは静かな声で言った。自分がどれ程強烈な印象を与える者であるかを知っている若い娘の自制は、小太りのメリーネに一笑された。
「水溶性の染め粉でしょ。絵の具かしら。繊維の奥に入り込む前に叩き出せば色残りしないから、ほら、遠慮しないで。此の服を代わりに着てみて」
頭をタオルで乾かしたラナンタータは、メリーネの都会に出た一人娘のものだというウエストの細いドレスを借りることになった。
時間をかけて刺繍した民族衣装は、ザカリアンローゼをメインモチーフに様々な色の刺繍糸が大小の花の図鑑の様相を呈して華やかだ。裾がたっぷりと広がる。初めて着る民族衣装にラナンタータはため息が出た。
「素敵……こんなに素敵なドレスをお借りしても良いのでしょうか」
「ビアヘニュビアヘニュよ。とっても似合うわ。うちの娘もアルビノよ。娘が帰って来たみたいで嬉しいわ。ハグさせて」
「はい、ラナンタータと言います」
「まあ、うちの娘はラナンよ。名前まで被るなんて奇遇ね。それに、その服、あなたなら入ると思ったわ。体型までそっくり」
メリーネはラナンタータをしっかり抱きしめて「マッモァゼラ・ラナンタータ、幸せになるのよ」と頬に軽いキスをした。
その慈しみ深い目に涙が光ったことにラナンタータは気づかなかった。
ラナンタータは気持ちが楽になるのを感じた。絵の具が落ちて白い髪の毛が現れても村人が驚かなかったのは、ラナンの真っ白な姿を普段から見慣れていたのだろうと、得心がいく。
この村に来る前に
知りたかったよ
アルビノがいた村だって
そうなら
絵の具頭にする必要なんて
なかったんだ
カナンの馬鹿野郎
何が
『アルビノのお前だから愛している』
だよ
私は従妹なんだから
素直に愛せよ
アルビノを理由にしないで
いや、あんな単細胞に
変に愛されても困る
裏社会と繋がりを持って
うきうきしているし
単細胞なのに
ファッションセンスだけは
超一流だから
見てくれだけで
人様を騙すヤバい従兄だ
そう言えば
前にザカリアンローゼの
素敵なブラジャーを買ってたけど
どうしたんだろう
あれはとぉぉっても高級品なのに
私にくれる物じゃなかった
自分で着けるのかな……
カナンデラ・ザカリーは、ガラシュリッヒ・シュロスの筋道に事務所を構えて夜の蝶々たちと宜しくやっていそうなジゴロタイプに見えるのだが、見かけに依らず女の点では噂一つない。
ブラジャーに
思い当たる女性がいないのも
なんだか不気味だよね
やっぱり自分で着てるんだ
ザカリアンローゼのブラジャー
似合うよ、カナンデラ
男だってブラジャー
必要かもしれないもんね
それで世界も開くよ
見て、私も今夜は
ザカリアンローゼだもんね
素敵でしょ
って、誰に言ってるよ
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