その答えは正しいの?

海野ことり

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⑦めでたしめでたし

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 小山田はどうして藤田が自分に親切なのか、あれ程に構うのか、そろそろ真剣に考えてみるべきだった。
 でもそれを考えたら要らぬ答えまで出てきてしまいそうで、足を踏み出すのを躊躇った。

「俺はあいつが苦手な筈だったよな?」

 自分に言い聞かせるようにそんな事を言ってみる。
 嫌いでは無いがどうにも煙たい相手。自分を弱いもの扱いするのが面白くなく、嫌味なくらい隙が無くて完璧で腹立たしい。

「まぁ、最近はそんなにムカつかねーけど……あっ、でも野菜を喰えって言われるのはムカつくから! やっぱあいつはムカつくやつだから、うん」

 だから一緒にいて嬉しいとか楽しいとか、ずっとここに居ればいいのになんて思わない。
 最初に約束した一ヶ月までもう後一週間しかないのが寂しいなんて、引き止めたくて理由を探してるなんて無いから。
 それでも小山田はちょっと期待していた。あのお節介な男の方から同居の延長を申し出るのではないかと。

「まぁ、どうしてもって言うならもう少しだけ置いておいてやってもいいけど」

 そんな風に嘯いて、小山田はドライブの間にでも聞こうとドキドキしていたのだが。

「え? いつ帰るかって? うーん、日曜日の昼にしようかな。なんだかんだで荷物も増えちゃったしね」

 藤田が笑いながらそう言うのが信じられなかった。

「ひ、る……ま?」
「うん、夜だと寒いし」
「お前は寒いの平気だろう?」
「いやぁ、もう歳だからそうでもない」
「ジジイかよ」

 藤田の言葉に笑いながら、小山田は上手く笑えているか自信が無かった。

(だって俺はまだ歩けないのに!)

「小山田センセイ?」
「いや……今までありがとうな」
「……うん。少しは役に立てたなら良かった」

 はにかんだ笑顔を見せる藤田に、小山田は少しなんかじゃないと言いたかった。でも言わずに俯いた。

(きっと、言わないのが正解)

 小山田はそう思ったものの、今度ばかりは自分の判断に自信がない。
 ドライブの間中、自分が間違えているような気がして仕方がなかった。

「小山田センセイ、元気がないね。疲れた?」
「いや、疲れてねー」

 咄嗟に反論してから小山田は思い直した。

「やっぱ、ちょっと疲れた」
「…………じゃあ、休憩にしようか」
「ああ」

 見晴らしの良さそうな高台に車を停めて外に出た。
 都心ならきっとドライブデートスポットとして縦列駐車で埋まるのかもしれないが、郊外の開発途中区域なので他に人気は無い。
 小山田は手摺に乗せて貰ってブラブラと足を振った。

「こら、そんな事をしていると危ないぞ」
「平気だよ、俺はそんなに鈍くない」
「どれ」

 悪戯っ気を起こした藤田にどん、と肩を押されて小山田が大袈裟に身を捩って却って大きく体勢を崩した。それを見て藤田が慌てて小山田を掴まえる。

「小山田っ!」

 しっかりと自分を掴まえた男に小山田は自分からしがみ付いた。怯えてしがみつく猫のような必死さに藤田がたじろぐ。

「ごめん」

 悪ふざけを謝る藤田に小山田が小声で応える。

「高いところ、苦手なんだ」
「でも、あの時は――」
「事故の時は夢中だったから。本当はスゲー怖かった」

 小山田はギュッと藤田の身体を抱き締めた。
 本当はあの時も、今も、凄く怯えてる。一人だったら耐えられない程に怖い。それが平気なのは、平気なフリをしていられたのは――。

「藤田」
 藤田にしがみつきながら目をギュッと瞑る。
    涙が滲んで思わず本音が溢れた。

「怖いよ。ほんとは、怖い……」

    嗚咽のように漏らしたら、藤田に顎を掬い上げられて上から口付けられた。

「んっ、んん……っ!」

 荒々しく性急なキスは嵐のように小山田を翻弄した。

「やっ、ふ……」

 逃げようとすると益々深く抱き込まれて口腔内を深くまで侵される。
 小山田は舌が痺れるくらい絡め舐られ、混ざり合った唾液で唇を艶めかしく濡らしながら熱い吐息を吐いた。

