上 下
4 / 10

しおりを挟む
いつの間にか気を失ったようだ。

「…サーラ、」

頭を撫でる感触と、名前を呼ぶ声に意識が浮上する。目を開けると、そこには心配そうな瞳で私を見つめる夫の顔があった。私と目が合うと、ホッとしたように息を吐いた。

「サーラ、良かった…ごめん、抑えられなくて、…カラダ、起こしていいか?」

背中に手を添えられた途端、ぐうっと何かがせりあがってきた。吐き気を必死に堪え、どうにかカラダを起こすと、ドロリと何かが股を伝う。

「う、え…っ」

慌てて口を抑え、ベッドから降りようとするとカラダが宙に浮いた。

「サーラ!?どうした、気持ち悪いのか!?トイレに、」

「じ、ぶんで、できま、す」

夫に触れられている部分が鳥肌がたつほどゾワゾワと気持ち悪い。カラダが震えてくる。

「寒いのか?すまない、意識を失ってしまったから風呂にも入れられなくて、…すぐ入れるから入ろう、サーラのカラダ、キレイにさせてくれ…ごめん、肌を傷付けたりして、」

「はな、して、ください、」

「…サーラ?」

押さえつけられ、無理矢理捩じ込まれ暴かれた恐怖がまざまざと蘇ってくる。何もできない、抵抗すらできない無力な自分に、何かがプツンと切れる音がした。

「こわい」

「サーラ、」

「こわい、たすけて、いや、」

「サーラ、俺を見ろ、サーラ、大丈夫だから、」

「いや、こわい、もう、いや、」

夫はさっと顔を青くすると、私を抱き上げたまま浴室に運び、そのまま浴槽に浸かった。

「サーラ、キレイにしよう。カラダが温まったら、何か食べよう」

「やだ、」

「サーラ、大丈夫だから」

また涙が出てくる。

「いたい」

「サーラ、もうしない」

「いたい」

「サーラ、ごめん、サーラ、」

芯から冷えきり固まっていたカラダがようやく温まってきたとき、心の痛みも少しだけ治まった。夫は後ろから私を抱きしめ、身動ぎもせず耳元で「ごめん、」「サーラ、ごめん、」と繰り返していた。

フウッ、と息を吐くと、夫の腕がビクリと揺れた。

「サーラ、大丈夫か、本当にすまなかった、」

「…わたくしは、旦那様が仰ったように、旦那様が好き勝手に虐げていい妻という存在です。如何様にもしてください。取り乱したりしてみっともないところをお見せしました。申し訳ございません」

夫の腕から逃れ、浴槽を出る。改めて自分のカラダを見ると酷い惨状だった。これにも、慣れなければ。夫がこのあとも私を気分のまま犯すことはありえるだろうし。

この人からの愛情が欲しいと、ブリジットではなく自分を見て欲しいと思っていた惨めな私は、夫に受けた暴力で粉々に壊れいなくなった。離縁して欲しいと思いながら、心のどこかで諦めきれず、乞い願う愚かな私は。

泡立てた石鹸を当てると思った以上に滲みた。この痛みにもいつか慣れる。心の痛みよりマシだ。

そんなことを考えながらカラダを洗い、髪の毛を先に洗えば良かったと苦笑いが洩れる私を、「サーラ」と夫が呼んだ。

「はい」

夫の顔を見ると、なぜかまだ青い顔をしている。

「どうされましたか」

「いや、あの、…サーラ、俺は君に酷いことを言った、申し訳ない、」

「酷いこと?何か仰いました?」

「俺が、好き勝手にしていい存在だなんて、」

私はニコリと笑ってみせた。

「それは酷いことではありませんわ」

「サーラ、」

ホッとしたように息を吐き、微笑む夫に笑顔で告げる。

「だって、本当のことですから。わたくしは旦那様にとって如何様にも扱っていい、妻という名の家畜でしょう?飼われている以上、義務は果たしますので。するべきことがあれば仰ってください。家畜は自分で判断できませんから」

一瞬で顔が強張る夫から目を逸らす。そうよ。そう思っていれば、どんな扱いをされても傷付いたりしない。だって、家畜は文句なんて言えないんだもの。どんな目に遭わされても。

シャワーを浴びて浴室を出るまで、浴槽に浸かったままの夫は何も言わなかった。私は、もう振り返らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も殿下に貞操を狙われている【R18】

毛蟹葵葉
恋愛
私は『ぬるぬるイヤンえっちち学園』の世界に転生している事に気が付いた。 タイトルの通り18禁ゲームの世界だ。 私の役回りは悪役令嬢。 しかも、時々ハードプレイまでしちゃう令嬢なの! 絶対にそんな事嫌だ!真っ先にしようと思ったのはナルシストの殿下との婚約破棄。 だけど、あれ? なんでお前ナルシストとドMまで併発してるんだよ!

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

《R18短編》優しい婚約者の素顔

あみにあ
恋愛
私の婚約者は、ずっと昔からお兄様と慕っていた彼。 優しくて、面白くて、頼りになって、甘えさせてくれるお兄様が好き。 それに文武両道、品行方正、眉目秀麗、令嬢たちのあこがれの存在。 そんなお兄様と婚約出来て、不平不満なんてあるはずない。 そうわかっているはずなのに、結婚が近づくにつれて何だか胸がモヤモヤするの。 そんな暗い気持ちの正体を教えてくれたのは―――――。 ※6000字程度で、サクサクと読める短編小説です。 ※無理矢理な描写がございます、苦手な方はご注意下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

最後の夜

ざっく
恋愛
明日、離縁される。 もう、一年前から決まっていたこと。 最後に一人で酒盛りしていたシルヴィーは、夫が隣に部屋に戻ってきていることに気が付いた。最後なのに、顔も見せない夫に腹が立って、シルヴィーは文句を言うために、初めて夫の部屋のドアをノックした。

【完結】ただいまと言ったらベッドで旦那が知らない女と寝てた

たろ
恋愛
「ただいま」 家に急いで帰ってきた。 久しぶりの我が家。 夫のライに会うのはひと月ぶり。 わたしは女騎士として遠征に出ていた。 「お、おかえり」 ライが慌ててベッドから起き上がった。 「うん、何か膨らみが横にあるわ」 わたしが毛布を剥ぐとそこには裸の女性が寝ていた。 わたしは二人を裸のまま玄関から追い出してやった。 玄関の外には行き交う人たちがいる。 ついでに服も投げ捨てた。 もう家には入れないわ! そんないい加減な夫とのお話です。 初めてのショートショート。 そして少しエロがはいっています。 いや、頑張った。 書くの難しいですね。

処理中です...