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274 独り占め

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「着いたぞ。今日はここで昼食を食べよう」
「「はぁ~い!」」

 何度かのトイレ休憩を挟み、やっと開けた場所に出る。
 今日はここで遅めの昼食だ。

「ん~……! 体バキバキだぁ~……」

 馬車の外に出ると、やっぱり肌寒い……。
 周りは色付いた木の葉がキレイだけど、風も冷たいし空も日が照っていない。
 
 今日は体の温まるのを作ろっと。

「オリビアさん、昼食の準備してきますね! 今日はパンとお米、どっちがいいですか?」

 馬車の中で男の子の看病をしてくれるオリビアさんに、お昼のリクエストを訊いてみる。僕たちが寝ている間も診てくれているみたいだし、多分疲れが溜まってると思うんだよなぁ……。

「あら、選んでいいの? じゃあ~……、おコメ!」
「分かりました! 美味しいの作りますね!」
「ふふ、楽しみにしてるわね!」

 お米で体が温まる……。それなら、とろみがあった方がいいかな……。
 ……そうだ! オリビアさんの好きなアレにしよ!

「トーマスさ~ん!」

 そうと決まれば、トーマスさんの魔法鞄マジックバッグに入ってるアレを出してもらわないとね!





*****

「おにぃちゃん、なにつくりますか?」
「ん~? ハルトも美味しいって言ってくれた料理だよ」
「にぃに~、ゆぅくんもみててい?」
「うん、いいよ。寒いから二人ともこれ羽織っててね?」
「「はぁ~い」」

 二人が一枚のローブを仲良く羽織って見学する中、僕は野営用コンロで人参カロッテネギリークなんかの細かくカットしておいた野菜をフライパンで炒めていく。

「ユイト、手が空いたんだが……。何か手伝おうか?」

 ブレンダさんは馬たちに水をあげ終わったらしく、手持ち無沙汰らしい。
 
「あ、じゃあこれ温めてもらえますか? ここに入れて、時間はこれくらい……、でいいかな?」
「へぇ! こんな物もあるんだな!」
「一台あると、簡単に温まるんで便利ですよ!」
「ほぅ……! いいな……」

 ブレンダさんが感心しているのは、ヴァル爺さんがくれたあのレンジだ。
 電気じゃなくて魔石で動くから、使うかなと思って店から持って来たんだけど……。
 これがもう本当に便利! あのお店を教えてくれたアイザックさんにも感謝だし、見つけられて本当に良かった!
 お客様たちも欲しいって言ってたし、今頃注文きてるかなぁ? 宣伝したから、いっぱいきてるといいんだけど……。

「温めたのはここに置いていけばいいか?」
「あ、はい! では、この上から熱々の餡をかけていきま~す」

 三人が見守る中、僕は片栗粉でとろみをつけた餡をブレンダさんが用意してくれたご飯に一つ一つかけていく。店でいつも仕込んでいる鶏がらスープと干し椎茸の出汁を使った熱々とろとろのレタスレティスが入った餡。これは僕の自信作!

「これで……、かんせ~い!」
「おぉ……!」
「あつあつです!」
「おぃちちょ!」

 ブレンダさんは食い入るようにレティス入りの餡かけチャーハンを見つめ、ハルトとユウマはぱちぱちと拍手をしてくれる。
 その拍手の音で、トーマスさんやドリューさん達も集まってきた。
 皆揃って、待ちに待ったお昼ご飯だ。



「ん~……! この上にかかってるの美味いなぁ~……!」
「なかなか冷めないものなんですね……。これはいい……」
「これもコメ? ウマ~!」
「酒が飲みたい……!」

 ドリューさん達にも好評みたいで一安心だ。
 ハルトもユウマもふぅふぅと冷ましながら口いっぱいに頬張っている。
 オリビアさんとレティちゃんはあの男の子と一緒に馬車で食事。餡かけレティスのチャーハンを見たオリビアさんは、これ大好きなの! と喜んでくれた。レティちゃんも満面の笑みで受け取ってくれたし、作ってよかった!

「メフィストは今日もいっぱい飲むねぇ~?」
「んく、んく」

 僕の膝に座り、哺乳瓶を小さな両手で持って一生懸命ミルクを飲むメフィスト。
 その姿を見ると皆癒される様で、トーマスさんなんか食べる手が止まってる。

「おにぃちゃん、あ~ん」
「え? 僕?」

 可愛いなぁ、なんてぼんやりミルクをあげていると、ハルトが僕にスプーンを差し出した。
 その先には餡たっぷりのチャーハンがほかほかと湯気を立てている。

「おにぃちゃん、たべてないから、あ~ん、します!」
「ふふ、いいの? ありがとう」
「はい! どうぞ!」
「あ~……」

 ハルトの差し出すスプーンをそっと口に含む。……ん、餡もまだ温かくていい感じ! 生姜ジンジャーもちょっと加えたんだけど、これも体がポカポカしていいかも……!

「んふふ、美味しい! ハルト、ありがとね」
「めふぃくん、のむまで、たべさせます!」
「え~? ホント?」
「あぁ~ん! はるくん、ゆぅくんもしゅる~!」
「じゃあ、じゅんばんこ! ね?」
「ん!」

 まさかのユウマまで加わり、メフィストがミルクを飲み終えるまで僕にチャーハンを食べさせてくれるらしい……。
 二人の優しさに、ちょっと擽ったい気持ちになる。
 ブレンダさんたちの優しい視線も感じるし、トーマスさんの羨ましそうな顔が何とも……。

「おにぃちゃん、あ~ん」
「にぃに、あ~ん!」
「ありがとう~……! ん~! 美味しい!」

 でもまぁ、可愛い弟たちを独り占めするのも、たまにはいいよね?





