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第四話 学園
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私とレナンドルが通うキャロルトリアート魔法魔導学園は、全寮制かつ4年制の魔法使い養成・能力開発機関だ。
公的に自治が認められ、王室からの干渉を受けない独自の立法(なお、立法の法は法律ではなく魔法の法である)機関であるニンフィールド魔法研究所直轄の教育機関で、研究所が定めた水準以上の素質を持つ魔法使いの卵たちを選抜し、高等魔法教育を施す、ニンフィールドの最高学府である。
先の開化政策によって大陸との交流の道が開かれたことに伴い、このキャロルトリアート学園もまた、方針を同じくして、大陸からの学生の受け入れを開始した。
案の定、この動きに激しく反発したノースだが、南北分断以前から研究自治が認められている魔法研究所の直轄と言うこともあり、学園も同様、校内自治を守っている。そのため、いかなる政治的干渉を受けないという正当な主張のもと、これをはねのけたのだ。
嫌なら入学拒否すればよいと言われてしまえば、魔法力の保持を優越とするノースもたまったものではないからして、学園の方針に従うほかなく。
しかし、学園が教育改革を行ってから入学したノースの生徒たちは、こぞって大陸出身の学生たちを蔑み、迫害行為の標的にした。彼らは公然と大陸出身者らを「劣等種」と笑い、彼らを攻撃し追い出そうとすることを「学園の浄化」だと言って憚らなかったのだ。
事態を重く見た学園は、苦肉の策として、ノース出身、連邦出身、大陸出身で寮を振り分け、棲み分けをすることで、問題解消の一手とした。
しかし、同郷出身のみで固まるのはどうしても集団ごとに偏りや滞りが生まれるものとして、3寮からそれぞれ男女二人ずつ、世代の成績優秀者を選抜し、特進寮へと振り分けた。
これこそ、アトラム寮、ルブルム寮、カエルラ寮、フラウム寮の成り立ちだ。
特進寮であるアトラム寮生は、学園内でのさまざまな特権が与えられるかわりに、生徒の模範として学年を牽引し、規律の維持と違反行為の取り締まりを行うという役目が与えられた……まあ所謂、生徒会のような立ち位置なのである。
しかし、この現体制にもなお、不満を持つ者は多い。大陸出身者ことフラウム寮の人間にアトラム寮の入寮が許されているのは、完全能力主義である学園のモットーに反すると主張するノース出身者が後を絶たないのだ。
たしかに、学年全体の成績で見れば、ニンフィールド出身者……特にノース出身者が上位を独占していることは事実だ。
しかし、幼少期から魔法と慣れ親しんできたニンフィールドの人間が、魔法に馴染みなく育った大陸出身者よりも習熟を先んじるのは当然の話と言えよう。
現に、卒業時の成績を見れば、3寮の平均成績は拮抗しているのだ。そのような理論から、学園はノースの主張を黙殺した。
それにより、ノース出身ことルブルム寮では、学園の不当な体制に従うのは誇りに悖るとして、逆にアトラム寮の入寮を拒否することが慣例として定着してしまった。
それだけでなく、むしろ成績が振るわない、ルブルムでは立場の弱い生徒を生贄のように遣わす始末だったのだ。
むしろ、その慣例に従わず、アトラム寮に入ったレナンドルがつくづく異端としか言いようがない。
原作のシルヴェスタだって、その慣例に従い、ルブルム次席かつ学年3位の実力者でありながら、ルブルムに残留したのだから。
シルヴェスタが転寮したなどという事実は原作には一切ないはずなのだ。
シルヴェスタとしての役割を果たさなければならない私だって、原作通り、ルブルム寮の寮長として、アトラム寮の面々に目の仇にされなければならないはず。
しかしまた、アトラム寮生の特権の一つである引き抜き制度を、私なんかに使ってしまうなんて、レナンドルは一体何を考えているのだろうか。
何十周もストーリーを周回したから、彼の人間性はある程度掴んでいると自負していたのに、いざ自分の身近に存在する人間として接してみれば、嗚呼、何も分からないではないか。オタクとしてあまりに不甲斐ない……!
「だって、彼はシルヴェスタのことが嫌いなはずでしょう? 自由に焦がれる彼にとって、ノースに縛り付けようとする存在は、鬱陶しい足枷でしかないのだもの」
そんなことを呟いても、誰もない部屋にむなしく響きわたり、反響するかのように、ただただ思考が堂々巡りするだけで。
私は途方に暮れるしかなかった。
ああ、あれだけの騒動の渦中にいて、あんなにも堂々と、カエルラ寮やフラウム寮の人たちを侮辱したのだ。アトラム寮での新生活は、きっと前途多難も良いところだろう。
それでも。
「そう、そうよ、私はシルヴェーヌ・プリエン。赤き瞳の叛逆者。決して無様は晒せない。どんな逆境にあっても、不敵にすべてを嘲笑う悪の華……!」
例え挨拶がしらに集中砲火を受けたって、涼しい顔でカーテシーしてやるんだから!!