「ふ、じ……」

 チカチカしてはっきりと開かない瞳を懸命に開こうとする小山田の姿に熱を上げた様子で藤田が再び口付けてきた。
 キスは小山田からくったりと力が抜けてしまうまで繰り返された。

 ***

「おまえ、いきなりなんで……」

 腕の中に大人しく収まったまま訊いてくる小山田に藤田が熱の籠った瞳で答える。

「いきなりじゃないよ。君が少しでも俺を頼ってくれたら、心を開いてくれたらこうしようってずっと思っていた」
「なんで……」
「『なんで』? 本当に分からない? 俺はずっと君に恋をしていたというのに」
「……うそ……」
「嘘じゃない。君が好きだ。君が欲しくて、好きになって欲しくて、気が狂いそうだった」
「んんっ……」

 顔中にバードキスを落とす藤田に小山田は息もつけずに溺れそうになる。
 可愛がられるのは嫌だった筈なのに、これはちっとも嫌じゃない。

「君を可愛がりたくて仕方が無いのに、君は頑なに拒絶するから嫌われているのかと思ったよ」
「嫌っては、無かった……。男が一方的に可愛がられたいなんて、思う訳無いだろう。格下に見られてると思ったんだよ」
「そうじゃない。好きだから甘やかして可愛がりたかったんだ」
「ばか、それで落ちるのは女だけだ。俺は落ちない」
「自分が間違えていると気付いてからは引いただろう?」
「……クソ。結局、お前に踊らされてたのかよ」
「踊らせてなんかいない。君の方こそ、白い肌や乱れた呼吸で随分と俺を振り回してくれた。おまけに勃起までして――」
「あれはっ! あれは……お前が、いやらしく触るから」
「それはね、少しくらい欲だって出ますよ。好きな人を前にして、あの程度で我慢した俺を褒めて欲しい」
「この……ムッツリ!」

 小山田が藤田の顔をパチンと叩いて押し退けた。
    とん、と地面に下ろされて小山田はよろけながらも踏み止まった。

「小山田!」
「……立てた。藤田、立てた!」

 抱き合って喜びつつ、藤田はいつの間にか小山田を助手席に押し込んでいた。

「藤田?」
「足が治ったら我慢はオシマイと決めていた」
「え? 我慢って、俺に干渉するのを抑えてただけじゃ――」
「それと欲望は別だよ。君が怪我をしていなければ、とっくに抱き潰していた」
「藤田!」

 また勝手に決めて。人の気持ちも聞かないで。
 不機嫌な顔をする小山田に藤田が眉尻を下げた情けない顔で懇願する。

「ずっと、ずっと我慢していたんだ。ねぇ、駄目かい?」
「駄目かって……」

 こいつは実は甘やかすよりも甘える方が上手いんじゃないか、と思いながら小山田が折れた。

「言っておくけど、俺の方が背が低いから抱かせてやるんじゃないからな! 俺は別にお前になんて負けちゃいないから!」
「分かってるよ。俺の方が君に夢中で、君が欲しくて堪らないから我慢が出来ないだけで……寧ろ俺の方が負けてる。勝てる気なんてこれっぽっちもない」
「……分かってるならいいけど」

 頷きながら、本当は小山田にももう分かっていた。
 藤田は勝ち負けなんて最初から気にしていなかったし、今となっては自分だって気にしていない。余りにも展開が早過ぎてちょっと戸惑っているだけで、きっともう随分と前に答えは出ていた。
 負けてやってもいいって。

「あーあ、とうとう見られちまうのか」
「何を?」
「何でもねえ。内緒」

 なんだよ教えろよ、とせっつかれながら小山田は沈黙を守った。
 恥かしかったピンク色の乳首も、自分ですら見た事の無い窄まりも全部こいつに。
 小山田は待ちかねたように助手席で熱い吐息を零すのだった。


END
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