*****

 昼食も食べ終わり、皆で後片付け。
 オリビアさんたちの食器はレティちゃんが持って来てくれ、ドラゴンも幌の隙間からひょっこり顔を出す。頭を撫でるとクルルルと機嫌良さそうに鳴いてくれた。だいぶ僕たちにも慣れてきたな~。

 ふと上を見ると、セバスチャンは幌の上で寝ている……、のかな? 夜中は餌を狩りに行ってるみたいだし。僕が用意出来たらいいんだけど、ちょっと精神的に……。ごめんね……!
 
「トーマスさん、王都までどのくらいですか?」
「そうだなぁ……。ハルトたちがいるから普段よりもゆっくり進んでるんだよ。早ければ明日の夜か、明後日の早朝には着くと思う」

 トーマスさんと一緒に火の後始末をしながら予定の確認。
 
「じゃあ、着いたら先に診療所を探した方がいいですね」
「そうだな。オリビアとあの子を医者の所に連れて行って、その間にゴブリンの事をギルドに報告しに行こうと思う。……あの子は検問で通行料を払えばいいんだが……」

 そう言うと、トーマスさんはレティちゃんとハルトと一緒に遊ぶドラゴンをチラリと見て、難しそうな顔をして口を噤んでしまった。
 
「……あのドラゴン、……ですか?」
「あぁ……。危険がないと知ってもらわないといけないんだが……」

 二人で話していると、僕たちの視線に気付いたのか、ドラゴンがこちらに尻尾を振りながら駆けてくる。何となく嬉しそうに見えるな……。本当に子犬みたいだ。
 トーマスさんが体を撫でると、クルルル! と擦り寄っている。そのまま僕たちの間に座り込んでしまった。

「従魔だって言えばいいんじゃ……?」
「いや、子供とは言えドラゴンだしなぁ……。この子を見て、良からぬ事を考える輩もいるかも知れない……」

 トーマスさん達も初めて見たというドラゴンの子供。珍しいのには間違いないけど……。

「許可が下りるまで私がこのドラゴンと門の外に待機しますよ」

 すると、僕たちの後ろからブレンダさんが声を掛けてきた。

「クルルル?」
「ブレンダ……、そう言ってもらえるのは有り難いんだが……」
「これも何かの縁でしょうし。それに私も、あの少年を何とかしてあげたい」

 そう言うブレンダさんに、ドラゴンも頭を摺り寄せ嬉しそうに鳴いている。

「……じゃあ、僕もいようかな……?」
「あ、いや! 私が勝手に言っているだけだ。ユイトは気にしなくていいんだぞ?」
「だって、この子も不安になるでしょうし……。いつまで待つか分からないじゃないですか」
「それはそうだが……」

 それに……。

「すぐ許可が下りればいいですけど、一日二日だと、ご飯どうするんですか?」
「う……」
「ブレンダさんの魔法鞄の中、もうほとんど使っちゃって残ってないですよ?」
「うぅ……。それは由々しき事態だ……」

 シュンとするブレンダさんに、ドラゴンも心配そうに顔を寄せている。
 どうしたの? と僕とブレンダさんを交互に見る仕草が可愛くて、つい皆で笑ってしまった。

「にぃに~! どぅちたの~?」

 僕たちが固まって話しているのが気になったのか、ドリューさんと手を繋いでユウマが駆けてきた。
 中腰で引っ張られるドリューさんには本当に申し訳ない……。

「ん? 今ね、王都に入る時の事相談してたんだ」
「しょうだん?」
「相談……? 何だ? 秘密の話か?」
「ゆぅくんにも、ひみちゅ?」
「あ、全然! このドラゴンの事で……」

 ドリューさんはユウマを抱えると、僕の隣にドシリと座り込む。それを見て、ハルトとレティちゃんもこちらに駆けてきた。結局、オリビアさんとあの男の子以外は全員集まってしまった。





*****

「……ん~。そういう事なら、俺たちも一緒にいようか」
「そうだな。中と外、二手に分かれて行動するか……」

 僕とトーマスさんから事情を聴いたドリューさん達は、パーティで二手に分かれて一緒に行動してくれると言う。

「ぼくも、いっしょにいたいです!」
「ゆぅくんも! にぃにといっちょ!」
「あっぷぅ~!」
「メフィストくんも一緒にいたいようですよ」
 
 ハルトとユウマ、それにバートさんに抱えられたメフィストも一緒にいたいらしい。これはほとんど外に残るという事になるんでは……?

「……わたしは、おばぁちゃんといっしょにいるね。しんぱいだもん……」

 レティちゃんは申し訳なさそうに僕を見るけど、気にする事じゃないのに……。
 よしよしと頭を撫でると、レティちゃんはホッとした様に笑みを浮かべた。
 僕としてはハルトたちも王都に入って、イーサンさんが用意してくれた家で待ってて欲しいんだけど……。う~ん……、何かいい方法は……。


「……そうだ! この子が危険じゃないと門番の人達に分かればいいんですよね?」
「え? ……まぁ、そうなるな」
「なら、芸を仕込むとかはどうでしょう?」
「……芸を?」
「ドラゴンに?」
「クルルル~?」
「はい! なかなかいいアイデアだと思うんですが……!」

 僕の提案に、トーマスさんもブレンダさん達もドラゴンと僕の顔を交互に見つめる。皆の顔は困惑気味だけど……。

「ぼくも、おてつだい、します!」
「ゆぅくんも~!」
「わたしも……! たのしそう!」
「あ~ぃ!」

 うん! ハルトたちを味方につけたから、この作戦は半分は成功に近付いた!

「よし! じゃあ、皆でこの子に芸を教えましょう~! えいえい?」
「「「お~っ!」」」
「あ~ぃ!」

 ドラゴンは危なくないよ作戦! スタートです!

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