公的に自治が認められ、王室からの干渉を受けない独自の立法(なお、立法の法は法律ではなく魔法の法である)機関であるニンフィールド魔法研究所直轄の教育機関で、研究所が定めた水準以上の素質を持つ魔法使いの卵たちを選抜し、高等魔法教育を施す、ニンフィールドの最高学府である。
先の開化政策によって大陸との交流の道が開かれたことに伴い、このキャロルトリアート学園もまた、方針を同じくして、大陸からの学生の受け入れを開始した。
案の定、この動きに激しく反発したノースだが、南北分断以前から研究自治が認められている魔法研究所の直轄と言うこともあり、学園も同様、校内自治を守っている。そのため、いかなる政治的干渉を受けないという正当な主張のもと、これをはねのけたのだ。
嫌なら入学拒否すればよいと言われてしまえば、魔法力の保持を優越とするノースもたまったものではないからして、学園の方針に従うほかなく。
しかし、学園が教育改革を行ってから入学したノースの生徒たちは、こぞって大陸出身の学生たちを蔑み、迫害行為の標的にした。彼らは公然と大陸出身者らを「劣等種」と笑い、彼らを攻撃し追い出そうとすることを「学園の浄化」だと言って憚らなかったのだ。
事態を重く見た学園は、苦肉の策として、ノース出身、連邦出身、大陸出身で寮を振り分け、棲み分けをすることで、問題解消の一手とした。
しかし、同郷出身のみで固まるのはどうしても集団ごとに偏りや滞りが生まれるものとして、3寮からそれぞれ男女二人ずつ、世代の成績優秀者を選抜し、特進寮へと振り分けた。
これこそ、アトラム寮、ルブルム寮、カエルラ寮、フラウム寮の成り立ちだ。
特進寮であるアトラム寮生は、学園内でのさまざまな特権が与えられるかわりに、生徒の模範として学年を牽引し、規律の維持と違反行為の取り締まりを行うという役目が与えられた……まあ所謂、生徒会のような立ち位置なのである。
しかし、この現体制にもなお、不満を持つ者は多い。大陸出身者ことフラウム寮の人間にアトラム寮の入寮が許されているのは、完全能力主義である学園のモットーに反すると主張するノース出身者が後を絶たないのだ。
たしかに、学年全体の成績で見れば、ニンフィールド出身者……特にノース出身者が上位を独占していることは事実だ。
しかし、幼少期から魔法と慣れ親しんできたニンフィールドの人間が、魔法に馴染みなく育った大陸出身者よりも習熟を先んじるのは当然の話と言えよう。
現に、卒業時の成績を見れば、3寮の平均成績は拮抗しているのだ。そのような理論から、学園はノースの主張を黙殺した。
それにより、ノース出身ことルブルム寮では、学園の不当な体制に従うのは誇りに悖るとして、逆にアトラム寮の入寮を拒否することが慣例として定着してしまった。
それだけでなく、むしろ成績が振るわない、ルブルムでは立場の弱い生徒を生贄のように遣わす始末だったのだ。
むしろ、その慣例に従わず、アトラム寮に入ったレナンドルがつくづく異端としか言いようがない。
原作のシルヴェスタだって、その慣例に従い、ルブルム次席かつ学年3位の実力者でありながら、ルブルムに残留したのだから。
シルヴェスタが転寮したなどという事実は原作には一切ないはずなのだ。
シルヴェスタとしての役割を果たさなければならない私だって、原作通り、ルブルム寮の寮長として、アトラム寮の面々に目の仇にされなければならないはず。
しかしまた、アトラム寮生の特権の一つである引き抜き制度を、私なんかに使ってしまうなんて、レナンドルは一体何を考えているのだろうか。
何十周もストーリーを周回したから、彼の人間性はある程度掴んでいると自負していたのに、いざ自分の身近に存在する人間として接してみれば、嗚呼、何も分からないではないか。オタクとしてあまりに不甲斐ない……!
「だって、彼はシルヴェスタのことが嫌いなはずでしょう? 自由に焦がれる彼にとって、ノースに縛り付けようとする存在は、鬱陶しい足枷でしかないのだもの」
そんなことを呟いても、誰もない部屋にむなしく響きわたり、反響するかのように、ただただ思考が堂々巡りするだけで。
私は途方に暮れるしかなかった。
ああ、あれだけの騒動の渦中にいて、あんなにも堂々と、カエルラ寮やフラウム寮の人たちを侮辱したのだ。アトラム寮での新生活は、きっと前途多難も良いところだろう。
それでも。
「そう、そうよ、私はシルヴェーヌ・プリエン。赤き瞳の叛逆者。決して無様は晒せない。どんな逆境にあっても、不敵にすべてを嘲笑う悪の華……!」
例え挨拶がしらに集中砲火を受けたって、涼しい顔でカーテシーしてやるんだから!!
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