あなたの愛は、もういらない

蜜柑マル

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「サーラさん、こんにちは!あ、お義姉様、って呼んだほうがいいかな?」

「ブリジット様、お帰りなさいませ。サーラ、で結構ですわ」

ブリジットは嬉しそうに微笑むと、

「ほんと?なんか、親友みたいで嬉しい!サーラも、ブリジット、って呼んで」

「わたくしが旦那様の大切な方を呼び捨てにするわけには参りませんから。皆様お待ちですわ、どうぞ」

部屋に案内しようと振り向くと、夫が立っていた。

「サーラ、」

「お義兄様、ただいま!」

私を追い越し、ブリジットは夫に抱き付いた。

「リジー、俺の前でやめろよ。サーラ様にも失礼だろ」

玄関から入ってきたカールが、苦々しげに顔を歪める。

「…でも、今までしてたし。兄妹なんだからこのくらい普通でしょ?サーラだって、気にしてないよね?」

私は返事をせず、微笑んでみせた。私の気持ちなんてどうでもいい。家畜に否やはないのだから。

カールにも挨拶をし、客間に通す。義理の両親、ブリジット、カールが座り、お茶を出してくれる侍女を見るとはなしに見ていると、

「父上、俺とサーラは外します。積もる話もあるでしょうし」

と夫に腕を掴まれた。

「お義兄様、お義兄様とも話したいわ」

「何日か前の夜会で話しただろう。ブリジット、さっきカールが言ったように、サーラの前で俺に触れるのはやめてくれ。今までは今までだ。俺はサーラと結婚して、ようやく夫婦になれたんだ、これからはサーラを第一に考える」

夫の言葉に反応したのは義父だった。

「先日の夜会で指摘されたのは、まさか本当なのか?おまえたちが、サーラをそっちのけでダンスをしていたというのは」

「だって、サーラがいい、って」

「いいわけないだろ!おまえが無理矢理言わせたんだろう!」

不貞腐れたように言うブリジットに、カールが突然怒鳴りつけた。

「な、に…?どうしたの?」

「俺も次の日職場で言われたよ、おまえの妻は結婚しても義兄にべったりなんだな、って。どっちが夫婦かわからないって嫌味まで…恥をかかされたよ。…お義父さん、申し訳ありません」

義父は、「いや、」と額を抑えると、夫に視線を向けた。

「…ライアン。おまえのさっきの言葉だが、まさか、サーラと契っていなかったのか?この一年?」

夫は、私の腕を掴んだまま、「はい」と小さく答えた。

「なぜだ。理由を言え」

「それについては俺が、…俺とブリジットが結婚するまでは童貞でいろなんて言ったからです。親友なんだから、それまでは待っててくれ、って」

カールの言葉を聞いて、義父は、「バカ共が…っ」と吐き捨てた。

「男の友情を、夫婦の契りにまで持ち込むとは勘違いも甚だしい!サーラがどれだけ傷付いたか、」

「お義父様、わたくしは傷付いたりしませんから。旦那様は、ブリジット様が第一なんです。その夫であるカール様の言葉を優先するのは当然のことですわ」

私の言葉に、なぜかその場が凍り付いたようになる。

「…サーラさん、」

義母が真っ青な顔で立ち上がると同時に、夫に腕をグッと引かれ部屋から出された。

「サーラ、話がある」

「はい、なんでしょう」

夫は黙ったまま私の手を引き、自室に入ると鍵をかけた。

「サーラ。俺は今まで、君に大事なことを何も言わず、君が何も言わないからブリジットのことを優先してきた。でも、誓って言うが、俺とブリジットの間に兄妹以上の情愛はない」

「そうですか」

「…さっきカールが言ったように、俺はあいつとの友情を優先して君との初夜を伸ばした。その上、あんなことをして、…サーラ、あの日、馬車で俺に離縁してくれと言ったのはなぜだ?」

なぜ今更そんなことを聞くのだろうか。

「もう耐えられないと思ったからです」

「何を、だろうか。サーラ、教えてくれ、頼む」

夫の顔は強張り、青ざめている。

「旦那様、ご気分が悪いのですか?」

「違う、…サーラ、理由を教えてくれ。耐えられない、とは、」

「ブリジット様を愛している旦那様を見せつけられるのが、です」

夫は私の肩を掴むと、「愛してない」と呟いた。

「ええ、わたくしのことは」

「違う!俺は、ブリジットを愛してなどいない!」

「そうですか?あんなにわかりやすいのに…無自覚だったのですね。もう少し早く気づけば、ブリジット様が結婚する前になんとかできたでしょうに、わたくしが言わなかったせいで申し訳ありませんでした。もしブリジット様が離縁なされたら、わたくしもすぐに離縁いたしますから、結ばれるべきだったお二人で今度こそお幸せに」

夫は呆然とした顔になると、私の肩を掴んでいた手を離した。力が抜けて、離れた、というほうが正しいかもしれない。

「もうよろしいですか?せっかくブリジット様がいらしているのですから、旦那様はお戻りになって」

「サーラ、」

「わたくしは邪魔なので自室におります」

「サーラ!行かないでくれ、頼むから!」

顔を上げた夫に、グッ、と抱き寄せられた。
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