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339 御守り

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「にゃ~ん! ジェマ様は御年267歳ですにゃん!」
「に、二百……!?」
「すごい……」

 ジェマさんが267歳……!?

 にゃん! と得意気に答えるミーアさんにジェマさんは気を悪くしたでもなく、よく覚えてたなぁ~と頭を撫でている。
 僕の頭はまた混乱しているが、正直、かなり羨ましい光景だ……。

「えっと……、あと……」
「うん。もうこの際だからね、何でも答えるよ?」

 大サービスだ、と言って僕に笑いかけるジェマさん。ユランくんも僕の隣で真剣な表情を浮かべている。

「“エルフ”って、何ですか……?」

 その質問にジェマさんは目を瞬いた。
 この世界の人達が当たり前に知っている事が、僕には分からない。妖精のノア達の事もそうだったし、獣人のフレッドさんの時も、ドワーフのヴァル爺さんの時もそう。
 それは恥ずかしい事でも何でもないと自分に言い聞かせ、勇気を出して聞いてみる。もしかしたら、すごくデリケートな問題かもしれないけど……。

「エルフの事、聞いた事無いのかい?」
「はい……。すみません……」
「いやいや! 謝る事じゃないよ」

 トーマスさんとオリビアさんもジェマさんと目を合わせて頷いている。それで本当だと信じてくれた様で、エルフの事を知らない僕の事が意外だったのか、ジェマさんも黒猫のミーアさんも僕の事を興味深そうに見つめて……、と言うより観察している。
 ミーアさんに関しては尻尾がゆらゆらとゆっくり揺れて、まるで獲物を狙っているみたいだ。

「エルフってのは魔法の扱いに長けた長命の種族でね。病気や怪我さえ無ければ五百年以上は軽く生きてるんだよ」
「五百……! すごく長生きなんですね!」
「アハハ! そうだろ? 純血のエルフならそれ以上。私は母がエルフで父が人族だったから、寿命はどうなるか分からないけど……。今はまだどこも悪くないし、長生きしそうな気もするんだけど。だから色々と手を出しちゃってねぇ~」

 話を聞くと、魔導士を辞めてからは色々な国を渡り歩き、薬師に冒険者、鍛冶師と、興味の引かれるものは色々手を出したらしい。凝り性で飽きっぽいらしく、長続きはしなかったみたいなんだけど。
 その旅の途中でミーアさんと出会い、住みやすかったこのフェンネル王国に戻って来たという。

「で、今は付与師って訳さ」

 ジェマさんが指をパチリと鳴らすと、僕達の目の前にブレスレットが音もなく現れた。ふわりと浮かび、ゆっくりゆっくりとジェマさんの手の平へと着地する。
 突然現れたソレに、トーマスさん達も驚いた様子でジェマさんを見つめていた。

「これはユランに」

 御守り代わりだよ。

 そう言って、隣に座るユランくんにそのブレスレットを手渡す。よく見るとそれは青い石が嵌められていた。

「守ってあげられなくて、すまなかったね」
「……いえ。ありがとう、ございます……」

 ユランくんはそのブレスレットを大事そうに両手で受け取り、目に薄っすらと涙を浮かべていた。行方不明の父親達とドラゴン。僕達もどうにか協力して探してあげたい。

「……あの、ジェマさん……?」

 すると、ブレスレットを見たオリビアさんが口を開いた。
 その声に俯いていたユランくんも顔を上げる。

「その石、まだ残ってるかしら……?」
「石? あぁ、ラピスラズリならあと数粒残ってたねぇ」
「あの、代金は払うので……。ドラゴンちゃんと、あとと同じ物もあれば、この子達の御守りも作って頂けないかしら……?」

 どうやらオリビアさんは、ユランくんとお揃いの“ラピスラズリ”という石をドラゴンに着けさせたいらしい。昼間に起こった事を話し、従魔の証があれば手を出してくる者も減るだろうと。
 そしてオリビアさんやトーマスさんが身に着けている“ペリドット”。
 これはレティちゃんとメフィストにと思っている様だ。
 ユランくんとレティちゃんは目をパチクリさせて驚いているけど、メフィストはそんな事お構いなしにミーアさんの尻尾を触ろうと手を懸命に伸ばしていた。

「あぁ。どちらも大丈夫だよ。ドラゴンあの子のはユランと同じデザインにして……。この子とやんちゃな坊やのはどうしようか?」
「そうねぇ……。レティちゃんはどんなのがいいかしら?」
「わたし……?」
「えぇ! どうせなら家族でお揃いの石を持つのもいいじゃない?」
「うん……! えっと、わたし……」

“ 家族でお揃い ”

 そう聞いて、レティちゃんは嬉しそうにはにかんだ。





*****

「ハァ……。まさかの展開だったな」
「ホントですね……」

 ジェマさんのお店を後にし、僕達は帰路につく。
 途中で精肉店のデニスさんのお店に寄り注文をお願いしたんだけど、その頃には辺りはすっかり薄暗くなっていた。

「お前のも作ってくれるって」
「クルルル~!」
「ふふ、ユランくんとお揃いよ?」
「クルルル!」
 
 ドラゴンは小さな声で嬉しそうに喉を鳴らしている。

「はやくできないかなぁ~」
「あら、さっき頼んだばっかりよ?」
「だって、たのしみなんだもん!」

 レティちゃんはお揃いが余程嬉しかったのか、ウトウトするメフィストを抱えて上機嫌。ハルトのブローチと一緒に毎日着けると嬉しそうに話していた。
 あれからジェマさんにはお守りを追加で作ってもらう事になり、僕達が村へ帰る前には完成するそうだ。

《 二人とも、ぐっすりだな…… 》
「朝からお昼寝なしだもの~。疲れちゃったわよね……」

 ハルトとユウマは僕に凭れてスヤスヤと寝息を立てている。ジェマさんのお店にいる途中から怪しかったんだけど、出る頃にはすっかり寝入っていた。
 セバスチャンも幌の上から下り、馬車の中でメフィストの傍にいてくれる。眠くて傍にいないと愚図りだしてしまうからね。

 グゥウウウ~~……、

「えへへ……。ボク、お腹空いちゃいました……」

 すると、御者席に座っているユランくんのお腹の音が馬車の中に響いてくる。とても大きな音に僕達は一斉に振り返ってしまった。

「お腹空いたよね~。帰ったら美味しい食事作るから!」
「やった~! 楽しみだなぁ~!」
「今日は食材がたくさん手に入ったからな」
「あ、そうですね!」
「いっぱい、もらったの……!」

 レティちゃんのお手柄な捕り物劇を聞き、今夜の夕食はレティちゃんの好物にしようと計画中。
 さて、何がいいかな~?

 夕食のメニューを考えながら、サンプソンの牽く馬車に揺られ僕達は家路を急いだ。

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