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第10話
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いつもの道を大学に向かって歩く。リュカが天界に帰ってから1ヶ月が過ぎようとしていた。案の定航平たちは仲睦まじいカップルとして校内でも有名になっている。しかし自分の胸を締め付けるのは、そんな彼らの存在ではなくリュカが隣に居ないということだ。
あいつ、俺に好きって言わせてくれなかった! しかも不意打ちで頬にキスまでして! なんであいつばっかり! 俺だってしたかったのに!
思い返すと途端に悔しさが沸いてくる。やっぱりいけ好かない野郎だ。早く会って言いたいことを全部ぶちまけたいのに、あいつは今どこにいるんだ。
リュカが天界に戻ってから辺りを見回す癖がついた。この地球のどこかに、リュカが居る。そう思うともどかしく、それでいてこの世界に宝物が眠っているような気持ちになった。
授業が終わり、教授から頼まれた荷物を届けに校内をうろつく。7号館ってどこだっけ――普段足を運ばない場所をうろうろしていると、突然強い風が吹き荒れる。何やら飛んできた白い紙を咄嗟に掴むと、少し遅れてこちらに歩いてくる人影が見えた。
リュカだ。どくんと心臓が大きく音を立てる。弓道着を着たその姿は天使の輪と翼がないだけで、あの時のリュカと変わらないように見えた。駆け寄りたい、抱き締めたい――そんな衝動を必死に堪え、リュカは俺との記憶がないと自分に言い聞かせる。
「すみません、プリントが飛んでいってしまって」
何よりも大好きなリュカの声だ。変わらないその声色に胸が熱くなる。まさかこんな近くにリュカがいるなんて、灯台下暗しとはこのことだ。うちの大学の弓道部とはあまりに近すぎて盲点だった。手元のプリントに視線を落とすと、そこには試合の日程が書かれているように見える。
「あの」
正面に立ったリュカがこちらをまっすぐに見据えた。その瞳の色は、天使だった頃の紺色ではなくごく普通の黒に変わっていることに気付く。
「どこかで会ったことあるような気が」
この身体が晴斗のことを覚えていると俺は信じてる――そう告げたリュカの言葉を思い出す。あぁ、やっぱり、リュカを信じてよかった。そう噛み締めながら口を開く。
「俺も、なんか初めて会った気がしなくて」
ついに出会えた。もう離れはしない。そう心に誓いながらリュカの瞳を見つめ返した。
「悪いな、案内してもらって」
「気にするな。正直練習が行き詰まっていて、良い気分転換になった」
7号館への道案内を頼むと、その道中で簡単にお互いの自己紹介をした。リュカの名前は境井光というらしい。以前調べたらリュカというのはラテン語で光という意味だったので、その名に生まれ変わったのはどこか納得するものがあった。
同い年だったので敬語はなしにしようと提案したら、あっという間にリュカと同じ口調になる。クールそうに見えて、そういう距離の詰め方が急なところも変わっていないんだと嬉しく感じた。
「さっき飛んできたプリントに書いてあったけど、試合が控えてるんだな」
「あぁ、ただここ最近調子が悪くて……どうにか藻掻いているんだが……」
出会ったばかりの人間が図々しいだろうか。そう思いながらも要望を口にする。
「あのさ、光の試合、俺も応援に行っていい?」
「え?」
驚いたように光が歩みを止める。
「いや、別にいいが、そんな面白いものでもないぞ」
「光が弓引いてるところ、見てみたい」
お前、キューピットより弓道部のほうが向いてんじゃねぇの?――記憶がないとは言え、俺が何気なく投げ掛けたアイディア通りの人生を歩んでいるリュカの姿が見てみたかった。すると光がスマホを取り出す。
「……物好きな奴。ほら、連絡先。試合の日程とか後で送る」
自分のIDを教えて連絡先を交換すると、光がぽつりと呟いた。
「はるとって晴斗って書くのか。良い名前だな」
リュカと初めて会った時にも良い名前だと言われたことを思い出す。あの時はお互い喧嘩腰だったし嫌味で言ってるのかと思っていたけど、もしかしてあれは本心だったのか。そう思うと時間差であの天使が愛おしく感じた。
「じゃあ、後で連絡するから」
「うん、待ってる」
7号館から2人並んで弓道場の前まで戻ってきた。
「なぁ光、弓の不調、俺と会えたからにはもう大丈夫だって!」
一瞬驚いたような表情を浮かべた光が柔らかく微笑んだ。
「……なんだそれ」
夕暮れの中、呆れたように笑う光に見送られながら弓道場を後にした。
あいつ、俺に好きって言わせてくれなかった! しかも不意打ちで頬にキスまでして! なんであいつばっかり! 俺だってしたかったのに!
思い返すと途端に悔しさが沸いてくる。やっぱりいけ好かない野郎だ。早く会って言いたいことを全部ぶちまけたいのに、あいつは今どこにいるんだ。
リュカが天界に戻ってから辺りを見回す癖がついた。この地球のどこかに、リュカが居る。そう思うともどかしく、それでいてこの世界に宝物が眠っているような気持ちになった。
授業が終わり、教授から頼まれた荷物を届けに校内をうろつく。7号館ってどこだっけ――普段足を運ばない場所をうろうろしていると、突然強い風が吹き荒れる。何やら飛んできた白い紙を咄嗟に掴むと、少し遅れてこちらに歩いてくる人影が見えた。
リュカだ。どくんと心臓が大きく音を立てる。弓道着を着たその姿は天使の輪と翼がないだけで、あの時のリュカと変わらないように見えた。駆け寄りたい、抱き締めたい――そんな衝動を必死に堪え、リュカは俺との記憶がないと自分に言い聞かせる。
「すみません、プリントが飛んでいってしまって」
何よりも大好きなリュカの声だ。変わらないその声色に胸が熱くなる。まさかこんな近くにリュカがいるなんて、灯台下暗しとはこのことだ。うちの大学の弓道部とはあまりに近すぎて盲点だった。手元のプリントに視線を落とすと、そこには試合の日程が書かれているように見える。
「あの」
正面に立ったリュカがこちらをまっすぐに見据えた。その瞳の色は、天使だった頃の紺色ではなくごく普通の黒に変わっていることに気付く。
「どこかで会ったことあるような気が」
この身体が晴斗のことを覚えていると俺は信じてる――そう告げたリュカの言葉を思い出す。あぁ、やっぱり、リュカを信じてよかった。そう噛み締めながら口を開く。
「俺も、なんか初めて会った気がしなくて」
ついに出会えた。もう離れはしない。そう心に誓いながらリュカの瞳を見つめ返した。
「悪いな、案内してもらって」
「気にするな。正直練習が行き詰まっていて、良い気分転換になった」
7号館への道案内を頼むと、その道中で簡単にお互いの自己紹介をした。リュカの名前は境井光というらしい。以前調べたらリュカというのはラテン語で光という意味だったので、その名に生まれ変わったのはどこか納得するものがあった。
同い年だったので敬語はなしにしようと提案したら、あっという間にリュカと同じ口調になる。クールそうに見えて、そういう距離の詰め方が急なところも変わっていないんだと嬉しく感じた。
「さっき飛んできたプリントに書いてあったけど、試合が控えてるんだな」
「あぁ、ただここ最近調子が悪くて……どうにか藻掻いているんだが……」
出会ったばかりの人間が図々しいだろうか。そう思いながらも要望を口にする。
「あのさ、光の試合、俺も応援に行っていい?」
「え?」
驚いたように光が歩みを止める。
「いや、別にいいが、そんな面白いものでもないぞ」
「光が弓引いてるところ、見てみたい」
お前、キューピットより弓道部のほうが向いてんじゃねぇの?――記憶がないとは言え、俺が何気なく投げ掛けたアイディア通りの人生を歩んでいるリュカの姿が見てみたかった。すると光がスマホを取り出す。
「……物好きな奴。ほら、連絡先。試合の日程とか後で送る」
自分のIDを教えて連絡先を交換すると、光がぽつりと呟いた。
「はるとって晴斗って書くのか。良い名前だな」
リュカと初めて会った時にも良い名前だと言われたことを思い出す。あの時はお互い喧嘩腰だったし嫌味で言ってるのかと思っていたけど、もしかしてあれは本心だったのか。そう思うと時間差であの天使が愛おしく感じた。
「じゃあ、後で連絡するから」
「うん、待ってる」
7号館から2人並んで弓道場の前まで戻ってきた。
「なぁ光、弓の不調、俺と会えたからにはもう大丈夫だって!」
一瞬驚いたような表情を浮かべた光が柔らかく微笑んだ。
「……なんだそれ」
夕暮れの中、呆れたように笑う光に見送られながら弓道場を後にした。
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